『僕』と聖女と勇者
「あの、エル兄さん・・・その…勇者はもう・・その・・」
つい最近まで僕より頭一つ以上小さかったその姿は、魔力過多による生命の危機を回避すべく女神により強制的に成長を促され身長差はもう殆ど無いと言っても良い位になった。
僕の成長止まったのかな・・・まぁそれは良いとして
初めて会った時から変わらずの天真爛漫で小さな事など気にしない、成人前に見えるその姿とは裏腹に中身はまだ11歳だからなのか、平気な顔で僕に肌を見せる。
自分自身の急激な変化を認識していないのだと思うがそろそろ、色々と不味いイロイロと。
出会って間もない僕の事を兄のように慕ってくれているらしいし、お淑やかになれとは言わないが活発過ぎるだろ?
そんなファナが珍しく言いよどんだ態度をとっている、消え入りそうな声で。
なんだ?これ、赤い髪を揺らし視線を下げ顔を赤らめている。
勇者は?もう?
僕に勇者に成るなという事か?
今回の勝負はただの力比べだから、それでもいいんだが何かおかしい。
僕に勇者に成れと言ってきた少年もファナを黙って見ている、ただすごく楽しそうな顔をしている。
チラリとこちらを見てファナはそのまま俯いてしまった、小さく口が動いているのが分かったが何も聞こえない。
ファナの白髪の少年を見る眼つきが少し鋭くなったのが気になる。
「・・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・」
「ファナ、聞こえないぞ?」
何か言っている様だが聞き取れない、我慢できずに声をかけるとファナの両肩がビクリと跳ねた。
これは・・・何を隠してるんだお前は?
スッとミリルさんがファナの前に進み出る。
「ファナが話しづらいのでしたら私が話しましょう」
「お姉ちゃん・・でも・・・」
ミリルさんが関係しているのか?あ、まさか。
「ファナお前、ミリルさんを?」
「はい、私が勇者に認められました、そして、それを承諾し勇者と成りました」
ミリルさんがきっぱりと言い切るとファナはミリルさんの後ろに少し隠れる様に移動した。
なるほど、僕が怒るとでも思っていたのか、勝負の前につまらない話をしてしまったのが尾を引いていた様だ。
フゥと小さく溜息を吐きファナとミリルさんを見た。
「ミリルさん良いんですか?」
「はい、私が望んだことですから」
今まで見せた事の無い微笑みをたたえていた。
師匠は何も言わず、ファナはミリルさんを見上げて少し困った顔をした。
ミリルさんが納得しているなら何も問題など無い、しかし、どうやって鎧を纏ったファナに勝ったのか興味が湧いたので聞いてみた。
ミリルさんは簡潔に話してくれた、なるほど、訓練でも何でも鎧を着ている状態で負けを認めると勇者候補に挙がるのか・・・かなりいい加減だな。
これからは、ファナには鎧を纏わせない様にしないといけないか?
ファナの戦闘経験の無さなど考えると、そのうち勇者だけで小隊の一つも出来そうだ。
さてと白髪の少年を見ると顎に手を当て何か思慮しているようだった。
そうすると、うんうんと頷き、また僕に手を差し出す。
『キミ、ユウシャニナラナイカ?』
いやなんで?良い感じで治まってるだろ?
「ミリルさんが勇者に成ったんならそれでいいじゃないか」
『イヤ、ジツハ、イロイロ、モンダイガアル』
問題とは何だ?勇者に成ったのなら魔物の女王と・・・
戦わなくちゃいけない事が問題なのか?ミリルさんは神官戦士だしファナみたいに素人では無い、はずだ。
白髪の少年はミリルさんに近付き、その手を握る。
『ヤハリダ、ミリルサン、ダッケ、キミ、マホウツカイ、ジャナイヨネ?』
「はい、私は魔女ではありませんが、それが?」
『ユウシャノツヨサハ、ソノマリョクリョウ、ト、ヘンカンノウリョク、ノタカサダ』
『ミリルサンハ、ユウシャニナッテ、マホウヲ、ツカウコトガデキルケド』
『ジブンデ、マリョクノ、カイフクガデキナイ』
勇者に成って魔法が使える様になっても魔力の回復が出来ない?
