7人目:魔女マキナと殺戮人形③
また別の日、私は私が生まれた施設で残った魔法具や様々な機械を集めて眺めていた。
私が作られた時、かなりの道具を消費したそうだが全くないわけではない。かき集めれば何か別の道具が作れるのではないかと思ったのだ。
作るには当然内部に関する知識が必要だ。私には様々な情報を入れられているが、機械を作り上げる知識はあまりないようだ。これらの機械や魔法具の内部を分解すれば、少しは構造が理解が出来るかもしれない。素材が無くなってもあの胡散臭い商人から買い取ればいい。
とりあえず拾ったドライバーで使われなくなった機械の上蓋を取ってみるが、やはり専門知識がないとよく分からないな。
「おやランスロット、今度は機械いじりかな?」
私が機械をじっと見ていると通りかかったマキナが声をかけてきた。
「マキナ、貴方は私を作ったという事だから、かなり機械に関する知識はあるのだろう?」
「ああ、自信はあるよ。回路図を見ただけで何がどう動くかだいたい分かるくらいには」
「貴方を殺すために必要な知識を得たい。教えてほしい」
「なんだなんだ、私を殺す兵器でも作る気かい? いいだろう、その知識も脳に送り込んであげよう。プログラムを組むから待ってほしい」
君を殺すため、と言うと、興味なさそうにぼんやりと見ていたマキナの瞳に光が宿る。どうやら自分を殺すための機械に興味が湧いたらしい。
マキナは部屋に入るとコンピューターの前に立ってキーボードをカチカチと打ち始めた。その横顔はどこかワクワクしているように感じた。よく見ると僅かに手が震えている。本当におかしな魔女である。
「しばらく時間がかかりそうだ。私の知識を全て与えるから、とんでもない兵器を頼むよ」
「ええ、とっておきの秘密兵器の案がありますので」
「それは楽しみだ。だが一応言っておく、中途半端な大砲や電流、刃物では私は殺せぬ。それで68人のランスロットは破壊されたからね」
そうだろう。私はマキナの強さを把握しきれていないが、最高のランスロットである私と彼女の間にすら、埋められない程の絶対的な力の差が存在している。
彼女の話を聞いて分かったことは、刃物で刺す、銃を撃つ、毒を盛るといった方法ではこの絶対的な差を埋めることはできない。強い魔力を持つ彼女に溺死や感電死、焼死も無理だろう。
それでも私は彼女を殺さなければならないのだ。
本当につくづく無理難題をおっしゃる。
―――――――――
またまた別の日の夜の事だ。
私はマキナの寝室へ向かった。
質素な部屋だ。ベッド、何かを作るための作業机、衣装が入ったクローゼットくらいしか置いていない。家具のデザインもシンプルで華やかさはないが落ち着く空間だ。
マキナはベッドに潜ってぐっすり眠っているようだ。
規則的な呼吸で布団が僅かに上下に動く。眠っている姿は本当に可憐な少女で、彼女を見て世界を滅ぼす魔女だと思う者は居ないだろう。
このまま穏やかに眠っていてくれればいいのに。そしたら妙な使命など忘れて平穏な日々を過ごせるというのに。彼女と過ごしてそれなりに経ったがそんなことをいつも考えてしまう。
自分は中々に女々しい英雄らしい。
私はベッド横のサイドテーブルにそっと持ってきたアロマキャンドルを置いて火を灯した。
ピンク色の、ローズの香りがするものだ。優しいろうそくの明かりと甘いアロマの香りで心が落ち着いた。
「…なんだそれは、毒素を含んでいない」
眉間にしわを寄せたマキナがじろりと私を睨む。
当然である、私は毒で彼女を殺そうなんて考えていないからだ。
「無駄死にする気はないので」
「はぁ…ランスロット、何度も言っているがお前は私を殺すために作った殺戮人形だ。使命を果たしてもらわねば困る」
「ご安心をマキナ、私は必ず貴方を殺します」
「流石に聞き飽きたぞ。どこで作り方を間違えたのやら」
やれやれと言わんばかりの表情でため息を吐くが、その表情は出会った頃より柔らかい。ほんの少しの安堵がにじんだ美しい頬を優しく撫でると、じろりと睨まれた。
その刺すような視線さえも、今は心地よい刺激だ。はー…と吐く自分の吐息は昼間とは違う熱を秘めている。
「そんな顔しないでください。恐ろしくも愛おしいマキナ、私は貴方に触れたい」
私はマキナの布団を全てめくりあげ、彼女の小さな体に膝を立てて跨る。彼女が寝る専用のベッドは、2人分の体重でギシリと僅かにきしむ音を鳴らした。
跨ったが決してそのまま体重は乗せず、身体を曲げて両手を彼女の顔に伸ばす。
マキナは今まで見た顔の中で一番眉間に皺を寄せ、不可解なものを見る目で私を睨む。
私は深くはー…と息を吐き、両手を彼女の柔らかい頬を包み込むように触れて優しく撫でる。僅かに困惑を滲ませた顔がほんのり赤くなるのを見て、ドクンと心臓のような器官が大きな音をたてた。
「お前は私を殺すために作ったのだから、そういった欲も機能の備わっていないはずなのだが…」
「ものは試しですよマキナ。可愛すぎて死ぬとか愛おしくて苦しいとか言うじゃないですか」
「は? お前が死んでどうするのだ?」
「ご自身が可愛いという自認があるのですね。素晴らしい」
「ベッドから叩き落されたいのか」
怒りを滲ませた顔ですら可愛らしくて更に心臓のような器官が音を立てる。
私は彼女の頬に触れていた両手をそのまま下に…首まで優しく滑らせる。
包むようにその細い首に触れるとマキナは驚いたようにピタリと硬直した。瞳孔が開き、どこか虚ろな顔になる。そしてぞわりと背筋を凍らすような強い魔力を感じた。
あと一手、私の行動次第ではその魔力が何らかの物質となって私の心臓を射抜くだろう。そしてそれはおそらく回避不可能の、一撃で私の全てを破壊させる強大な力だ。
私は彼女に触れていた手をそっと離した。
「はっ…」
虚ろになったマキナの瞳に光が戻る。
顔色が僅かに悪くなり、呼吸も乱れている。私は落ち着かせるように彼女の頭を撫でた。
「…随分短絡的な行動をとるのだな。14人のランスロットと同じになりたいのか」
「いや、貴方の防衛本能を舐めていました。この程度で反応するとは。14人の殺戮人形に首を絞められたから警戒しているんですね。可哀想に…怖かったんですね」
そう言って私は彼女の頬を優しく撫でる。
マキナは大きく目を見開いて驚いた後、悔しそうに顔を歪ませる。下唇を噛みしめ睨んでくるが、反論は一切ない。図星なようだ。
「マキナ、ちゃんと優しくするからもっと触れて良いかな? 優しく撫でるだけだから」
「そんなの首を絞められた方がマシだ」
「はいはい、いい子ですから、ね?」
私はマキナを抱きかかえ、あやすように背中をぽんぽんと叩く。
頭を優しく撫で、頬にキスをする。
マキナは嫌そうな顔でずっと私を見ているが、私を叩き落そうとしない。それを良いことに、私はずっと優しく彼女を撫で続けた。
「ランスロット、お前が何を考えているか私には分からないが、お前にとってこの享楽は意味があるのか?」
「さあ、あるかもしれないし、ないかもしれない」
「下らない…」
マキナはもう何度目か分からない大きなため息を吐く。
そして呆れたように、にこりと笑った。
「仕方ない、大した時間を生きられないお前のお遊びに付き合ってあげるよ。私の可愛いお人形さん」




