「私」と姉さんとお姉ちゃんと
早く上がろうと追ってたのに少し長湯になってしまった。
これからの事を考えてたら結構時間が経ってしまっている。
フィル姉さんやエル兄さんを巻き込んじゃった事とか、鎧に慣れる事、武器の回収…はぁ頭痛がしそう。
湯舟から上がると火照った肌を冷やす様に冷たい風が吹く。
「ふぅう・・脱衣所までに冷えちゃうんだよね・・・さむぅ」
「あ」
ふと閃いた!取敢えずスカートを髪の中に仕舞い、湯船から少し離れ今度は鎧を呼び出す。
ガチャガチャガチャ!
「お~いい感じ、寒くな~い!」
裸に鎧纏うのもどうかと思ったけど、寒いのやだし。
ジュシャシャ、ズシャシャ、ズシャシャ
思わず腕をブラブラさせながらスキップをし脱衣所まで移動した。
「便利過ぎるでしょコレ!」
鎧を髪の中に戻し脱衣所に入るとフィル姉さんが私を見て微笑む、フィル姉さんの顔を見た瞬間キュッと胸が締め付けられた。
「ファナちゃんおはよ~、髪乾かしてあげる」
「あフィル姉さん、はい、お願いします」
私は急いで体と髪を拭き服に袖を通した、フィル姉さんは手招きをし私を椅子に座らせると風の魔法と熱の魔法を使い髪を掬うようにして乾かしてくれた。
俯いたまま黙る私の髪を優しく撫でるように櫛を通してくれる。
「どうしたの?昨日の事とか気にしてる?」
「・・・はい、フィル姉さん、エル兄さんをとんでもない厄介事に巻き込んじゃったから」
「ふむ~でも、巻き込まれたなんて思ってないよ、危険に遭遇するのは何時も突然だよ?」
「でも・・・」
「今回の事は、ある意味天災だと思ってる、手も足も出なかったしねぇ、昨日会わなくてもアレとはいつか出会う事になってたよ」
「天災ですか?暴風とか大雨とかの?」
「そそ、それ」
私の髪を結い終わるとフィル姉さんは私の前に腰を屈め目線を合わせ僅かに顔を傾け微笑む。
「私も魔女だし少しは自信が在ったんだけどねぇ、魔法が発現する前にことごとく潰されたよ~、やっとの思いで使えたのが壁を出す事だけだったからねぇ自信無くしちゃうよねぇ」
フィル姉さんは両手で私の頬を挟むとゆっくりほぐす様に動かす。
「だから、そんな困った顔しないでファナちゃん、これは皆の問題なの一人で抱えちゃダメだよ?」
そう言ってニッと笑う。
うぅ優しいなぁ。
鎧の性能を確かめたり武器の調達に魔物の巣に行こうと慌てたり、私が焦っているのを見透かされたんだと思うと凄く恥ずかしくなってきた。
「はい、終了」
「ありがとう、フィル姉さん」
脱衣所の扉に手を当てるとフィル姉さんが振り返る。
「ほんとは国々が対処する事なんだよ、ファナちゃんがその気なら…どこか静かな所探して暮らしてもいいよ?」
「……え」
「えっらそうに城でふんぞり返ってるいやらしい爺共に任せりゃいいのよ、まぁ考えてみて、そうゆう道も在るって事」
でも私が勇者を決めないと…この世界が…国々が協力したらあの女王に勝てる?
「さぁ皆待ってるから朝食を食べようか」
「…うん」
何時もの様にスープと固焼きパン、それと昨夜軽い夕食だったからか朝食から茹でた腸詰がお皿に乗ってた、チビチビとソレを齧りゆっくりと朝食を食べた。
食後フィル姉さんから武器の回収について聞かれたというか反対だと言われたんだけどね。
「昨日の今日で危ないと思うの、と言うよりあの場所は魔物の巣だしいつ出くわすか分からないわ」
エル兄さんと同じだ危険じゃないかと心配してる、うん、確かにそうだ一時的な撤退で返って来てるかもしれない…けど。
「魔物の女王は少年を危惧してました、私達側に就いてると思っているのでこの近くには居ないと思います、少年の言葉を信じるなら魔物の女王は瀕死らしいのでもっと安全な場所に移動すると思うんです」
「危険な場所からは離れて隠れて傷を治す…か…瀕死って言ってもあの強さだけどね…」
「それに武器は必要だと思うんです、アレを相手にするですから」
「そうだな、僕もファナの意見に賛成します、制御出来る本数も増やしたい」
おっエル兄さんが賛成してくれた。
「だけどねぇ…襲ってきたら勝てないのよ?」
そうかもしれないが、その心配も無さそうなんだよね。
「わざわざ襲っては来ないと思います、多分ですが」
「どうして?」
「魔物の女王は私達を脅威だとは思っていないから…です」
そう、その気なら昨日の内に私達は…。
絶対的な力の差、まさに蟻と象の喧嘩だよね。
「そうかぁ、そうだよねぇ~」
「ぐっ・・・」
フィル姉さんは目を瞑り、エル兄さんは拳を握りしめる。
あの女王にとって脅威は少年だけであり、私達はどうでもいい存在だ。
私達を排除する為に危険を冒すとは思えない。
「こちらの場所が知られてるかもしれない以上、違う場所に移動する方が良いかも知れません」
「ん~それもそうか~下手に人が近付けないようにしたせいで巣が大きくもなってたしねぇ」
「ここを離れるんですか?」
「ん~そうだねぇ考慮しないといけないかな」
しばしの沈黙ののちフィル姉さんが決断する。
「武器の回収しとこうか、そんなには運べないけど、あれだけ在れば掘り出し物も有りそうだし」
「篭か大き目の皮と縄を持って行けばそれなりの本数を回収できます、師匠」
静かに話を聞いていたミリル姉さんに視線を向ける。
私を心配そうな顔で見ていた。
「大丈夫だよミリルお姉ちゃん、あの赤い鎧見たでしょ?私今、結構強いんだよ」
「ですが…いえ…魔法の使えない私には何も…資格は無いですね…」
「そんな事無いよ」
「私が…ごめんなさいファナ」
「お姉ちゃん…」
何て言っていいか分からない、たまに見せる寂しげな表情の理由、魔法使いと共に生活する中で自分に無い力、自分が無力だと思ってしまったんだね。
そんな事無いのに…
「まぁ明日のファナちゃんとエルゼルの勝負の事もあるし、武器回収は早めに終わらせましょう」
「僕が道具類の準備をしてきます」
そう言うとせかせかと二人が席を立つ、この空気に耐えきれず逃げたな。
「大丈夫だよお姉ちゃん、明日の勝負は負けないし、強くなった所見せるからね」
無理に造らない、なるべく自然な笑顔で…出来てる筈。
「エルゼル君には悪いですが、勝ってくださいねファナ」
「うん」
そっと抱きしめられる、するとミリルお姉ちゃんの小さな呟きが聞こえた…
「もしファナが負けるような事があれば…命に代えてもエル…ゼル君を……」
私を包み込む腕に力が入る。
「え?」
「ん?ファナ負けないでね」
ん~何か聞こえたような気がするけど聞こえなかった事にしよう、ってか負けられなくなった色々な意味で。




