Ⅲ・夢の罪8
※若干残酷な描写が含まれています。
◆ ◇ ◆
長い長い治世を維持してきたあの男は、老いによる衰えと死を人知れず恐れていた。その最中に自分は産まれたらしい。――それも、計算された上で。
衰えていく魔力と寿命の補填に、男は強いチカラを持つ魔族の血肉や霊力を喰らっていた。それは血族や自身の子も対象となった。その中で、男は気付いた。自身の中にも在る古の魔王の血が最高の糧となり得る、と。
極上の糧を作り出すために――。男は魔王の血を濃く持つ者で交配を繰り返した。そうして作り出された最高傑作が、自分だった。
だが…。途方もないチカラを持つ息子の生誕に男は、いずれこの息子が自分を弑するのでは、と恐怖を抱いたようだ。男は産まれて数刻もしないうちに、息子を城の地下深くにある暗闇の石室に封じた。
何故殺さなかったのか、その答えは簡単だ。古の魔王と同じ容姿の自分を殺す事に躊躇したためと、この極上の獲物を無駄に捨てる事を躊躇ったため。そのために男は、自分を他者の介入も外部の刺激も皆無という、ただ存在するだけの状態にした。
――命としてではなく、餌として“飼って”いたのだ。
自分があの暗闇に何年在たのか、それは未だにわからない。わかっているのは、あの頃の自分は自分という存在すら理解していない“モノ”だった、という事だけだ。
そんな自分を、あの男の逆臣達が暗闇から引き出した。そして彼らは、空っぽの状態である自分に、知恵と知識と感情を与えた。全てが新鮮で、時に恐ろしく、時に嬉しく感じたものだ。
清々しい風が好きだった。この風は何処から来て何処へ行くのか、そんな他愛のない空想がとても楽しかった。
本を読む事が好きだった。陰謀を画策する取り巻き連中とは違い、書物は嘘偽りなく自分と向き合ってくれた。
そして――。
――…瞼の向こうに、光を感じる…。
幼い頃は光が苦手だった。当たり前のように闇に慣れた身心は光を拒み、頼りなく揺れる蝋燭の明かりにさえ怯えていたほどだ。自分には光の中に居場所などない、と思っていた。
だが――、今は違う。
森の中で見上げる木漏れ日が好きだ。雲の切れ目から射し込む陽光が好きだ。唯一無二の友が纏う白き光には安らぎさえ感じる。魔王と呼ばれた自分には滑稽な話だが…、そんな自分が不快ではない事も事実。
瞼の向こうの光が温かい。まるで目覚めを促すかのよう…。
タオはゆっくりと目を開けた――。




