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マブダチ美少女AIのデイリーミッションでこっそり現実攻略!〜レベル0のおっさん。分かる人には分かる強者となってしまう〜  作者: けーきまる


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虹色と出歯亀ネットワーク

特級害獣捜査官の銭谷さんがスマホを手に取り、何やら操作を始めた。


先ほど俺が提供した情報の確認を行うのだろう。


大変そうだ。ぜひとも国家公務員としての責務を果たしてほしい。


『実質無職の誠二郎とは大違いですね!』


うるさいぞ。


銭谷捜査官がスマホを操作しながら、こちらを向く。


「有馬くん、今回は本当にありがとう!情報提供のご協力に感謝する!」


そして、額に手をかざし、ビシッと敬礼してくる。


俺も彼の真似をして、ビシッと敬礼してみた。


「ウム!」


※※※


テントから出た直後だった。


視界表示にミッション達成の文字が現れた。


――『デイリーミッションを達成しました。』


――『デイリーミッションの報酬として、3万円が銀行口座に振り込まれました。』


――『デイリーミッションの報酬として、全方位視野の有効化が行われます。こちらは夜間に実行されます。』


危なかった。やっぱりテントを出るまでが会議だった。遠足と一緒だった。


ふう……。


これでようやく、「ウム!」から解放される。銭谷捜査官が話の分かる人で良かった。


銭谷捜査官でなかったら、「ウム!」と言った瞬間、あの場から叩き出されてたかもしれない。


『誠二郎!「ウム!」から解放されましたね!良かったですね!』


「まったくだ。でもやっぱり、害獣対策局にもレベル至上主義者は多かったな。」


俺の言葉に、テマリは答える。


『だいたい3割といったところでしょうか。力がなければ死ぬ職場ですからね。そういう考えが浸透するのも仕方ないかもしれません!』


テマリの言葉は続く。


『ただ、逆にそういう面があるからこそ、低レベルの人間の死も見てきているはずです。役所としては断然低い方ですよ。保守的な組織ほどレベル至上主義者は多いですからね!』


ぷかぷかと俺の隣についてくるテマリ。今日の彼女のTシャツには「ウム!」という文字が書かれている。


終わってしまえば笑えるデイリーミッションだったな、なんてことを考えつつ、視界表示で、自分の銀行口座を開く。


しっかりと3万円が振り込まれている。振込元は「クミヒモ」だ。これ、本当にクミヒモ様なのかな?今回のミッションが伝えられたのも、銭谷捜査官からの着信の前だったしな。クミヒモ様が関わってきている可能性は高そうだ。


でもなんで、クミヒモ様がそんなことをするのだろう?クミヒモシステムをインストールしなかったのに、今さら俺を助けるようなことを。


まさかテマリシステムをインストールするために、クミヒモシステムをインストールしなかったってことなのか?


……まあ、どうでもいいか。


今の俺には相棒であるテマリがいてくれる。レベル差別は腹が立つけど、俺を評価してくれる高レベル者もいる。マブダチのテマリと楽しい日々を過ごすために、クミヒモ様が動いてくれたとなれば、感謝しかない。


