第62話 片翼の天使
おはようございます。
投稿です。
「捨てられた王子がいる、という噂は昔からありましたね、まさか本当とは」
「何故ここにいる?」
一の君が副長を睨む。
「雷神王に頼まれましてね、中の様子を見てこいと。異界ゲートが心配だったのでしょう。異界ゲートは危険です、私も気になりましてね」
「そうではない、そっちじゃない!なぜここに天使がいる?それも片翼だと?」
腕を組み、悩ましげに鏡を見る副長。
鏡に映る片翼の天使は虚像か実像か?
自分を見て改めて自覚する。
ああ、私は天使だったのだな、と。
「……悪人を救ってこその天使だ、と発言しました……すると結果、上司や仲間からフルボッコにされ、この四月世界に捨てられたのです」
「!……ナリ家の当主に聞いたとおりだな」
「そこで、当時のナリ家の姫に助けられまして、今に至ります」
天から堕とされた片翼の天使。
翼は千切られ、手足も変な方向を向いている。
ボロボロで、ピクリとも動かない。
その姿は異様であり、誰も怖がって助けなかった。
雪と氷はあっという間に片翼の天使を覆い、そのまま雪原に消えるはずであった。
力は翼とともに奪われ、僅かしか残っていない。
彼は思った。
私は間違っていたのだろうか?
このまま朽ち果てるが、我が運命か?それもよし……か……。
そう思った瞬間、何かが触れた。
副長は忘れない、あの時の手を。
とても優しい手が、片翼の天使に触れた。
「こんなところに寝ていたら、風邪引きますよ?」
この言葉を。
「「姫さまぁ、風邪ではなく、死にますぅ」」
「……そうとも言いますね」
「「……」」
「何か言いたそうですね?」
「「いえ、姫さまの仰せのままに」」
突然現れたナリ家の3人組。
姫とお付きの双子の執事。
周囲は猛吹雪で、声に魔法を乗せないと聞こえない状況である。
方向も景色も分からず、轟音と真っ白の世界。
そんな中で彼は、彼女達の言葉に救われたのだ。
まさか死にゆくことを決めた時、笑うとは思わなかったろう。
(ふははっ、いやいや、このままだったら確実に死んでしまうだろう!この3人、よくここまで来たものだ)
「「姫さまぁ、このままでは私達もピンチが危ないですぅ」」
姫は、むんずっ、と片翼の天使を掴む。
ひょい、と軽く持ち上げ、お姫様抱っこの出来上がりである。
「では、まいりましょう」
「「……姫さま、腕が落ちましたが……」」
「腕?失礼な!私の腕力、握力は落ちてません!日々鍛えていますっ!さぁ出発ですよっ!」
「「い、いえ、その、姫さまの腕ではなく、天使さまの腕が取れました」」
「そうですか、拾ってきなさい。えっと、お城はどっちかしら?」
当時を思いだし、笑いたい気持ちになる副長。
とんでもない剛毅な姫さまであった。
全身が死ぬほどいたかったが、一瞬忘れるほどの魅力。
そして目の前のこの女神グネと一の君の会話は、ナリ家の姫との会話を思わせた。
「一の君、どうします?お話聞かれましたが?」
「……そうだな、女神グネ、口封じに……」
鏡の中の女神と一の君が、妖しく微笑む。
すかさず副長が抗議する!
「い、一の君!?物騒なこと言わないで下さいよ!」
「でもなぁ、副長、あのバカ者にどう報告するのだ?ここで聞いたこと、見たことそのまま報告するのか?全部、聞いていただろう?」
「……えっ……と、そ、それはですね……」
鏡と一の君を交互に見る副長。
「……仰せのままに」
「おい、逃げたなぁ!どうします?女神グネ?雷神王にはまだ子供のことは伏せておきたい。できるなら妃達から言わせたい、反省の思いを込めた言葉を」
「それは無理でしょう?何年前の出来事です?」
「それでもあやつらは、謝らなければいけない!どれだけの者達が苦しんでいるか!」
「では、取敢えず天使よ、こう言いなさい!五月世界の女神が戦士を一人欲しがっている、この世界の戦士、スノーホワイト国の戦士を一人借りていくと」
「雷神王はタダでは貸しませんよ?」
「ああ、孫はああ見えて結構商売人だ、そう、ケチともいう」
女神グネは鏡の中から、器用に周囲を見回す。
「ふふっ……そうですね、では借りた戦士で我が願い見事叶ったならば、レッド・ブーツ帝国の呪い、解く方法を教えましょう!これで、どうでしょう?」
「「!?」」
今回はここまでです。
次回投稿は明日の朝を予定しています。
バイトの終り時間次第ですが。
遅くてもお昼までにはと考えています。
あ、サブタイトルは 第63話 各国の四天王 の予定です。




