虹色とニンペマン
ウナと友真の話が終わる。
どうやら、アリ型害獣が見つかったら、店の駐車場の一区画を貸してもらうという話になったようだ。
そのときここの駐車場は、害獣対策を行う友真の会社の司令部として使われるということらしい。
つまり有事のときは、友真がここに常駐することになる。レベル6の友真がずっといてくれるなら、ここも安心だ。
不謹慎かもしれないが、ウナとの関係も進むかもしれない。
いいことばかりだ。
さてと……。
ウナが仕事に戻ったタイミングで、俺はスマホを取り出す。
そして地図アプリを立ち上げ、テマリから教えてもらった赤い点の場所を指し示す。
「友真、ダンジョンとの地上接続点だけど……このあたりかも。」
そんな俺の言葉に不思議そうに、聞き返してくる友真。
「誠二郎?なんでそんなことがお前に分かるんだ?」
そして適当な嘘をでっち上げた。
「いやさ、俺、人助けしたじゃん?」
「ああ、夜に害獣から女の子を助けたってやつな?」
「そのときさ、カ、カブトムシとかいないかなって森に入ってたんだ。」
「はあ!お前何歳だよ!」
「うるさい!お前と同い年だよ!それで、このあたりの地面から黒い何か……たぶん害獣が出てくるのを見たような気がしたんだ。それで怖くなって、公園を出ようとしたところで、まあ人助けをするハメになったんだけどな。」
「……ほう。」
「だから、あいつらがダンジョンから出てくるとしたら、そのポイントってこのあたりじゃないかって思うんだよね。」
「なるほどな……一度調べてみる価値はありそうだな。」
「頼むよ。フラッドが起きたら、レベルゼロの俺は何もできないだろうから。友真だけが頼りだ。」
「……お前、昔からなんか勘がいいところあるもんな。それについては分かったよ。すぐに害獣対策局に報告する。ああ、もう!また仕事増やしやがって!」
そう言うと、友真は髪をくしゃくしゃとかき回したのだった。
※※※
うな重を食べ、店の外に出る。
「じゃあ、誠二郎!ウナちゃん!またな!俺、仕事に戻るから!」
友真は本当に忙しそうで、車に乗るとすぐにエンジンをかけ、そのまま田所うなぎ店の駐車場を出ていった。
「はあ……忙しそうだな。やっぱり無職って最高かも。」
「いやー、有馬さん、その言葉はないよー。」
「わ、分かってるさ。」
でも、今の俺は就職する必要ないからな。無職を謳歌するのだ。といっても、ミッションで命がけのことを色々やらされて、暇というわけでもないのだが。
テマリは俺の隣に、ぷかぷかと浮かびながら、そのキレイな虹色の瞳を細める。
『誠二郎!何言ってるんですか?誠二郎は無職じゃないですよ!』
え?無職だろ。
『忘れちゃいましたか?誠二郎は株式会社テマリセージローの代表取締役じゃないですか。経営者ですよ?社長です!』
……そこからの収入はゼロだけどな。
『役員報酬はガチャガチャです!毎日、一回だけガチャガチャができる権利です!』
なんでそこまでガチャガチャにこだわるんだ。
でも……毎日?普通に魅力的かもしれん。
さて、じゃあ俺も帰るか。ニンペ、午後の部をやりたいし。
「ウナ。俺も帰るよ。またね。」
「うん!有馬さん、桐生さんとのこと、ありがとね!」
「気にするなって。俺は、タダでうな重を食べられるこの店を失うわけにはいかないからな。あいつにここを守らせられれば安心だ!」
「うふふふっ!有馬さん、サイテー!」
ニコニコしながらそんなことを言うウナに、俺は軽く手を振り、田所うなぎ店を後にしたのだった。
タダで食べられる絶品うな重。マジでサイコー。
※※※
夏の午後。
ジリジリと照りつける太陽の攻撃を受け、ヒーヒー言いながら、なんとか自室へと戻る。
部屋に入り、すぐにエアコンの出力を最高にする。
「ぐわー!暑かった!暑かったぞー!」
『おい、有馬!うるさいぞ!』
「うおっ!すまん!」
雨宮さん、ご在宅だったか。仕事の邪魔をしてはいけない。静かにしよう。
雨宮が聞いてくる。
『有馬、どこに行ってたんだ?なんでこんな暑い時間に外に出たんだ?』
「うな重食べに行ってた。時間は後悔してる。夜に行けばよかった。」
隣人と大声を出さずに普通に会話できる、この壁の薄さ。驚異的ではなかろうか。
『うな重?どっか美味いところがあるのか?』
「おう。おすすめの店があるぞ。田所うなぎ店ってところだ。」
『あの川の近くのか。今度連れてってくれよ!』
「えー、奢らんぞ?」
『分かってるって、ボクは結構お金持ちだからな!見るからにお金持ってなさそうな顔をしてるキミにそんなこと期待してないよ。』
俺って、お金持ってなさそうな顔してる?
