THE episode of Arthur
連合国歴1254年 第9回討伐の17年前。 カムロドゥノン王都研究所
地上の喧騒も届かない研究所の最地下層。長年をかけ、魔術、巫術、祝福、薬学、錬金術、科学、その当時のありとあらゆる研究の成果が融合した
とある実験が行われていた。今迄芳しい成果を生まず遂に打ち切りの話も出ていたのだが、至高の材料を得て遂に研究が完成した。
「おぉ、遂に成功したぞ。流石は王の血を引く子だけはある。」
「あぁ、流石だ。古の火竜の因子をこの域にまで融合するとは。」
「見た目はヒトの赤子でも中身は恐ろしい怪物か。対魔王最終兵器『勇者』ねぇ。」
「魔王以外にも使えるけどな。そういえばあんたの所も子が生まれたよなぁ。実験してみないかい?」
「もう試したよ。結果?そこの廃棄物さ。HAHAHAHAHA…残念だ。兄の方は其れなりにはできたんだがなぁ。」
「お前も人でなしだな。それにしても、よく王家の人間を実験の被験者に出来たなぁ。不敬罪にはならぬものだろうか?」
「馬鹿を言え、王族の血を引いていようがこの赤子は私生児だ。それに王様が母親にこう言ったんだ。「この実験に成功したら、子を王家の人間として扱ってやろう」とな」
「それで、母親は赤子を孕んだ身体を差し出したのかい。まぁ酷いとは思うが、王族として生きていけるならねぇ」
「おいおい、お前さんのその頭脳は飾りかい?どうしてこの子が作られたか忘れたわけではないだろうに。」
「ん~…………あぁっ、そういうことか。王族が魔王退治に逝けばいい宣伝になる。そして大体は生きては帰ってこれない。」
「そういうことだ。王もえげつないね。」
「まぁ、そんなことよりも研究だ研究。我らは研究者。探求の為ならば悪魔にも魂を売る。人の命より研究は――」
「「「「「重いっっ!!!!!」」」」」
脆弱なるヒトの身に強靭な竜の因子を宿した王族にして作られた勇者、アーサー・カムロドゥノン。彼は正室の子の兄弟姉を押しのけ、
王位継承権第1位を手に入れた。たびたび正室の妃の手による毒殺が行われたようではあったが、
竜の因子の為か健康には問題はなく、心優しく聡明な少年に育っていった。
彼の実母は実験の為か彼を生んで急激に衰弱し休養の為に離れの庭園で過ごしており、彼はそこへよく足を運んでいた。
6歳を迎える前のこと、彼があるとき海に行くと今まで見たどの貴族のご令嬢よりも可愛らしい金髪の少女が濡れたドレスを身にまとって倒れていた。
彼は思わず見惚れてしまった。あったこともない婚約者候補が何人かおり、政治的な兼ね合いよりそのいずれかとの結婚が決まっているものの、
いるものの、彼にとってはこの出会いが初恋であった。
少年は母親から、眠れるお姫様はキスで目覚めるとおとぎ話で聞いていていたので、少々照れながら唇を重ねると、少女は塩水をピュッと吐き、
目を覚ました。図らずも人工呼吸の結果を生み出した王子様のはじめてのチュウはしょっぱい味だった。
目を覚ました少女は周りをきょろきょろすると海の中に入っていこうとしたときドレスの隙間から尾が見え、王子はここで初めて気がついたが、少女は人魚だった。
少女は胸ぐらいまで海につかると少し言いよどんだ後ちょっと照れたように
「あ、ありがと」
そういって、ポチャンと海の世界へ帰って行った。王子は胸の中がキュンキュンした。
それから、長い月日がたち少年は成長し持ち前の優しさと聡明さをもって、王子として、学者として、そして戦士として立派に育っていった。
今更の話であるが彼の母親は人質のようなものである。母の身の安全を確保するために己の立ち位置を高めて、母に手出しができないように
彼は一生懸命に努力をした。王立図書館で本を読み、武術を鍛え、社交界ではにこやかにほほ笑み、その実力は、
勉学では学者を超え、武術、魔術では師匠を超え、社交界では侯爵家の3男、類まれなる美形のランスロットと女性の人気を2分するほどだ。
その上、領民にも慈悲の心を持った彼は、誰もが名君、仁君、賢王、拳王。まぁなんでもいいが人に憧れられる王になると誰もが思っていた。
彼が『勇者』として魔王討伐隊長に選ばれたとき、民衆は彼なら成し遂げられると疑いもなく期待をかけていた。
彼は旅に出る前に訓練をすることになった。あらゆる訓練でほぼ最高の成績を収め、歴代最高の『勇者』だとされたが、彼はあるとき船上での訓練の打ち上げの際、
酒に酔っていたのもあって船から落ちてしまった。
実は彼は泳げなかったのだ。やっぱり水に弱い火竜の因子が悪かったのであろうか。溺れる者は藁をもつかむというが、
Q 掴むものが無ければどうなるでしょうか?
A 沈みます。
というわけで彼は海の底に沈んでいく中、どこかで見た美しい金糸をまぶたの裏に残し意識を手放した。
王子が目を覚ますとそこはいつの日か初恋の少女を助けた海岸だった。
うっすらと目を覚ました時に唇の感触を辿ると、いつかの幼女の面影を残す美しい少女がちょうど自分とキスしているところだった。
王子は思わず口に残った塩水を吹き出した。
少女にとって自分からしたはじめてのチュウもやっぱりしょっぱいあじだった。
今度は少女は逃げることはなかった。2人はもう一度唇を重ねた。今度のキスは甘い味だった。
少女の名前はオンディーヌ少年の名前はアーサー。2人が何もない平凡な二人で在れば恋人となり、いずれは夫婦となったであろう。
しかし、少年の父親は王であり、連合国でも類を見ない極度の人種主義者。他種族の血を自らの血族に入れるなど赦そうはずもない。
ここに悲劇はなり、互いに想いあう二人は結ばれることなく終わる、はずだったのだが…、
「あぁ、かまわん。ただし無事魔王を斃して帰ってきたらの話だがな。このことは他言無用だ。他には何かあるか?ないなら帰るが良い、我は忙しいのだ。」
王子は溢れんばかりの気持ちをひたむきに隠し、「どうしたんですか?」と微笑む少女になんでもないよと告げるも、心の中で誓う。
(この戦いが終わったら僕、君にプロポーズするよ。)
死亡フラグ乙




