「私」と勇者とカミサマと2
体重を掛けると鎧の重量のせいだろう、ぬかるんだ地面に足元が滑り剣を構える事さえ出来ない。
空に足場代わりに障壁を張りエル兄さんが追撃を仕掛けて来る
迫り来る左側面からの追撃を私も魔法障壁を張り受止める。
ギン!
私の張った魔法障壁にエル兄さんの剣先を突き立てられるた。
(あ、あぶな、エル兄さん本気!?)
反撃の為に立ち上がろうとした瞬間、魔法障壁が砕かれた。
咄嗟に前方に飛んだ事で回避できたが問題は障壁が砕かれた事、振り返るとエル兄さんは剣を傾け見定めていた。
「ファナ、この剣だと魔法障壁は役に立たないみたいだな」
「悪い顔してますよエル兄さん…」
どうやら剣に魔力を流した状態だと魔法障壁は一瞬しか防ぐ事が出来ない様だ、これは不味い、私の唯一の能力が無効化されたに等しい。
「エル兄さん?勝負はこの辺りで終了という事にしませんか?」
「それは無理な相談だなファナ」
むむ、笑顔だけど目が笑って無い、何でそんなに怒ってるの?
「フィル姉さんに怒られたくらいでそんなに怒らなくても・・」
そう言うとキッと睨まれた、剣を握った拳を震わせる。
「ファナ、お前が来てから何度師匠に怒られてると思ってるんだ?」
何度だろう?そんなに無いよね?
ガッチンガッチン指折り数えるがそれ程の回数は無かった、治療術の奇跡を必要としたのは2回位だし、後は細かいのが数回?
「それ程無いような?」
「自分の失敗で怒られるのならともかく、殆どの原因がお前なんだよ」
「やだ~エルゼル怒ってるの~」
後方から冷たいフィル姉さんの声が聞こえて来た。
「いえ、そういう訳じゃ無いんです師匠」
「じゃぁどういう事~?」
フィル姉さんも笑顔だが眼が笑って無い、さすが師弟だ表情が似てる。
必死に取り繕うエル兄さん、フィル姉さんの笑顔が…怖い怖すぎる!エル兄さん地雷を踏み抜いたんじゃ?
「フィルノールさん勝負中ですから」
「そうね、そうだわ、エルゼル後で話しましょう、しっかりとね!」
ミリルお姉ちゃんのおかげで取敢えずフィル姉さんは落ち着いたけど、エル兄さんはちょっと泣きそうな顔になりながらガクンと肩を落とした。
「またファナのせいだ・・・」
「いや、今のは自分のせいだと・・・」
足元に障壁を張り立ち上がり両手剣を正眼に構える、エル兄さんはまだ肩を落としたままだが。
フッ!
瞬時に間を詰められ私の左肩に向かい鋭い突きが放たれていた。
ギャリン!!
両手剣を横倒しにし突きの軌道を何とか逸らせたが、もう一方の剣がガラ空きの鎧胴体に斬りつけてきた。
私は咄嗟にその剣を右膝でで打ち上げ、そのまま体を捻り蹴りを繰り出すとエル兄さんは瞬時に後方に移動した。
そのあり得ない回避の仕方に思わず目を剥く。
「ちょっ、エル兄さんおかしいよその回避!」
「ふん」
そのまま数メートル離れると重心を下げ大きく両手を広げ格好でピタリと止まる。
ぬかるんだ地面には足痕すら無いのにどうやって…?あ、これってフィル姉さんの移動の仕方に似てる。
「それってフィル姉さんの?」
「そうだ、師匠の移動方法を応用している」
「えー私にも教えてくださいよー」
「嫌だよ、自分で考えろ」
「…ケチ」
「・・・」
地面を蹴りエル兄さんが飛び上がるまた、魔法障壁を足場にして器用に宙を飛び回り始めた。
うわぁ器用な事するなぁ漫画みたい、しかし二刀流はどうしても一方を回避する成り受止めると隙が生まれる、魔物の女王も同じような攻撃をしてきたけど攻撃の仕方がそっくりだ。
回避するにも攻撃に移るにも…どうする?同じように動ける訳も無く、エル兄さんを眼で追うように動けば隙が生じるしってもう隙だらけなんだけどね。
なら自分の得意な事でッと!
私は両手剣を大きく振り回すと同時に軌道に障壁を張り巡らせる。
(これでどうだっと)
すると後方の障壁が砕ける音が響く、私は鎧を回転させるようにして両手剣を後方に向け切り抜ける。
剣戟より少し遅れ後方が見がみえるとエル兄さんに両手剣が当たる瞬間だった。
だめ!
手首を捻り剣を横に向ける、これで最悪弾き飛ばすだけで済む、エル兄さんが魔法障壁を張れば死ぬ事は無い筈…。
だがこちらの心配は無意味だった、エル兄さんは剣戟を避ける様に瞬時に体を捻らせ不可解な軌道を描き上空に移動したのだ。
(はぁ?)
驚きの余り勢いが削がれた両手剣の剣身を叩きつけられ地面に落とされたと同時に、もう一方の剣先が上方から襲い掛かって来た。
左の篭手の部分に魔法城壁を集中させ剣を受け止める、が留める事が出来たのは数秒でしか無かった。
ズパン!
私の左腕は手首の少し下の辺りから斬り落とされ膝をついた。
「きゃぁぁぁ」
痛くは無い、だけど鎧とはいえ斬り落とされたのを見て悲鳴を上げてしまった。
「ファナァ!」
ミリルお姉ちゃんの悲鳴のような叫び声が聞こえる、エル兄さんはまた後方に飛び距離を取るとゆっくり構えを解いた。
「ファナ、負けを認めろ」
「ファナの腕が…腕が…エルゼル君!」
そっと左腕をみると赤色の魔力が斬れた傷口から流れ出す。
鎧をアイテムボックスに戻せば明日位には修理されてるはずだけど今はまだ勝負中だ、それにまだ私は動ける。
「お姉ちゃん大丈夫だよ、鎧の腕が取れただけだから」
「でもファナ…ホントに大丈夫なの?」
「うん、大丈夫!」
今にも飛び出してきそうな体勢のミリルお姉ちゃんにフィル姉さんが腕を掴んで止める。
「この前はもっと酷い状態だったけどファナちゃん自身は傷一つ無かったから大丈夫だと思うよ?」
「大丈夫だと思う?そんな曖昧な事でファナが取り返しのつかない傷でもできたら…」
ゆっくりと立ち上がりエル兄さんを見る、構えは解かれているがさっきからの戦い方だと、この瞬間にでも斬り込んで来れるはずだ。
左腕から漏れる魔力は多くは無いが長期戦は出来ない、鎧を纏っていれば右腕一本で両手剣を扱えるがエル兄さんの攻撃は防げない。
どうするかなぁ…
攻めても守っても厳しいよねぇ、うぅ泣きたくなってきた。
だけどこのまま負ける事は出来ない、エル兄さんを『勇者』にしたくない。
私の為に、エル兄さんの為に……。
私は剣を構え鎧に魔力を満たしてゆく、装甲の隙間から魔力が噴き出し赤い鎧が鳴くような音を立てた。
僅かに前かがみに体を倒しエル兄さんを魔力を飛ばし威圧した。
「仕方ないファナ、容赦無しで勝たせて貰うぞ」
エル兄さんは2本の剣を体の前に突き出す、次の瞬間その姿が私の視界から消えた。




