「私」と勇者と女神様
白髪の少年…カミサマとエル兄さん
少年はエル兄さんに勇者にならないかと誘っているが、勇者は決定してしまっている。
白髪の少年はソレを知っているはずなのに、どうしてエル兄さんに・・・。
昨日、お姉ちゃんとの訓練の時、私が不意にこぼした一言。
「はぁ、お姉ちゃんには敵わないよ」
この一言でミリルお姉ちゃんは"勇者"になっちゃった。
ホントになっちゃった・・・。
勇者が決定してしまった、こんなにも簡単に、ただの一言で…。
そう、それは…
周囲を眩い光に包まれると私の体から握り拳ほどのクリスタルが現れた。
それはゆっくりと回転しながら私とお姉ちゃんの間で停止すると七色に輝き出す。
お姉ちゃんも私も何が起こっているのか分からず佇んでいると、小さな声が聞こえてきた。
"・・ゆう・・よ・・・ざめ・・"
その声を聴くと頭が痺れる、まるで頭を揺さぶられているように上手く考える事が出来なくなる。
"勇者・・と認められし者よ、目覚めよ"
その声にハッとし意識が戻った、多分勇者とはお姉ちゃんの事だ。
お姉ちゃんを見る、その眼はクリスタリを見入っている。
「お姉ちゃん!」
声をかけると夢から覚めたように覚束無い声で私の名を呼んだ。
「・・・・ファナ」
ミリルお姉ちゃんは両手でそっとクリスタリを包み込むように添え
「クリスタリが…私に問いかけるの…」
「お姉ちゃん?」
「私に・・・勇者に成れ、と」
如何したら良いのか分からないといった表情で私を見る。
問いかけられ選択できるのなら、勇者にならない様に止められる?
「ファナは何か知っているの?勇者って?」
これはちゃんと説明してお姉ちゃんに勇者を辞退して貰う、これしか無い。
私は髪に鎧を戻しお姉ちゃんの側に駆け寄りその手を握った。
「お姉ちゃんよく聞いてね、焦って返事しないでね!」
「は、はい?」
私は魔物の巣で起こった事から話し始め、そして、勇者を私が決める事になったと話した。
「勇者になっちゃったら、魔物の女王と戦う事になるんだよ」
「・・・はい」
「だから断わって、お姉ちゃんが戦いに巻き込まれちゃう」
「・・・ですが」
何か上の空で空返事を繰り返すお姉ちゃんの視線はクリスタルに向けられている。
「聞いてる?お姉ちゃん断わって凄く危険なの」
「・・・そうですね、危険ですね、でも…」
皆を巻き込みたくないし、私もこれ以上深くかかわりたく無い。
勇者は急いで決めなくてもいい、この世界にも勇者じゃなくても強い人は沢山いるだろうし、フィル姉さんとエル兄さんに相談して決めてもいい、お姉ちゃんを説得しているとかなりの時間が経っていた。
空が少し紫がかり夕暮れ時になる頃、今まだ静かだったクリスタルが、
"まだですか?そろそろ返答を聞きたいんですが?"
クリスタルは待たされてイライラしているのか、点滅し始めたうえ、言葉遣いが変わった。
赤い輝きが増したような…何このクリスタル?
"私も忙しいんです、チャチャっと決めて下さい"
あれ?声も変わった、しかもこの声聞き覚えがある…よ。
いやまさか…そんなはずは…確かめてみる。
クリスタルの顔を近付け、内緒話でもするように囁いてみた。
「あ~女神、女神アリア様、何してるんですか?」
"ブフォォ、ゲホゲホホ…違うし、アリアじゃ・・ゲホ・・女神じゃないし、ただのクリスタルだし、ファナさんの勘違いじゃないかな?"
時間掛かってたから、何か飲んでたな…
「女神様、何か悪さでもしてクリスタルに封印でもされたんですか?」
クリスタルは左右に激しく揺る。
"封印なんてされてないし、主様に頼まれた仕事だし!"
