造ルモノ
「テメェの考えた案に賛成ってことで、異論はないわけだな?」
グローリアの言葉に一様に肯定するように首肯する。
「なら、次は東まで行く人員をどうするかって話だな。チスパ」
「ん? 何?」
「確か、《双翼》攻めには《十二使徒》が参加してるんだったな?」
「うん。ウチたちが見に行ったときは二人だけだったけどね。あはは、あの時は落とされかけてすごく焦ったよ~」
「と言うことは、最悪の場合大陸守護者どもと喧嘩になる可能性があるってことか」
大陸守護者はその大陸で最強クラスの戦力を指す名だ。
東であれば《四王》。
西であれば《四黒》。
南は《四聖》。
北は《十二使徒》。
それぞれが常識の埒外の性能を持っている。
そんな奴らと正面からやり合って勝てるような人間なんて、数えるほどしかいない。
逆説的に、数えられるほどはいると言うことだ。
それに、北の大陸守護者である《十二使徒》は他の大陸よりも数が多い分、個々の戦力は他大陸の大陸守護者に劣る。
要するに、《十二使徒》クラスであれば、探せなくもないのだ。
因みにではあるが、この場に集まっている六人は状況にも左右されるが、《十二使徒》程度であれば確実に勝てるとまではいかないまでも、負けない程度の実力を持っている。
「ま、問題ないだろうな。となると、人員はどうやって選出したものか」
「とりあえず、グローリアが行くことは確定でえぇやろ」
「意義な~し」
「妥当なところでしょうね」
「何故に?」
「お前がこの連合の発案者だからや。発案者なんやから、一先ずのところはグローリアを代表ってことにしといたほうがいろいろと楽やろ」
「まぁ、良いがな。なら、お前もついてこいよ。スペンサー」
グローリアの言葉を聞いてスペンサーが片眉を吊り上げる。
不本意気な表情のあらわす意味は面倒臭いから行きたくないと言ったところだろう。
そのグローリアの予想が当たっているようで、スペンサーが口を開いたときにその口から漏れ出たのは不満を表す言葉だった。
「はぁ? 何でワイがついて行かにゃならんのや」
「今回は死なないってことが前提になる。そう言う意味で行くと、お前かジスがちょうどいい」
「なら、ジスでもえぇやろ」
「あいつは連れていけない」
「何でや。理由如何によっちゃ、ワイは行かへんぞ」
「ジスの異能は防御特化。防御に特化させる代わりに、攻撃力はないに等しい。そんな奴についてこられても、邪魔だ。ついでに言うと、こいつにはこっちを護ってもらわんといかんからな」
グローリアはチラリとジスに視線をおくる。
ジスは承知したと言うように、薄く微笑んだ後に首を縦に振った。
「邪魔された北か《閂》がこっちにケンカ売りに来ないとも限らん。そうなった時に、ジスがこっちにいるのといないのとではだいぶ違うからな」
「……そう言うことなら、えぇわ。ついてったる」
「頼んだ。……あまり大勢で良く意味もないからな。もう一人ぐらいってところだろうな。その一人は、チスパに頼みたい」
「ウチ?」
「あぁ。お前だ」
「何で?」
「移動する脚がないことにはどうしょうもないだろうよ」
「あー……そうだね。わかった」
チスパの同意も得た。
これで三人。東大陸に行くメンバーとしてはこの三人でちょうどいいぐらいだろう。
東に行く人数が多すぎても、敵にばれてしまう可能性が上がり隠密行動をすることが出来なくなってしまう。
それ以前に、移動を担うチスパは一人だけ。
あまり多くを一度に運搬することもできないだろう。チスパだって曲がりなりにも女なのだから。
「むー……失礼なこと考えてない?」
「気のせいだな。テメェは当たり前の事しか考察してはいない」
「そう? なら、良いけど……」
不満たらたらだし、まだいうことはたくさんあると言いたげな表情をチスパはしているが、そんなことを言っている暇でもないと理解しているのか口を引き結ぶ。
改めて何かこのメンバーに問題がないかをグローリアは思考してみるが、今この場にいる六人から三人を選出するとした場合、グローリア、スペンサー、チスパの三人が最適解だろうと言う答えが出るばかりだ。
