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マブダチ美少女AIのデイリーミッションでこっそり現実攻略!〜レベル0のおっさん。分かる人には分かる強者となってしまう〜  作者: けーきまる


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虹色と「消却」

視界表示に、メインミッションのメッセージが現れる。


――――『青葉中央公園に発生した犬型害獣三体を駆除せよ。』


表示されたのは信じられない内容のメインミッションだった。


え?ダメだろこれ。どう考えても不可能だ。


だって、前だって逃げてただけだし。


ぷかぷかと傍らに浮いているテマリに顔を向ける。


白銀の髪に虹色の瞳を持つテマリは、相変わらずどこか神秘的でキレイだった。ロングTシャツ一枚という、そのだらしない服装以外は。


「なあ、テマリ、前に俺には害獣を倒す方法ないって言ってたよな?」


『はい、あの頃の誠二郎にはありませんでしたね。』


あの頃の?


「え?じゃあ今の俺にはあるの?害獣を倒せる方法。」


『ありますよ!この前緊急ミッションの後、もらったじゃないですか。事象記述操作の「消却」を!』


「……あったな。そんなものあったな。」


テマリ、後で必要になったら説明するって言ってたっけ。


『誠二郎!これはすごい能力なのですよ!』


「そうなのか?」


『ええ!害獣相手にしか効きませんが、誠二郎が触れた部分を消滅させることができるのです!』


「マジで!?いや、ちょっと待て。なんで俺が害獣なんかと戦うハメになってるんだ?」


レベルゼロにそんなことやらすなよ。高レベル様にやってもらえばいいじゃないか。


俺はニンペやりながら、もっと引きこもってたいんだよ。


『……ミッションは誠二郎が害獣と戦わざるを得ない未来を予見しているのかもしれませんね。何せ、クミヒモ関連ですから。』


ぐう、嫌だ。嫌すぎるけど。


お金と就職活動免除のためだ。


なにより就職活動。就職活動よりは、害獣と戦っていたほうがマシだ。


「分かったよ……。でも、そんなの俺にできそうなのか?」


『問題ないでしょう。クミヒモも、腐っても神様です。緊急ミッションではなく、メインミッションとして出す程度ですから、簡単に終わると考えてるのだと思います!』


「分かった。じゃあ……嫌だけど行くか!」


『行きましょう!』


なんでこうなっちゃうかな。俺、武術の心得なんてないし、戦闘職でもないんだけど。


※※※


夜の青葉中央公園。


さて……と。


「なあ、『消却』ってどうやるんだ?」


『今回は初めてなので、制御は私がやります!誠二郎は利き腕の右手が光るようなイメージをしてみてください。』


「むむむむ……こ、こうか……?」


『いい感じです。そこで起点となるトリガーワードです。「消却」と力強く口にしてください。気合いですよ、気合いが大切ですからね?やってやるぞゴラァー!っていう気合いです。』


や、やってやるぞゴラァー。


「しょ、消却!」


『ダメですね。もっとです!』


やってやるぞゴラァー!


「消却!」


何もおきない。テマリが少し困った顔をする。


『うーん。どうにも気合いが足りませんね……そうです!誠二郎が昔やってた、あの呪文みたいなヤツ!あれの後に「消却」って言ってみてください。』


呪文?まさか……あの部屋の中でこっそりやっていた、黒歴史詠唱か?あれを?大人になった俺にやれと?


「ま、マジで?」


『マジです!』


周りをキョロキョロと見回す。


大丈夫、誰もいない。


あんなの忘れたい記憶でしかないけど……仕方ないか……。


腹に力を入れる。


右手を掲げ、手のひらを開き、あの頃のように声を張り上げる。


――「み、右手に記せ!触れたものの理(ことわり)を消す、事象の回路!光れ!光れ!理を消す虚無の光よ!光れ!」


――――『消却!』


は、恥ずかしい。絶対にこんなの人に見られたくない。監視カメラとかないよな?


