第一話 あんた誰よ!?
『ふっふっふ、ようやくお目覚めみたいね?』
「……ん? あれ、さっきまで」
さっきまでドーラは冷たい床の上で身を縮こませながら眠りに着いていた。しかし、今ドーラが目にしているのは真っ暗闇の中、宙に浮いて淡く光る人型のシンボルである。
ドーラは夢かと思い頬をつねった。
「いてっ」
『古典的ね。そんなもので夢が醒めるわけないじゃない』
「あ、あんた誰よ!? いきなり人を小馬鹿にしてっ」
『私はヒカリ、日本からやって来た異世界転生者よ』
「い、いせかい……てんせいしゃ?」
『やっぱり、受け入れられないわよね』
何それ。というのも、無理はない。
ハイネス王国には異世界という単語なんて存在しないし、日本という国もない。
『とはいえ、こうなってしまった以上、私はアンタに伝えなきゃいけない』
「……なにをよ」
『この世界について、よ』
世界が何だとか、生まれてわずか九年のドーラには理解できるわけもなく。それに、さっきまで体験していた貧乏生活だって腑に落ちてなかった。
あの時の女性は、少なくとも十七になる姉と遜色ない美人だった。それに、スタイルだって子供のドーラとはかけ離れたスレンダー体型。
そして今、急に場面が変わって、真っ白な光が自分に話しかけている。
『アンタの住んでいる世界はね、ゲームで作られた世界なのよ!! ……あれ、固まっちゃった。もしもし、もしもーし?』
訳のわからない問題が多すぎて、ドーラの頭の中ではお星様がふよふよ飛んでいた。しかし、偉そうな物言いに腹が立ったドーラ、恐怖も忘れてプンスカ怒り始めた。
「げえむ、ってなによ!! あんたがこんな真っ暗なところ連れて来たの!?」
『いや、それは自業自得故ね』
「何意味わかんないこといってんのよ!! さっさと家に返しなさいよっ。おとうさまに言い付けるわよ!?」
『じゃあ、今言ってごらんなさいよ』
「んなっ!?」
しかし、そう言われると黙るしかないドーラ。さっきの威勢は何処へやら、すっかり静かになってしまった。
ヒカリもそれを察し、話を続ける。
『アンタの居るハイネス王国ってのはね、七色のスターライトってゲームの一部よ。そして、このゲームは異世界から転生した主人公が、苦楽の末にハイネス王国のイケメンと結ばれるっていうストーリーなのよ』
「しゅじんこう? わたしじゃないの?」
『残念ながらね』
七色のスターライト。
十八世紀の西洋と中世の貴族文化もろもろを混合させ、作り上げたオリジナル世界を舞台にした日本発の乙女ゲーム。
ファンタジーと恋愛模様の濃度と組み合わせが好評で人気を博したゲームである。
「……うーん、よくわかんないわ」
『まあ、主人公はアンタじゃなくて他にいる。そして、本題はそこじゃないの』
さっきまで引っ張っておいてこのセリフ。さらに混乱したドーラはいよいよ思考がフリーズ。間の抜けた顔で「へ?」と抜けた声を出すしかできなかった。
『よーく聞きなさい、アンタこのままだと破滅するわよ』
「はめつ? どういうこと?」
『アンタさっき夢見たでしょ。散々やらかしたせいで家を追い出されて、何処かのぼろ屋に置き去りにされる夢』
「どうしてそれを!?」
『聞きたい?』
茶化すような声が、途端に真剣さを含んだ。
その真っ直ぐな声にたじろぐドーラ。しかし、放っておくわけにもいかない。夢と呼ぶにはハッキリし過ぎていたし、何より見ず知らずの発光体が自分の見た夢を、しかも中身まで当ててみせた。
聞かなきゃいけないかも。
ドーラの中に眠る、貴族のカンがそう告げた。
「わ、わかったわよ。でも、一個だけ条件があるわ」
『あら、その立場で交換条件?』
「そうよっ。だって、こうまでしてわたしに忠告するってことは、そうしないとあんたも大変になっちゃうからでしょ?」
