「私」と師匠
翌日、早朝目を覚ましたんだけど何かが見てるような感じがする。
チクチクする視線、またあの神官が覗いてるのか?
この旅でよく感じる視線、大体アイツがこっちを見てるときに感じる嫌な感覚。
ん~殴っちゃおうか!そうしよう!
どこかな?どこかな?周囲を見渡すが当然姿は無い訳で・・・この旅のせいで色々溜まっててイライラする。
着替えをしている間も視線を感じる自分で言うのもなんだが貧相な体だ、こんなドロワーズモドキ見てて楽しいか?お前もロリコンか?
文句を言ってもしらばっくれるだろうし、まぁ良いか何かしてくる訳でもないし減るもんじゃないし・・・
いや、精神が少しすり減るが…我慢だ。
ミリルさんが部屋に迎えに来てくれて、キシキシと音の鳴る階段を降り受付横にある食堂に入った。
護衛の神官戦士さん達に挨拶を行い席に着いたが挨拶は返ってこない、いつもの事だが
この時に勘違いに気づいた、目の前に朝食を食べている名も知らぬ神官が居るのにどこからか視線をまだ感じる。
朝食をトレイに乗せ運んで来てくれたミリルさんにそっと呟く、
「あの…ミリルさん?」
「はい、なんでしょう?」
「今朝起きた時からずっと視線を感じるんだけど…」
「今朝からですか?…お嬢様は朝食を、司祭長に連絡してきます」
そう言うとミリルさんはトレイを机に置き、護衛の人達に何かを伝え司祭長の元に向かった。
しょっぱい野菜スープに硬いパン、お母さんの料理が恋しくなるなぁ・・
野菜屑をつつきながら食べているとふっと視線が消えた。
ミリルさんが急ぎ戻って来ると護衛の人達に何か話した後
「ファナお嬢様申し訳ありませんが急ぎ出立します」
「あ、はい」
朝食の途中だったが慌ただしく宿を出る事になった、部屋から出てきた司祭長の顔に焦りの色が見える。
護衛の人達もキッチリとした装備を身に着けていたしピリピリした雰囲気だ。
ミリルさんは笑顔だったけど流石に俺にも分かる、危険が迫っていると。
宿を出て馬車に乗り込み急ぎ町を出た、少し経つと眼前に広大な森が見えてきたあれが東の森かな。
いつもより揺れる馬車の中、狙われているなど冗談半分に聞いていたけど本当なんだと実感する。
しかし誰だろ?エルゼルか?あいつが覗きとか?多分違うよな~その気ならとっくに攫われてるだろうし。
周囲を確認しているが誰かが後を追ってくる訳でも無し気のせいかと思ったけど、なんだろこの焦燥感。
森に入ると襲撃にあう、そんな予感がするんだ。
急に馬車の速度が下がった、東の森に入り数分後やっぱり敵が現れた。
一本に道を進む馬車の進路を塞ぐように森の中から姿を現したのは統一性の無い重装備の騎士だった。
進行方向を塞がれ馬車が止まると後方からも騎士が現れる。
護衛の人達が前後に分かれ馬車を守る態勢になると、フルプレートの騎士が下馬し、こちらに叫んだ
「貴公らには誘拐の容疑が掛かっている、抵抗はせず聖女候補をこちらに渡して頂きたい」
周りを囲む騎士達が抜剣し構えた。
「あれは貴族共の手駒の騎士共…軍衣に紋章を付けていないな盗賊騎士か、それが我らを誘拐犯だと!ふざけた事を」
司祭長の苛立ちが言葉の節々に出ている、まさか貴族に狙われてんの?
そっと窓から覗いてみる
うへ、鎖帷子装備に…フルプレートまで居るよ隊長か?盗賊騎士めちゃ強そうなんですが…
「このままでは前には進めません戦闘になる覚悟を、ファナお嬢様は私が命に代えてもお守りいたします」
ミリルさんも馬車の外に出てメイスを構えた。
戦闘になるのか?俺一人で逃げれば奴らは俺を追いかけて来るか?どうすれば…
皆を危険な目に合わせたくはないし
そうしていると、護衛の一人が進み出てた
「我々は聖女候補を王都までお連れしている所だ、疚しい事など何も無く、誘拐などと汚名を着せられる謂れはない!」
あー戦闘になっちゃう
あんな武器で斬り合ったりしたら…武器…装備…
そうか装備だよ、金属製だよな!