僕が驚くのと同じように師匠もファナも驚いていた、それを聞いたミリルさんは苦渋の表情だ。
『ケタハズレノ、セントウノウリョクヲ、ハッキスルタメニ、バクダイナ、マリョクヲショウヒスル』
『デモ、ミリルサンハ、ジリキデカイフクデキナイ』
「そうです・・・か、私は自分で魔力を回復できないんですね、魔力を感じる事は出来るのに・・・」
ファナがミリルさんに手を差し出すと、小さく唇を噛みその手を握る。
魔力を必要とするのに魔力の回復が出来ない。
勇者の力を持っていても使えないって事か?
『ダガ、ホウホウガ、ナイワケジャナインダ』
少年が説明によれば、聖女により選ばれた勇者は魔力を聖女から補充して貰えるらしい。
通常は莫大な魔力を消費する勇者の魔力回復の補助的な役割を担うらしい、が。
「ミリルさんに対してはファナに魔力の回復を完全に依存する事になる」
『ソウダネ、ソレガ、モンダイナンダ』
なるほど、ミリルさんは勇者には成ったが・・・不完全なのか。
長時間の戦闘になれば魔力切れを起す事になる、それを如何にかするには、傍らにファナを連れていなければいけない。
守るどころか危険に晒す事になる。
しばしの沈黙の後
「いいよ、お姉ちゃんを勇者にしたのは私だし、魔力の回復位なにさ!」
「ファナ・・ありがとう」
ファナは目に涙を溜め小さく叫んだ、別に責めている訳じゃなかったんだが。
だが、少年が僕を勇者にしたがる理由も少しわかった、魔物の女王をと戦うにしてもミリルさんだけでは少し、いや危険だ。
そこで疑問が浮かぶ、
「どうやって魔力を譲渡するんだ?方法が思いつかないだが」
魔力は魔法使いしか持たず、誰かに渡す事など出来ない。
そんな事が出来るのも聖女の能力なのか?
『ファナクン、ミリルサンニ、マリョクヲ、ブキニトオス、ヨウニシテミナヨ』
ファナとミリルさんは向き合うように立つと両手を繋ぐ。
「お姉ちゃん送るね」
「はい、お願いしますファナ」
ファナは魔力を高め全身が赤く輝く、ミリルさんに赤く色づいた魔力が手を伝い流れて行くのが見えた。
「確かに・・・この感覚は・・・」
「お姉ちゃん、痛かったりしない?」
「はい、大丈夫です、これは・・・」
ファナは魔力を渡し続けているが、ミリルさんはまだ魔力が満たされない様だった。
とうに僕の魔力容量を超えている、どれだけの魔力容量が有るんだ二人とも・・。
こんなに時間が掛かるんじゃ戦闘中には魔力の補充は無理だろう。
「ミリルさん、魔力はどうです?まだ溜めれますか?」
「まだ半分程です」
これは益々まずい、これだけ時間をかけて半分か、もう一人の勇者の必要性、魔法使いの勇者が必要か。
『ジカンガ、カカッテ、シカタナイネ、モットイイホウホウヲ、オシエルヨ』
在るのか?なら早く言えばいいのにって顔をしてファナが少年を見た。
お前は顔に出過ぎだ、隠し事が出来ないなお前は。
少年はファナに魔力を通すのを止めさせると、ミリルさんと僕に近くに来るように手招きした。
『ファナクンハ、キチャダメダヨ』
「はぁ?」
僕たちに屈むように指示すると、その方法を囁いた。
な、そんな方法があるか!
・・・勇者と聖女は結ばれる・・こういう事か!
戦闘が続けば魔力を回復する為に・・・あぁぁ。
急に隣で急激に魔力が膨れ上がりミリルさんが立ち上がる。
この魔力の高まりこれが勇者の力か、
「お姉ちゃん?」
「うぉぉぉ、高まれ私の魔力!」
ミリルさんが両手を天に向ける、その先には巨大な火の玉が現れた。
「ファナ、あなたは誰にも渡しません!」
そう叫ぶとその手を振り下ろした。