策士ドーラ。お転婆さと性格の悪さで掴み取った貴重なアドバンテージである。
『その胆力、気に入ったわ。何でも言ってみなさい』
「ふふん!! そうね、わたしに何があってもあんたは味方になりなさい。どう!?」
『なるほどね。じゃあ、尚のことアンタに話す理由が出来たわ』
無茶苦茶なお願いである。とはいえ、九歳の子供が土壇場で交渉できただけ褒め称えるべきかもしれない。
『どうしてそんな末路ばかりなのか。それはね、アンタが主人公のライバル役……しかも、とんでもなくイジワルな悪役令嬢だからよ!!』
七色のスターライト、ライバルキャラのドーラ。
ブリュンヒルデ公爵の次女にして、イタズラと称して主人公に嫌がらせとイヤミの限りを尽くす、プレイヤーの怨敵。
人気第一位のアレキサンダー王子ルートを始め、多くのルートにひょっこり現れては好感度イベントをスキップする害悪キャラ。当然嫌われ者ランキングは堂々の一位。
そんなキャラこそ、ドーラ・フォン・ブリュンヒルデなのである。
「なんでわたしが悪役なのよ!! あんまりじゃない!!」
『そうは言ってもねえ、そういうゲームだからしょうがないんじゃない。それに、アンタ日頃おともだちにイタズラばっかしてんでしょ』
「うっ」
『恨みでも買ったんじゃない?』
「うぬぬぬ……」
他人事みたいにそっけなく突き放された。文字通り他人事だからどうしようもないのだが。
『話を戻すわよ。で、さっきアンタの見た夢、それはアンタが辿る末路のAルート。いわゆる正規ルートって奴ね。まあ、他にも分岐は幾つかあるけど、ほとんどは家を追い出されるわね』
「じゃ、じゃあこのままだと、ほぼ確実にあんなみすぼらしい生活させられるってこと!?」
『そういうこと』
「そんな……最悪じゃない」
愕然とするドーラ。
いくら恨みを買ったとしても、そこまでの目に遭うなんて納得いかない。フカフカのベッドも、なんでも言うことを聞いてくれる使用人たちも、好き勝手できる生活も、友達も、家族も。
「……いやよ」
『少しは危機感持てた?』
「あんな、あんな生活なんていやに決まってる!! それに……ひとりぼっちは、つらいもの」
みんなと離ればなれになってしまう。
それはドーラにとって耐えられない結末だった。
「お願いよ。わたしに協力して」
ドーラは深く頭を下げた。
人に何かを頼んだことはない。多くは両親や使用人、身近な大人がどうにかしてくれた。
しかし、今この場に頼れる大人はいない。自分のことは自分でどうにかするしかないのだ。
さて、結果は。
『いや』
「えっ」
『いやよ』
「えっ?」
『お願いは聞いただけですううううう。叶えてやるとは言ってませえええええええん』
「んなっ!?」
『手玉に取ろうとした罰よん』
「あんたっ、あんたねええええええええええ!!」
光だと言うのにこの上なくニヤけて見える。
茶化されたと理解したドーラは、とんでもなく憤慨した。地団駄をこれでもかと踏んで。
『アッハッハッ!! やっぱアンタ面白いねえ。冗談よ、ちゃんと聞いてあげるから』
「ほんとっ!?」
『まあね、人を騙すのは好きじゃないし。出来る限りは助言してあげる』
「……あんなひもじい生活はいやよ!!」
『せいぜい頑張りなさい。ひょっとしたら良い未来もあるかもね』
ドーラは心の中で誓った。
絶対に贅沢な生活は続けてやる。そして、ひもじい非常食生活は何が何でも回避する。と。
「わたし、がんばる!! 絶対に破滅になんて、なってやらないんだからあああああ!!」
そして、あまりに悪役らしい決意と共に、ドーラは意識を手放したのであった。
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