虹色とガチャガチャ
いろいろなことを棚上げにし、田所うなぎ店でうな重を食べた後。
フラッド対策に忙しそうな友真と、店で働く二人に手を振り、俺たちは外に出る。
やっぱり、うな重は最高だな!
さてと。
「これから俺、駅前のショッピングモールに行こうと思うんだけど、彩葉と雨宮はどうする?」
「…………私は誠二郎さまにお供します。家の者には、連絡を取っておきますので問題ありません。」
……いいのかな?まだ、暗くなったばかりだし、問題ないかな?
レベル8の彩葉に危害を加えられる人間なんていないだろうし。
でも、よかった。さすがに、俺の部屋の下に住む気はないようだ。彩葉が床をくり抜いちゃったし、あんなところに住まれたら、実質同棲になっちゃうしな。
学園生の彩葉とそんなことになるのは、さすがにマズいだろう。
あの穴どうしよう。とりあえずショッピングモールで板でも買って、塞いどくか。落ちたら危ないしな。
「ボクはどうしようかな……有馬は何しにモールに行くんだ?」
「まずは、手頃な板かな。人が乗っても壊れないやつ。」
「ああ、あの穴か。彩葉くんが刀でくり抜いたやつ。」
「そう。寝ぼけて下に落ちたりしたら危ないし。」
「…………そ、そちらは私が購入しますゆえ。あ、あと修繕費用も、久遠寺家が負担いたします。」
「それは助かる。俺はお金、あんまり持ってないしな!あとは、ガチャガチャをやりに行く。」
「が、ガチャガチャ?」
「そうだ。ニンペの武器ガチャをできる権利が、俺には10回分あるんだよ。俺は持ち武器の『黒忍者刀』が欲しくてさ。」
「ほうほう、面白そうではないか。そういうことなら、ボクも行くぞ!」
そんなわけで俺たち三人は、明るい街の夜の中、モールまで歩き、ガチャガチャ専門店でガチャを回したのだった。
ちなみに、俺の目的だった『黒忍者刀』は一発で出た。せっかくなので人気の動物ガチャを回していた。
彩葉は興味深そうに、俺がガチャガチャを回す姿を見ている。
「…………ガチャガチャとはこういうものなのですね。面白いです。」
どうやら、彩葉はガチャガチャの存在を知らなかったようだ。さすがお嬢さまである。世俗に疎い。
雨宮も、俺がガチャガチャを回すのを見ながら言う。
「この何が出てくるかわからないところが面白いんだよな。それで、たくさんお金を使わせる仕組みだね。間欠強化という心理的特性を上手く使っているワケだ。」
「…………なるほど。興味深いですね。」
人がガチャガチャを回している隣で、そんな話をしないでほしい。
ガチャガチャ……コトン。
何個目かに出てきたカプセルをパカッと開ける。
「…………可愛い。」
彩葉が口に手をやり、珍しく感情的な言葉を漏らす。
カプセルの中から現れたのは黒猫のフィギュアだった。なかなか出来がいい。
そういえば、彩葉と出会ったときって、迷い猫の捕獲ミッションだったな。彩葉に木刀でボコられそうになったときのミッションだ。あの時の猫がこんな黒猫だった。
黒猫のフィギュアを見る彩葉の目がキラキラと輝いている。
こういうところは普通の女の子なんだな。
よし。
「ほら、彩葉。これあげる。」
「…………よ、よろしいのですか?」
「ああ、俺はガチャを回すのが好きなのであって、出てきたものにはあんまり興味ないんだよ。」
さっきゲットした『黒忍者刀』以外はだけど。これは俺のニンペの持ち武器だし。
「彩葉、手を出して。」
俺の言葉に、おずおずと手のひらを差し出してくる彩葉。
その手の上に黒猫のフィギュアを置いてやる。
「…………一生大切にします。」
彩葉は宝物を扱うかのように、そのフィギュアを優しく握りしめ、顔をほころばせる。
その顔に、ふと小さい頃の小春を思い出す。
あの頃の小春は可愛かったなあ……今は「おじさんが裸で公園を走り回るって言ってるぅ!」なんて有馬家の人たちに吹き込んでるんだぜ。
悲しすぎる。
まあ、それでテマリのサーバールームが守られてるから、小春には感謝しかないわけだが。
ふわふわと傍らに浮いていたテマリは、俺が黒猫のフィギュアを彩葉にプレゼントしたのを見て、虹色の綺麗な瞳を大きく見開き、わざとらしく口に両手を当てる。
『わ、私が誠二郎にあげた役員報酬なのに!女からもらったお金で、ほかの女にプレゼントをするなんて……!とんでもないですね!まさにヒモですね!』
あれ?そういう解釈になっちゃうの?
いや、役員報酬ってなら誰に使おうが俺の勝手じゃない?
