「私」とお姉ちゃんの戦闘訓練
気まずい夕食後にソファの前に正座し項垂れる二人…足痺れてきた…
「さて、どうしてこうなったのか聞きたいのだけど?どちらが話してくれるのかしら?」
フィル姉さんとミリルお姉ちゃんが真顔で問いかける。
焦っていたとはいえ、流石に裸で飛び出して来たのがまずかったか。
だが話すにしてもエル兄さんの過去に関する事なので私が話すのもどうかと思い黙っているとエル兄さんがさっき私に話した内容を話し出した。
ミリルお姉ちゃんは驚いた表情に変わる。
「なるほど、分りました。エルゼル様とお呼びした方が良いですか?」
「ミリルさん気にしないでいいよー」
フィル姉さんは知っていたのか気にした様子も無くミリルお姉ちゃんの肩をポンポンとする。
何で"様"付けなの?っとお姉ちゃんに眼を向けるとこちらに気付いたのか
「王族直属の騎士団です、騎士団員は貴族のみで構成され平民はまず居ないでしょう、エルゼル様のお父様が騎士団員ならエルゼル様は貴族という事になります」
なるほど!子供にも分かるように簡潔に話してくれたが、え?エル兄さんて貴族なの?
「僕は家名を捨てました、今まで通りエルゼルでお願いします」
「そうそうエルゼルでいいのよエルゼルで」
「ですが……分りました」
「き、貴族様??」
ギギギッと隣で正座しているエル兄さんに顔を向けると
「さっき気付かなかったのか、お前らしいな…まぁファナも気にしないでくれ」
爽やかな笑顔をこちらに向けたけど、貴族様が正座してていいのかな?
「じゃぁファナちゃんの方はよろしくね、ミリルさんしっかり教育しといて」
「分かりました」
ウゥエ…笑えない…笑って無いよ二人共。
「エルゼルはこっちよ!」
「何で僕が…」
ズルズルとフィル姉さんに引きずられて姿を消すエル兄さん。
恨めしそうな目で見ないでエル兄さん骨は拾えると思うから。
「ファナは私の部屋に」
「…はい」
ミリルお姉ちゃんの部屋に入る時、小さな悲鳴が聞こえてきたような気がしたが…聞かなかった事にした。
部屋に入るとベットに座るように促される。
造りは私の部屋と一緒、一人用の部屋でそんなに広くは無い、お姉ちゃんは小さな椅子に座り無言で私を見つめている。
凄く気まずい、目を逸らしこの状況から脱する方法を考える。
が・・・無言の圧力のせいで頭が働かない。
魔法でもこの状況から逃げ出せ・・・な!そうだ!
「あ、あの、お姉ちゃん」
「何ですか、ファナ?」
私はアイテムボックスから妖精の彫刻を取り出し机の上に置いた。
「これは?」
「今日、武器を探しに行った時に見つけた、お姉ちゃんへのお土産に良いかなって"妖精ジェル"って名前」
「妖精?ジェル?」
ミリルお姉ちゃんは彫刻を手に取り嬉しそうに見つめている、これは回避できたかと思ったが、彫刻をそっと置くと
「ファナありがとう、とてもうれしいわ、でも、話は別ですよ」
「はい…」
駄目だったようだ…覚悟を決めお説教を聞く事にしたんだけど。
話が進むにつれ私の顔は凄く真っ赤に染まる。
ミリルお姉ちゃんの話とはお説教では無く性教育だったからだ。
私が余りにも男性の前で無防備で有る為、このままでは間違いが起こるかもという事らしい。
起こらないから…とは言い切れないか、11歳とは言っても今の私は成人前位まで成長してるし、私はともかくエル兄さんも男の子だもんなぁ。
前世は男子高校生だったし知らない訳じゃない、今更性教育などと、だが、私は身悶えしていた。
「イヤイヤイヤ…ウゥェ…ウソ…」
むさい体育教師の授業と綺麗なミリルお姉ちゃんとでは状況が天地程違うのだ。
真顔で淡々と話すミリルお姉ちゃん、恥ずかしさの余りアワアワと耳を塞ぎそうになる。
話の内容は女性の体の事、所謂男女の営みから赤ちゃんの事などその他口に出来ないことまで。
「分かりましたかファナ?あなたが大丈夫だと思っても相手がどう思っているかわ判らないんですよ」
「ハァハァ・・はい、注意します」
ベットに身を倒しもう息も絶え絶えだった、お姉ちゃんの口からあんな事やそんな事まで…恥ずかしい!
