「私」と勇者の鎧
「それじゃ行ってきます」
「気を付けてねファナ」
「夕暮れまでには戻るから、夕食の準備お願いするね」
「はい、フィルノールさん、エルゼル君行ってらっしゃい」
金色の髪が風に揺れミリルお姉ちゃんが少し寂しげな表情になった。
3人が森を駆ける。
お姉ちゃんにどう言えばいいのか、訓練してどうにかなる話じゃないし、ん~。
ズシャッン ズシャッン ズシャッン
「なぁファナ…一つ聞いていいか?」
「何ですか?」
「何で意味も無く鎧纏ってるんだ?」
「寒いからですよ?着てると寒さ感じないんです、後魔力過多解消に」
「…そうか」
「いいなぁファナちゃん…寒い…寒いよー」
風を切るように走る2人はしっかり着込んではいるが実に寒そうだった。
湖の畔に到着すると北に魔物の巣の在る山が見えた。
「この辺りから武装しといてね、まだ生き残りが居るかもしれないから」
「「はい」」
って言っても私はこのままで充分だし、この籠手で殴ったら流石に魔物も一撃でしょう!
「ファナちゃん武装は?」
「この拳で充分です!」
グッと拳を握り両腕に力こぶをつくるようなポーズをした。
確かダブル…バイ…何とかだ。
「…まぁ良いかな」
「ファナ、殴るつもりか?…いいけど」
何か二人の反応がおかしい、拳で充分じゃない?あれ?
その答えは直ぐ分かった。
山の麓に向かう途中、新雪に魔物の足跡を見つけ辿ると、少し離れた場所に一匹の魔物が木々の間を何かを探す様に歩いていた。
私は鎧を髪の中に戻し少し離れた所で木の陰に身を隠す。
「やっぱり生き残りが居るわね」
「フィル姉さん私に戦わせてください」
「ん?どうして?」
「鎧がどれ位使えるのか知りたくて、お願いします」
「まぁ放置も危険だから倒す事は倒すんだけど、ん~じゃあお願いね」
「ファナ、いいのか?」
エル兄さんは心配そうな表情で聞き直してきた。
「うん、見てて」
何をそんなに心配してるんだか、この鎧で負ける訳無いし!
自らに身体強化を施し一気に魔物に向かって駆ける。
魔物に向かい低くジャンプし右腕を振りかぶる。
「鎧よ!」
声に出さなくてもいいんだけど気合を入れる為に声にした。
ガチャガチャと音を立て鎧が体を覆う、当然その音に魔物が気付き振り返るがもう遅い。
ボシュッ!
風を切裂く音と共に身体強化を施した体から鎧を通し繰り出される一撃は魔物の胴体に吸い込まれた。
パキャン!
卵が割れる様な音を立て魔物の胴体が爆発する様に弾けた、そう弾けた…
勢いを殺しきれず砕いた魔物に体当たりまでしてしまった結果、私は頭の先から足元まで…灰色の粘度の高い何かが覆う。
「イヤァァァアアアァアァァァ!」
『イヤァァァアアアァアァ』
『イヤァァァアア』
山々に悲鳴が木霊する。
私は鎧かな魔物の何かをまき散らしながら湖に向かって走った。
途中二人のそばを通り過ぎたが、しっかりと魔法障壁を張っていた。
「教えてくれてもいいのにぃぃぃぃぃー」
「普通気付くだろ?」よね?」
あっと言う間に後方で点となった二人の声は私には届かなかった。
走れば走るほどソレが寒さで鎧の表面に張り付き、視界も半分は蠢くナニかに塞がれていた。
見たくなくても見えてしまう、もう泣きそうだった。
風が吹くと分厚い氷の上を雪が舞う湖が見える。
大きくジャンプし飛び込み選手の様な体勢で赤い弾丸となった鎧が氷の張った湖に飛び込んだが、湖を覆う氷が厚すぎて鎧の腕まで氷に突き刺さり逆立ちの様な体勢で停まる。
氷め邪魔するなぁぁ!
