「私」と勇者とカミサマと1
コ・・ン・・コン・・コンコン
ひえめにドアを叩く音が室内に響く。
その音に反応し僅かに体を動かすと掛け布団と体の隙間に冷たい空気が流れ込み意識が覚醒する。
「さぶぅ…ぃ」
瞼をわずかに開き音のした方に視線を向けるとミリルお姉ちゃんが室内に入って来る所だった。
「ファナ、そろそろ起きないとエルゼル君は先に向かいましたよ」
「ふぇぇ?もう?」
体を起し布団を抱きしめるが、お姉ちゃんによってあっと言う間に引き剥がされた。
余りの寒さに「ヒィッ」っと小さな悲鳴をあげる。
こんなに早朝から・・・気合入ってるなぁエル兄さん・・・
とうとうこの日が来た、エル兄さんとの勝負の日だ。
最初は鎧の性能を確かめる為のちょっとした勝負のつもりだったけど…
勝負したくない、戦いたくないよ、胃が痛いよ。
「お湯は汲んでありますから、早く身支度して朝食を食べてねファナ」
「はい…」
温かい服に着替え食堂に向かうとフィル姉さんが居た。
「あら、ファナちゃん、おはよう」
「おはようございます」
ミリルお姉ちゃんが3人分の朝食を運んで来てくれた。
「いただきます」
固焼きパンとスープをチビチビと口に運ぶ。
「どうしたのファナちゃん、元気ないね?」
「今日の勝負ですよ勝負…」
「あ~まぁ~ねぇ~」
「信じていますよファナ」
私のせいで時間の掛った朝食が終わると準備をはじめる
って言っても私はこのまま鎧を纏うだけなんだけど何故かミリルお姉ちゃんがフル装備で出て来た。
街を出た時の冒険者用の装備一式を身に纏う。
「ミリルさん気合入ってるね」
「装備としては貧弱で心ともないですが」
「お姉ちゃん何する気?」
取敢えずミリルお姉ちゃんを抱え湖に向かって移動すると湖の畔に佇むエル兄さんの姿が見えた。
「お姉ちゃん降りるね」
上空から足場を創りながら降りていくと一瞬エル兄さんが此方を見た。
ズシャリと大きな音を立て着地しミリルお姉ちゃんを降ろすとフィル姉さんがふわりと舞い降りた。
エル兄さんは腕を組み黙って立っている、その剣帯には2本の剣を吊っていた。
二刀流ですかエル兄さん、まぁ確かにかっこいいんですが…中二病ですか?
「その、エル兄さん遅くなりました」
「…いや、僕が早く来ていただけだ気にするな」
そのままお互いに沈黙、2日ほど前からエル兄さんの様子がおかしい、フィル姉さんのお説教が効いたのか?まぁ私もミリルお姉ちゃんの教育も効いたけど…な!
勝負はしたくないし、この沈黙もキツイ、3日後に来ると言っていた白髪の少年もまだ来ないし。
ついっとお姉ちゃん達を見ると少し離れた所でフィル姉さんが持って来た薪を積み魔法で火を点けていた。
鎧を纏っているから寒くは無いんだけど焚火かぁ温かそう。
「エル兄さん焚火にあたりませんか?温かいですよ」
何時来るか分からない少年を待っていたら体が冷えてしまうし、この沈黙はキツイんですよ。
しかしエル兄さんは何も言わない、ガシャリと大きな音を立て鎧の両肩が下がった。
仕方ない私だけでも…
「ファナ…僕はな…」
「はい?」
急に話しかけられ振り返る、エル兄さんは両腰に下げた剣の柄頭に手を乗せ剣呑な視線を向けて来た。
「僕はな、もう我慢出来ないんだ…」
「え?」
我慢の限界?え?なに?出来ない?
「…が…たって仕方ないんだよ」
良く聞こえなかった、起って仕方ない?え?
拳を握り締め私に聞こえるか程度の声で話し出した。
たってって…そんな興奮して言われても困るよ。
アレか?色々見たからか?
エル兄さん色々溜まってるのか…?