スペンサーは条件付きではあるが、死ぬことがない。
チスパはその機動力もさることながら、文字通りの意味の火力でも申し分ない。
グローリアは肉体性能に頼った行動などを好むような質でもなく、それほど肉体の性能も高いという訳でもない。その足りない性能を補うために身に付けた技術があれば、大概の状況において如何なく動くことが可能だろう。
これが他の三人であると少しだけ問題が出てくる。
ジスは防御と言う一点で言えば、大陸を超えてこの世界でも五本の指に入るほどである。だが、その圧倒的な防御力と引き換えに攻撃することが出来ない。
宴は身体能力を底上げすることが出来るが……それだけ。応用力が先ず以て低すぎると言うのが問題になってくる。それに、宴は基本的に敵の攻撃を避けない。これは敵の戦力が不明な現状においては決定的な欠点と言えるだろう。
最後に鳶だが……鳶は戦闘系ではない。根本的に持っている異能も製作系の異能であり、その異能だって色々と制限がある。あまり説明することもできないが、材料がなくなった時点で何もできなくなる鳶は足手まといになる可能性すらもある。
結論を言うと、この三人は西に残して後詰を任せてしまったほうが楽だろう。
後でどうなるかわからないのだから。
腰を据えて行動するとするのならば、この三人はグローリア三人などとは比較するのも失礼なほど優秀だ。
だから、西は、背後は任せておけるという安心感がある。
「なら、さっさと言ったほうがえぇやろ。こうやって管まいとるうちに《双翼》が潰されちまっちゃぁこの案もご破算やからな」
「そうだな。ジス、こっちは任せたぞ」
「了解です。私が確信をもって断言できるのは一つだけです。ここは守り抜いておきましょう」
「……十分すぎる。チスパ。今なら飛べるか?」
「ちょっと待ってね~」
チスパは立ち上がると、トテトテと入口とは反対方向にある、小さな窓に向かっていく。
屈むことによって外を眺めながら言う。
「う~ん……飛べるけど、どんどん加速していくことになるかもね」
「そんなことはどうでもいい。テメェが知りたいのはたった一つだ。東まではどのくらいで到着しそうなんだ?」
「それなら……」
立ち上がりながら、顎に手を当てつつ考える。
その仕草も含めてチスパが真面目に見える。……と言うよりも、今だけは普段のふざけるような空気も飲み込んで真面目にしているのだろう。
空は完全にチスパの領域だ。
それに関係することでは一欠片も手を抜く気はないのだろう。
「三時間……ってとこかな? 妨害されちゃったらもうちょっとかかるかもだけれど……概ね三時間ぐらい、かな?」
「わかった」
グローリアも窓の方に向かっていき、空を眺める。
朝は少し太陽が陰っていたようだが、もう雲はだいぶ晴れていて太陽が燦々と光を地上に届けている。
この調子であれば雲に太陽が隠されることも、雨が降り出すこともないだろう。
ならば、問題は何もない。
さっさと東に向かうとするか。
どうせ大して時間も掛けずに《双翼》を救ってしまう予定だ。
東への滞在時間は長くとも二日と言ったところ。……逆に、それ以上時間がかかってしまう場合は退却するべきだろう。
最低でも、《双翼》の『双子王』だけは非難させるべきなのだろう。
そのためにも西での受け入れはさせておくべきだろう。
「ジス。最悪、逃げ帰ってくるから受け入れ態勢だけは整えておいてくれ」
「了解しました」
「んじゃ、さっさと行くか。面倒事はさっさと片付けるに限るしな」
「せやな」
スペンサーもグローリアの意見に同意なようで、肯定する。
チスパにちらりと視線をおくってみるが、空を駆けることしかもう頭にはないようで、軽くトリップしてしまっている。
この状態で、行くのは明日だなどと言ったら、グローリアが焼かれかねない。
グローリアは、未だトリップしているチスパの首根っこを掴み、肩に担ぐと、会議室を出るための扉に手を掛ける。
時間がないとは言っても、ここでチスパに翼を展開させるわけにはいかない。
ギルドホームが全焼してしまう。
「グローリア」
今々出ていこうと言うグローリアの背に声がかかった。
