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悪役令嬢は世渡り上手  作者: 木戸陣之助


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第三話 ごめんなさい!!

「元気に育つんだぞ」


 豪勢な宮殿に備えられた庭園にて、一際たどたどしい少年の声がした。金色の髪に幼いながらも整った顔立ち、くりっとした紺碧の瞳。襟元にはレースを当てがった白シャツ、膝丈のズボンからスラリと伸びる脚。

 あどけなさと高貴さを内包した少年は、庭園の花壇の勿忘草に水やりをしていた。

 彼の名はアレキサンダー・エル・ハイネス。ハイネス王国の第一王子である。


「殿下は本当に花がお好きなようで」


 ニコニコしながら声を掛ける執事服の老爺に、アレキサンダーは小さく笑みを浮かべた。


「匂いが好きなんだ。人の手が行き届いてない自然を感じさせるみたいでさ」

「人の手が入ったものはお嫌いですかな?」

「……そうでもないとこが、実に子供らしいというかね」


 アレキサンダーは、学園での生活が終わり次第、花壇にやって来ては全ての花に手入れをする。

 王子という身分である以上、厚意にあやかりたい貴族連中は我が子を差し向けて取り入ろうとする。それを嫌う王族は少なくなく、鬱陶しげにやり過ごすか関わらないように距離を取るのが通例となっていた。


 しかし、アレキサンダーには分かっていた。王と呼ばれる存在は、民が居て始めて成り立つのだと。平民だけでなく、貴族もまた然り。

 声を掛けられるということは、価値があるということ。たとえ身分故の好意だとしても、その感情に偽りはないのだと。

 だからこそ、好意には好意で返す。アレキサンダーはそれを心情にしていた。


 僅か九歳にしてその境地に至る王子は、その良識と知性故に、後にハイネス王国の栄華と民衆から讃えられるのを本人は知らない。


「爺、僕は思うんだ。善とは何か」

「ほう、これまた難しい問ですな」

「善とは人に幸福をもたらすものだと考えていた。その実、王が民衆に富を分配すれば、民衆の生活はうるおい、生に彩りを与える。王への謁見をした商人も寵愛を受けた日より、他者の視線に囚われぬ精悍なお顔立ちへと変わった」


 アレキサンダーは父である国王の執務に付き添うことがある。というのは、若い内から仕事に馴染ませることで、その立場に至った時、空回りせず役目を果たせるという王の意向によるものだった。


「しかし、世の中にはあくどい人間というのも存在する。人の好意を餌に暴虐の限りを尽くす輩も一定数存在し、善は彼らを生かしているんだ」


 人の目というのは正直なものだ。好意も腹の内も、向けた視線一つで透けて見える。彼の言うあくどい人間とは、寵愛を民衆に還元しない貴族、利益の独り占めに興を持つ商人、民衆の陰に隠れてハイネス王国に仇を成そうとする国賊を指す。当然王はそのような下心など簡単に看破し、排除するわけだが。


 彼らはひとりでは生きていけない。王や国の、誰かの恩恵を受けて命をつないでいる。

 では、果たしてそれが民衆にとって善になりえるのか。それが、アレキサンダーには分からなかった。


「王になるには、善が何かを知らなければいけない。少なくとも、僕はそう思っている」

「故に、頭を悩ませていたということですな?」

「そうだね。無駄な問だと割り切ってしまえば良いんだろうけど、僕は夢物語が好きだ。こういう人の手による介入が好ましくて仕方がないんだよ」

「ハイネスにとってそれは誠に幸運なこと。爺としても喜ばしく思います」


 アレキサンダーにとって、民衆は花である。

 姿形は似ても、一つ一つは違う。彩りも匂いもすべて異なる。そこで、王である己が水という恩恵を与えることで、花は育ち、花壇という名の土壌は美しさを手に入れる。

 しかし、現実はそうではない。美しさの裏には必ず影がある。いずれ王となるアレキサンダーは、この影を消し去り、誰もが穏やかに暮らせる国造りを果たしたいのである。


「しかし」

「しかし?」

「何事にも例外というものは、往々にして存在するものです」


 爺はやんわりと否定した。そして、遠くに向かって手招きをした。

 すると、花壇の陰からひょっこりとひとりの少女が現れた。


「ドーラ!? どうしてここに」

「ええっ。なんでって、その……あやまろうとおもって」

「何を?」

「その……ああん、もう!! なんでこんな恥ずかしい思いしなきゃいけないのよ!?」


 謝るかと思えば憤慨した。

 例外というものは往々にして存在する。アレキサンダーにとって、ドーラは理屈では考えられない行動に出る不思議な少女だ。正しさをとうとうと語ればいつの間にかカバンの中に何かを詰めているし。


「ごめんなさい!!」 


 アレキサンダーは呆然とした。彼女とは五歳からのかかわりだが、一度とて謝られたことがない。子供じみたイタズラばかり、自分が王子だというのに何の悪びれもない。全部許されると思っている。

 故に、珍獣。そう思っていた。

 そんな彼女が頭を下げたのだ。


「わたし、悪いことしました!! もう、アレクのカバンに雑草はつめません!!」

「ふふっ、どういう宣言なんだい」

「謝るとはこういうことらしい、です!! わたしにはわかりません!!」


 ドーラは謝るということを知らない。作法を教えてもらったからその通りにしただけ。

 それでもちんまいプライドは凄く萎れたのを感じた。なんでもいいからいち早く逃げたかった。

 そういうことかと理解したアレキサンダーは、思わずくつくつと笑った。


「なによ!! やっぱりうまくいかないじゃない!!」

「いいや、ちゃんと受け取ったよ。もう気にしてないから大丈夫」

「ほんと?」

「ああ」

「じゃあ、また遊んでくれる!?」


 陰りひとつない少女の笑みに、張り詰めた空気が解かされる。そして、それはアレキサンダーが内に抱えたものも一緒に溶かしてくれた。


「ああ。また、学園で」

「やった!! じゃあね!!」


 そう言うと、ドーラは颯爽と庭園からいなくなってしまった。


「嵐のような子だな」

「そうですな。実に子供らしいと言えるでしょう」

「まさか、彼女が形だけでも謝るとは。人というものは存外変わるものなんだね」

「そうですな。とはいえ、いつ何が変わるとは到底予測もできない。それは、悪人も同じ。爺はそう思うのです」

「では、その時まで待てと?」

「違いますな」


「考慮の必要は無い。しかし、それが在るだけで人の心は潤う。今生とはそういうものではないでしょうか」


 これもまた自然。そう諭されたのだとアレキサンダーは理解した。


「やはり、爺の達観には叶わないな」

「いえいえ。いずれは追い抜かれてゆく老いぼれの身。立派になられた殿下の姿、楽しみにしておりますぞ」

「気が引き締まるよ。ありがとう、爺」

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