第80話 ★別離と邂逅の迷宮 〜第2層②
80話到達!
「どこだ?」
カーリーが、カンテラの明かりで急いで周囲をチェックしながら叫んだ。
ディーナの警告のとおり、確かに何か魔物がいるようで、微かに周囲を走り回る足音がする。
どこにも見当たらないが、敵はこちらを観察しつつ、だんだんと近づいてきているみたいだ。
そして、魔物がさらに近づき、激しい息遣いまでもが聞こえてきた瞬間、カーリーが突然左の方に大きく踏み込むと、まるで居合のように鞘から剣を抜くやいなや横に薙ぎ払った。
「ハッ!」
僕らにもわかるような手応えがあり、何かがドサッと倒れる。
みんなで慎重にカンテラをかざしながら近づくと、ディーナの言うように、オオカミのような姿をした魔物が絶命して倒れていた。
周囲の床と同様、つやのない真っ黒な毛皮に覆われている。
「……最後まで見えなかった」
カーリーがつぶやくように言った。どうやら気配だけで切って捨てたようだ。さすが達人。
「オオカミっぽいってことは、なんか集団で行動してそうね。こんなのに取り囲まれたら……」
マイダが心配そうに言う。
確かに、見えにくいだけにむちゃくちゃ厄介だ。僕はあることを思いついて言った。
「マイダ、昨日の夜使った、魔物を感知する女神像、出してくれないか?」
僕の意図を理解したマイダは、急いで2つの女神像を荷物から取り出すと、銀色の方を僕に渡した。
そして、自分は金色のやつを手に取ると、あちこちの方向に向けてみる。
僕も同じように銀色の女神像を使ってみたが、幸い2つとも、特に反応を示さなかった。
「常闇に住まう悪魔どもめ、われら光の民の刃を受けてみよ!」
突然ディーナが朗々とした声で言い、僕らはぎょっとした。
「っていうセリフが、以前出演した舞台にありました」
いつものようにディーナが説明すると、マイダが血相を変えて言う。
「ちょっとディーナ、いい加減にしてよ。そんな大きな声を出したら魔物にみつかっちゃうじゃない!」
ディーナがなにか反論をしかけるとカーリーが割り込んだ。
「ふたりとも、もうやめてくれ!言い争っている場合じゃないだろう」
そういうカーリーもかなり声が大きくなっているようだ。ちょっと普通じゃない。
「みんななんか変だよ。いつもはこんな関係じゃないだろ?」
僕が急いで止めにかかると、聖女たちは少し黙り込んだ。
「もしかしたら私、精神の精霊が関わる魔法に、影響されているかもしれません」
ディーナが、カーリーやマイダを意図的に視界から外すように僕の方を向くと、不安げに言った。
「このダンジョン……特にこの階層に入ってから強くなりましたが、カーリーやマイダと話すと、なぜか腹が立って仕方がないのです。私は精霊術師なので、普段は感情……、つまり精神の精霊を抑え込むのが得意な方なのですが、逆に何か異常が起きた際には影響を受けやすくなります」
「でも、僕相手には普通に話しているよな」
僕は気になっていることを確認した。
「はい、レンレンが相手のときは大丈夫です。多分それは……」
ディーナが一度、口ごもった。僕相手だと大丈夫なのは?
「……異世界人で、『この世のものではない』からです。でも、精神の精霊魔法はレンレンにも何らかの影響を与えそうな気がします。この世界には、感情を司る精神の精霊が、あまねく存在するので」
僕はまたやたらと痒くなってきた首筋を搔きかけたが、そこでふと気づいた。
ディーナの推測が正しいとしたら、もしかして、パーティーメンバー同士の揉め事の原因となっている精神魔法が、僕には皮膚のかゆみとして表れている?
なんだか自分がすごく心ない、ガサツな人間みたいに思えてきた。
カーリーが口を開いた。カーリーもディーナやマイダと目を合わさないように、僕の方を向いている。
「どうやらそのようだな。私も二人には腹が立って仕方がない。もしかして、このダンジョンから生還した騎士が言っていた『仲間たちはバラバラにされた』っていうのは、このことじゃないか?」
「体をバラバラにされたんじゃではなくて、パーティーメンバーがバラバラってことね。ああ、こうして目をそらしてしゃべっててもイライラするわ」
マイダも僕の方を向いて言った。
なるほど。しかしどうやって対応したものかな。
いずれにせよ僕だけは、みんなに普通に話を聞いてもらえる状況のようなので、僕は相談しようと口を開きかけた。
その時、僕が持っていた女神像が、突然「ビーッ」とアラーム音を発した。すぐにマイダの女神像も続く。
それぞれ全然別の方向を向いているのに……。ということは?
「マイダ! ぼーっとしていないで、急いで全員に支援魔法を。囲まれたな」
カーリーが、みんなが頭の中で恐れていたことを口にした。
「し、仕方ないわね。後で料金はいただくわ……きゃっ!」
支援魔法を発動しようとしたマイダが、突然後ろから何かに体当たりされ転んだ。
杖を持つ腕を噛まれたのか、少し流血している。
即座にディーナが見えない相手にファイヤボールを放つが、手応えはない。
僕もあわてて小剣を抜いて、敵に近づかれないよう、やみくもに振り回し始めた。
周囲をたくさんの魔物が走り回っている感じがする。
みんなの連携も乱れているし、このままじゃ本格的にまずいな。
先行した幾つかのパーティーのように、僕らも全滅するんだろうか。
その時だった。
僕たちは今、地下深くにいるはずにもかかわらず、天からひとすじの光が差してきた。
そして、いつの間にか僕の隣でひざまずき、祈りを捧げていたディーナに、スポットライトのように当たる。
周囲の喧騒が止み、一瞬だけ無音の世界が広がったあと、すぐに割れるような拍手喝采のざわめきが聞こえた。
やった! ディーナに天啓だ。
果てしない迷宮の暗がりの中で、いつものディーナの女優オーラが、眩いばかりに輝きを増す。
「みなさん、神さまのお導きがありました」
ディーナが静かに言い、立ち上がると僕の方に向き直った。
「レンレン、私の新しい憑依魔法、受け入れてください! 『わたくし、ディーナが神の御名において命じます。汝、レンレンよ、尊き神の黎明で、忌まわしき奈落の暗闇を凌駕せよ。神々の曙光!!』」
ディーナの指輪から光が飛び、僕を打った。
僕はいつものように何が起こるか身構えたが、何も起こらない。今回は取り憑かれ系の魔法ではないようだ。
ふう。まずはひと安心。
唐突にディーナが言った。
「レンレン、今すぐ全部脱いで裸になってください。鎧も服もすべてです!」
「……はい?」
僕は呆けたように聞き返した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続き、急いで書きます!




