「私」と勇者とカミサマと3
「なっ消え・・・」
降り積もった雪が爆ぜた、ゾッとするような悪寒に襲われ全力の魔法障壁を前面に張る。
ギャイン!!
赤い閃光と共に火花が飛び散り魔法障壁が砕け四散し、正面には舞った雪が大きな輪を作っていた。
嘘ォ…砕けた全力で魔力を注いでいなかったら斬られてた・・・
振り返るとエル兄さんが佇んでいる。
「斬れたと思ったんだけど予想以上に硬いんだな」
「まぁね、簡単には斬られないよ」
エル兄さんが本気だ。
魔力を巡らせた鎧が小さく震え出し装甲が膨れ上がる。
負ける訳にはいかない・・・んだよ。
しかし、強がりを言ってみたが魔法障壁をどう斬られたかも見えなかった、もうさっき見たいなまぐれはエル兄さんはさせてくれないだろうし。
((正面から殴り付ければいいんだよ・・・))
((潰せ、砕け、叩き壊せ・・・))
頭の中に声が聞こえる・・・私の声で・・・何これ?魔力流し過ぎた?
自分の手を見てみると指先が鉤爪のように変化し始めていた。
慌てて魔力を押えると
((つまらないな、つまらないぞ、もう少しでその身体・・・我が物に・・・))
「・・・え?え?」
こえーこの鎧こえー意識を乗っ取る気満々だよ!て意識みたいなの持ってたのか?
右手を兜に添えソレを振り払う様に左右に振る。
この鎧危ない脱ぐ?髪に戻す?
「戦いの最中に剣から手を離すなんて余裕だなファナ」
「ふへぇ?」
鎧の声に意識が集中しすぎてエル兄さんの声に驚いて変な声が出てしまった、
エル兄さんは剣を構えたままこっちを見ていた、この隙をついて来ない所にエル兄さんの余裕を感じる。
うぅ…こっちに余裕なんて無いんだけど、このままじゃまた暴走?乗っ取り?されちゃうしどうしよう。
エル兄さんに一歩一歩、間を詰められると同じように私の大きな鎧が後退る。
「ファナ、負けを認めろ、お前じゃ勝てない」
「まだ分からないよ?これからだよ」
立ち止まり強がりを言ってみたが、ん~どうしようもないけど。
何とかしないと、周囲を見渡しながら今の状況を打開する方法を探す。
その時、一瞬時間が止まったような感覚に襲われる。
『パチン』
この音は?
エル兄さんも立ち止まり周囲を見渡していた。
『ヒドイジャナイカ、ハジメテルナンテ、マッテクレテテモイイノニ』
いそいそとフィル姉さんとミリルお姉ちゃんの側に駆け寄る白髪の少年の姿が見えた。
『コレハコレハ、ホンジツハ・・・』
どうも二人と挨拶している様だ、その姿はとても丁重であり、思ってた以上に腰が低いなカミサマ・・・
お姉ちゃん達はどうしていいか分からず固まっているようだ。
『トコロデ、ファナクン…マァイイカ、アトデ、セツメイシテネ』
離れているのに耳元で聞こえる。
その声に少し棘が在るような?怒ってます?怒ってないよね?
『チョット、ヨテイガクルッタヨ』
そうですかごめんなさい、予定ってなんですかね?私に関わる事ですよね?
(きっと予定の半分は私に対する嫌がらせですよね?)
『ジンセイヲ、タノシクスル、チョットシタ、イベントダヨ?』
そうですか、否定しないんですね、その笑顔殴りたい…。
(あ、そうだ、鎧が喋るんですが!)
『ヨロイガ?シャベル?アタマ、ダイジョウブカイ?』
(頭って・・・え?幻聴!?嘘!)
『ッテネ、ジョウダンダヨ、ゼンメガミガ、ツクッタ、ヨロイダカラネ、シカケガ、オオイノサ』
(仕掛けですか?)
『マァ、"ワナ"、トモイウケド、トリノゾケナイカラ、ウマクツカッテヨ』
(えぇぇ、不良品じゃないですかぁ~返品していいですか?)
『キミ…ヨロイ、キテナイト、マホウツカイ、トシテ、ノウリョク、ナミイカダロ?』
(・・・そうですね)
「何をブツブツ言ってるんだ?」
エル兄さんは訝し気な表情でこっちを見ていた、ちょっと聞こえたらしい。
カミサマにばれたしこの勝負の結果がどっちに転んでもエル兄さん達に話しちゃいそうだしなぁ。
どうしよう?肩を落としつつエル兄さんに視線を向ける。
見るからに戦闘準備万端、呼吸を整え魔力を高めているのか周囲が揺らめいて見える。
あぁ負けたらどうしよう、これはマズいよ非常にマズい…もう一度チラリと見る。
「…僕の顔に何かついてるか?」
「…いえ」
そっと視線をそら・・・しちゃだめだけど、勝てる気がしなくなったよ。
手持ちの武器の確認
魔法両手剣?1本
アイテムボックスに護身用のナイフ2本、普通の剣2本か。
剣を同時に操れれば何とかなるかな?3対2、でも飛ばすと、スッ飛んでくしなぁ。
まだ魔力過多で上手く制御できないし、途中でどうにかして止めればいいんだよねぇ…とすると、これしか無いよね。
背中から剣が2本現れる、意識しないと、髪の在る辺りから出てくるみたいだ。
その剣を空に漂わせエル兄さんとの距離を取るように後退する。
「何をする気だ?今のファナだと剣は制御できないだろ」
「さてそれはどうかな?まぁお楽しみ」
けどあの速さで動かれるとどうしようもなくなるので先手を打つ!