やけに真面目なトーンなので一瞬誰だかわからなかったが、声質で声をかけたのが誰だかわかった。
「何だ、鳶」
振り返ってみると、自分のギルドの説明をしたっきり、ほとんど会話には参加してこなかった鳶がグローリアのほうを向いている。
グローリアと視線を合わせた鳶はさっきの真面目なトーンとは打って変わって、楽しそうに笑う。
「今から、東に行くのよね?」
「そうだ。さっきも言ったが、後手に回るメリットはないからな」
「そうよね。なら、これもって行って」
そう言うと、鳶はツナギに挟んでいた設計図を手に取る。
そして、その設計図を開いて、目を大きく見開いて設計図を改めて熟読した後、その設計図をぐちゃぐちゃにして、拳の中に握りこんだ。
「種も仕掛けもございません」
そう言って拳を開くと、そこには設計図どころか何もない。
物を造っているとは思えないような、綺麗な手のひらがそこにはあった。
「情報:理解。設計:理解。構成物質:理解。設計手順:理解。……さてはて、どうなるものかね? 頼んだよ。『機械仕掛けの行進』」
鳶が意味不明な言葉を紡ぐ。
すると、不意に鳶の背後の空間から大量の鉄や鋼などの鉱物が大量に現出する。
その鉱物たちは裁断され、研磨され、合わせられ、徐々に新たな物体を形作っていく。
一分もたたないうちに鳶の前に一つの物が転がっていた。
所々に、歯車や不可解なパーツがついているところに目を瞑れば、鳶の前に転がっているものがとある武器であることが理解できるだろう。
それは、主に南の群島列島で好んで使われる武器――太刀である。
これは南大陸で使われている刀と言う武器の一種で、南で使われる長さの単位である尺を用いた長さの計測法で、二尺以上の刃を下にして腰ひもに吊るして携帯するものを指す。二尺と言うのがわかりづらいかもしれないが、鳶の前にある物は大体90㎝ほどである。
同じような武器で打刀という武器が南にはあるが、その武器との区別として、腰ひもに吊るしたときの呼び方に違いがある。打刀は腰に「差す」のに対して、太刀は「佩く」と表現した。
一部ではその美しさから美術品などの性質を秘めた者も存在するが、鳶の前にある太刀はそんな狙ったような美しさとは違う、言うなれば自然と滲み出るような、湧き出る美しさを醸し出していた。
鍔より少し上のところ――刀身の最下部に、刀身を挟むようにして二枚の歯車がある。
その太刀を鞘から少しだけ出して、刀身を見ながら、満足げに鳶は頷く。
どうやら刀身の横には鞘の歯車と噛みあうような歯がついているようで、刀身を引き抜いたときに鞘走りの音の他に、歯車同士がかみ合って歯車が回り、機械的な駆動音を立てた。
そして、立ち上がったかと思うと、グローリアのすぐ前まで歩いてきて、グローリアにその太刀を差し出す。
「……これは?」
「グローリアの相棒に成り得る……かもしれない子、かもね。銘は――機甲刀『熱喰』」
「『熱喰』……」
「使ってあげてね。損はさせないと思うよ?」
「あぁ。ありがたく使わせてもらおう」
「うん。それじゃ、ね」
言い終わると、鳶は興味が失せたのかグローリアの脇を抜けて勝手に退室してしまう。
自由で適当だ。
グローリアも、そんな鳶の性質を特に問題視はしていないのだが。
「……なんや? あのアマ」
「わからない人だよね~」
スペンサーとチスパには鳶が理解できないようで、鳶の後ろ姿に目をやりながら首をかしげている。肩の上で首を捻られるのは少しだけ邪魔であった。それ以前に、いつの間に現実に戻ってきた。
別に鳶だって誰かに理解されたいと思っているわけはないだろう。
ただ、自分の想いの赴くままに。
そうしたほうが楽しいから。愉快だから。愉悦に浸れるから。
だからこそ、鳶はグローリアの考えた連合に入ると言ったのだろう。
楽しくなるかもしれなかったから。
「問題はない。あいつはあんな女だ。勝手にするだろうさ」
グローリアが薄い微笑みと共に告げると、二人は一層わからなくなってしまったようだ。
それでもいいのだ。
人に語って聞かせるような関係でもない。
ただ……グローリアと鳶が勝手に想い合っているだけで十分なのだ。