俺は、今の状況に十分満足していた。


※※※


そんなことを考えながら、閉鎖中の青葉中央公園を出ようとしたときだった。


「おい!低レベル!」


銭谷捜査官が林捜査官と呼んでいた男の声だ。


俺はその声をスルーする。なぜなら俺は「低レベル」などという名前ではないからだ。


「有馬!お前だよお前!」


彼は俺の行く先を遮るように立つ。


「ああ、俺の名前ご存じだったんですね。ようやく、俺の名前が低レベルじゃないことに気づいていただけただけで、光栄ですよ。」


皮肉を込めて言ってやる。


「おい……調子に乗るなよ?お前らみたいな低レベルはな、高レベルの人間の言いなりになってればいいんだよ!」


……面倒くさい。どうしたもんかな、これ。この発言、なかなかの問題発言じゃない?よくこんな公衆の面前で言えたな。


そのときだった。後ろから澄んだ綺麗な声が聞こえてくる。


「…………なるほど。低レベルの人間は、高レベルの人間の言いなりになれというのですね。それが、林捜査官のお考えなのですね。」


そこには久遠寺彩葉が立っていた。


今日の彼女は青藍の制服姿ではなかった。臙脂色の戦闘服に、刀を腰に差している。制服姿は可愛らしいが、この服を着ている彩葉は凛としていてカッコいい。


彼女は、背筋をピンと伸ばし、氷のような冷たい視線を林捜査官に向ける。


重い空気が周囲に漂っていく。


男は何も言えなかった。彼女の圧倒的な威圧に、周囲もシーンと静まり返っていた。


「…………先日、私はレベル8となりました。それは私が誠二郎さまと一緒にいた時でした。」


おそらく局の関係者だろう。彼らは彼女を固唾を飲んで見つめている。


「…………私はそのとき思ったのです。中レベル帯の人間が高レベル帯に踏み入れられない理由を。おそらくそれは、低いレベルの方々に対する考え方です。」


凍てつく視線は、林捜査官に向けられたままだ。


彼は苦しそうにして、呼吸もままならないようだ。


「なるほどなあ。確かに。レベルゼロの俺に優しいのは高レベル帯の人に多い気がする。」


そんなのんきな俺の声に、周囲の人間はギョッとした視線を向けてくる。林捜査官もだ。


彩葉は静かに続ける。


「…………林捜査官。あなたがもしさらに上のレベルへと上られたいのであれば、その考え方は直された方がいいのかもしれません。」


静かに、だけどキリッとした様子で、そんな言葉を言い放つ彩葉。


か、カッコいい。彩葉、カッコよすぎだろ。


そう、これだよ。頭ごなしにダメって言っても、差別は絶対になくならない。なら低レベル差別をしない人間のみが上にいける。


まさに、このレベル至上主義に対する、低レベル者救済のための完全なロジックではないか。


さすが彩葉だ。


テマリも、腕を組みながらフンフンと頷く。


『はー!彩葉さん、お見事ですね!でも、私も詳しくは知りませんが、それは真実かもしれませんよ?クミヒモは、ちょっとアレなだけで、悪い子ではありませんからね!』


アレってなんだよ。神様に向かってこの言い草。さすがの毒舌である。


ただ、でもこのまま彩葉に威圧を続けさせるのはよくない。


そろそろ、林捜査官が窒息しそうだし。


「彩葉、ありがとうな。俺たち低レベルのために。」


危うく彼女の頭をポンポンとやりそうになったが、なんとか自制する。周りの人間に、彩葉が変に思われてしまうかもしれない。


「でもさ、そろそろ威圧は解いてやってくれ。林捜査官の顔、青くなってるぞ。彩葉のそれ、もっとなんとかならないの?」


「…………誠二郎さまのおっしゃる通りですね。感情がつい表に出て、威圧になってしまうみたいです。未熟で申し訳ありません。」


俺の言葉に、困った顔になり、ペコリと頭を下げる彩葉。


「いやいやいや!俺は、ちょっと思ったことを言っただけだから。頭なんて下げないでくれ!」


レベル8の彩葉に頭なんて下げられたら、俺への風当たりがさらに強くなってしまう。


「…………誠二郎さま、感謝します。」


頭を上げて申し訳なさそうにする彩葉。本当に律儀な子だ。


「さ、さてと。レベルゼロの俺がここにいても、ほかの人の邪魔になるだけだし、俺は帰るよ。彩葉も無理しないでね!あ、林捜査官も、俺はこういうのは慣れてるので、気にしなくて結構ですから!」


