1612 頭痛が痛いというこの状況
「……折原信吾さん、か……」
二十前半だろうか。アリスが残した折原さんの姿はとても若かった。
「可哀想にな」
元の世界にいたら明るい未来があっただろうに。それがダメ女神に潰されてしまった。もし、来世があるのなら幸せになって欲しいものだ。オレは老衰まで生きて、来世なんて考えずともよい人生にしてやる!
「折原さんの最後は?」
「侵入者に暗殺されました」
暗殺者? そんな死に方もあるんかい。館の警備を強化する必要がありそうだな。
「まあ、館はニャーダ族の女性陣が固めているから問題はないか。ミサロを固めたほうがいいかもな」
戦闘力がなく、一番守りが薄いのはミサロだ。護衛部隊、いや、イチゴを呼び戻すか。
「イチゴは王都だっけか? 公爵に手紙を出して戻してもらうとしよう」
シエイラに、いや、ミヤマランには支部があるんだから職員に連絡すればいっか。
支部長のライグのプランデットに記録通信を送った。そう急ぎでもないので、プランデットを見たときに開くようにした。
「ハァー。操作法より折原さんの記録や軌跡より堕天使の存在が頭痛をさらに痛くしているよ……」
頭痛が痛いとか、まさにこの状況のことを言うんだろうな~。
「前門の虎後門の狼ならぬ前門の女帝後門の堕天使ってか? オレにどうしろっていうんだよ……」
死ぬ気はない。ないのだが、これを聞いて明るい未来を想像できるヤツがいるなら会ってみたいわ。
「……タカト、大丈夫……?」
あ、マーリャさん、いたんだった。すっかり忘れてたわ。
「ええ。絶望に突き落とされるのには慣れてますから」
嫌な慣れだが、絶望ならこの世界に連れて来られたときから始まっている。その絶望を乗り越えて今がある。なら、今回の絶望だって必ず乗り越えてやるわ! 覚えておけ、ダメ女神が!
「堕天使ミスティルって知ってますか?」
「わたしたちの時代を滅ぼしたとされる存在よ。ミスティルによって世界に毒を撒かれ、わたしたちは地下に逃げるしかなかったと言われているわ」
「エルフだけを殺す毒ですか?」
でないと駆除員も死んでしまうだろうよ。
「そうよ。他の種族、生き物には効かなかったわ」
堕天使は、エルフが憎かった……わけではあるまい。それならエルフを滅ぼした時点で望みは叶えられているし、ライングル帝国に加担しているのが意味がわからん。
だからって駆除員を滅ぼそうと思っているわけでもない。滅ぼそうとしているならダメ女神が介入してくるはずだからだ。
「堕天使ってことは、女神ではないってことだよな? 女神が放置──してはないか。セフティーフォートレスを与えているんだから」
警戒はしているが、表立って堕天使を排除する素振りはなかった。それとも対峙させるための駆除員がいたとか? 折原さんのように……。
「クソ。また頭痛が痛くなるぜ」
また酒浸りになりそうだよ。ハァ~……。




