7人目:魔女マキナと殺戮人形④
私が製造されてから約3年の月日が流れた。
今日も外はいい天気だ。こんな日の食事は外で食べるに限る。神々しい聖域のような森の中、清浄な空気に包まれて身も心も潤うような気分になれるだろう。
私はいつものようにマキナのために勝手に食事の用意をする。毎日毎日、昼と夜とおやつの時間に作っているが、マキナに作れと頼まれた事はない。全て私がしたくて勝手にやっている事だ。
コンピューターで検索すれば料理の作り方なんていくらでも出てくる。初めは具材を挟んだサンドイッチや、野菜を煮たシンプルで薄味のスープくらいしか作れなかったが、練習を重ねるごとにもっと複雑な工程が必要なものまで作れるようになった。
「お待たせマキナ、昼食をご用意しました。召し上がれ」
今日の昼食はビーフシチュー、時間をかけて煮込んだデミグラスソースに大きめにカットした野菜と肉がたくさん入っている。かなり煮込んだので十分柔らかいはずだ。そこに生クリームをかけてパセリを散らせば見た目も少し華やかになる。焼きたてのパンを添えて、大人しく座っているマキナの前に置いた。
「いい匂いでしょう? 味も濃厚で美味しいはずです。これなら毒が入っていても匂いで気付かれることもないでしょう」
「どうせ入っていないのだろう、この不良品」
「失礼ですね。ちゃんと貴方を殺す使命は忘れていませんよ」
マキナは分かりやすく大きなため息をはいてシチューをスプーンにすくう。一口食べて味わうように舌をもごもごさせている。同様にパンも一口サイズにちぎり、口の中に入れた。
「まあ……なかなか美味い、ぞ……」
マキナは頬を赤く染め、目をそらしながら言う。その言葉に私も嬉しくなってにこりと笑うのだ。私も座って一緒に食事をとる。閉鎖的な空間で一緒に過ごしていると話し合う事もそんなにない。ただ無言の食事なのだが、それでも私にとって大切な時間なのだ。
マキナも初めは私を不審な目で見ていたけど、今は気を許されているのか無関心なのか、殺気だった魔力を感じない。
体格が大きな私が先に食べ終え、私はぱんっと両手を合わせた。
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「そうだマキナ、とっておきの秘密兵器をまた作りました。今回のものは自信があります」
「はぁ……」
呆れたようにこちらを向くマキナに、私は徹夜して作り上げたとっておきの技術の結晶を取り出す。
手のひらに乗るサイズの機械の塊……リスの形にデザインした機械仕掛けの人形だ。丁寧に曲げた金属をこんなに小さくまとめるのは骨が折れた。しかし可愛らしい丸いフォルムに仕上がったと思う。勿論ちゃんと動く。機械のリスはプログラムした通り、時折規則正しく首を動かしている。
「なんだそれは」
「リスです」
「そんなの見れば分かる。私はそんな玩具を作るためにお前に知識を授けたわけではない」
「えっ、でも見てくださいよ。こんなに小型のものが作れるようになったんですよ。しかも軽量化にも成功しました。これは大きな進歩です」
机の上に置くと、機械のリスは机の上を走り回る。センサーが付いているので目の前に食器があればちゃんと避けてくれる。愛くるしい姿に私はにっこり微笑んだ。マキナの顔はなんだか不満そうだが。
「お前はここを動物園にでもしたいのか……」
マキナはため息を吐きながら辺りを見渡す。テーブルの周りには、この3年私が少しずつ作り上げてきた機械仕掛けの動物たちが歩き回っている。小型の草食獣から大型の肉食獣まで幅広く作っている。
ほぼ毎日のように製造作業をしているので、改めて見渡すとすごい数で賑やかだ。もうちょっと頑張れば小さな動物園に負けないくらいの数になりそうである。
動物と言ってもあくまで形だけで実際に肉や草は食べず、私があらかじめ組み込んだプログラム通りにしか動かない。
プログラムを組むことに慣れてからは、より複雑な行動パターンを出来るようになった。だが私のように自分の意思で物事を考え、行動できるようにするには核となる特別な魔法具が必要らしい。
その精神を司るパーツが、私の心臓である。ランスロットがもう量産できないのもこの魔法具が私ので最後1つだかららしい。
「それも良いかもしれませんね。もし貴方を殺したら……一緒に過ごしていたのにバラバラに離れてひとりぼっちになりますから」
「お前に殺される未来が見えなさすぎるが……まあ、夢を見るのは結構。もう好きにしろ」
付き合ってられんと言いたげに、彼女は残りの食事を口の中にかきこむ。呆れてはいるが、出会った頃のような怒りは感じない。
共に過ごす日を重ねるにつれ、彼女が常にまとっていたピリピリした緊張感、警戒心が解けていき、本来の素直な内面が現れるようになってきた。やはり可憐な女の子は、こうでなくては。
少しずつ変わっていく彼女に、私は小さな幸せを感じていた。ずっとこのままが良いのにと毎日のように願っている。だけどこの幸福の時間が確約されているのは、あと2年なのだ。
その事実が、常に私の心にのしかかってくる。




