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マブダチ美少女AIのデイリーミッションでこっそり現実攻略!〜レベル0のおっさん。分かる人には分かる強者となってしまう〜  作者: けーきまる


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虹色と全方位視野と新たなレベル8

雨宮にプロポーズをされ、彩葉が床を四角くくり抜き、現実逃避に皆でうな重を食べた。


その後数日のデイリーミッションは軽いものばかりだった。


――『くり抜かれた床を修繕せよ。』


――『ニンペで全方位視野を使用せよ。』


無茶振り系もない。羞恥系もない。なんて素晴らしいのだろう。


初日のミッションは、彩葉にくり抜かれた床の修繕だった。彩葉に電話をかけて、業者を手配してもらう。


そして出来上がったのは、なぜか開閉可能な扉のような床だった。


開くと梯子まで付いている。


階下をのぞくと、簡易的な机と、ベッドも置いてあり、住もうとすれば住めるような形になっていた。


彩葉に聞いてみると、


「……わ、私はあまりそちらを使いませんので、誠二郎さまがご自由にお使いください。そのために、誠二郎さまの部屋から、い、いつでも入れるようにしました。」


とのことだった。ただ俺としては、部屋の広さは今のままで困ってない。正直、使えと言われても使い道がない。


ど、同棲みたいじゃないか。


大丈夫なのか?これ?


※※※


次の日のミッションは『全方位視野』を使用せよとのことだった。


『全方位視野』ってなんぞやと思っていると、虹色の瞳のテマリが胸を反らす。


『誠二郎に、死角はなくなりました!「全方位視野」により、今の誠二郎は、真後ろも見えるのです!テマリシステムのおかげです!』


むむむ。


戦闘系の能力か。テマリシステムにこんなのが載っているということは、やはり俺は戦うことになるのか。


まあ、目の前にフラッドが差し迫ってるし、身を守る術は持っておいた方がいいだろうから文句ないけど。ゲーミングマシンも守らないとダメだしな!


『誠二郎!とりあえず、ニンペで試してみましょう!』


そうか。ミッションにも書いてあった。ニンペでも使えるのか。うまく使えれば、後方も確認しながら戦えるわけか。


なかなか面白そうだ。


「テマリ!『全方位視野』頼む!」


『はい、誠二郎!慣れるまで気持ち悪いかもしれませんが、頑張りましょう!』


相手はアイリスのチームだ。この俺の新能力を試す相手として丁度いい。この金満金髪高レベル美少女ゲーマーめ。


しばいたる!


そして始まる試合。


俺のニンジャが地面に降り立った瞬間だった。


頭の中に大量の情報が流し込まれる。


ぐっ、なんだこれは。き、きつい。全周囲の情報が一度に頭に流れ込んでくる。


ま、前はどっちだ……?


て、敵はいる。相手や味方の動きも見えるのに……自分の位置がつかめない!


まっすぐ進むことすら、難しい。


これは、俺が……俺の脳が情報を処理しきれないのか?


だけど全部見える。敵の動きも味方の動きも、全部ひとつの視界に入る。


『誠二郎!全方位視野は慣れが必要なものです。あまり無理をなさらずに!』


テマリはそう言うが、俺は興奮が隠せなかった。


前後左右上下、すべての方向が一度に理解できる。さらに、そこにテマリの視界表示アシストが入るのだ。


すごい……すごいぞ……。これに慣れることができれば、きっと俺は最強のニンペプレイヤーになれる。


『全方位視野』……絶対にものにしてみせる……!


※※※


<Ninpex ランク2 アイリス視点>


私の前に立ちはだかる大きな壁、Sage。


だが今日の彼は、なんというか……弱かった。


「今日のSage、いまいちじゃありません?」


『なんだかふらふらしてるな。エイムもひどいもんだし。こっちとは逆方向にシュリケンを投げたりな。』


チームメイトも不思議そうにしている。


『対面なんて一勝もできてないんじゃないか?アイリス、さっきランク1に戻ったろ?』


「ええ……」


私のチームは、今日はSageに負けなかった。全勝である。


いつもならこちらが勝てるのは、だいたい2割ほど。でも今日はSageが現れた試合はすべてこちらが勝っている。


『おい、おかしくねーか?動かしてるプレイヤーが違うのか?友達に遊ばせてあげてるとか?遊びに来た従姉妹が勝手にアカウントつかってやってるとかか?』


最初は私もそう思ったが、おそらく違うだろう。


相手を倒した後、刀をわずかに下げる癖。シュリケンを投げる判断の速さ。


それらのSageの特徴は同じなのだ。


きっと、中の人は今までと同じだ。


……でも、何でしょう。この薄ら寒さは。


まるで、芋虫がサナギになったような。そして蝶へと羽化する直前のような。


ダメだ。気を抜けない。きっとSageは近いうちに……また最強プレイヤーとして戻ってくる。


それも、前より強くなって。私はそんな気がしてならなかった。


このままではダメな気がします……もっと……もっと……基礎を磨き上げなければ……!


