第六話 なさけないわね
囲い込む生徒達の真ん中には、ひとりうずくまる男子生徒がいた。緑色の髪は王立星光学園では珍しい。その正体がわかってしまったドーラは心底あきれたように溜息をつくと、声を張り上げて、
「あんたら、何してんの?」
「なんだあ? ちんまいガキが何のようだ」
「へへへ、ちょっと遊んでるだけだから帰った方がいいぜえ」
「帰らなかったらどうなるか、わかってるだろう?」
全部で五人、ね。ひとりを相手にそれだけたかっているのか。
むしゃくしゃしたドーラは、
「そんな身長は変わらないでしょ。自分の見た目もわかんないの? 使えない目してるわね」
「なっ……」
「どこの家の人間か知らないけど、コイツは結構格のある家の出。バレたらどうなるかわかってんでしょうね?」
ドーラは煽りに煽った。
少なくとも公爵、侯爵家の中では見たことのない面子だ。外交問題に発展するから他国の人間は除外だとすれば、残るは子爵とか伯爵くらいか。格の話をすれば、簡単にひるむはずだ。そう思ってのことだった。
実際、ドーラの推理は的確だった。格の話をすると簡単に威勢が弱まった。
「まあ、目上の人間が誰かもわかってないようなガキに、そんなことわかるわけなさそうだけど」
「は、はあ?」
「下々に何言ってもムダって話してんのよ。わかったら、さっさとどっかいってくれない? イライラしてんの、コッチは」
「……おまえ、ムカツクなァ!?」
囲い込む生徒のリーダー格は、侮辱されて我慢がならなかったのか、激高して、大きく腕を振りかぶった。
「遅いわよ」
ドーラは舞踊が得意である。その根本たる理由は体のしなやかさと使い方の上手さにあった。振りかぶったパンチをひらりと避けると、そのまま足払いして、体勢を崩す。軸足を失った生徒は、そのままひっくり返って頭から芝の上に落っこちた。
「ぎゃんっ!?」
「お前、生意気だな!?」
「ナマイキなのはアンタ」
もうひとりがドーラの前にぬっと現れると、ひと回りは大きな体を大に広げて、捕まえようと突っ込んできた。これも流れるように避けて足払い。顔面から地面に突っ込んだところで、金的に思いっきり蹴りを入れた。
ヒールの先でそれを受けた生徒は声にならない声を上げて、そのまま悶絶して動かなくなってしまった。それを見下ろして、
「よわすぎんのよ」
鼻で笑った。それからすぐ、
「……ドーラっ、うしろ!!」
「おまえええええええ!!」
今度は二人がかりで挟み撃ち。流石に分が悪い状況だが、
すっと身を引いた。矛先がなくなった二人は、勢いあまって頭からぶつかると、大の字になって伸びてしまった。頭の上にはお星さまが回っている。
「のろますぎ」
『おお、やるじゃんアンタ』
「あとひとりね。どうすんの? アンタもやる?」
「ひ、ひい!!」
「今なら見逃してあげるけど。それとも、あたしの下僕にでも――」
その時、
「つかまえたっ!!」
ドーラの体に何かがまとわりつく感覚がした。
最初に倒したはずのリーダー格だ。羽交い絞めにして身動きを取れなくしていた。
鼻血こそ垂らしているが、意識は既に回復していたのである。
「早くやれッ、すきだらけだ!!」
「いっひっひ、さすがリーダー!! かくごしろ!!」
どいつも、こいつも。ドーラは思わず顔をしかめた。
それでも敵の拳はみるみる迫ってくる。愚痴をこぼしたところで現実は変わらない。助けを呼ぶ余裕も当然ない。
仕方ない、とドーラはすうっと息をすった。
「……むんっ」
あと数歩で拳が、というところでドーラは思いっきり地面を蹴った。
そして体を持ち上げたかと思えば、ちょうど近づいてきた生徒の顎先に勢い付けた蹴りをクリーンヒット。ぎゃん、という情けない声でひっくり返った。
そのまま、呆然としているリーダー格の顎にも渾身の頭突きをお見舞い。
死角からの一撃というのもあって、リーダー格は声を上げる間もなく、するすると力なく倒れてしまった。
『えっ、えっ!? アンタ、格闘術でもやってた!?』
「やってないわよ。お姉さまの訓練で少し、ね」
全員を倒してしまったドーラは、動かなくなった連中をちらりと見ると、踵を返してへたついている緑髪の少年に歩み寄り、顔を近づけた。
「ごきげんよう、エルウィンド家のおぼっちゃま」
「……どうも」
「お怪我はない?」
「……おかげ様で」
仰々しいドーラの挨拶に、緑髪の少年はばつが悪そうに返した。いつも通り過ぎるやりとりに顔をしかめると、ドーラは捨てゼリフを吐くようにこう告げた。
「王の護衛を司る家なのに、自分すらも守れないのね」
それから、ドーラは全員を放って中庭を後にした。
この時、ヒカリはドーラが十分にストレスを発散できたのだと思っていた。
しかし、実際は特に誇らしげになるでもなく、寄り道もせずに教室の自席へと戻ると、真っ先に腕枕に顔をうずめた。
「やっちゃったわ」
『え、どういうこと? むしろちょっと見直したわよ』
「どこがよ。もんだいこうどうってヤツで、またお父様とお母様に迷惑が掛かるわ」
ヒカリの賞賛にドーラはぶっきらぼうに答える。
彼女を囲む遠巻きの視線の一つの理由がこれである。ドーラは散々姉と比べられてきたせいで、家の格を落としているヤツ、といちゃもんを付けてくる生徒が絶えなかった。
始めは泣いてばかりだったが、泣いていると付けあがる連中も少なくなかった。そして、自分だけが嫌な思いをするのに納得がいかなかったドーラは次第にやり返す道を選ぶようになる。
それが、大人からの評価をさらに下げる理由になっていたのだ。
「ほんとはガマンしなきゃなのに。またお姉さまやお父様、お母様たちに悪いことしちゃった」
『怒られるのはイヤ?』
「怒られるのもイヤだけど、わたし以外のみんなはがんばっているのに、みんなが悪く言われるのはもっとイヤ」
声を殺して泣くドーラに、ヒカリは困惑した。
ゲーム上のドーラは、周囲を振り回す台風みたいな人間だった。しかし、実際に向き合った幼き頃の彼女は、確かにお転婆でこそあるが、彼女なりに人を大切にしているようにも見える。
『……周りがどう言おうと、アタシはアンタのやったことが間違いとは思えない』
「えっ」
『理由はどうあれ、結局はいじめられてた子を助けたんでしょ。何もしなかったヤツの意見なんて無視しちゃえばいいのよ』
「……ほんとに、それでいいのかな」
『わかんないけどさ。でも、迷ったときには話してよ。何か意見言えるかもよ?』
ヒカリの助言にドーラは小さくうなずくと、か細い声で「わかった」と返した。
一方、ヒカリはゲームのシナリオを振り返り、ある確信を抱いていた。
先ほどドーラがキツく言った緑髪の少年。彼こそ七色のスターライトのルートキャラである、カイル・エルウィンドなのだと。
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