ミリルお姉ちゃんから受けた性教育が脳裏をよぎると顔に血が集まり心臓が跳ねる。
「そんな事言われても…その…」
振り返り二人を見るが聞こえて無さそうなので安心する。
そんな事告白されても…なぁ
「…ファナのせいだ、今までこんな事無かったのに…」
私のせい?確かに湯船で色々色々見せちゃった…かも知れな…
そうか、エル兄さんも男だよ、異性の体に興味が出てくるよね!
しまった…私が無防備過ぎたんだ、だからミリルお姉ちゃんもあんな話したんだ。
それで恥ずかしくて、話しかけられなかったんだねエル兄さん。
正常な反応だし仕方ないよ。
でも、エル兄さんは小さいのが好みなのか自分言うのもなんだが色気は無いぞ。
それにお姉ちゃん達のが大きいよ?
「フィル姉さんやミリルお姉ちゃんのが…」
「原因はファナだ、師匠達じゃない」
断言されたよ、ターゲットは私か!小さいのが好みか!
「あの、エル兄さん溜まってるなら…その処理してしまえば…」
「溜まる、処理ってどうするんだ?」
な!エル兄さんは知らないのか?
まだ早いのか?いやそんな事は無いだろ?
この世界は15歳で成人だし、次の年には結婚して子供がいる夫婦っだって居るし。
リア充爆発しろ、じゃない!
そうかフィル姉さんと二人で生活してたから、そういう知識が無いんだね。
この世界にはネットもグラビアも無いし、周囲に男は居ないし、この環境じゃ仕方ない。
此処は元男として教えてあげなくては、間違いが起こってしまってからでは遅いのだ。
しかしどう説明すればいいのか、今の私には付いて無いしなぁ…そうだ!
エル兄さんは心身共に純粋だな、なんだか汚しちゃうようで悪いけど大切な事なんだ!
姉さん達には見えないように体をずらし収納して運んで来た両手剣を地面に突き刺す。
そして柄部に右手を添え上下に動かす。
「エル兄さん、あのねこうしてね、こう」
「・・・・・・」
「…後は個人の…好みで強弱をつけて…その」
「・・・」
エル兄さんは目をむき私の説明を聞いてくれたが、その真剣眼差し。
だめだ恥ずかしくて話せない。
しかも今、私は女の子だ無くなって何年もなるソレをこれ以上、上手く説明出来ないよ!
「アッー!」
悔しくて小さく叫んでしまった、しかし、しかしだ少しは分かってくれた筈だ。
期待を込めてエル兄さんに視線を向けると耳まで真っ赤にし小さな声で答えてくれた。
「…良く解ったよ」
「解ってくれた?」
通じたよ、だよね流石に分かるね。
「これからは溜め過ぎない程度に…私の…見ちゃったのは忘れろとは言わないから…使っていいから!」
「…そうか」
大出血サービスだよ鼻血だすなよ?
私だから許すんだよ?
それに見ちゃったんなら記憶に残ってるんだし忘れないよね、うん、我慢するよ使っていいよ。
私って優しい!
通じた事を小さくガッツポーズを決め喜んでいると「カチリ」と金具の外れる音がした。
見るとエル兄さんが2本の剣を抜いていた。
いやエル兄さん抜くのは剣じゃ無くてね?
「誰がそんな話をしている」
「え?処理の仕方知らなかったんじゃ?」
エル兄さんは体の前で剣を交差させ、小さく息を吐くと白い吐息が広がり流される。
「お前のせいで師匠に何度お仕置きされたと思ってるんだー!」
「そっちー!?」
エル兄さんの魔力がぶわりと膨らむと信じられない軌道を描きながら斬りかかって来た。
イヤイヤそれおかしいからね?スっごく紛らわしかったんだよ!?
地面に突き刺した両手剣を抜き剣戟を受け止める。
弾き返そうとした瞬間、エル兄さんはアクロバティックな動きでいなす。
「あれ~二人とも勝負開始~?」
体勢を崩され焦る私にのんびりしたフィル姉さんの声が聞こえて来た。