だが、夢にあふれたあの頃の妄想の残滓があったのかもしれない。どうやら、力を込めてトリガーワードを声に出せたようだ。


そして、今。


俺の右手は揺らめくような黒い光を放っていた。光を吸い込むような、深い深い黒色に。


「で、できたのか?」


『完璧ですね!でも、黒い光だなんて、いかにも「消却」って感じじゃないですか!カッコいいです!』


テマリはいつも通りだ。


そう言えば、強化の時もこんなふうに手が光ってたっけ。いや、あの時は全身が光ってたんだっけ?でも、黒と虹色じゃイメージが全然ちがうな。


「それで、どうやってこれで害獣を倒すんだ?」


光ってるだけじゃん。ハァッとかいって手を突き出せば、光弾が出たりするのかな?


テマリは答える。


『簡単です。害獣に触れればいいのです!』


「触るだけ?」


『そうです、触るだけです!あ、害獣にしか効果はありませんからね!痒いところとかあったりしても、掻いていいですよ!』


害獣にしか通じないって……。


「で、でもなんで?なんでこんな光で害獣を倒せるんだ?」


光の仕組みを尋ねられ、ぷかぷかと宙に浮かびながら、顎に手をやり、少しだけ考える仕草をするテマリ。


今日の白いロングTシャツには「討伐!」と書かれていた。


『うーん。誠二郎はご存じですか?害獣というのはナノマシンの群体なのですよ。』


ナノマシンの群体?


「ナノマシンってすごい小さな機械だよな?目に見えないような。」


『ええ。ちっちゃなちっちゃな機械です。それがですね、たーくさん集まってあの形になってるんです!』


な、なるほど?


『誠二郎、想像してみてくださーい。あのナノマシン……ちっちゃなちっちゃな機械が動かなくなったら、どうなると思いますか?』


そりゃ、機械の部品がなくなれば……なあ。


「……動かなくなる?」


『正解です!でも、それだけじゃありません!ちっちゃな機械は隣のちっちゃな機械と手をつないでいるんです。それがたくさんたくさん集まって害獣になっています。その手をつなぐ機能も失われるとしたら……どうなるでしょう?』


「なるほど、バラバラになるってことか!」


『その通りです!その光に触れた瞬間、害獣を構成するナノマシンの機能は失われます!バラバラとなり、空気に溶けるように、崩れ去るのです!厄介なナノマシンの自己複製機能ごと、完全に消失するのです!』


テマリの鼻息がフンスフンス!と荒い。興奮しているようだ。


『これが事象記述操作「消却」です!すっごいすっごいレアなのですよ!さすが誠二郎です!』


黒くユラユラと光る自分の手を見つめる。


これが「消却」……


っていうか「消却」のまえに、「事象記述操作」ってなんなんだ?「事象記述式」なら知ってるんだけど。


超能力みたいなものだろうか。


恐る恐るツンと指で触ってみても、いつもの右手と変わらない。ただ黒く光っているだけに見える。


本当に……本当にこんなので害獣を倒せるのだろうか。


それを試す機会を得られたのは、そのすぐ後のことだった。


※※※


テマリが鬱蒼と生い茂る茂みの方を見て叫ぶ。


『誠二郎、害獣3体。こちらに向かってきています!今回は害獣対策局への連絡はしていません。誠二郎が倒さなければいけません!』


怖じ気づいて、腰が引ける。


「本当に!本当に、これで触ればいいんだよな!」


『ええ!マブダチの私を信じてください!』


ガサガサ!と音をさせながら、茂みから現れる三体の黒い犬型害獣。数日前に見たものと同じだ。


視界表示がゲームと同じモードに移行し、テマリのサポートが開始される。


『いいですか、誠二郎!こちらから触りに行く必要はありません!襲ってくる相手をその手で触れるだけでいいのです!』


カウンターってわけか。それくらいなら……なんとかなるか?


『視界表示に襲撃ラインを引きます!その上に手を差し出してください!3……2……1……来ます!』


視界表示に赤色の線が引かれる。


言われたとおりに、光る手をそこへと伸ばす。「消却」の光を放つ右手だ。


害獣はラインどおりに地面を駆け抜け……俺の手に噛みつこうとする。だが、それはできなかった。


……光に触れた瞬間だった。害獣の体が、さらさらと細かい砂のようになって消え去る。


『誠二郎!二体目、三体目来ます!』


くそっ。ほぼ同時攻撃だ。対応できるか?


