虹色とイケオジ特級害獣捜査官
チュン……チュン……。
小鳥のさえずりと、窓から差し込む光に、意識が覚醒していく。
ゆっくりと、目を開ける。
白い天井に、白い壁、白いカーテンに、白い引き戸。
ここは……病院か?
『誠二郎、おはようございます!この部屋は盗聴されていますので、私への返答は不要です!』
いつもの朝のように、俺の上にはぷかぷかとテマリが浮かんでいた。
盗聴だって?誰が一体?
『久遠寺家と害獣対策局からです。なぜレベルゼロの誠二郎が害獣と渡り合えたのか、調査したいみたいですね。久遠寺家は、久遠寺彩葉と誠二郎の関係も知りたいみたいです。』
テマリの言葉に軽くうなずく。
はあ……高レベルだったら何も疑問に持たれなかったんだろうな。面倒くさい。マジで勘弁してほしい。
『問題なさそうですね!私にはだいたい誠二郎の考えていることが分かりますので!今は「低レベルだと色々面倒くさいな」と思っているでしょう!』
なんだと……エスパーか?
『今は「エスパーか?」って思ってますね?』
な、なんでわかるの?
『誠二郎とはマブダチですからね!当然です!』
そう言うと、テマリはえへんと胸をそらす。とても誇らしげだ。マブダチって言葉、便利すぎるだろ。
そういえば、テマリの衣装は黒巫女装束から、いつものTシャツへと戻っているな。今日は……「絶対安静」と書かれたネイビーのTシャツか。
お前は絶対安静であることを忘れるなっていう、テマリからの注意か?
そういえば……強化の副作用が少し続くってテマリが言ってたっけ?
体を起こそうと腹に力を入れたその時だった。
全身に激痛が走る。
「――ふぉおおおおお!!」
俺の情けない悲鳴が、病室に響きわたる。
痛い。痛すぎる。
俺のリアクションが面白かったのか、テマリは満面の笑顔だ。
『このTシャツに書いてありますでしょう。絶対安静って。誠二郎はドジっ子ですね!』
こ、言葉で伝えてくれよ。
ガラララ!
俺の悲鳴を聞いたのだろう。慌てた様子の看護師さんが病室に入ってきた。
「あ、有馬さん、目をお覚ましになったんですね!?今、医師を呼んできますので、そのまま安静にお待ちください!」
※※※
その後、俺は医師に簡単な診察を受けた。詳しい検査はすでに終わっていたようで、体に異常はないということだった。
痛みは、疲労と筋肉痛が混ざり合ったものだろうとのこと。数日様子を見て、治らなかったらまたさらに詳しい検査をするということになった。
まあ、この痛みはテマリシステムを無理やり動かしたものによるものだ。テマリに聞いてみるのが手っ取り早いだろう。
『痛いのは今日だけですね。ご安心を!』
マジで、エスパーだ。ちょっと怖い。
「有馬さん、少しよろしいですかね?」
医師と入れ違いに、スーツを着た男が数人入ってくる。
皆、ガタイがいい。
一人が前に出てくる。長身のイケオジだ。
笑顔を作っていても、ただ者ではない雰囲気が伝わってくる。ダークブラウンの髪を無造作に左右に分け、無精ひげを生やしている。パリッとしたネイビーのスーツを着こなし、ネクタイも同じ色だ。捜査官というより軍人みたいな、そんな雰囲気を醸し出している。
この人……相当な高レベルだぞ。
「私は害獣対策局の銭谷修吾と申します。」
そう言って、懐から出した手帳を俺に見せてきた。
『害獣対策局・特務対策部 特級捜査官 銭谷修吾 レベル7』
特級捜査官?それってたぶんとっても偉い人だよな。それもレベル7とか、久遠寺さんと同じレベルじゃないか。すごすぎる。
「あ、はい。俺は有馬誠二郎と申します。」
お互い手を差し出し、握手を交わす。後ろの二人の捜査官が眉を上げる。なんだかにらまれているような……。
「あ、あの?後ろのお二方は?」
「彼らは私の付き添いみたいなものだから、気にしなくていいよ。」
「は、はあ……。」
「それよりも言葉を崩していいですかね?どうも自分のことを私と呼ぶのは気持ち悪くて。」
そう言い、人のいい笑顔を浮かべる銭谷さん。
