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マブダチ美少女AIのデイリーミッションでこっそり現実攻略!〜レベル0のおっさん。分かる人には分かる強者となってしまう〜  作者: けーきまる


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久遠寺彩葉⑤

<久遠寺彩葉視点>


誠二郎さまたちと、うなぎ屋に行った数日後。


青葉中央公園にて、フラッドが発生した。『青葉フラッド』の始まりである。


青葉フラッドでは、イヌ型害獣を中心に、1000体以上の害獣がダンジョンの地上接続口から現れた。


出てくるのが分かっているなら、地上接続口を塞いでしまえばいいなどと思う人もいるかもしれない。


だが、それは悪手である。穴を塞いだ場合、その周囲のどこかに新たな地上接続口が現れる。それも複数だ。


どこにその穴ができるか分からない。怖いのは、地上接続口が、バリケードで封鎖された青葉中央公園の外にできるかもしれないということだ。


そうなれば、民間人に死者が大量に出る。青葉中央公園を囲ったバリケードの意味もなくなる。


だからダンジョンの地上接続口は塞がないのが今の常識だ。これは、過去の犠牲から得た知見なのだ。


「ふっ!ふっ!ふっ!」


戦場を駆け、立て続けに三体の害獣を切り裂く。


イヌ型は足の速い害獣だ。だが、そこまで強くはない。不意さえ突かれなければ、大した相手ではない。


でもそれは、レベル8という力を持った私だから言えることだ。


一般の対策局員から見れば、十分な脅威である。


彼らの基本戦術は、投網銃や罠で害獣の足止めを行い、事象記述具である特殊な短刀を使って行動不能にする方法だ。


一部の高レベルの者は、各々の武器を使って戦う。


害獣には、銃弾や刺突攻撃があまり効かない。すぐに体を構成するナノマシンが、その部分を補修してしまうためだ。


だから彼らが持つのは、主に剣や薙刀といった、使い手のレベル次第では害獣を切断できる武器である。


そうした戦力は数が少ない。そのため、基本的には遊撃に回り、投網銃で撃ち漏らした害獣を処理する。それが我々の役目である。


ちなみに、戦闘に参加できる高レベル者は、こういうときに招聘(しょうへい)される。もちろん大きな謝礼が出る。私は久遠寺家の者として、ここに立ち、戦っているのだ。


『イヌ型の数が多い!前線を第二防衛線へと下げる!無理はするな!』


今回の『青葉フラッド』で指揮を執っている、銭谷特級害獣捜査官の声がインカムから響く。


対策局の人たちがゆっくりと後退を始める。


その隙を突いて、前に出てこようとするイヌ型を狩る。


「ふっ!ふっ!ふっ!」


右袈裟、切り上げ、左袈裟を繰り返す。フラッドでの害獣戦は数との戦いだ。自分の「型」を持ち、姿勢を崩さないことが最も重要になる。


常に同じ流れで、同じように処理していくのだ。


淡々と刀を振るっている最中、誠二郎さまから着信があった。


通常、この状況なら応答しない。だが、相手は誠二郎さまだ。きっと、やむにやまれぬ事情があるのだろう。


私は、自身の「型」を崩さぬよう意識しながら、その通話をつなぐ。


『彩葉。今、戦闘中か?』


「……はい。手短に!お願いします!イヌ型ですが!数が多いので!」


『分かった。緊急案件だ。駅の近くの廃ビルにダンジョンの地上接続点を発見した。おそらく地下駐車場の中に地上接続口がある。』


「……な、なんてこと!」


このままでは民間人に死者が出てしまう。


民間人に害獣と戦う術はない。遭遇すれば、ほぼ死亡が確定するのだ。


『今、座標をそちらに送った。害獣対策局との情報共有を頼……』


急に誠二郎さまの声が途絶える。


「……誠二郎さま、どうされましたか!?」


『彩葉、通話を切る。そっちはよろしく頼む。』


誠二郎さまの声は低く、何かを受け入れたような響きになっていた。


