7人目:魔女マキナと殺戮人形⑥
「助かりましたよマキナ、繰り返す食事の中で私が渡す飲食物を口に入れることに抵抗感がなくなってくれて」
彼女を運んだ先はこの部屋の中心にある台の上。
そう、私が生まれたところ…私が生まれたあの台の上だ。今は配線も何もしないそこにマキナが使っていたひざ掛けを枕の様に畳んで置き、ゆっくりとうつぶせに彼女を乗せた。マキナは動かない。死んだかのようにピクリとも動かないが、生きている。
「マキナ、貴方には毒は効かない。だが貴方の機能を一時的に停止させる方法はある。この世の中には様々な薬草がありそれをブレンドしてお茶として提供する魔女だって居るそうだ。このお茶に入った薬草には周囲の魔力を吸収する効果がある。普通の者は効かないが、貴方は魔力によって動く。魔力を流れを変えられた貴方は一時的に意識を失う。とはいえ数十分後には動くでしょう」
私は彼女の細い首に触れる。以前は触れただけで防衛本能が作動していたのに、今は少し指に力を入れても動かない。
貴方の心は触れられることに慣れてしまった。まあ本当に絞めようと思えば予備エネルギーが作動して襲われるだろうが、今の貴方の心は私を外敵だと認識していない。
私はゆっくりと彼女のドレスの後ろについているファスナーを下までおろす。左右に開き、白く柔らかい肌が露わになる。その背中を直接撫でていると、パーツとパーツの切れ目に引っかかる。
「貴方を殺す方法をずっと考えていた。毒や電気も駄目。刃物を突き立てても、この柔らかい皮膚に触れた瞬間、防衛本能プログラムが作動する。貴方の体内に埋め込まれた強力な爆弾を守るために」
パーツとパーツの切れ目に爪を立てて思い切り引くと、彼女の内部が見える。無数の配線や機械の箱が、複雑に絡み合っている。エネルギーの流れが乱れているのでほとんどの機能が緊急停止している。
ああマキナ、貴方が教えてくれた知識の通りだ。本当に全てを教えてくれて助かった。
貴方という存在は私の遥か高みに居るが、身体の構造も基本的な素材も一緒なんだ。
だから食べ物を摂取した後の燃えかすを捨てるための箱だってここに付いている。だから開けること自体は出来ると思ったんだ。とはいえ君の心が私に強い警戒心を抱いていたら、ここに触れることもかなわなかっただろう。
だってここがおそらく貴方の唯一の弱点。
世界を滅ぼす巨大な魔力の爆弾に直接触れられる唯一の方法だから。
絡み合う太いコードの奥に、私には備わっていないタイマー付きの機械の塊がある。設計からして、この爆弾はこの身体が作られた後に外付けされたもので間違いない。
それが大きな隙となった。だからこそこの爆弾を守るために心臓を入れ、マキナの心を生み出して自分の身体を守る使命を与えた。私たち機械仕掛けの人形は、与えられた使命に逆らえない。たとえそれが、したくないことであっても。
私は大きく息を吐いた。時間の猶予はそんなにない。
私は事前に用意していた様々な道具を取り出す。この部屋には私を生み出すのに必要なあらゆる道具が揃っている。逆に分解する道具も揃っている。
この時の為に、何度も機械仕掛けの人形を作って練習した。知識だけでは精度が足りない。実際に組み立てて経験を積んでいるのと、そうでないのでは天地ほど差がある。
だからこの配線がどこに繋がっているかも、どういう手順で分解すれば安全なのかも全て理解しているつもりだ。必ず約束を守るから私に任せてほしい。貴方から授けられた神の如く素晴らしい知識で、この悲劇をひっくり返してみせる。
「機械仕掛けの魔女『デウス・エクス・マキナ』、貴方の身体は……世界を滅ぼす巨大な爆弾は必ず破壊します。そして心臓に眠る貴方の心……精神データも必ず守ります。世界の終わりまで共に過ごすために」
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美しい森の中に、白いテーブルと2脚の椅子が置いてある。
優しい木漏れ日が降り注ぐ開けた空間に、小さな機械仕掛けの魔女と機械仕掛けの元殺戮人形が座っていた。魔女の方はそのまま椅子に座るとテーブルの縁に顔が半分隠れてしまうので、椅子の上に高さ調整用の台とクッションを引かれている。
「もっと大きな身体を用意出来なかったのか? 違和感しかないわ」
「練習のし過ぎで材料が足りなくなりました。でも可愛らしいからいいじゃないですか、愛しのマキナ」
今まで作った動物の機械人形も集まり、静かな森が賑やかな空間へと変わっていく。魔女は不満そうにふてくされるが、新しく造られた今の自分の身体は気に入っているようだ。そんな魔女の前に、人形は本日のおやつをと紅茶を置いた。
「もう毒を盛る必要性が一切なくなりました。安心してお召し上がりください」
魔女は呆れたようにくすりと笑った。
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彼女の名前は魔女デウス・エクス・マキナ
好きな物は『143号目の殺戮人形』
彼の名前は人形ランスロット
好きな物は『機械仕掛けの魔女の心臓』