俺は扉の取っ手に手を掛け開けようとする俺に驚いた司祭長が抱えて止めようとするがそれを掻い潜り外に飛び出した。
「お嬢様、中にお戻りください!」
ミリルさんにごめんちょっと待ってて
上手くいってくれ、俺は拳をつくり対象の騎士達を見て唱えた。
「熱よ、熱く熱く」
盗賊騎士達は何が起こっているのか分からず俺を見ていたが、隊長らしき騎士が
「聖女候補だ、保護しろ、邪魔する者は排除して構わん!」
一人の騎士が俺を指差した
「おい、あれ・・・」
俺の髪が輝きだす、奴らの装備に熱を!熱く熱く!焼けるように熱く!
騎士達が自分の鎧に手を当て叫び出した
「な、なんだ・・鎧が・・熱、熱い」
「焼ける、た、助けてくれ、たすけて・・・」
「ぎゃぁぁぁ」
悲鳴と共に騎士達が武器を放り投げ、着ている鎧を必死に脱ごうともがき出した、布の焦げるような臭い悲鳴を上げ倒れもがく騎士、動けなくなる騎士も居る。
「お前、何をしたんだ…」
護衛の人達が俺を見る、その眼は恐怖した眼だ。
苦悶の表情を浮かべる騎士達を見て俺は愕然とした。
自分のした事がどういう結果になるか考えていなかった、ただ騎士達を戦えなくしたかっただけなのに。
火傷した?大怪我した?死んじゃう?だめだ、だめだよ
人を傷つけた、それも取り返しのつかない大怪我を負わせた、俺は絶叫した。
「傷を癒せ、お願い助かって、死なないで!!」
俺は必死に願った、助かる様に、傷を癒すように、
今まで以上に髪が緋色に眩しく輝くと騎士達が光に包まれていく
「これは一体…どういう事だ」
司祭長が馬車から出て来てこの光景を見ていた。
盗賊騎士達から苦悶の表情が消え顔色が戻る、意識は無いようだけど大丈夫だと思う。
俺を見ていたミリルさんが悲鳴のような声を出した
「ファナお嬢様その髪は…髪は…」
魔力を使いすぎたのか俺はフラフラしながら自分の髪を見た、
「真っ白になってる…あれ…どうして…」
俺の髪は魔力残量が分かる様に…真っ白?魔力切れかな?
「魔法が使えなくなっちゃった…かな…」
俺は膝から崩れ落ちそのまま地面に倒れ込んだ、体が動かない所か痛み出した。
俺に駆け寄った司祭長が睨むような顔で聞いて来た
「魔法が使えなくなったとはどういう事だ!」
見りゃ分かるだろ…分からないか…
「騎士さん達の…傷を…治したら魔力が無くなっちゃった…」
司祭長立ち上がり俺を蹴り上げた、痛すぎて声も出ない。
「この糞餓鬼がぁ、魔法が、魔法が使えなくなっただとふざけるな!」
「何をしているのですか!グラルト様!」
ミリルさんが俺に駆け寄り庇う様に抱えた。
「魔法が使えなくなった餓鬼など必要ない、魔力が無ければ奇跡も使えないだろうが!よりにもよって騎士を治し魔法も奇跡も使えなくなるなど…」
ミリルさんに抱えられながら司祭長を見ると半狂乱だ。
なるほど、俺の髪が白くなった事で俺が魔法を使えなくなったと勘違いしたな、しかし、これがこいつの本性か酷いもんだなぁ…いてて…
「どう報告するのだ?こんな餓鬼を連れて魔法が使えなくなりましたが聖女候補ですと言うのか?我らの首が飛ぶわ!」
司祭長が盗賊騎士の剣を取りこちらを睨んで来た
「そうだ、お前はこの騎士達に殺された事にすれば良いのだ、そうすれば私は…」
ミリルさんは司祭長を睨み返すと
「何を言っているのですか!」
「誤解だよ・・魔力がきれ・・・ただけで・・」
「今更命乞いか、どうなるか分からんお前など連れて行けるものか!」
もう司祭長は正気じゃない剣を引きずりながら近づいてくる、ミリルさんが俺を抱え後ずさるが、護衛の神官戦士達が逃がさない様に取り囲んだ。
「お前たちまで…そう言う事ですか…」
これは不味い、ミリルさんだけでも逃げるように伝えないと、俺は最悪死ななければどうにかなるかも知れないし
「ミリルさんは…逃げて…大丈夫…だから…」
「大丈夫な訳無いじゃないですか二人で逃げます、せめてお嬢様だけでも…」
