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7人目:魔女マキナと殺戮人形②

 

 その日はよく晴れていた。

 気持ちのいい木漏れ日とそよ風が心地良い。森の中にポツンとある小さなテーブルのもとへ、私は歩いていた。


 私が作られた場所は、森の近くにある古い研究施設だった。あの場所はかなり陰気臭い場所だったが、その外には息を飲むほどの大自然が広がっていた。私の何倍もの高さがある木がそこら中に生え、眩しいほどの日の光を適度に遮断してくれる。清浄な空気に包まれた静かな森は、神聖な神の領域かと思えるほど美しい。


 ここは人間がとうの昔に捨て去った地らしく、人間は誰一人としていない。人の手が入っていない森の中では、動物たちがのびのびと生活していた。

 頭上では小鳥が木の実を啄み、警戒心のない小鹿が私の目の前を通り過ぎる。肩に乗ったリスが、お皿に盛ってある木の実に手を伸ばしたので腕を振ると、どこかへ逃げていった。


 しばらく歩くと、目的地のテーブルが見えた。

 美しい湖が見える開けた空間だった。この場所は木が少ないので道中より明るい。そんな幻想的な空間には真っ白なテーブルと2脚の椅子が置いてある。その片方の椅子に座る私の製造主が、頬杖をついたまま私を見た。


「魔女『マキナ』、おやつにフルーツサンドを用意しました。お召し上がりください」


 私はお盆に乗せていた沢山のフルーツサンドと紅茶を、テーブルの上に置いた。森で採れた野イチゴにブドウを、手作りのクリームと一緒に焼き上げたパンにはさんだ一品だ。


 ここは人が出入りしない地ではあるが、コンピューターが生きているため外部との連絡は辛うじてできる。そのおかげで、ここでは得ることの難しい食料や道具を手に入れることが出来る。

 まあ発信元が不明の連絡に応じてくれる者なんて、黒い丸眼鏡をかけた胡散臭いヘゼグと名乗る商人くらいしか居なかったが。

 彼は人間や魔女が扱うあらゆる道具を仕入れることが出来るらしく、懇意にさせていただいている。とはいえランスロットの核……心臓となる魔法具は相当希少らしく、ランスロット増産は無理らしい。


「おやおや、もしかして毒入りのサンドイッチだろうか。言っておくが34人のランスロットは私を毒殺しようとした。だが無理だったよ。毒素を感知した時点で、私はお前の心臓を吹き飛ばすだろう」


「それは恐ろしい。でも挑戦しなければ貴方は殺せません」


「ふむ、さて私はどうなることやら。真っ赤な体液を吐き出すのだろうか、目が腐り落ちてしまうのだろうか」


「いいえ、ほっぺたが落ちるかもしれません」


「はは、それは楽しみだ」


 マキナはフルーツサンドを手に取り、一口頬張る。酸味の強いフルーツに甘みの強いクリームがよく合うはずだ。目を細めて美味しそうにまた一口頬張り、あっという間に1つ無くなってしまった。


「これは美味しい。当たりかな、いや外れ?」


「全て食べれば答えは出ます」


「それもそうか。ふむ、紅茶にも毒はなさそうだ」


 砂糖をたっぷり入れた紅茶を飲みながら、マキナはほっと一息ついた。そしてまたひとつサンドイッチに手を伸ばし、次々と美味しそうに食べていく。最後の1つになった時、私はそのサンドイッチに手を伸ばした。


「これは頂きますね」


 マキナが取ろうとしていたサンドイッチを横からサッと奪い取る。マキナは一瞬驚いた顔をしたが、呆れたようにため息を吐いた。


「もしかして全てに毒を入れていないのか」


「えっ、当たり前じゃないですか。あ、結構美味しい」


 私は自分が作ったサンドイッチを咀嚼しながら言う。私の身体は機械で出来ているが、人間に近い感覚を持っているらしく味覚だって感じる。

 舌に似た器官に物体が触れると、その物体がどんな味がするか脳にシグナルが送られる。食べ物は燃料にはならないが体内で燃やされ、燃えカスが内部の箱に貯まる。なのでたまに背中の蓋を開けて掃除をしなければならない。


「ランスロット、お前は私を殺すための存在だ。お前と仲良く食事をするためにお前を作り出したわけではない」


「まあいいじゃないですか。約5年猶予があるのでしょう? ゆっくり考えますよ、貴方を殺す方法を」


 マキナは更に大きなため息を吐いた。

 そもそも毒程度で死ぬなら今までのランスロットが殺していると推測していた。34人もそれで殺せなかったのだから毒殺は不可能だと思っていい。それだけでも1つの収穫だ。


 私も椅子に座って外をぼんやりと眺める。

 美しい景色だ。この世界を失わせるわけにはいかない。刷り込まれた使命感がゆらゆらと揺らめいた。



 

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