『む!うなぎ屋……?お金がない……?ひらめいたぞ!執筆に戻るから、有馬は静かにしたまえよ!』
「分かった、分かった。」
なんて自由なやつなんだ。
でも、フラッドが起きたら、雨宮はどうするんだろう?リスクがあると伝えるべきか……?でも、パニックになるかもしれんし、できるだけ人に言わないでくれって友真に言われたんだよな。
悩ましい。
『雨宮さんは問題ありませんよ!たぶんあの人、結構強いですし。クミヒモシステムでレベル6ありますし。それより、ここに害獣が来たら、誠二郎の80万円ゲーミングマシンがやばいですよ?害獣って電子機器、大好きですからね!』
…………マジか。
な、なんてこった。
このフラッド、俺のゲーミングマシンの危機だったりするのか?
……そんなの……そんなの絶対に許せない。絶対に……絶対にフラッドを防がなければ。
そうとなれば、すぐに行動だ。
「なあテマリ、フラッド発生は確定なんだよな?」
『ほぼ間違いありませんね。空気中のヴァーミン・ナノマシン濃度が上昇しています。アリ型害獣が確認されていないとのことですが、発見されていないだけでしょう。』
ヴァーミン・ナノマシン?
『ダンジョンに満ちているナノマシンです。害獣を構成するナノマシンでもあります。』
なるほどな。そういうのでフラッドを予測することもできるのか。
『……そういえば、誠二郎、彩葉さんに連絡するって言ってませんでしたっけ?』
そうだった。
たとえ強くたって、あんな少女を孤軍奮闘させるわけにはいかない。
いつか俺の「飼い主」になるかもしれない人だしな。
さっそく、俺は視界表示を通じ、彩葉へとコールする。
プルルル……プルルル……プルルル……プツッ
『…………せ、誠二郎さま?どうされましたか?』
スピーカーからは、彩葉の透き通った声と共に、ビュンビュンと風切り音が聞こえる。まさか……!
「彩葉、また害獣が出たのか?」
『……さすがは誠二郎さまです。急に気配が現れたので、いま急行しているところです。』
やつら、昼間でも平気で出てくるのか。
「分かった、俺もすぐに行く。いいか?俺が到着するまで、被害が出ない限りは戦闘を開始するな。彩葉に何かあったら、俺が悲しいからな!」
『……わ、分かりました。誠二郎さまのお言葉通りに。』
通話を切り、急いで出発の準備をする。
急展開すぎだろ。
「テマリ、足だけ強化できるか?彩葉のところに急行したい。」
『誠二郎、お任せください!本日のデイリーミッションでも、身体補修の報酬ありましたしね!回復不能な負担をかけすぎないよう、弱めにいきます。では、足だけ強化、いきますよ?』
「頼む。」
――――『QF注入。』
テマリの放つトリガーワードとともに、脚に鋭い痛みがはしり、虹色に輝き出す。夜なら目立つだろうが、今は真夏の昼間だ。これくらいの光なら目立たないはずだ。
あとは……
「俺が俺だってバレないようにできないか?テマリシステムにそういう機能あったりしない?」
『テマリシステムにはありませんが……私ならできますよ?やります?』
「頼む!」
レベルゼロが変な力を持ってるってバレたら、クミヒモ神会に目をつけられてしまう。
俺の穏やかなゲーミングライフが終わってしまう。それだけは絶対に避けたい。
『では誠二郎、いきますよ!』
――――『投影。』
テマリの響くような発声とともに、見えていた腕が黒い何かに包まれていく。短パンから伸びていた足もだ。
「な、なんだ?」
その違和感に、慌てて洗面所に行き、鏡で自分の姿を見る。
鏡に映っていたのは、とても見慣れた姿だった。
サイバーな忍者のようなカーボン素材風の黒装束に、のっぺりとした黒仮面。そして、細長い青緑のLEDライトのような目。
それは……ニンペで使っている俺のアバターそのものだった。
宙に浮いているテマリが、背筋を伸ばし、ビシィッ!と俺を指さす。
『誠二郎!これが……【ニンペマン】です!』
に、ニンペマンだと……
…………
す、素晴らしい。
なんだこれ。なんだこれ。変身ヒーローみたいじゃん。俺、超かっこよくね?
シュバっと、鏡の前で、印を組むようなポーズをとってみる。
……ヤバイ。カッコいい。
カッコよすぎるだろ、俺。
そんな俺を見て、テマリもご満悦の様子だ。虹色の瞳をキラキラさせて、感動の表情を見せつけてくる。
『ヤバいです……。誠二郎、超かっこいいです!想像以上です!誠二郎もそう思いませんか!?マブダチの私への愛がさらに深まっちゃったでしょう!?』
テマリ、天才かよ。
深まった。マブダチへの愛、確実に深まった。愛してるぞ、テマリィィィ。
シャキーン!
影装!ニンペマン!
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