右手で掴んだ両手剣を左脇に添える様にし、エル兄さんに向かって飛び掛かる。
足元が爆ぜ、猛烈な勢いで鎧が宙を飛ぶ。
両手剣の届く範囲に入った瞬間に私は剣を振り抜ける。
鎧の力により振り抜かれた両手剣は正に空を切裂いた、衝撃波で前方の降り積もった雪が吹き飛ばされる。
が、当然そこにはエル兄さんの姿は無く両手剣は空を切っただけだった。
「まったく…」
そんな声が後方から聞こえた、後ろだ!
急いで振り返るり、背の辺りを漂っていた剣を飛ばす、
ボボッ!!
姿をちゃんと確認せず飛ばした剣は見当違いな方向に剣先を向けていた。
「避けるまでも無いな」
少し呆れたような表情でエル兄さんが呟く。
その油断待ってた!剣を飛ばすと同時に全力魔法障壁を準備していたのだ。
エル兄さんの少し後方に魔法障壁を張り巡らせる。
ガキン!ギン!
2本の剣は私の張った魔法障壁にぶつかり火花を撒き散らし跳ね上がる、私は剣をもう一度制御しエル兄さんの剣に向けて飛ばした。
ガイィン…
エル兄さんの左手の剣が私の飛ばした剣が当たり、その衝撃でエル兄さんの手から離れ2本の剣あらぬ方に飛んでゆく。
右手の剣を狙った方は外れたが片方だけでも十分にチャンスだ!
「なっ!」
エル兄さんの驚きの表情久しぶり、だが、エル兄さんは、飛ばされた剣に手を向ける、身体強化された体には余りダメージは無かったようだ。
黙って拾わせないよ!
両手剣を肩に抱える様にし大きく飛ぶ、巨体が重力を無視する様に空を舞い、その両手剣を振るう為に体を捻り、エル兄さんを見据えると。
「まだまだだな、ファナ」
エル兄さんはこちらに剣を向け僅かに微笑んだ。
「えっ?」
笑った?その瞬間、衝撃を受け目の前がオレンジ色の火花で覆われる、額を剣で打ち抜かれたと気づいた時、揺れる視界に映ったのは僅かに赤く輝くエル兄さんの剣だった。
額を撃ち抜かれ、仰け反るように視界が動き空が見える。
灰色の雲と青空の間に回転しながら漂う一本の剣が見えた。
さっき飛ばした剣?何でそこに?
呆気に取られていると一直線にこちらに落ちて来た。
ギャリリィィィ
高速回転した剣を腰当に受けその勢いのまま地面に叩きつけられた。
落ちる感覚に思わず目を閉じてしまった、大丈夫だと分かっていても怖い、自分で落ちるのと落とされるのとではここまで違う。
「これで終了だ、ファナ」
エル兄さんは鎧の上に降り立つと鎧の右腕に剣を突き立てた。
『ケッチャクガ、ツイタヨウダネ』
その声に反発しようとしたが、
「ファナ、あなたの負けです」
ミリルお姉ちゃんの声がそれを押し止めた。
お姉ちゃんは優しく微笑んでいる、ハァァ負けかぁ。
「私の負けみたいだね…エル兄さん」
「あぁ、最後の攻撃には少し驚いたけど、まだまだっだったな」
右腕の剣を抜いて貰い立ち上がる、左腕は斬り落とされ右腕には風穴が空き、鎧自体にも無数の傷が付いていた。
それに引き換えエル兄さんはほぼ無傷、最後の剣を落とした時の衝撃位だろう、完敗と言われても仕方ない結果だった。
「エルゼル兄弟子として大人げなくない?」
「な、一応勝負ですよ?試合ですよ、なんで手抜きしなくちゃいけないんですか師匠」
フィル姉さんの一声に慌てたようにエル兄さんが反論する。
「だってあの剣捌き教えたの私だし、まだファナちゃんには教えて無かったんだから」
「実戦では技量の差なんて幾らでもあります、知っていようが知るまいが、それは仕方ない事ですよ」
ミリルお姉ちゃんは言う、正論だと思う、知らない剣技、体術、魔法とか技術は幾らでも在るのだから、それを負けた理由には出来る筈も無く、こっちもこの"勇者の鎧"を纏っていたのだからお互い様だ。
パンパンパン!手を叩く音に皆がそちらに顔を向ける。
『ハイハイ、ファナクンノマケダ、ケッテイ!』
居たのかカミサマ、静かだったから帰っ…てればいいのに。
『オタノシミガ、ノコッテルカラネ』
また耳元で聞こえたその声はとても楽しそうだ。
『ジャア、エルゼルクンダッケ、ドウスル?ユウシャニナルカイ?』
カミサマはエル兄さんに手を差し出す。
え?え?勇者ってもう決まっちゃってるんだけど…どうしよう、ちゃんと説明しないと…でも、そっとミリルお姉ちゃんを見た。
あの訓練の後、"勇者"になったミリルお姉ちゃんはただ静かにエル兄さんを見ていた。