「構いませんよ。」
「ありがとう。君はそうだな、有馬くんと呼んでも?」
「はい、大丈夫です。」
そうすると彼はにかっと笑う。
「いやー、安心したよ。堅苦しいのは苦手でね。すまん、話がそれた。」
そう言うと、銭谷さんは居住まいを正す。
「あの夜、何があったか教えてくれないか?」
あの夜?そ、そうだ、肝心なことを忘れてた。
「銭谷さん、久遠寺さんは!久遠寺さんは無事なんですか!?」
その俺の言葉に、彼は目を丸くする。
「あ、ああ。彼女は高レベルだからね、もう怪我も治ってピンピンしてるよ。今は屋敷に幽閉されてるとのことだ。」
幽閉?なんで?まあ……無事ならいいか。それ以上は俺が干渉することじゃないだろう。
「昨夜は大変でした……実は……」
俺は銭谷さんに、テマリとミッションのことを除いて、正直に話した。
公園に散歩に行ったこと。久遠寺さんが襲われているのに遭遇したこと。久遠寺さんが倒れていたので、慌てて担ぎ上げたこと。久遠寺さんを抱えて、害獣の攻撃から逃げ回ったこと。
全部話した。
ほとんどは本当のことだ。緊急ミッションの指令で公園に向かったこと以外は。
一通り話し終わると、銭谷さんは少し考えるように黙り込む。
「失礼ですが……有馬さんはレベルゼロですよね?久遠寺さんを抱えて、害獣からの攻撃を避け続けられるわけないと思うのですが……。」
「そ、そんな長い時間じゃないんですよ!俺が逃げ回ってたのは何十秒かだけで。きっと運が良かったんでしょう。対策局の人もすぐに来てくれましたし!」
銭谷さんは疑わしげな目で俺を見る。
「ずいぶんと運が良かったんですね……。」
その後一言二言言葉を交わし、また後日ということで銭谷さんは帰っていった。
先に病室を出た銭谷さんを、他の二人も追随する。
一人が、ぼそっとつぶやくのが聞こえた。
「この低レベルめ……手間かけさせやがって。」
最後にそんなセリフを置き去りにして、病室を去っていく。
ガララ……。
その発言に、テマリがすぐに噛みつく。
『この高レベルの腰巾着!イソギンチャク野郎!一昨日来やがりなさい!顔、覚えましたからね!』
扉の外にぐいっと中指を立てるテマリ。
気持ちが沈み込む前に、テマリが代わりに怒ってくれる。俺は恵まれてるな。
でも、テマリ。中指を突き立てるのはダメだぞ?
あんな奴らはどうでもいい。でも、15歳の乙女として、そのジェスチャーはよろしくないぞ?
※※※
……待て、そういえば昨日のミッション報酬はどうなった?
『12万円の入金、ありましたよ。あと特別報酬として、事象記述操作「消却」が解放されています。』
事象記述操作?消却?なんだそりゃ?
『使う時になったらお教えしますね。でも誠二郎、12万円ですよ!12万円!これで新しいゲーミングマシンを買いましょう!ディスプレイももっといいやつを買いませんか!?もっと大きなやつがいいですね!』
テマリは嬉しそうだ。
いいねえ。退院したらすぐに注文しよう。雨宮にプレイを見せるには、あのノートパソコンは小さすぎるしな。
ニンペでの試合中に肩が触れ合ったりしたら大変だ。俺の女性恐怖症が炸裂したら、ゲームプレイどころではない。
女性恐怖症は徐々に、徐々に治していけばいいのだ。
ん……ミッション?はっ?
「しまったあああ!」
『誠二郎、ここは病院ですからね。あまり大きな声は出さないように。あと盗聴もされていますから、お気をつけて。』
そ、そうだったな。気をつけねば。でもデイリーミッションは?病院にいたら、デイリーミッションができないじゃないか。
俺の考えをエスパーしているテマリは、少し考えてから答えた。
『ふむ……とりあえず引いてみましょうか。では……。』
ジャジャン!
効果音が流れ、本日のデイリーミッションが表示される。
――『女性に「あーん」をしてもらい、食べ物を口にせよ。』
無理じゃね?
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