「……誠二郎さま!何……」


プツッ。


通話が切れる。


間違いない。誠二郎さまは想定外の状況に遭遇したのだ。


今すぐに誠二郎さまのもとに駆けつけたい。そんな衝動に駆られる。


だが…………ダメだ。


今の私には役目がある。


私はこの『青葉フラッド』の抑え込みにおける最高戦力の一人だ。


ここを放り出して、誠二郎さまのもとに向かえば、局員の死者が増えてしまう。


それはきっと誠二郎さまも望まない。


銭谷特級害獣捜査官に、街中にあるダンジョンの地上接続点の情報を伝える。


「……銭谷さん。これは、私が信頼する方から寄せられた情報です。」


『……ああ、彼か。分かった……そりゃ無視することはできんな。なんとかする。』


誠二郎さまをほのめかすと、銭谷捜査官の返答に険しさがにじんだ。


聞いたところによると、青葉中央公園にあるダンジョンの地上接続点は、すべて誠二郎さまが見つけたものらしい。


その情報の信頼度は抜群なのだ。さすが誠二郎さまだ。


さて、私は使命に戻ろう。


害獣を一匹でも多く斬り、局員の方たちを守り、『青葉フラッド』を収束させる!


※※※


「ふっ!ふっ!ふっ!」


イヌ型害獣を斬って、斬って、斬り続ける。


害獣の数も減ってきた。なんとか『青葉フラッド』の抑え込みは成功しそうだ。


そのときだった。


すべてが一瞬、暗闇と無音に包まれた。


異変の原因を探り、周囲へ目を走らせると、上空にニンペマン……いや、誠二郎さまが立っていた。


その手には、黒と虹色の光をまとった刀が握られていた。


それを見た途端、背筋に冷たいものが走る。


異質だった。あれは刀……なのか?形状はそう見えるが、私には何かが違って見えた。


誠二郎さまが刀を振り下ろす。剣術を修めていないはずの彼が見せた、達人の動きだった。


そして、その一太刀は何かを切り裂いた。一刀両断され、崩れて消えていく何か。


私には、誠二郎さまが斬ったものが分からなかった。


気づくと、誠二郎さまは地表へと落ちていく途中だった。


ガクンガクンと板のようなものにぶつかりながら。


こちらの害獣はほとんどいない。もう大丈夫だろう。


「……銭谷さん!少しだけ戦線を離脱します!」


銭谷捜査官に離脱を告げ、私は誠二郎さまが落ちていった場所へと向かう。


誠二郎さまの無事を祈りながら。


※※※


誠二郎さまは緊急入院した。


診断の結果は脳出血。もう目覚めないかもしれないとも言われた。


全身から力が抜け、その場に膝をついてしまった。


その日から私はずっと、病室で付き添い続けた。


雨宮さんや、誠二郎さまの親友である桐生さんも、長くそばにいた。


だけど、私が一番長くその枕元にいたと思う。


…………早く……早く、起きてください。そして、いつもみたいに頭をポンポンとして、「心配をかけたな」って笑ってください。


誠二郎さまの手をずっと握りしめながら、私はそこから動けなかった。


※※※


…………誠二郎さまは3日後に目覚めた。


また抱きついて悲鳴を上げさせてしまった。でも、今回は見逃してほしい。


本当に……本当によかった……。


ちなみに、誠二郎さまの脳出血は、痕跡もなく消えていたとのことだった。


さすがは誠二郎さまだ。


これが普通ではないことは分かっている。でも……それを追及する気にはなれなかった。


私は誠二郎さまが無事であれば、それでいい。


それでいいのだ。


※※※


その後、誠二郎さまは一週間ほど入院していた。


誠二郎さまに二回もプリンを「あーん」できたのは、嬉しかった。


一回の「あーん」が雨宮さんに取られたのは、本当に悔しかった。


不満げな顔をしていたら、雨宮さんは口を引きつらせて弁解してきた。


「ボ、ボクも一回ぐらいは、有馬に『あーん』をしてみたかったのだ!許してくれたまえ!」


別に怒ってなどいない。雨宮さんは悪くない、悪くないのだ。


でも……あと数分、あと数分早く病室に来ていれば……!


