虹色と早速バレるニンペマン
木から飛び降りた俺と彩葉。
彩葉はそのまま周囲のアリ型害獣へと斬りかかる。
「ふっ!」
横薙ぎ一閃で2体をスライスする彩葉。強すぎである。
俺も負けてはいられない。ここでしっかりとフラッドを抑えておかないと、俺のゲーミングマシンがやばいのだ。
――――『消却。』
両手に黒い光の炎が宿る。
『誠二郎!移動ルートラインと、両手の置き場を示すハンドポイントガイドを視界表示します!でも、あまりたくさんのアリ型を誠二郎が倒してはいけませんよ!』
え?なんでだ?
『消却は、害獣を消し去ってしまいます。残骸が残りません!害獣対策局がアリ型の数を見て、事態を軽く考える可能性があります!』
くそ。そんなことまで考えないといけないのか。
俺はガイドに従い、2体のアリ型を消滅させつつ、背中を預けている彩葉に声をかける。
「彩葉!俺のやり方だと、害獣の残骸が残らない!できるだけ多くの害獣処理を彩葉に任せたいんだけど、大丈夫か!?」
右前方のアリ型を右袈裟で斜めに切り開いた彩葉が答える。
「……問題ありません!対策局に事態を軽く見られないためですね!」
すぐに理解を示してくれる彩葉。
さすがである。
「……誠二郎さま、ここはもう一人でも大丈夫です!散らばったアリ型の処理をお願いします!……ふっ!」
彩葉がアリ型の首を落としながら答える。これなら本当に大丈夫そうだ。
「分かった!ここは任せる!気をつけろよ!」
「……誠二郎さまも!」
彩葉の後方にいたアリを一匹消滅させ、そのままアリ型が密集している地上接続点を離れる。
テマリが示す移動ルートに従い、森を駆ける。
「テマリ!散らばってるのは何体だ!?」
『8体です!地上接続点周辺は彩葉さんに任せて問題ないでしょう!誠二郎は、この8体に集中してください!』
「分かった!」
視界表示に現れるハンドポイントガイド。俺はそこに手を置く。
高速で移動し、接敵と同時に俺の手に触れ「消却」されるアリ型。
残り7体。
森を駆け抜ける。次々とガイドが表示され、そこに手を置く。
『6、5、4、処理しました!残り3体です!』
移動ルートに現れ、次々と消えていくアリ型。いいペースだ。
『誠二郎!2体が一般人と接触しそうです!こちらへ!』
移動ルートラインが、突然ほぼ逆方向へと変更される。くそ。死傷者とか勘弁だ。
Uターン直前に、一体を消却し踵を返す。
俺は土を踏みしめ、新しいルートを駆け抜ける。
『残り2体、一般人と接触します!10メートル先です!』
くそ、間に合ってくれぇぇぇ。
「うっきゃーーーーー!!」
響いてくる、なんとなく聞き慣れた女性の悲鳴。頼む、無事であってくれ!
「しょ、小説家スティンガー!」
その訳の分からない叫び声に、テマリが瞳を見開く。
『一般人、1体アリ型を仕留めました!すごいです!あ、でももう1体が!』
見つけた!アリ型と女性だ!
俺は木の上から力の限り横にジャンプし、アリ型に手を突き出す。そのまま体当たりをするかのように、アリ型を消滅させる。
ま、間に合ったか?
慌てて女性の方を向き、その安否を確認する。
そこで尻もちをついていたのは……雨宮だった。
雨宮は、いつものメガネをかけ、薄い青のパーカーにオリーブ色のカーゴパンツを履いていた。今は、ウェーブがかかった髪を後ろにまとめているため、すらっとした顎のきれいなラインが強調され、いつものモッサリとした感じがない。
思いがけない人物との遭遇に、思わず声に出してしまった。
「あ、雨宮?」
「へ?」
『誠二郎!うかつ!うかつですよ!やってしまいましたね!』
そうだ。ニンペマンが雨宮の名前を知ってるのはおかしいじゃないか。まずい、まずいぞ。またネタ扱いされる。
「キ、キミは……?」
できるだけ低い声を作り、俺だとバレないように答える。
「影装!ニンペマン!私はニンペマンという。お嬢さん、無事だったかね?」
そんなニンペマンを、目を丸くして見つめる雨宮。そしてその顔がニヤリと笑った。
「…………有馬、こんなところでごっこ遊びか?それ、なかなか、かっこいいじゃないか。取材していいか?」
ば、バレた……。そりゃバレるよな。アホか俺は……。
「なあ、今のアリ型害獣だよな!?これからフラッドがここで起きるのかね!?いや、それよりも、その格好はなんだね!?ニンペマン?そうか、ニンペのキミのアバターを参考にしてるんだな!」
一つのきっかけから、いろいろなことがバレていく。
どうやら、ニンペマンのときは、話さない方がよさそうだ。俺はうかつな人間なので、またいつか絶対にボロを出すだろう。そんな自信がある。
この際、デフォルトで変身時には話せなくしてもらおうか。
賑やかにアレやコレやと追求してくる雨宮を見つつ、そんなことを思ったのだった。
※※※
何にせよ、これで散らばった8体のアリ型害獣は排除できた。
ダンジョンとの地上接続点に戻ろう。そろそろ彩葉と合流しなければいけない。
「なぁ!なぁ!なんで、そんな格好をしてるんだね!?あ、クミヒモ神会が怖いのか!なるほどな、だから変身してるわけだな!?でも、その変身どうやってるのだね!?教えてくれたまえよ!?」
うるさい雨宮をスルーして、彩葉に連絡をとる。
戦闘中の場合、通話だと邪魔になる。俺は彩葉にメッセージを送る。
『散らばったアリ型は全部排除できた。1体は雨宮が倒したけれど。』
その直後だった。
プルルル、プルルル。
彩葉からの着信だ。どうやら向こうも既に終わっていたらしい。
すぐに通話ボタンを押す。
『…………誠二郎さま。お疲れさまです。こちらには、21体の残骸があります。8体を誠二郎さまが処理なされたとなると、あと3体でしょうか。』
『あ、俺がそっちで3体消してるから。これで32体すべてだ。彩葉、お疲れ。』
『…………誠二郎さまもお疲れさまです。それにしても、なぜ雨宮さんが?』
本当に、なんでいるんだろ?