慌てて濃い赤色のラインの上に光る右手を差し出す。


自ら突撃し右手の黒い光に触れ、同じようにサラサラと消え去る二体目の害獣。だが、三体目がすぐそこにまで迫っていた。まずいぞ。テマリの引いてくれた襲撃ラインに右手が届かない。


このままでは左手を食いちぎられる。くそっ。一か八かだ。


俺は左手に意識を集中させる。大丈夫なはず。右手に発現できたおかげで、「消却」発動のイメージはつかめた。


左手でもいけるはず。


――――『消却!』


光り出す左手。そして急いで、テマリが算出した襲撃ライン上に、それを突き出す。


勢いよく襲いかかってきた三体目の害獣。そいつも黒い光に触れ……


さらさらと砂のように崩れていったのだった。


※※※


……なんとかなった……のか?


周りを見渡す。


害獣の姿は……もうない。


ふう……。息を吐き、肩の力を抜く。


宙に浮くテマリが、俺の目の前へと身を乗り出してくる。


『すごい!すごいです!両手で「消却」を使うなんて、誠二郎すごすぎます!』


俺の周りをくるくると飛んでいたテマリが、ピタリと止まる。虹色の瞳から輝きが引いていく。


『三体目はすみませんでした。誠二郎の立ち位置をもっと考慮したうえで、対処を行うべきでした……』


珍しくしょぼくれた様子のテマリ。だが、こんなのらしくない。失敗したら次に活かせばいいのだ。


そんな元気のないテマリを、明るい声で励ます。


「気にするなって、お互いの足りないところをカバーし合うのがマブダチってやつだろ?俺たちは最高のコンビネーションだったと思うぜ!だけど、次はしっかり頼むぞ?痛いのは嫌だしな!」


『もちろんです!マブダチ!』


テマリが抱きついてくる。もちろん感触はない。でも、女性恐怖症の発作も出ない。


『やっぱり私と誠二郎のマブダチコンビは最強ですね!』


テマリは本当に嬉しそうだった。


マブダチならハグも……もちろんアリだよな。


※※※


<久遠寺彩葉視点>


レベル8になったからかもしれない。


私は少し離れた場所の害獣の気配を感じ取れるようになっていた。


自室で自習していたとき、私は青葉中央公園に現れた害獣の気配に気づいてしまった。


放置すれば戦う力のない人に被害が出てしまうかもしれない。害獣に襲われれば……戦えない人は死んでしまう。そんなのは駄目だ。


私はパジャマ姿のまま、念のため部屋に置いておいたスニーカーを履く。私の刀である綾取も忘れない。


そして窓から家を飛び出し、そのまま青葉中央公園へと夜を駆け抜けたのだった。


…………。


すぐに到着した青葉中央公園で私が目にしたもの。


それは、両手にユラユラと黒い光をまとい、害獣を消し去る誠二郎さまだった。


私が今まで見たことのない害獣の倒し方。誠二郎さまは、瞬時に三体の害獣を片付けてしまわれていた。それも跡形もなく。


本当に綺麗な虹色だった。私を助けてくれたときの誠二郎さまも、全身を虹色に光らせていた。


でも、今の誠二郎さまは、その両手だけを黒く光らせている。


…………すごい。やっぱり誠二郎さまはすごい!やっぱり誠二郎さまは強かった!


だけど、なんだろう?誠二郎さまは、誰かと話している気がする。


ここには誠二郎さま以外の、人の気配はまったく感じ取れない。


…………おばけ?


目を凝らす。


その見えない相手と語り合う誠二郎さまは……私が見たことのない楽しそうな笑顔を浮かべていた。


誠二郎さまがそんな笑顔を向ける相手は、私ではない誰か。


…………うらやましい。私にもその笑顔を向けて欲しい。


私はその見えない相手にモヤモヤとしたものを抱えつつ、誠二郎さまの方へと足を向けたのだった。

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