第109話 記憶
おはようございます。
投稿です。
「おい、副長、笑いを堪えているであろう?」
「そんなことはありませんよ、たとえそうだとしても嘲笑ではありません。ネコの治療はネコとして接したのでしょう?ならばそれでいいではありませんか」
お前のようにあっさりと割り切れる性格ではないっ!
と、言う言葉をググッ、と呑み込むエリ・ナリ隊長。
いや、いっそぶちまけるか!?
「……あの時、薬を渡したのはお前だぞ」
恨みのこもった目で射抜く。
「忘れたのか!?」
「はて?そうでしたか?」
まったく覚えていない副長。
副長の仕事は、多肢に渡りネコどころではないのだ。
日常の細事など忘却の彼方である。
「過去に拘りすぎると、現在が疎かになりますよ、隊長」
「今の私は、過去の積み重ねだ」
二人はそう言いながら、山のような書類をどんどん減らしていく。
「五月世界のコジリン殿は、女神による記憶操作を受けていますが」
「ああ、レッドブーツ帝国の呪符と同じ理論と聞いたが」
「元々は過去の耐えきれない記憶を緩和、消去することが発端とか」
「どこで手に入れたか知らぬが、女神の恩恵を悪用?恐ろしい国だな」
「記憶の消去は、人物にとっては救いになるかと」
ジロリ、と副長を見る隊長。
「私のネコの記憶を消せとでも?」
「いえ、囚われて欲しくないだけです」
手が止まり、ふと考える隊長。
「記憶を消す?それでいいのか?」
「隊長、パンクザスチーム共和国では記憶の操作、消去は当り前だったとか」
「ああ、そう聞いたな。マシンダガンか、記憶を数字に変換しているらしいが」
「はい、消したり、付け加えたり」
「それでいいのか?」
「為政者にとっては都合がいいのでしょう」
「そう言えば……前世の記憶がある人物が稀にいるらしいが、邪魔ではないのか?」
「邪魔でしょうな、私はそう判断します」
「副長は、今を大事にするのだな」
「はい、それしかありません……どうかされましたか?」
それは深いため息だった。
「……私は、面倒くさい女だ」
「え?」
「いや、今のは聞かなかったことにしてくれ、さあ、仕事だ」
細事だ、細事だ!
そう言って、書類に目を通し始める。
あの雷帝はっ!私達のパジャマ姿を見ているのだぞ!
だから細事だって!
私の寝所にぃ入っているのだぞっおおおおおお!
それにアクシデントとはいえ、私の唇まで奪っているのだぞ!
それも一回ではないっ!唇を舐めてもいるんだぞっ!
コジリンッ!そいつはぁ私のネコだっ!
雷帝っ!くそっ!なぜそんなにコジリンに優しくするっ!
私のことなど、もう忘れたのかっ!
どうでもいい過去の女なのかっ!?
コジリンと親しくする雷帝を見ていると、何故か腹が立つ!
私はプライドが高い女なのだろうか?
そう、エリ・ナリ隊長はコジリンに激しく嫉妬していたのだ。
雷帝やコジリン、さほど気にもしていなかったが、雷帝=白黒ネコ、となるとそうもいかない。
私は遊ばれたのか!?
そしてあきらめの気持ちも湧き上がる。
ああ、もう私は雷帝にとって、忘れ去れてた存在なのだろう、と。
この世界に帰ってきたら、一発ぶん殴ってやろう。
軽くかわされるだろうが、副長の言うとおりだ、今を大事にしよう。
私は国境警備隊の隊長なのだ!
と、考えるが、気持ちはそうではない。
人の心を弄びおって!
責任をとらせたいっ!
どのような責任かは分からないが、エリ・ナリ隊長はそう思った。
今回はここまでです。
次回サブタイトルは 第110話 街の門 の予定です。
毎回ご愛読ありがとうございます!