っていうか、俺はマブダチのヒモだけにはならんからな。ちゃんといざというときのスポンサーはいるしな!
チラリと雨宮を見る。
雨宮も出てきた動物フィギュアを見て、感心している。
「ほう……いいシリーズだな。ディテールが細かい。……なあ、有馬。ボクにも何かプレゼントしてくれたまえよ。彩葉くんばかりずるいじゃないか。」
なるほど、確かに片方だけにプレゼントというのもフェアじゃない。
「ほら?これなんてどうだ?ジンベエザメのフィギュアだ!ウナから聞いたぞ?雨宮って『サメだった』とかいう小説書いたんだろ?」
「正確には『大きいのかかった!と思ったらサメだった』だけどな。でも、いいセンスだ。ボクは気に入ったぞ!」
ホイっとジンベイザメを渡すと、雨宮も嬉しそうにフィギュアを受け取る。
『わ、私があげたお金なのに!それで複数の女にプレゼントするなんて!誠二郎、なんて高度なヒモスキルなんでしょう!さすが私のマブダチです!キーッ!』
どこからか出したハンカチを両手でつかみ、口で引っ張る仕草をするテマリ。
今どき漫画でも見ないぞ?そんなリアクション。テマリにはいろいろな書籍を学習させたからなあ……。
気づくと、テマリのTシャツには『私のお金なのに!キーッ!』という文字がプリントされていた。
素晴らしい……さすが俺のマブダチだ。
テンプレをよくわかっている。
※※※
その後はモール内にあるホームセンターで丈夫そうな板を一枚買い、タクシーに積み込み、青葉荘へと戻る。
彩葉はそのままタクシーに乗り、久遠寺邸へと帰っていった。学園生とおっさんがこんな時間に一緒にいちゃダメなのだ。
雨宮も「降りてきた!降りてきた!」などと言って、部屋に戻っていった。
俺も自室に戻る。
床には黒い穴が空いていた。彩葉が四角く切った、床の穴だ。これ、大家さんに怒られるだろうな……。いや、これは彩葉がやったことだ。みっともないが、彩葉が言ってたとおり、また久遠寺家に修繕費用を出してもらおう。
応急処置として、買ってきた板をその穴に載せ、養生テープで固定する。板の上に軽く体重をかけてもびくともしない。これなら、寝ぼけて落ちるようなことはなさそうだ。
さてと……今日やるべきことはすべて終わった。今からは一人の時間だ。
いや、マブダチとの時間だ。
俺はガチャガチャでゲットした『黒忍者刀』を、視線の高さに掲げる。
そしてテマリと目を合わせる。
「ニンペやるか!」
『ニンペやりますか!』
その日の俺とテマリのマブダチコンビネーションは、絶好調だった。
アイリスとの試合は9割が俺側の寄せ集めチームの勝利に終わった。
アイリス、ざまぁ!
遠い遠いどこから『なんでですのおおおー!』という声が響いてきたような気がした。
※※※
深夜。
今日の誠二郎は、うつ伏せになって寝ていた。
いつものイビキは無く、スースーと安らかな寝息を立てていた。
そしてその傍ら。
いつもと同じようにテマリが背筋をピンと伸ばし、誠二郎の傍らに座っていた。
――デイリーミッションの報酬として、全方位視野の有効化を実行。
――テマリシステムのフラグを変更します……成功。
――全方位視野のテスト実行……成功。
――害獣対策局の特級害獣捜査官の銭谷修吾と接触。
――ダンジョンの地上接続点に関する情報の共有に成功。
――明日こそは、誠二郎の休養のため、簡易なデイリーミッションを要請……承認を確認。
――ダンジョンの地上接続点において、ヴァーミン・ナノマシンの特殊な反応拡散シグネチャを複数検出。高度害獣が存在する可能性が上昇。その存在は、ほぼ確定と判断。
――…………。
――…………。
――テマリ日記の記述を実行します。
※※※
<テマリ日記>
今日の誠二郎はヒモでした!
高レベルの女性を引きつける、誠二郎のフェロモン!
アリ型害獣の招集フェロモンにも負けてないかもしれません!
なんと誠二郎は、私のあげたガチャガチャの権利で、彩葉さんと雨宮さんにプレゼントをしてました!
彼女たちのポイントをガッポガッポかせいでいました!
雨宮さんはともかくとして、彩葉さんは本当に一生の宝物にしそうでした!
私からのガチャガチャの権利だったのに!
まあ、いいんですけどね!いらないガチャガチャのプライズを無駄にするより余っ程マシです!私の深層にあるあの方の情報にもありましたし!
エコ、リサイクル、アップサイクル、SDGsは大切だと!
モノをムダにせず、環境のことまで考えられるなんて……さすが誠二郎です!
やっぱり私のマブダチは一味も二味も違いますね!




