虹色と彩葉のこだわり証拠写真
「…………誠二郎さま、お見苦しいところをお見せしました。」
俺の胸から離れた彩葉は、うっすら目を腫らして、そう言った。
「元々俺のせいみたいなもんだしな。怖がらせて、ごめんな。あれ、ニンペマンっていうんだけど。レベルゼロの俺が身バレしないように動くためのものなんだ。」
彩葉は俺の言葉の意図をすぐに理解してくれる。
「…………なるほど。そういう理由がおありなのですね。ですが、あのままのお姿では、おそらく害獣対策局の方も人型害獣と勘違いするかもしれません。」
「そうだよなぁ……。」
彩葉の言うことも最もだよなあ……。ニンペマン、諦めるしかないか……。
そんなことを考えていた時だった。ぷかぷかと浮いているテマリが、名案を思いついた!とばかりに手を叩く。
『誠二郎、マフラーなどはいかがでしょう!ヒーローといったらマフラーですよね?』
確かに。マフラー、かっこいいな。
『では、こんなのはいかがでしょう?私とおそろいです!』
すぐに、俺の体が、虚像の黒い装甲に包まれていく。そして完成する人型害獣っぽい旧ニンペマン。
『ここからです!』
首のあたりが虹色に光り始める。そしてゆっくりと光の帯が伸びていく。
「…………誠二郎さまの虹色ですね。」
彩葉がそう言ったころには、俺の首には虹色に光るマフラーのようなものがたなびいていた。
「彩葉、これならどう?俺、この格好気に入ってるし、できるだけ変えたくないんだよね。これなら人型害獣だと思われないんじゃないか?」
「……さ、先ほどよりかはマシなんじゃないでしょうか?」
まだダメなのか?でもなぁ、俺のニンペのキャラは真っ黒だし……なんだかこれ以上変える気が起きないんだよな。
よし、もういいや。これでいこう。しっくりこないのはよくない。
「彩葉、俺はこれでいくから。いいか?こいつはニンペマンだ。正義のヒーローだから、人型害獣じゃない。分かった?」
「……わ、分かりました。」
ぽんと彩葉の頭に手のひらを乗せる。
「彩葉。このマフラーつけてるやつは悪いやつじゃない。人型害獣じゃないって、みんなに言っておいてもらえないか?彩葉が言えば、信用度抜群だろ。」
俺の手のひらの下で、彼女の視線が腰のスマホへと向かう。
そして、ためらいがちに切り出す。
「……な、ならば証拠が必要かもしれません。わ、私と仲良くしている写真などがあればいいのではないでしょうか?」
なるほど。確かに、それはいいアイデアだ。名家でレベル8の久遠寺彩葉と仲良くしていることを知ってもらえれば、危険な存在だと思われなさそうだ。
「じゃあ、一緒に写真を撮ろう。えっと……スマホ……あ、俺持ってきてないみたい。」
急いで出てきたからな。
というか、スマホでできることは視界表示だけで済むので、今の俺はスマホをあまり使わないのだ。
「……な、なら、私のスマホでいかがでしょう。撮りますね。」
そう言い、スマホを腰のホルダーから出す彩葉。そしてカメラアプリを開き、画面をこちらに向ける。自撮りスタイルだ。
「…………誠二郎さま、もう少しこちらに。」
「おう…。」
彩葉に一歩近づく。
「……もっとです。もっと。か、肩がくっつくぐらい必要ではないでしょうか?安全であることを証明するために。」
彩葉の言う通りだ。
俺は彼女に肩を寄せる。ぴったりと肩をつけても、女性恐怖症の発作は起きない。
「…………いい感じですね。では。」
カシャリと音がして、ニンペマンと彩葉のツーショット画像が撮られる。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。
「い、彩葉?いったい何枚撮るんだ?」
…………
彩葉は黙ったままツーショット画像を拡大し、俺と自分の間に残った隙間を見つめる。
やがて、スマホを胸元へ引き寄せ、俺を見上げた。
「……これでは横に立っているだけです。証拠写真にならないかもしれません。せ、誠二郎さま、私を横抱きに持ち上げていただけませんか?そうすれば完全で完璧に、ニンペマンが人間の味方だと証明できると思うのです。」
横抱きだって?
