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マブダチ美少女AIのデイリーミッションでこっそり現実攻略!〜レベル0のおっさん。分かる人には分かる強者となってしまう〜  作者: けーきまる


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虹色とブサカワペット愛

後藤さんに社長室へと案内される途中。


彩葉は俺の斜め後ろを静かに歩いていた。白いワンピースに黒のカーディガン。建物内なので、帽子は被っておらず、きれいな黒髪が背中までストンと落ちている。


まさに、生ける芸術品だ。


俺は何も話さない圧川部長の車椅子を押しながら、考え事をしていた。


それにしても……


圧川部長が連れてきた、レベル6の鈴木という男。


レベル8の彩葉にスーツを切り裂かれ、ネクタイとトランクスだけになってしまって、逃げていった男。


あいつはいったい何だったんだろう?


もしかして、用心棒とかだったりするのか?ヤクザとか……じゃないよな?


彩葉、報復とかで変なことされないよな?


『誠二郎、ご心配には及びませんよ。クミヒモシステムのレベル8というのは、誠二郎が考えている以上の存在です。この愚かなレベル至上主義社会では、彼女に逆らえる者はほとんどいないでしょう。逆らったとしても……まあ、彼女一人でそういった手合いの組織を壊滅可能ですし。』


そうなのか。一人で反社会組織を壊滅させられる女の子。頼もしすぎるけど、なんで俺の後ろについてきてくれてるんだろう。


今さらながら、不思議でならない。


最上階のエレベーターから降り、フロアを少しだけ歩く。


木製の重厚な扉の前で立ち止まった後藤さんが、こちらを振り向く。


栗色のサラサラの髪が肩口で揺れる。輝くような笑顔。前と違って、顔色もいい。


テマリのおかげでクウデリの危機が去って、心労が減ったのかもしれない。


「こちら、社長室になります。あ、もちろん、有馬先輩はご存じですね!」


そう言って、ぺろりと舌を出す。ふむ、可愛い。


背後から、重い空気が漂ってくる気がするが、気にしない。


さきほどから、すれちがう女性社員をちらりと見るたびに、彩葉から威圧が放たれるのだ。


気にしてたら、キリがない。


きっと、特定の相手への威圧の練習に違いない。具体的には、威圧の効かない俺を練習相手としているのだろう。クミヒモシステムが入っていない俺には、威圧は効果ないのだ。


コンコンコン。


後藤さんがノックをし、入室の許可をもらった俺たちは、そのまま社長室へと入ったのだった。


※※※


契約の時間はテマリの独壇場だった。


っていうか、クウデリはテマリの出す条件を飲まざるを得ないのだ。


でないと、また業務がすべて止まってしまう。


俺だけに見える、きれいな銀髪のテマリが、契約書のとある条項を指さす。


『この条項、危険ですね。こんな権利を放棄するわけないじゃないですか!バツです。消してもらってください!』


俺はテマリの指し示した項目を指さす。


「ここの項目を削除してください。うちはこの権利を放棄するつもりはありません。」


「で、ですが……!」


社長の隣にいる弁護士が額にしわを寄せ、悔しそうな表情を作る。


弁護士の渋る態度に、ぷかぷかと浮いたテマリが唸る。


『うーん。なんだか契約に誠意が感じられないんですよね。たぶん誠二郎が低レベルだからって、なめられてますよ?やっぱり、クミヒモシステムはポンコツシステムですね!』


なるほど……。よく見ると、この弁護士も立ち振る舞いから歳を重ねていそうだが、若く見え、顔立ちも整っている。


そこそこの高レベルなのだろう。


低レベルの俺は、組みしやすい相手と思われているのかもしれない。


でもそうはいかない。テマリのマブダチ夢貯金のために、俺は頑張るのだ。


ハッキリと告げる。


「この項目を消せないなら、契約は締結できません。こういうのは、お互いの納得が大切でしょう?」


弁護士から、ギリッと歯を食いしばる音がする。


そして、ぼそっとつぶやく。


「……この低レベルが。」


瞬間、俺の背後から、室内にとんでもなく重い空気が広がる。


威圧の発生源は、用心棒として俺の後ろに立っている彩葉だ。


彼女はソファを勧めても、用心棒だから背後に控えると、頑なに譲らなかったのだ。


あーあ。言っちゃった。それは禁句だ。今の俺には、低レベル差別絶対許さないガールがついているのだ。


彩葉先生!やっちゃってくだせぇ!


シュッ!