"色々忙しいのにこんなことまで丸投げされてー"
"ファナさんその人でいいじゃないですかぁ、まだ仕事残ってるんですよー"
忙しいって何さ?最近呼んでも返事もしてくれなかったし。
どうせまた、お菓子食べながらドラマでも見てたんだろ?
私の中での女神アリアは駄女神で、ここで「はい、そうです」と言われても納得しちゃう。
「仕事って?またドラマ?」
クリスタルこと女神アリアはピーっとクリスタルの頂点から湯気を上げた。
"戻ってきた元女神の力を削ぐ為に、『世界の理』を書き換えてたんですよ!"
いつの間にか私はしゃがみ込み、クリスタルも私の顔の高さに降りて来た。
「『理を書き換える』って?」
"彼女はこの『世界の理』を理解しています、そして彼女…いえ、女神だけが使える魔法を幾つも所有しているのです、それを使用出来なくする為の『理の書き換え』です"
"そうしないと彼女は万能なのです、私より"
女神よりも万能な魔物の女王って・・・
"その書き換えがまだ残ってるんです、遅くなればそれだけ彼女の優位に繋がるんです"
それは困る、凄く困るけど…それとお姉ちゃんが勇者になる事は別。
「お姉ちゃんはダメだよ」
"どうしてです?条件は達成しているじゃないですか?"
鎧を着た私に勝つ事、そう練習とはいえ鎧を纏ったままコテンパンにされ、私自身が負けを認めた。
お姉ちゃんはこの条件を見事に達成してる、「コングラチュレーション」だ。
「だめです、さっきのは間違いなんです、クーリングオフでお願いします」
"良く解りませんが駄目です"
そんなこんなで、クリスタルと睨み合っていると、
「ファナ、何を話してるんですか?」
心配そうなお姉ちゃんの声が聞こえて来た。
少し離れた所でずっと待っていてくれたらしい、話し声は聞こえて無さそうなのでさらにお願いしてみた。
「お姉ちゃん、何でもお姉ちゃんの言うこと聞くから勇者を辞退してお願い」
瞳を潤ませ上目遣いにお姉ちゃんを見る。
「何でも…何でも……」
ズギュン!と何か衝撃を受けたようにお姉ちゃんの全身が跳ねた。
これで完璧なはず、この後、私がどうなるかは…考え…あぁもう諦める!
お姉ちゃんは仰け反りながら両手で顔を覆う、多分人に見せられな表情をしているか必死で鼻血を我慢しているのだろう。
ふふん、これで私の勝ちだとクリスタルの見下ろすと、クリスタルこと女神がミリルお姉ちゃんに囁いた。
"聖女を守る勇者に成りなさい"
くねくねと身悶えしていたお姉ちゃんの動きがピタリと止まる。
「聖女様を守る、勇者…はい、成ります!」
がばっと体を起し少し鼻血を垂らしたお姉ちゃんは満面の笑みでクリスタルを迎えた。
クリスタルはゆっくりとお姉ちゃんに近付くとそのまま体の中に消える。
"フッ私の勝ちです"
そんな女神アリアの声が聞こえたような気がした。
私の身を挺したお願いも女神アリアの策略もといミリルお姉ちゃんの…
聖女様LOVEには勝てなかったよ!
が、昨日の事。
こうして、ミリルお姉ちゃんは勇者に成った、のに、白髪の少年はエル兄さんまで勇者にしようとしている。
エル兄さんはただの勝負がしたいと言っていたし気にしないよね?力を貸して欲しいと言ってたけど勇者になる事じゃなによね?
黙っている訳にもいかない、私はエル兄さんにミリルお姉ちゃんが勇者に成っているという事を伝える事にした。
「あの、エル兄さん・・・」
エル兄さんと白髪の少年が私の声に反応してこちらに顔を向けた。
とても楽しそうな目をした白髪の少年がとても気になった、何か企んでいるな!
「その…勇者はもう…」
エル兄さんの後ろで口元を押え小刻みに震えている白髪の少年。
いつかぎゃふんと言わせてやる!
『ムリジャナイカナ?』
筒抜けでした…。