「横抱きって……お姫様抱っこか?」
「…………世間ではそのように呼ぶ方もいらっしゃいますね。」
少し考える。確かに横に並んでいるだけでは、インパクトが薄いかもしれない。それに彩葉を横抱きにしても女性恐怖症の発作が起きないことは、確認済みだ。
なぜなら、犬型害獣から彼女を守ったとき、俺は彼女を横抱きにして、逃げ回っていたのだから。
「分かった。彩葉がそれでいいのなら。」
彼女の膝裏に手をやり、そのまま背中を支え、持ち上げる。
彩葉は本当に軽い。どうやったら、こんなに軽い体で、あんなに重い斬撃を繰り出せるのだろう?
それに今、木の下にはアリ型害獣が数十匹いる。アリ型害獣は近寄らなければ積極的に人を襲うことはないらしい。連中が、こちらの様子も気にする様子もない。彼らの主な役目は、偵察とダンジョンを掘ることなのだから。
……たとえそうだとしても、早く駆除を開始した方がいいのでは?
彩葉が感知してすぐの行動だったし、まだアリ型は、地上にでてきて数分といったところだろう。招集フェロモンを放出されるまでには、まだ余裕があるということなのか?
きっとそうなんだろう。テマリが急かさないということは、まだ大丈夫なのだ。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ。
右手を俺の首の後ろに回し、顔を赤くした彩葉は、何枚も写真を撮っている。
「なぁ、もういいんじゃないか?」
俺がそう言うと、彩葉の親指がシャッターボタンの上で止まる。だが、俺の首の後ろに回した右手は離れない。
「……あ、あの、いつもの誠二郎さまとの写真も何枚かいただけませんか?い、いざというときに、本当に人型害獣として勘違いされて駆除されそうになるかもってときに、ニンペマンが誠二郎さまであるということも記録しておいた方がいいと思うのです。」
一息に言い切った彩葉は、返事を待つ間、スマホの画面だけを見つめている。
隣に浮かぶテマリがニヤリと笑う。
『誠二郎、それは重要かもしれません!彩葉さんはレベル8です!信頼できる人物でもあります。私は彩葉さんに賛成ですよ!』
なんだかニヤニヤとしているテマリ。
俺は自分の容姿があまり好きじゃないし、写真とか嫌いなんだが。まあ、二人がここまで強く言うんだ。記念写真だと思えばいいか。
「分かったよ。じゃあ変身を解くから。」
俺がそう言うと、テマリは即座に「投影」を解いた。
彩葉のスマホの中に映し出される、冴えない顔。おっさんと芸術品のような少女。それも、その少女を、おっさんがお姫様抱っこしている様子が映っている。正直、見るに耐えない。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ!
今まで以上の速度で鳴り続ける、彩葉のスマホのシャッター音。
撮影されているのは、引きつった顔のおっさんが、顔を赤らめている美しい少女を、お姫様抱っこしている画像だ。
これ、大丈夫か?俺、逮捕されないか?
※※※
それから十数秒後。
「…………誠二郎さま、ありがとうございます。そろそろ害獣を駆除しないと。」
ゆっくりと彩葉を下に下ろす。とはいっても、俺たちがいるのは木の上だが。
「…………誠二郎さま、私と一緒に戦っていただけますか?」
「もちろんだ。そのために来たんだからな。でも、アリ型害獣か。フラッド確定だな。」
「…………ええ。浮かれるのはここまでです。まずは偵察行動中のアリ型を殲滅します。私は巣の近くのアリを殲滅します。誠二郎さまは、周りに散らばったアリをお願いできませんでしょうか?」
「そうだな。俺にはそっちの方が向いてそうだ。」
テマリもいるし、アリの場所ならすぐに分かるはず。分かるよな?
『誠二郎、もちろん分かりますよ!ニンペマンの初出動ですからね!頑張りましょう!』
おう。
体が黒装束に包まれる。そして虹色のマフラー。うん、最高にかっこいい。
というか、最初のシンプルなニンペマンよりかっこよくないか?
『誠二郎、アリ型害獣32体です。招集フェロモンをばら撒かれるまでおおよそ10分です。時間内にすべてのアリ型害獣を討伐してください!一体も討ち漏らさないでください!』
さすがテマリだ。数もはっきりと把握している。
すぐに、その情報を彩葉と共有し、アリ型害獣を見据える。
「彩葉、アリ型害獣32体だ!俺は中央を間引いてから、周りの探索に入る!5分後に一度ここに戻ってくる!招集フェロモン放出までのタイムリミットは10分だ!行くぞ!」
「……はい、誠二郎さま!」
同時に白い影と黒い影が宙を舞った。
10分以内に片付ける!




