Ⅲ・夢の罪7
兄を見送った後、リオンは扉に背を預けて目をつむった。胸を占める複雑な感情の全て吐き出すかのように、重いため息が無意識に出る。
「…無関係じゃ、ねぇじゃねーか…」
全てを語らないタオに苛立ちを感じてきた自分に――何も知らなかった自分に、強い憤りを感じている。
イシュヴァの民にも――リオンにも関係がある問題だからこそ、彼は悩み、黙っていたのかもしれない。…それなのに、自分はまるで仲間外れにされて腹を立てた幼子のようで、結果としてタオを更に苦悩させて…。
――…悪い事をした。
それに…、素直になれないあの性格だ。何をどのように言い出せば良いのか、タオ自身も困っているに違いない。
「ったく、どっちがガキなんだか…。こうなったら、また破邪の矢で脅して――」
つい意地悪な笑みが浮かんだリオンだったが――。
次の瞬間、ガバッ! と勢いよく扉から背を離した。
「…ッ! 血の――!?」
この空間の何処から感じた、濃厚な血臭。そして――間違えるはずがない、この、気配…。
「タオッ!」
叫ぶと同時に翼をひるがえし、リオンは真っ暗な無の空間へと飛び出した。
この異質な空間の中では、時間の流れや方向感覚が掴めない…。ただ全力で飛び続け、強まる血臭に接近を確信する。
――…前方に倒れ伏した人影。
闇の中でも映える見事な黒の長髪…。
「お…い、マジかよっ? タオッ!!」
あの長髪のタオが、ぐったりとうつ伏せで倒れている…! 強い衝撃がリオンの全身を貫く。
勢いを殺さぬまま友の傍らに降りると、着いた足に、ピシャリ、と水音。――…タオを中心に血の水溜まりが広がっていたのだ。無惨に裂けた衣服からは、深い傷口がのぞいている…。
「おいッ、タオッ!」
躊躇う事なく血溜まりに膝をつき、リオンはタオの肩を強く揺すった。何度か呼び掛けた後、低くくぐもった呻きが返ってくる。
「――…るっ…せーな…。わかってる、っての…」
「わかってねぇだろーがッ!!」
聞き慣れた不良の口調は頼もしいが、その行動は正反対だ。体を起こそうと腕に力を込め、結果として傷口から更なる出血を招いている。
出血量に危機を感じたリオンは、反射的にその頭を平手で打った。ビチャッ…、と血溜まりに沈んだタオが抗議する前に、全霊をこめて治癒のチカラを放つ。手に集まる熱。魔族を包む白きチカラ――。
タオは動かない。…気絶したらしい。
「…」
リオンは複雑な想いに唇を噛み、ただひらすらに友の治癒に徹した。