『知らない。なぜかいる。あと俺がポカやって、ニンペマンがバレた。』
『…………そうですか。お一人にするのも何なので、彼女も地上接続点まで連れてきてもらえますか?』
『分かった。すぐにいくよ。すまんな、余計な手間をかけさせて。』
『…………いえ、誠二郎さまがいたから、誰ひとりとして死傷者がでなかったのです。』
『なかなか、いいコンビネーションだったんじゃないか?俺たち。』
『…………そうですね。最高のコンビネーションでした。では、誠二郎さま。お待ちしておりますね。』
そしてプツリと通話が切れる。最後、なんか嬉しそうな声音だったな。犠牲者ゼロで事態が収拾できて、安心したのかもしれない。
通話を聞いていたテマリは、なんだかプリプリと怒っていた。
『はあー!彩葉さんは分かってませんね!最高のコンビネーション!マブダチコンビネーションは、私と誠二郎にしか実現できないのに!やれやれですね!』
ぷかぷかと浮きながら、テマリは頬を膨らませている。
なるほど。コンビネーションというキーワードに反応してるんだな?
まあでも、人間同士のコンビネーションとしては良かったんじゃないか?人間同士としては。
『そうですね!人間同士としては最高だったかもしれません!マブダチ・コンビネーションな私たちにはかないませんけどね!』
テマリと違って、彩葉は俺の頭の中に入ってこれないしな。
『そのとおりです!』
俺がぼーっと、アリ型の残骸を見ながら、脳内でそんな会話をテマリと繰り広げていると、雨宮が声をかけてきた。
「さあ!連れていきたまえ!彩葉くんとダンジョン地上接続点の場所に!」
なんてマイペースなんだ。この人、さっき害獣に殺されそうになってたんだぞ?
『誠二郎、このアリ型は「消却」しておいてください。放置すれば、ヴァーミン・ナノマシンに還元してしまいます。』
どういうことだ?よくわからないが、テマリの言う通り、アリ型を手で触って消しておく。
ヴァーミン・ナノマシンって、あれだよな?害獣を構成してるってナノマシンとかいうやつ。
あとでいろいろ確認しとかないと。
「い、今どうやってアリ型害獣を消したのかね?お、教えてくれよ!頼むよぉ!」
雨宮が、実にうるさい。こっちは今、それどころではないのだ。
「じゃあ、雨宮。ついてきてよ。知りたいことは、条件次第であとで教えるから。条件次第で。」
俺は彩葉の元へと向かう。流石に雨宮が一緒なので、木の上をジャンプしながら移動していくわけにはいかない。
だが、彩葉を一人ぼっちであんな場所に長居させたくない。ダンジョンとの地上接続点だぞ。何があるか分からない。
思わず足が早くなってしまう俺に、バサバサと茂みをかき分けながら、必死についてくる雨宮。
「待って、待ちたまえ!有馬!」
「ニンペマンだ。ニンペマンと呼んでくれ!」
この格好のときに俺の名前を呼ばないでくれ。クミヒモ神会にバレたら、俺の幸せなゲーミングライフが終わってしまうじゃないか。
※※※
そのときだった。
俺の脳内に電撃が走った。
そうだ。
俺がいないときにフラッドが起きたら、雨宮にゲーミングマシンを死守してもらえばいいじゃないか。雨宮のレベル6の力があればなんとかなるんじゃないか?
お隣さんだし、雨宮はさっき害獣を倒した実績もあるし、ちょうどいいじゃないか。ある意味、俺は雨宮の命の恩人だしな。
ふっふっふ。これなら多分、雨宮も断れないだろう。素晴らしいアイデアかもしれん。
…………そういえば。
雨宮がアリ型を仕留めた「小説家スティンガー」ってなんなんだろう?




