【南北朝の終焉とその後の火種編】第四段 篁様との対面
【南北朝の終焉とその後の火種編】第四段 篁様との対面
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閻魔様の御前を辞した後、我は改めて篁様と向き合うことになった。生前より、その名と伝説は幾度となく耳にしていた御方だ。歌人としての篁様の歌は我自身も諳んじられるほどだったし、昼は朝廷に、夜は冥府にてお勤めという逸話も、まことしやかに語られていたのを覚えている。とはいえ、それはあくまで噂話の域を出ぬものと思っていたわけで、まさかその噂が事実で、しかも自分がその篁様の下で働くことになろうとは、正直今でも半信半疑な思いだ。
篁様は、思っていたよりずっと物腰の柔らかい方だった。
「兼好殿、此度は急なことで驚かれたであろう」
「いや、まったくもって……。まさか篁様が本当に冥府にてお勤めであったとは。生前、噂には聞いておりましたが、よもや自分がこうしてお目にかかることになろうとは、夢にも思っておりませなんだ」
そう正直に言うと、篁様は少し笑って「それはそうであろうな」と仰った。それから、これから我が担うことになる仕事について、順を追って話してくださった。
「まず、御役目の中身だが――下界の様子を見張り、大きな出来事があればその都度、書き記して私に報告してもらいたい。政のこと、争いのこと、あるいは天変地異のことも含めてな」
「見張ると申しましても、いったいどのようにして下界を覗くのでございますか」
「それは案ずるな。冥府より下界を見る術は、こちらで整えてある。そなたは、見えたものをどう書き記すか、そこに心を砕いてくれればよい」
なるほど、仕組みそのものは向こうが用意してくれるらしい。我の仕事は、あくまで「見て、書く」ことだけというわけだ。これは案外、性に合っているかもしれないと、この時ばかりは少し安堵したのを覚えている。
「報告の仕方について、何か決まりはございますか」
「大きな出来事、争いや政変の類は、こちらで裁きの資料として使うこともある。ゆえに、それらは正式な文書としてまとめてもらいたい。だが、些細なこと――世間話の類や、そなた自身の感じたことなどは、好きに書き記してくれて構わぬ」
これを聞いて、我は少し肩の力が抜けた気がした。何もかもが堅苦しい文書にせねばならぬというなら気が滅入るところだったが、そうでなくてよいというなら、いくらか気楽にやれそうだ。
「して、篁様。なにゆえ、この私を推挙くださったのでございますか」
すると篁様は、少し悪戯っぽい顔をして、こう仰った。
「そなたの書いたもの、実は少々目を通させてもらった。世の些事を、あれほど丹念に、しかも飽きもせず書き綴る者はそうはおらぬ。ならば、この役目にうってつけであろうと思うたまでよ」
生前の我の書いたものが、まさかこんな形で評価されるとは思ってもみなかった。誰に読まれるためでもなく、ただ「つれづれなるままに」書いていただけのものが、こうして死後の役目に繋がるというのだから、世の中というのは分からないものだ。
かくして、我の下界監視の任は、いよいよ本格的に始まることとなった。