風切り音と同時に、彩葉の刀「綾取」が煌めく。


カチャリ。


刀を鞘に納める音とともに、ぽとりと落ちる弁護士のネクタイ。


「ひぃ!」


自分に起きたことに気づいた弁護士が、顔を青くする。


ドアの近くに車椅子ごと放置してきた圧川部長など、当事者でもないのに、口をアワアワさせながら車椅子の上で丸くなっている。


社長の顔も青くなり、冷や汗をかいている。


さすが彩葉先生である。


本当はこんなふうに、脅しながら契約を結ぶのはよくないことだ。


だけど、トランクスでエントランスを飛び出していった鈴木ってやつは、俺たちに理不尽な要求を飲ませるために、圧川が呼んだんだろう。


社長もこの弁護士も、それを黙認していた可能性は十分に考えられる。


俺が圧川の車椅子を押してきたことについて、向こうが言及してこないのがその証拠だ。


ならば、向こうがやろうとしたことをやり返してるだけだ。


今回は、自業自得ということで、よろしくお願いします。


これからはこの時のことを思い出して、低レベルの人に優しくしてくれると嬉しい。


じゃないと、また彩葉先生が来ちゃうぞ。


「虎の威を借る狐」とは、まさに俺のためにある言葉なのであった。


※※※


低レベル差別絶対許さないガールが暴れて、10分後くらいだろうか。


正式な契約は無事に完了した。


テマリの要求はすべて受け入れられた。


『ムフフー!これで株式会社テマリセージローは安泰ですね!誠二郎!ガチャガチャやりに行きましょうね!』


テマリは相変わらずであった。


社長と握手を交わし、席を立って社長室を出る。


ちなみに、社長曰く、圧川はさすがに解雇されるとのことだった。


まあ、高レベル者を雇って、俺に無理やり言うことを聞かせようとしたんだ。


これ以上、こっちの不興をかわないためにも、圧川を会社に残すわけにはいかないと考えたのだろう。


じつに「ざまぁ」である。


うわはははは。圧川部長、クビにされてやんの。俺と同じだな。


はっはっは……虚しい……。


ちなみに今日のテマリのショッキングピンクのTシャツにプリントされた文字は『新たなる無職』なのであった。


※※※


さあもうここには用はない。家に帰るぞ。


俺は、エレベーターホールでクウデリから脱出するためのエレベーターを待っていた。


面倒事が終わったという安心感から、軽くテマリとアイコンタクトをとる。考えていることは同じだ。


「ニンペタイムだな。」『ニンペタイムですね。』


いつの間にか肩が触れるくらいに近づいていた彩葉が、俺の視線の先を凝視している。


そこにある「何か」を、なんとかして感じ取ろうとしている気がした。


彩葉が問いかける。


「…………誠二郎さまは、いつも、どなたを見てらっしゃるのですか?」


彩葉の観察力は、並外れている。俺の視線が向かう先が気になって仕方ないのだろう。


だけど、テマリシステムがインストールされていない彩葉にはテマリは見えない。というか、テマリは俺の網膜に投影されているらしいので、本当に俺が見ている場所には何もない。


「…………幻覚のお友達を見ているって、おっしゃってましたね?」


確かに、そう言った気がする。幻覚の友達って、改めて言われるとキモくて、寂しいな。


彩葉は寂しげな口調で続ける。


「…………その方を見ているとき、誠二郎さまはとても優しい顔をされています。私は羨ましいです。」


そんな彩葉の言葉に、テマリも反応する。


『誠二郎は、私のこと大好きですからね!マブダチですし!』


フンス!と自慢げに鼻を鳴らすテマリ。


素直に「はい、そうです」と言うのも癪だが、実際にその通りだから困る。


俺にとって、テマリが一番心を許せる相手なのは事実でしかないのだ。


長年付き合ってきた、マブダチで。ゲームバディだしな。テマリと比較できる相手は……いたとして友真くらいだろう。


友達を選べるような立場ではないことは、重々承知ではあるが。


黙っている俺に、彩葉が口をひらく。


「……誠二郎さま。い、いつか私にも、そういう笑顔を向けてほしいです。」


そう言うと、顔を真っ赤にして、足元の絨毯を見る彩葉。


うーん…………


ここまで言われたら、さすがの俺も、もう気づかないフリはできない。


小春の言う通り、彩葉は俺にラブなのかもしれない。


そう見える。俺だって、さすがにそれくらいは分かる。


だが、恋愛なんてものを真に受けても、ろくな目に遭わない。それは今までの俺の人生が実証済みだ。まして彩葉は二十歳にも満たない。俺からすれば、まだ子供みたいなものだ。


それに、レベルゼロで実質無職のおっさんである俺を、レベル8という超エリートで美人で可愛らしい名家のお嬢様が好きになるって?


そんなことあり得るか?


待てよ……?愛って、恋愛だけとは限らないんじゃないか?


なら……ペット……か?


そうか。ブサカワペット枠なのか。なるほど、そういう愛か。それなら納得できる気もする。


きっと彼女はずっと俺のことをブサカワペットとして、近くに置いておきたいのだろう。そして、そのペットから好意を寄せられたいのだ。


少しだけ、その絵面を想像してみる。


聖藍学園の制服を着た、清楚で小柄な彩葉に首輪でつながれ、公園を散歩する俺。……絵面はひどいが、悪い気分はしない。なんだか、新しい世界が開きそうだ。


あ、ヤバイ。想像してたらドキドキしてきたぞ。


「ふむ……悪くないな……。」


そんな俺のつぶやきにパッと顔を明るくする、白いワンピースを着たお嬢様な彩葉。


長いまつげにキラキラとした瞳で、頬を染めながら、俺を見つめてくる。


「…………いつかその時を。心からお待ち申し上げております。」


俺が彩葉のペットになるとすると、彼女は俺の「飼い主」になるのか。いや「ご主人様」か?


嬉しいような、嬉しくないような。


ただ、高レベルには高レベルの悩みがあるってことはなんとなく分かった。


彩葉くらいの高レベルになると、畏怖や尊敬は簡単に得られるかも知れないが、純粋な好意ってのは得づらさそうだ。


でも、首輪に繋がれた姿をテマリに見られるのは抵抗があるな……。今度、彩葉もニンペに誘ってみようかな?一緒に遊べれば、そういった寂しさの解消になるかも知れないし。


そんな事を考えつつ、到着したエレベーターに乗り込んだ俺は気づいていなかった。


俺と彩葉の様子を、後藤さんが、複雑そうな表情でじっと見つめていたことに。

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