ミリルお姉ちゃんはそんな私の姿を優しい笑みを浮かべ見ている。
ざわめく心が平常に戻り掛けたところで今一番大事な話をお姉ちゃんにお願いする事にした。
「あの、お姉ちゃんお願いが有るんだけど」
「お願い?ファナが?」
戦闘訓練のお願いをしようと思ったんだけど、どういう訳かお姉ちゃんが不思議そうにしている。
「私に武器の扱い方を教えてください」
私はベットから立ち上がり頭を下げた。
「武器の扱い方ですか、今度の勝負に関係しているのですね?」
「うん、エル兄さん騎士の訓練受けてたなんて思わなかったし私は武器の扱い方知らないから…」
お姉ちゃんが私の肩に手を置く。
「戦い方なんて一朝一夕で身に付いたりはしませんよ」
その通りだと私も思う、技術は毎日体を鍛え、鍛錬し少しずつ身に付けるのだ。
降って湧いた様な私の魔法とは違うのだ。
難色を示すお姉ちゃんに持って帰って来た魔剣の話をした、今度の勝負ではエル兄さんは間違い無く剣を持って向かって来る筈、そうじゃないと私に攻撃が効かないから。
「そういう事ですか分りました、明日、基本位は教えましょう」
「ありがとうお姉ちゃん!」
お姉ちゃんに抱き着きお礼を言う。
これで勝てる!とは思わないけど知らないよりはいい筈!
その後、明日の予定と他愛も無い話をし、お姉ちゃんにおやすみの挨拶を済ませる。
「おやすみなさい…え?うわぁエル兄さん?」
自分の部屋に戻ろうとすると私の部屋の前にエル兄さんが転がりその顔は〇ンパンマンみたいに成ってた。
急いで治療の奇跡で傷を治すとむくりと起き上がり静かに自分の部屋に戻って行った。
大丈夫かとずっと目で追っていたら部屋に入る直前に
「…ありがとう」
翌日、朝食後フィル姉さん達にミリルお姉ちゃんと出かける事を伝えた。
「大丈夫ミリルさん?外寒いよ?」
「私は?」
「ファナちゃんは鎧着てれば大丈夫でしょ?」
そうですね、フィル姉さんの的確な指摘が入った所で
「大丈夫です、少し体を動かしに行くのですぐ温まるでしょう」
「そっかぁじゃあ気を付けてね二人とも」
エル兄さんは黙ったままだったけど、私達が何をしに出かけるのかは分ってる筈だ。
家の前に出ると私は鎧を纏いお姉ちゃんを抱き上げた。
「ちょっとファナ?なに?」
お姫様抱っこ状態のお姉ちゃんが珍しく慌ててる、わずかに頬を染めたその表情が素晴らしい。
朝から眼福、眼福。
「時間が惜しいから急いで移動するね、寒かったら教えてね?」
少し膝を落とし一気に跳躍する、家や森が後方に流れてゆく。
「ひゃ、ファ、ファナ!」
私は上空で足場を創り自分の周囲も囲むとお姉ちゃんを降ろす。
お姉ちゃんは足場から眼下に広がる森や周囲のの山々を瞳を輝かせ見る。
「これがファナ達が見ている景色なんですね…」
この世界の人々が見る事は無い景色、この世界だと魔法使いだけが見る事の出来る景色だ。
「一度お姉ちゃんにも見て欲しかったの」
「ふふ、ありがとうファナ」
女言葉じゃ決まらないが、嬉しそうなお姉ちゃんが見れてよかった。
その後泉の側に移動し基礎を教えて貰った。
お姉ちゃんは神官戦士だけど剣の扱いもある程度知っていると言ってた。
戦う相手の武器も知っていないと対処できないからだそうだ。
訓練は簡単な構えから対処と時間が無い為急ぎで行われた。
太刀筋が分かる用意ゆっくりと剣が振られ、その都度指摘が入る。
「そう、振り切られる前に盾か腕を相手の腕に当て・・・そう」
「ここは正面から受けてはダメです、左脇を蹴られます」
「ファナは目で追いすぎです、太刀筋を読まれます」
お姉ちゃんに教えて貰う内容はマンガやゲームでは分からない事が殆どだった。
華麗なスキルの応酬では無く、凄く泥臭い戦い方だった。
如何に相手の攻撃の邪魔をし潰しこちらの有利な状況を創り出すか、だった。
鍔迫り合いからの攻防もそうただ睨み合うなんて事は無い。
金属同士が滑る音、剣先の輝きが二人の間に無軌道な線を描く。
何度か挑戦したが気が付くとお姉ちゃんの剣先が私の鎧の喉元に
カチン!
また負けた、雪原にコートを纏った美女と赤く厳つい鎧が戦っている姿なんて側から見たら画になるんだろうななんて……私が悪役なんだけどね!
鎧の基本能力が高いので、力を押えているとはいっても全く勝てないとはぁぁ。
何度か手合わせして貰っているとお姉ちゃんの額に汗が滲み始め、呼吸が荒くなって来たので休憩の提案をする。
「フゥ、どうですファナ何か掴めましたか?」
「お姉ちゃん強すぎて気が付くと負けてる!」
「フフッ、剣は得意でないとはいってもファナには負けませんよ」
「はぁ、お姉ちゃんには敵わないよ」
その瞬間世界は白く染まった。