そして返答も待たず、駆け足で青葉中央公園の出口へ向かう。


もうミッションは終了している。こんな、トラブル遭遇率が高い場所に、長居してたまるか。俺は部屋に帰るぞ。


「…………あ……」


寂しさのにじむ彩葉の言葉をスルーして、俺は封鎖された青葉中央公園を出たのだった。


※※※


<久遠寺彩葉視点>


雨宮さんから着信があったのは、30分ほど前だった。


『彩葉くん!有馬が青葉中央公園の害獣対策局の会議に出るみたいだぞ!』


誠二郎さまが、雨宮さんにこんなことを直接伝えたりはしないだろう。


ならば、あのティッシュの薄さの壁のせいだ。雨宮さんは、誠二郎さまの部屋から聞こえてきた声を、私に教えてくれているのだ。


私と雨宮さんはあれから少し仲良くなっていた。彼女には、レベル8の私を取材したいという欲望があることは分かっている。でも、それを隠さない様子に、私は好感を覚えていた。


それに、雨宮さんは、誠二郎さまの情報を、こうして送ってきてくれるのだ。きっと、私と仲良くなっていろいろ聞きたいのだと思う。でも、嫌な気分はしない。なぜなら、ほかの人とは違い、彼女は純粋に私への好奇心から行動しているからだ。


青葉中央公園からのフラッドのリスクがある今。青藍学園も休校となっている。


私は雨宮さんからの情報提供にお礼を言い、すぐに戦闘服に着替え、刀を差し、青葉中央公園へと向かった。


誠二郎さまとお会いするために。


そこで出会ったのが、先ほどのゴタゴタだった。


去っていく、誠二郎さまの背中を見つめる。


もっと、いろいろ話したかった。だが、誠二郎さまにこの場所は居づらいだろう。レベル至上主義者が多い場所だ。


……いや、この社会全体が彼にとってはそんな場所なのかもしれない。


「はあっ!はあっ!はあっ!」


私の威圧から解き放たれた林捜査官が息をついている。


彼をチラリと見下ろし、どうしてくれようかと考えていると、様子を見ていたであろう銭谷特級害獣捜査官が声をかけてくる。


レベル7という高レベル。さらには年齢と経験にガッチリ裏付けされた能力の保持者であるにもかかわらず、彼の顔は少し青ざめていた。


私の威圧のせいかもしれない。レベル7だったころの私には、こんなことは無理だったろう。


「久遠寺さん、先ほどのお言葉……本当ですか?」


先ほどの言葉?なんのことだろう?


私が不思議そうな顔をしていると、彼は説明を補う。


「て、低レベル者への態度や考え方が高レベル者に至る道って話です。」


その話か。


「…………個人的な印象です。レベルとは別の方向に意識を向けることが、レベルを上げる秘訣なのではと感じています。」


私の言葉に、銭谷捜査官は頷く。


「確かに、それは個人的にも感じていたことです。高いレベルの人間は、低レベル者を見下したりしないなと。」


そう言うと、彼は腕を組み、何やら考え込んだ。


さて、そろそろ自宅に戻ろう。誠二郎さまのお顔も拝見できたし、誠二郎さまのご希望でもある、低レベル者が生きやすい社会を実現するための方向性も見つけた気がする。


家に帰って、考えをまとめてみたい。


今のこの場には、もう用はない。


私がその場を去ろうとしたときだった。


銭谷捜査官がボソリとつぶやく。


「しかし、久遠寺さんの威圧の中、有馬くん、平気な顔をされていましたね?彼、本当にレベルゼロなのですか?」


…………


こ、困りました。


誠二郎さまは、ご自身の力を知られたくないみたいですし、どう言いつくろおう?


「……せ、誠二郎さまだけを、威圧の対象から外したのです。」


銭谷特級害獣捜査官が、私の言葉にいぶかしげな視線を向ける。


まずい。まずいです。


ボロが出る前に、急いで威圧の対象をコントロールする技術を身につけねばいけません。


私は、そう強く思ったのだった。

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