1616 *シエイラ* 2 館
ちょっと寝過ごしてしまった。
「二人目も近いかしら? ふふ」
一児の母になることも夢のまた夢だと思っていたのに、二児の母になる現実がすぐそこにあるなんてね。悪くないと思ってしまう自分に笑ってしまうわ。
ニヤやけてしまう自分の頬を揉んで気を引き締めた。
わたしは、館長。タカトたちが帰ってこれる場所を守る駆除員の一人。役目を果たさねばならないのよ。
館は二十四時間体制で動いている。
これは、ゴブリンがいつ現れてもいいようにと、二十四時間体制にしているのだ。
ただ、これまでゴブリンが現れた報は届いてないので気が緩んでいる。この体制も変えなくちゃならないわね。
でもその前にマサトのところに向かった。
館にもわたしの部屋はあり、マサトは横の部屋で寝かせており、乳母が世話をしてくれている。
冒険者ギルドの受付嬢でしかなかったわたしに乳母がつくとか、人生というのはわからないものよね。
「おはよう」
「おはようございます」
ドワーフの乳母がマサトをあやしてくれていた。
最初はニャーダ族が面倒見てくれていたけど、旦那たちの手伝いをするために離れてしまった。そこでドワーフの女性陣が声を上げて、マサトの乳母隊を結成してしまった。
まあ、ドワーフたちも立場を築くのに苦心している。マサトの乳母で築けるものなら任せてもいいとなったのだ。わたしも初めての子育てで戸惑うこともある。助けてもらえるならありがたい限りだわ。わたしには、いえ、わたしたちには頼る親がいないんだからね。
タカトも可能なら子育てしたいようだけど、それを女神が許すかどうかわからない。子育てに夢中になり、ゴブリン駆除を疎かにしたらどこか遠くに連れていくかもしれない。女神には巨大な船を一瞬で遠くに運べる力があるのだ、タカト一人くらいわけないでしょうよ。
そうなるくらいならタカトにはゴブリン駆除を優先してもらいたい。生きていればマサトとはたまに会えるし、わたしはホーム内で会える。
失うくらいなら今の状況がいい。マサトはわたしがいっぱい愛してあげればいい──。
「──マサト、起きたか!」
と、カインゼル様が入ってきた。
「カインゼル様。まだお乳の時間があるので連れていかないでくださいよ」
乳母たちがカインゼル様の前に立ちはだかった。
なんというか、カインゼル様はマサトを自分の孫にしている。いや、それはいいのだけれど、マサトを教育する立場になろうとしているのよね……。
それはそれでありがたいとは思う。
マサトはタカトの子として、かなり目立っている。後継者として望まれている。
わたしもタカトもマサトを駆除員にするつもりはない。万が一のことを考えてタカトはちゃんと後継者を育てている。幹部になる者も育てているからマサトが立つことはないでしょう。
そう説明していてもやはりタカトの子って意味は強い。女神の使徒の子。わたしでもそんな存在を蔑ろにも無視もできないわ。
そんな存在であるマサトを育ててくれるなら親としてありがたい。ありがたいのだけれど、カインゼル様が育てたら将軍とかに育ちそうで心配でしかない。
親の才が子に受け継がれるなんてことはない。そのくらい学のないわたしでも知っている。変に期待されて、マサトが変に拗れてしまわないか、親としては心配でしかないわ……。
親になるのは大変とはよく聞くけど、その大変とは違う大変さだ。誰に相談したらいいのかわからないわ。こんなことでタカトに心配させたくないから言うこともできない。
こういうのは領主代理様かしら? お酒を持っていく頃合いだし、挨拶ついでに相談させてもらいましょう。領主代理様も慣れたら気さくな人だとわかってきたしね。
カインゼル様と乳母とのやり取りを眺めながらそんなことを考えた。




