虹色とゲームと単身赴任
青葉荘の二階、角部屋。
俺は自室へと戻ってきていた。
長かった。本当に長かった。
思えば、ニンペでアイリスとの対戦中だった。
確か、青葉フラッドが始まって、駅の近くに誰も知らないダンジョン地上接続点をテマリが見つけたんだった。
害獣対策局は青葉中央公園内の3つの地上接続口から出てくる犬型への対策でいっぱいいっぱい。
このまま放置すれば、駅前で大量の死者が出る。そこには子供もいる。それが我慢ならなくて、仕方なくアイリスとの試合を放棄し、俺はニンペマンとして飛び出し……そこにいたヒト型と戦い……10日も入院していた。
アホらしい。俺は何をやってるんだ。波乱万丈すぎだろ。
俺は、テマリとゲームしてうな重食ってれば幸せなのに。
今日のデイリーミッションは終了済みだ。例のムーンウォークミッションだ。
でも、明日からはずっとここだ。また無茶なミッションが発生するのかもしれない。
だけど、もういい。今は忘れようじゃないか。
俺は目の前の愛しのゲーミングマシンを見つめる。
傍らにぷかぷかと浮いているテマリも、輝くような笑顔だ。
「テマリ、やるか!」
『誠二郎、やりましょう!』
そして、二人で拳を握り、天に掲げる。
『「ニンペを!」』
※※※
<Ninpex ランク1 アイリス視点>
Sageが私に頭を下げて試合を放棄してから、何日くらい経っただろうか。
あれからNinpexにSageは現れていない。
もしかしたら、彼に何かあったのかもしれない。
チームメイトから声をかけられる。
『アイリス、元気ないな?愛しのSageがNinpexに来なくなっちゃったもんな。でも、そのおかげでずっとランク1だぜ?』
「そんなの嬉しくありませんわ……。せっかく勝ったり負けたりできる相手が見つかったというのに……」
SageのいないNinpexのランク1など、何の意味もない。
それでも私はNinpexを毎日起動して、長時間プレイした。Sageが戻ってくるのを心待ちにして。
それなのに、Sageは帰ってこなかった。
レベル8となった私には、もうSage以外の相手と戦っても試合にならない。ヌルゲーすぎて、Sage以外では満足できない体になってしまったのだ。
Ninpex、なんだかつまらないな……そろそろ引退しようかな……。
そんな考えが頭をよぎり始めた頃だった。
私はNinpexを立ち上げる。気分転換に、チームメイトには連絡せず、野良プレイヤーとしてプレイすることにした。
対戦相手を決めるマッチング待ちの画面が開く。
少し待つと、マッチングリストが決定した。
エナジードリンクをゴクリと飲み、糖分を補給し、視線を上げる。
スクリーンには、待ちに待ったプレイヤー名が表示されていた。
――Sage
そう、彼はとうとう戻ってきたのだ。
野良として入った私の、味方プレイヤーとして。
胸が高鳴る。
いや、でも、このプレイヤーが本物のSageとは限らない。
最強プレイヤーのSageを騙る偽物かもしれないのだ。
スーハースーハー。
冷静になれ。冷静になるんだ。
どうせ、プレイを見れば分かる。Sageとは何百回も戦ってきている。
偽物なんて、試合が始まればすぐに見抜ける。
そして……ついに試合が始まる。
仲間なので、リスポーン地点は同じだ。
見覚えのあるSageのアバターだ。だが、外見まで似せた偽物という可能性もある。
ニンジャを操作できるようになった直後だった。
Sageのニンジャがこちらへ向き直り、深くお辞儀をした。
……間違いない、Sageだ。
最後に試合を放棄されたときと同じお辞儀!
歓喜の刺激が、脳内を駆け巡る。
「来た、来た、来た、来た!来ましたわ――――!!」
Sageが戻ってきた!Sageが戻ってきた!
数時間後……。
私は、Sageとの戦いでドパドパとあふれた脳内快楽物質の余韻に浸っていた。
やっぱりSageとの試合は最高ですわ。
ニンペを終了させ、画面の上を流れていく動画サイトのニュースラインをぼーっと眺めていた。
……青葉フラッドの抑え込みに完全成功?
珍しい……フラッドが発生したら、数百人、数千人単位の死者が出るのに。
運が良かったのか、国の害獣対策局が優秀なのか……。
そんなことを考えながら記事を開き、流し読みする。
発生日は8月18日か……ん?8月18日?それって。
Sageが消えたのと同じ日じゃないか?
私の目はスクリーンの記事に釘付けとなっていた。
※※※
ふー。やっぱりアイリスとの戦いはいいな!今日は、仲間として一緒に遊べたりもしたしな!
『アイリスさんが野良なのは珍しいですね!あと、たぶんですが……彼女、クミヒモシステムのレベル、上がってますね!以前より明らかに強くなっています!』
「だよなー。俺も思ったわ。」
相手の実力は同じくらいか、ちょっと上くらいがちょうどいい。アイリスは俺が強くなるたびに、負けじと腕を上げてくれる。最高の好敵手だ。
アイリスがニンペにいてくれることに感謝だな。
こっちが大会にでも出られれば、会ってニンペトークとかできるかもだけどな……。
レベルゼロの俺は、大会には出られない。目立ってクミヒモ神会やレベル至上主義者に目をつけられたくない。
まあ、ニンペのプレイで語ればいいか。
そんなことを思っていたときだった。
天井付近に浮かんでいたテマリが、申し訳なさそうに降りてくる。
『誠二郎、残念なお知らせです。メインミッションが発生してしまいました。』
「今日、退院したばかりなのに!?」
入院して十分休んだから、働けということなのか!?
くそ……文句を言っても始まらない。俺はもっと楽して生きたいのに!
視界表示に現れるミッションの通知。
――――『白峰研究学園都市へと単身赴任せよ。』
単身赴任だと!?なんで?どうして?
何しにだよ!
もし気に入っていただけたら、【ブックマーク】と【下の評価 ★★★★★】をお願いします。




