第四話 さぼりたいわ
「ねえ、ミオリー」
「どうしました? ドーラ様」
「やっぱさ、休んじゃだめ?」
「だめです。アデル様とローザ様に約束されたのでしょう?」
「……ここでお父様とお母様を出すのは卑怯よ」
「お仕事ですので」
うるうると瞳をうるませて見上げるドーラだが、ミオリーは毛ほども共感せずに突き放した。
四頭立ての馬車に乗せられて、ドーラが向かっている先は、王立星光学園。ハイネス王国貴族御用達の教育機関であり、身分、国外問わず優秀な生徒を招き入れることで高い学力水準を設けている。国内でもエリートと呼ばれる養成機関である。
王立星光学園は初等部、中等部、高等部とグレードが三種用意されており、十二歳までは初等部に属するが、例外として優秀であれば飛び級も考慮される。
ドーラは初等部に属して三年目、飛び級とは無縁のお転婆娘である。
「さあ、着きましたよ」
「うう……ほんとにいかなきゃだめ?」
「ライラ様のようになりたいのでしょう?」
「……わかったわよ」
口をとがらせて馬車を降りる。学園に足を踏み入れたドーラが見つめる先には、白大理石をふんだんに使った本館が。
ぞろぞろとドーラと同じ背丈の学生たちが正門をくぐる。ドーラはこの光景があまり得意ではない。格式ばった生徒たちの立ち振る舞いがむずがゆくて仕方がなかった。
ドーラもそれに倣って本館の中へと入った。そして、講堂のように長机が据えられた教室の端にある自席に腰を下ろすと、既に他の生徒も出席して、談笑している姿がちらほら見られた。
『ふうん、やっぱお金持ちってこういうところで勉強すんのね』
「話しかけないでよね。人に見られたらどうすんのよ」
『あたしの声が聞こえるのはアンタだけ。変な目で見られるのはアンタだけですう。このままだと、破滅ルートまったなしかもねえ?』
べろべろばあ、と副音声が付きそうなヒカリの煽りにドーラの青筋がぴくんと動いた。
しかし、ここは我慢しなければいけない。間違ってもここで暴れようものなら、ただでさえ距離を感じる生徒たちからさらに白い目でみられてしまう。そう思ったドーラは歯ぎしりでごまかすしかなかった。
「……ふう。それにしても、本当にこんなことしてるだけで追い出されなくてすむの?」
『話しかけないで、って言ったのはそっちじゃなかったっけ?』
「……わるかったわよ。話を戻すわ、悪いことしたら謝って、ちゃんと学校に行けって言われたからそうしてるけど、本当にこんなことで大丈夫なの?」
『おお、謝られた。すごい不機嫌そうだけど良しとします!! そうね、直接的には関係ないかもね』
「ちょっと、それどういうことよ!?」
さらっととんでもないことを言われたドーラ。どうにか人の目もあるので声だけは押し殺すことができたが、納得はまるでできていない。
『そりゃあ、人に謝って学校に行くだけで許されるなら苦労はしないよねえ』
「まだ、何かしないといけないの?」
『盛りだくさんよ。そもそも、ドーラが追い出されたのはやっちゃいけないことをやってしまったからだし』
「そうなの? どんなことしたの?」
『それはおしえない』
「なんでよ!!」
『それを言ったら、そこしか対策しないでしょ。アンタ、根本からねじまがってるからね』
「むずかしいはなしね。何もピンとこないわ」
『謝れないやつに友達なんかできるわけないし?』
ある程度年を重ねた人間であれば、思わず泣きそうになる言葉である。しかし、ドーラはそうなのか、と納得した。
辺りを見回して、生徒と目があえば罰が悪そうに逸らされる。これが普通なのだと思っていたが、謝れないことが理由なのだとしたら。そう思うと、ヒカリの言ったことはあながち間違いではない気がしていた。
「じゃあ、今後はどんどん謝っていけばいいの?」
『悪いことしたらね』
「ふうん。よくわかんないわ」
その時、背後からぞろぞろと声がした。ドーラが振り向くとそこには、アレキサンダー王子とその一行がぞろぞろと教室に入ってくる姿が映った。
「おはよう、ドーラ。珍しいね」
「おはよう、アレク。あとはその一派」
「一派とはなんだ!! 僕らにだって名前があるんだぞ!?」
「そうだそうだ!!」
「よくわかんないけどたのしそうね」
「たのしくない!!」
「まったくもって!!」
「やっぱたのしそうじゃない」
一派の生徒たちがやいのやいの騒ぐが名前が語られることはない。残念ながらドーラは冴えない男に興味なんてないのだ。
「やっぱり、こうしてみると本当に面白いね、ドーラって」
「?」
「隣、座っていい?」
「え? ああ、うん。問題ないわよ」
そう言うと、アレキサンダーはドーラの隣に腰掛け、一派は次々とその周りを陣取っていった。
「あんたって、本当に友達多いのね」
「そうかな?」
「はあ、いいなあ。わたしも友達欲しいわよ」
「ワタシだけじゃご不満かしら?」
「アリシア!!」
ドーラの表情がぱあっと明るくなった。そこには、水色の長髪をゆった制服姿の少女がそこにいた。年相応の見た目ながらドーラにはない知性が感じられる。
『あ、アリシア・ヴィクトリアス』
知ってるの!? と聞きたかったが、人が多すぎて口が開けない。
アリシア・ヴィクトリアスはヴィクトリアス公爵家の次女に当たり、七色のスターライトでは主人公の親友に位置する少女である。
主人公の親友になって以降、ドーラとかかわる頻度は減っていったが、幼少の頃はドーラの友人として同じ時を過ごしていた。
「久しぶりね。もっと学園に来てくれればいいのに」
「やっぱ苦手よ、この生活。でもアリシアが居るなら、ほかなんてどうでもいいわ!!」
「ほら、そういうこと言わないの。みんななかよくしましょうね?」
「はい、アリシアさまあ~」
「あたしも公爵家なんだけどっ!!」
「静かにしてくれ、僕たちはアリシア様を拝むので忙しいんだ」
「んなっ!?」
アリシアがニコリとほほ笑む。すると、アレキサンダーを除いた一派は一瞬で骨抜きにされて次々に頭を垂れていった。納得のいかないドーラは憤慨したが、アレキサンダーはそれがツボだったようで、くつくつと肩を揺らすのだった。
「静粛にい。教科書、筆記用具それぞれ準備するようにい」
そして、教壇に立つ年配の教師が始業の合図を告げる。
久しぶりの生活に少しだけ表情がこわばる。それは、周りからの目にウンザリして自宅での生活に終始していたドーラにとって、未来を変えるための大きな一歩だった。
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