第七話 ともだちとごはん!!
昼休憩の鐘が三時限目の終わりを告げる。頭を使い切ったドーラは、力を使い果たしたかのように、へなへなと机にうなだれた。
「さんじゅつ、きらい」
「この後の後半も頑張りましょうね、ドーラ。お昼にしましょうか」
「うん!!」
アリシアの声かけに満面の笑みで大きく首を縦に振るドーラ。さっきの疲れはどこへやら駆け足で教室を飛び出していった。
ドーラは真っ先に校舎の中心にある噴水前へ向かうと、
「こっちこっち!!」
「はいはい。廊下は走らないようにね」
ぴょんぴょん跳ねながら催促するドーラに、アリシアは苦笑いするしかなかった。
途端、どこからともなくヴィクトリアス家の執事が現れる。アリシアが到着するまでにせっせと折り畳み式テーブルと椅子を組み立て、設置する。
「ありがとう」
ひと仕事を終えると執事たちはさっと、その場からいなくなった。
到着したアリシアはドーラが座るための椅子をひいてあげる。ドーラはさっと座りカバンに入れた容器を取り出すと、すかさずテーブルに広げた。
中身は一見何の変哲もないサンドイッチ。しかし、ブリュンヒルデ家使用人のお手製である。
当然中身は市販とは比べ物にならない程高機能。高級食材を存分に厳選し、味も厳選したうえで栄養価も抜群。隠し味のスパイスで眠気対策もばっちり。
「それにしても、午前中のお休み席を外してたわね。何かあったの?」
何気なく聞かれた質問だが、ドーラには痛い質問。ギクリと噴き出しが出るくらいには動揺して、カチカチになりながら何もなかったよと答えた。
ふうん、と目を細めて観察するアリシア。ぎこちない笑顔でやり過ごそうとするドーラだが、額に汗がびっしょりでまるで隠せていない。
「また何かやったでしょ」
「そんなことないよ?」
ひゅーひゅー口笛をふくが、ヘタクソなので空気の擦れる音しか響かない。
あまりに動揺するドーラに、アリシアはつい噴き出してしまった。
「ふふふ、ドーラって本当にわかりやすいわね」
「何が? 何もやってないってことが?」
「絶対何かやらかしたんだろうねって」
「ぎくっ」
自分でその擬音を言ってしまったらおしまいである。
どうなのかな、どうなのかなとほじくり返されて、言い訳できる材料を全部使い果たしたドーラは、観念して中休憩にあった出来事を話した。
それを聞いたアリシアは、
「ケガはなかった?」
「うん。あんなやつら、ヨユーよ」
「そういう答えが欲しかったわけじゃないんだけどね……とりあえず、特にケガがないなら良かったわ」
ほっと一息をつくアリシアに、ドーラは胸が痛んだ。
言葉にするにはモヤモヤしてむしゃくしゃするが、アリシアには心配をしてほしくない。
「ごめんなさい!!」
「えっ」
「何が悪いかはわからないけど、多分言った方が良いと思って……」
『それ言っちゃダメでしょ』
「あっ」
ドーラの突然の謝罪にびっくりしたアリシアだったが、
「謝ることじゃないわ。ドーラが無事でうれしいの。でも、あんまり無茶はしないでね、心配しちゃうから」
「あ、ありしあ~」
アリシアの気遣いにドーラはうるうるだった。ほんの少し慌てたアリシアだが、すぐに平静を取り戻してドーラの元へ駆け寄り、やさしく慰めてやる。
ヒカリは思わず舌を巻いた。同じ背丈をした母娘だと紹介されたら簡単にダマされる。少なくとも自分が同い年の頃、アリシア程大人だったかと問われれば、絶対にノーと答える自負がある。そう驚愕するくらいには、パーフェクトコミュニケーションだった。
『……本当に敵対関係だったのかしら』
ヒカリが自分の目を疑うくらいには良好な関係を気づけている。
それがゲーム上ではそんな素振り全く見られなかった。むしろ、キャラの立ち位置的には敵対関係と言っても良い。
作品の世界観までは知らない。それでも、ヒカリが違和感を持つには十分すぎる出来事だった。
一方、アリシアはふむ、と考えるそぶりをすると、
「そうだ、ドーラ」
「どうしたの? アリシア」
「ドーラのサンドイッチとワタシのお惣菜、交換しない?」
ドーラは"?"マークを浮かべたが、アリシアに指を差されたお惣菜を見て驚愕した。
真っ白なお皿の上には、プレーンのオムレツにケチャップが添えられている。食欲を引き立てるようにぷるん、と柔らかな卵が瑞々しく輝かせて。
ドーラはとんでもなく卵料理が大好きである。よだれがこぼれ落ちそうなところをじゅるりと吸い上げるくらいには。
「い、いいの?」
「ちょっと、交換なんだからね。サンドイッチ、頂いてもいいかしら?」
「好きなだけ!! 全部もらっていいわ!!」
「そんなことしないわよ。では一切れだけいただきますね」
アリシアは先にオムレツ入りのお皿をドーラに渡してやると、一言了承を得てサンドイッチを一切れつまんだ。
ささやかな気遣いだがドーラを優先し、サンドイッチをいただく。淑女として模範となる立ち振る舞いである。ドーラはオムレツに夢中で毛ほども気づいていないが。
「いただきまーす!!」
「どうぞ、召し上がれ」
ドーラはフォークとナイフをアリシアから受け取ると、颯爽とオムレツに切り身を入れて口に含んだ。すると、目をキラキラさせて、
「んぅ~!! んまい!!」
「ちょっと。せめて『美味しい』と言いなさいな」
オムレツをパクパク食べるドーラを軽くたしなめながら、アリシアもサンドイッチを一口かじる。
「おいしい!! どこの食材を使ってるの?」
「え? わかんない。全部ミオリー達に任せてるから」
「ふふ、ドーラらしいといえばらしいわね。今度尋ねてみようかしら」
「おいしかったの?」
「それはもう」
ニコニコでサンドイッチを食べるアリシアに、ドーラも気持ちがほころんだ。
さっきまで散々だったが、アリシアと過ごす時間は嫌なことを全部忘れさせてくれる。
ずっとこんな日々が続けばいいのに。少しだけ寂しくなったドーラだが、
「ねえ、アリシア」
「……」
「アリシア?」
異変は突如として起きた。
アリシアがサンドイッチを片手に固まっている。もう一度呼びかけしようとしたが、違和感はそれで終わらなかった。
「アリシアだけ、じゃない?」
「ちょっと待って、コレ……」
「……えっ。あんた、なんで」
そう言ったヒカリの声が、横から聞こえてきた。
今までは頭の中で響くような聞こえ方だったのに、実在する声となって耳を通りぬけた。振り向けば、かつて夢の中で出会った、人を象った真っ白なシルエットがドーラの隣に立っていた。
それだけじゃない。
世界から明るさのトーンが一段失われ、そのうえでこの場に居る全員が完全に停止していた。
時間そのものが止まっていた。
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