俺を抱き上げミリルさんが武器を構え威嚇する。
くそ、こんな時に魔法が、魔力が俺は魔法使いなのに
何処からか拍手が聞こえる
「はいはい、終了ね、相変わらずだね~欲に目が眩むと聖職者もこの有様さ、良く見とくんだよエルゼル」
「はい、師匠」
声のする方に眼を向けるとエルゼルと一人の女性が居た…腰まで在る黒い髪に何故か骸骨のお面してるけど女性だよね?おっきな胸あるし
「じゃ、あの娘を連れて行くから連れといで」
「はい、師匠」
そう言うと俺とミリルさんを囲う様に魔法障壁が現れた。
「貴様たち邪魔をする気か!」
司祭長が吠える、が護衛達は障壁に驚きエルゼル達を注視した。
障壁の発生でエルゼルを見た者が声を上げた
「あの時のガキだ、こいつ魔法使いだ…」
護衛達に動揺が走る。
エルゼルがゆっくり歩み寄り手を差し出してきた
「だから言ったろ、王都には行くなと、今度こそ一緒に来てもらうよ」
「一緒に…行っても良いけど…ミリルさん…も連れてってください…お願いします」
俺はエルゼルに頭を下げた、ここに残していけばミリルさんは絶対…
エルゼルは少し驚いた顔をすると
「それは師匠が決める事だが…俺からも願い出よう、それでいいか?」
「ありがとうエルゼル」
ミリルさんは困惑気味だが俺をお姫様抱こして魔法障壁の中を進みだした。
やばいめっちゃ恥ずかしい、司祭長や護衛に睨まれてるけど…めっちゃ恥ずかしい!
「そいつらを何処へ連れて行くつもりだ!」
司祭長はまだ興奮している様だったが、護衛達は何も言わずこちらの動きを警戒している。
エルゼルが師匠と呼ぶ女性の前まで来た、こっちを凝視しているのがすごく怖い、何で骸骨のお面なんかしてるんだろう。
「へ~この娘が魔女?何で髪白くなっちゃったの?魔法使えなくなったの?あ、私の事は師匠と呼びなさい、いいかな?」
捲くし立てる様に質問して来たが、呆気に取られ直ぐには答えられなかった、
「それは…その…」
俺は司祭長達を見た。
師匠と呼ばれている女性は俺がすぐ答えない理由を理解してくれたのか
「あ~あいつら邪魔ね、少し待っててね」
そう言って腕を振るうと、周囲に居た司祭長や護衛が意識を失ったのかバタバタと倒れ込んだ。
「これでいいかな?大丈夫死んで無いから、まだ」
まだ?えっと…
「あの私、ファナと言います、髪が白いのは魔力切れでと思います、私魔力残量で髪の色が変わるんです」
少し回復してきた俺がそう答えると、
「そかそか珍しいね~、じゃあこっちのお嬢さんは?」そう言ってミリルさんを見る。
リミルさんは自己紹介を始めた
「私はミリルと申します、ファナお嬢様の護衛をしております、助けて頂きありがとうございました」
「そか、で、どうするの?」
「師匠、お願いがあります、このミリルさんを一緒に連れて行く許可を頂きたいのです」
エルゼルが師匠に頭を下げる、それに続き俺も
「お願いします、ミリルさんも一緒に連れて行って下さい」
ミリルさんに降ろして貰い、俺も頭を下げるとミリルさんもお願いしますと頭を下げた。
「これで良いよって言わないと私悪者だよね~?」
師匠が頭をガリガリと掻くとエルゼルが微かに笑う。
「良いよ良いよ、皆で行こう、修行は多い方が楽しいよね」
師匠も微笑んでいる様だが骸骨の面でほとんど表情が見えない
「修行ですか?」
「そだよ~ファナちゃんだっけ?立派な魔女にしてあげる」
ミリルさんに抱えられながら師匠とエルゼルの後を追う。
そこは迷いの森と呼ばれた広大な森の中、俺の魔法使いとしての修業が始まる事になった。
司祭長達や盗賊騎士達そのままにしてきたけど…まぁいいか
◇◇◇◇
「エルゼル」
「はい、師匠」
「あいつら埋めといて」
「え」
「え、じゃなくてしっかりと埋めといて」
「それは流石に…ほって置いても…どれくらいで起きるんですか?」
「さぁ?適当だったから2,3日は起きないかも?」
「埋める必要ないじゃないですか…」