そのときだった。十年以上も越えられなかった壁を、私はなぜか乗り越えてしまった。


素っ頓狂な声を上げてしまう。


「え……?」


『どうした、アイリス。急に、変な声を上げて?』


チームメイトの怪訝そうな声が聞こえてくる。


それに答える私の声は、自分でも驚くほどかすれていた。


「わ、私……いまレベル8になりましたわ……」


金欠高レベル美少女ゲーマー(38)が新たな領域へと足を踏み入れた瞬間だった。


※※※


俺は今、便器に顔を突っ込んでいた。


「うげぇっ!ごほっ!ごほっ!」


胃の内容物を吐き出している。嘔吐という苦痛が全身を支配していた。酔った。完全に酔った。


眉をハの字にしたテマリが、心配そうに声をかけてくる。


『誠二郎、大丈夫ですか?ちょっと無茶をしちゃいましたね!今日は抑えめに行ってもよかったのですよ?もうデイリーミッションは達成してますし!』


「調子に乗った……。で、でも大丈夫だ。ちょっと頭に流れこんでくる情報量に酔っただけだからさ……」


『誠二郎、頭が痛かったりはしませんか?』


「だ、大丈夫。頭痛はない。乗り物酔いみたいな感じだ。これで死んだりとかはないよな?」


『おそらくは。今までにない視界からの情報と、平衡感覚からの情報の間に不整合が発生したのでしょう。まさに乗り物酔いと同じ症状です。身体に直接的な害はないと思われます!』


「じゃあ、落ち着いたらまたやるから。……そうか。ゲームじゃなくても、『全方位視野』はオンにできるのか。テマリ、やってくれ。」


『誠二郎。それは可能ですが、本当に大丈夫ですか?』


「大丈夫だ、問題ない!」


俺の言葉に、テマリの虹色の瞳がキラキラと輝く。


『さ、さすが誠二郎です!ゲームで勝つためなら平気で自らを追い込むその姿!私、感服しました!』


今のテマリのロングTシャツには『ゲーム脳』とプリントされていた。否定できない。否定できないけどさぁ……。


『ですが、誠二郎は勘違いしています。全方位視野はテマリシステムの一部。私の能力ではありません。誠二郎の意思で行使できるはずです。「消却」と同じですよ。』


「『消却』と同じか。じゃあこれは事象記述操作ってやつなのか?」


『はい!テマリシステムを介して複雑な事象記述操作を実行している形になります!ですので、これは誠二郎の力なんです!』


「そうなのか!じゃあなおさら、早く身に付けたくなってきたぞ!トリガーワードとかはあるのか?」


『トリガーワードは特にありません。誠二郎が、周りを全部把握したいと思うだけで大丈夫だと思います!』


どうやら、中二詠唱は今回は必要なさそうだ。


「えっと……周りを全部把握したい。周りを全部把握したい……ふんっ!」


その直後、流れ込んでくる周囲の全視覚情報。


ぐっ!急に入ってくる膨大な情報に、脳が悲鳴を上げているのが分かる。だ、だめだ。座ってられない。


俺はバタンと後ろに倒れ、背中を畳につける。ひやりとした感覚が火照った脳に心地良い。


『成功しましたね!さすが、誠二郎です!』


天井を背にぷかぷか浮いているテマリが見える。テマリはニコニコしているようだが……見え方に違和感しかない。様々な角度のテマリの姿が重なって、頭に入ってくるのだ。


瞳に映る、虹色の光も含めて。


「せ、成功したけど……気持ち悪い……うっぷ。」


『誠二郎、大丈夫ですか!?私の瞳の「境界眼」は直視しないほうがいいかもしれません!瞳に映った「境界」を複数の角度から観測するのは、人間には負荷が高すぎます!』


「だ、大丈夫だ……耐えられなくなったら目を閉じればいい。」


『それはそうですが……お辛いでしょう?』


もちろん辛いのは嫌だ。


だけど……ただのレベルゼロだったあの頃の、未来がない絶望よりは100倍マシだ。


「テマリ。俺はこのまま暮らす!『全方位視野』のまま日常生活を送るから!」


…………


俺の宣言を聞き、少しの間、目を閉じ黙りこくるテマリ。


そしてクワッと、その虹色の目を開き、強く言葉を放つ。


『誠二郎、分かりました!私も、マブダチとして覚悟を決めましょう!全面的にサポートいたします!大丈夫です、ミッションの報酬は身体補修です。万が一、誠二郎の脳細胞に負荷ダメージが入っても、夜には回復します!外出時も、危ないときは私がなんとかします!ご安心を!』


「ああ、頼むぞテマリ!俺の介護をっ!お前はこれからケアマネージャー・テマリだっ!……う、うぷっ!」


オロロロロロ……。

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