「うりゃぁ!」
指先に魔力を集めると湖の表面に亀裂が走り、大小の氷の塊となり割れた。
ザプンと氷の隙間から鎧が沈む、液面にまどろむようなに見えた瞬間我に返る…しまった。
勢いに任せて飛び込んだけど溺れる。
バタバタと手足を動かすが当然この鎧は浮かばない、まぁ生身ならこの水温だと違う意味で溺れてたかもだけど。
こういう時程慌てるな私っと、足元に障壁を出し足場にした、だがもう湖の底で意味は無かったんだけど。
鎧内部に浸水は無い、呼吸も苦しく無いし冷たくも無い事に少し安心した、薄暗さで不安になり私は魔法で明かりを灯し周囲を見渡した、するとキラリと輝く何かが見えた。
何だろ、すごく気になり輝きの見えた辺りを調べると刃の無い短剣だろうか柄があった。
それを拾い上げ見てみると細かな細工と小さな宝石の様なモノが埋め込まれている後でじっくり調べてみようと取敢えずアイテムボックスに仕舞う。
湖の底でウロウロしたおかげか鎧の汚れも溶け落ちたので魔法障壁を足場に湖から飛び出し畔に辿り着くと地面に突っ伏した。
「ファナちゃん大丈夫だった?」
「なかなか上がってこないから心配したぞ」
「何で笑ってるんですか…?」
畔に居た二人が心配そう?にしていたと思う…笑顔でなければ…。
鎧に付着していたナニかは洗い流され綺麗になっていたので私は精神的に疲れ鎧を髪に戻した。
「酷い目に合った…うぅ…」
「ん~休憩しましょうか」
「ブフッ・・はい、師匠」
なんか腹立つ…しかし、この鎧の拳はそれだけで必殺一撃だ間違っても人に向けれない、"ひでぶぅ"の悪役を想像した、殴ればアレと変わらない事になる。
そっとエル兄さん見た、でも負ける事は出来ないし。
今すべき事に頭を切り替える、休憩をとり今後の段取りを確認した。
宝物庫までの道順は覚えているので一気に向かう、魔物が居れば全て倒す事、使えそうな武器は持てるだけ確保する、だ。
魔物の女王は居ないだろうけどもし居た場合は全力で脱出する事。
間違っても戦わない、勝てる見込みも無いので戦うという事は犬死に他ならないから、作戦は命大事にだ。
休息後に鎧を纏い直すが、さっきの光景を思い出し若干肩が下がる。
弾け飛ぶ魔物…蠢く…取り合えず明日は武器用意しとこう。
数十分後魔物の巣に到着し内部を窺うが物音一つしない、魔法で明かりを灯しゆっくりと宝物庫に向かう。
「魔物居ませんねぇ」
「居ない方が良いんだけどね」
「・・・ファナ・・・前が見えない」
通路は広いが鎧を纏った私には若干狭く感じ屈むようにして進んでいた、当然鎧を脱げば良いのだが鎧の着心地の良さ?防寒、防御面は最高であるので脱ぎたく無いのだ。
「魔物が出ても私が防ぐから大丈夫!」
振り返るとゴツイ肩当てがゴリゴリと壁を抉り小さくない欠片が二人の足元に落ちる。
「おいおい…」
「ファナちゃんの鎧って見た目怖いよねぇ…」
2メートルを超える逆三角形の鎧で全身くまなく中二病全開のデザイン、装甲が漆黒から赤に変わっても損なう事無く厳つい、ホントに勇者の鎧かと疑いたくなる。
見た目はラスボスが来ていそうな鎧だし、これで『フハハハ、よく来たな勇者共!』と言っても違和感ナシだろう。
もう『悪役』と分かるように創られてるとしか思えない。
明日あの謎?の少年に会ったら鎧のデザインを変えれないか相談してみよう…出来るよねカミサマだし。
明かりの先に大きな扉が見えた宝物庫だ、3人は扉の前で再度確認した。
「じゃあ、開けます」
「気を付けてね」
ゆっくりと扉を押し開ける、部屋の内部は暗く扉の周囲しか見る事が出来なかった。
私は天井付近に明かりを灯すと部屋の中心に居る筈の無い人影が見えたのだった。