悔しくて仕方なかった。


誠二郎さまが動けるようになってからは、「あーん」をお願いされることはなくなってしまった。


誠二郎さまはなぜかムーンウォークの練習を始めていた。意味が分からない。


意味は分からないが、きっと誠二郎さまのことだ。


何かの修練なのかもしれない。私もムーンウォークの練習をしたほうがいいのかもしれない。


入院して10日後。誠二郎さまが目覚めてから7日後。


彼は退院となった。


そして…………退院したその日、誠二郎さまは単身赴任になったと言って、この青葉市から去っていってしまった。


…………。


……え?


※※※


赴任先は、白峰(しらみね)研究学園都市とのことだ。


ここから数百キロも離れた場所にある、学術研究機関の多い都市だ。


メッセージを貰ったときは、あまりの衝撃に数分固まってしまった。


あくまで単身赴任とのことなので、いずれ青葉市へ戻ってくるそうだが……単身赴任?


誠二郎さまの会社は、株式会社テマリセージローという。以前、用心棒として株式会社クウデリへとお供したときに知ったことだ。


でも……その会社は一人法人のはず。誠二郎さまも、社員は誠二郎さましかいないと言っていた。


改めて気になるのは、その会社名だ。


――――『株式会社テマリセージロー』


テマリ……誠二郎さまのゲームのAIバディの名前らしい。そして、あの方が最も大切にしている存在だと、雨宮さんが言っていた相手。


小春に聞いたところだと、テマリは誠二郎さまのマブダチAIとのことだった。開発されたのは15年前。当時は、レベルゼロの誠二郎さまが作ったにしてはそこそこ優秀だと、有馬家で話題になったらしい。


小春が生まれた年なので、本人も親族から聞いただけらしい。


あと、テマリのアバターは、白銀の髪と青色の瞳、毬の形をした髪飾りが特徴的な、かわいらしい女の子だとも聞いた。


女の子……?


誠二郎さまは、マブダチAIの女の子アバターに、あの笑顔を向けていた?


胸がキュッと締め付けられるのを感じた。


※※※


白峰研究学園都市へと、私も行きたかった。


だが、私は聖藍学園の生徒だ。引っ越しするわけにはいかない。


単身赴任先でも、誠二郎さまとは普通に連絡が取れた。


通話にも出てくれるし、メッセージにも返信してくれる。


それだけは救いだった。


※※※


誠二郎さまが青葉市を去った数日後のこと。


私は銭谷特級害獣捜査官に連れられ、ニンペマン……誠二郎さまとヒト型の戦いの傷跡を視察するため、同行させてもらった。


害獣対策局では、正体不明の害獣が暴れたということになっているらしい。


だが、おそらく銭谷捜査官は、ニンペマンの正体に気づいているのだろう。彼が街とそこに住む人々を守るために戦ったことも。


私が誠二郎さまからいただいた人型害獣の情報を送ったことで、その相手の正体も察しているはずだ。


両者の戦いの跡は、恐ろしいものだった。


アスファルトにはクレーターができ、建物は壊され、車はぺしゃんこにされていた。


まるで、廃ビル周辺から青葉中央公園へと、線状に爆撃を受けたような……そんな有り様だった。


これで死人が出なかったのは、本当に奇跡だと思う。


きっと、誠二郎さまが誰も死なせぬよう、うまく立ち回ったのだろう。


誠二郎さまの言葉どおりだった。


これは……今の私が戦える相手ではない。


こんな破壊を引き起こせる者と戦って、勝てるイメージが湧かない。


きっと誠二郎さまは、白峰研究学園都市にも何らかの使命を持って赴いたのだろう。


…………私は強くならなければいけない。


今の私が誠二郎さまについていっても、ただの足手まといだ。


誠二郎さまの隣で胸を張って戦えるようになるために。


背中を預け合って戦えるような、そんな彼に頼ってもらえる存在となるために。


誠二郎さまからいただいた黒猫のフィギュアを空にかざし、じっと見つめる。


そして強く誓った。


私は強くなる。強くならなければならない。

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