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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第三章 連なり合う
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まだしてなかったのかよ……自己紹介

過分に苛立った表情の宴と疲れた様子のチスパとジス。寝起きと言うことで、多少は疲労も回復した様子のスペンサーが会議室に入ってくる。

最初からいたのは、目を閉じて腕を組んだ状態で眉間に皺を作っているグローリアと、設計図を眺めながら満足げな表情をしている鳶だ。鳶のほうは設計図が完成したようだ。

スペンサーたちが部屋に入ってきたことを認識したグローリアは、組んでいた腕を外してスペンサーたちのほうを見やる。


「随分と疲れ切った表情をしているじゃねぇか。どうした? 休めなかったのか?」

「……休めるはずねぇだろうが」

「そうですね。結局案内は来ませんでしたし」

「案内?」

「グローリア部屋用意させるって言ってたじゃん」

「言ったな。だが、案内を寄越すとは言っていない」

「はい?」

「……は?」

「うん?」

「まんじりと空を見上げて口を開けるだけの馬鹿に餌を恵むほどテメェは暇ではない。準備だけはさせたのだ。動かなかったお前らが悪い」


このグローリアの発言には、流石の宴たちも度肝を抜かれた。

宴たちが案内を待っていたのは、同盟ギルドで今から連合を組むとはいっても、普通は機密情報が多くある自らのホームを勝手に歩き回られたくはないだろうと言う配慮からだ。

それをグローリアは自ら動いて部屋を探すか人に聞けと言ったのだ。

こちらを信頼しているのか。それとも、自分のギルドに秘するべきところなどないと思っているのか。はたまた、本当にどうでもいいと思っているのか。

判断がつかないところである。

だが、グローリアの行動の意味など問うてもどうせまともな答えが返ってこないと理解している三人は、それ以上は何も言わずに昨日と同じ席に着く。


「全員そろったな? なら、改めて自己紹介とでも行こう。テメェはお前らのギルドのこともお前らのことも割と知っているつもりだが、お前らはほぼ初対面みたいなもんだろ? 昨日あんなことしたと言ってもな」


確かに正論である。

この場にいるのは、元々グローリアが長を務める《セレーノ》と同盟を組んだギルドたちであって、それ以外とのつながりはない。

そうでなくとも、横の繋がりが薄いようなギルドたちだ。

各々のギルドについての情報など集めていないだろう。

自分たちと同格、もしくは格下のギルドについてまで調べていられるほど余裕のあるギルドは、小規模ギルドとも零細ギルドとも言われない。


「最初は……どこから言うか?」

「言い出しっぺが初めに言うのがマナーやあらへんのか?」

「テメェに言えと? お前らだって知っているはずだ」

「そりゃそやけど……」

「無意味なことに時間を費やす気はない。……いや、ハッキリ言ってしまおう。無駄に費やしていられる時間などありはしない」

「それはどういう……」

「ジス。お前から言え」

「私ですか? まぁ、良いですよ」


グローリアの突然のフリに、少しばかり戸惑ったような表情をしたジスではあったが、すぐに了承の意を示した。


「私のギルドは《不倒の城壁》と言います。ギルドのジャンルで言うのなら、防衛系ギルドです」

「……防衛?」

「はい。防衛系ギルドです」


ジスがトップ――第一の盾を務めるギルド《不倒の城壁》は異色なギルドとして知られている。

西大陸に戦闘を中心とするギルドは数多あれど、そう言ったギルドは大半が戦闘系ギルドを名乗る。人を派遣して戦闘を行う《不倒の城壁》は、戦闘系ギルドの中でも傭兵系ギルドと言うことになるだろう。

だが、《不倒の城壁》は防衛系ギルドを自ら名乗っている。戦闘ではなく、防衛。護ることを主目的とし、自分たちから争いのためをばら撒くことを良しとしないギルドだ。だからと言って、敵に攻撃されたら泣き寝入りするのではなく、身内を護るためであれば徹底抗戦もすると言うギルドだ。


「グローリア。異能についても言ったほうが良いのですか?」

「言いたいのなら。テメェは強制するつもりはない」

「そうですか。ならば、今は遠慮させていただきましょう。いずれ、教えるような機会もあるでしょうから、それまでは秘させていただきます」


薄い微笑みと共にジスはそう言った。

ポーカーフェイスと言うものには様々なものがあり、その定義と言うのは内心を知られないために表情を動かさないと言うことになる。

だとするのならば、ジスの浮かべている笑みと言うのは十分にポーカーフェイスだろう。

内心を推し量ることが出来ない。


「それじゃ、次は……」

「はいは~い! 次はうちのギルド!」

「異論は……なさそうだな。ならチスパ、頼む」

「おっけー。ウチのギルドは《天空》。空が大好きな人間のみで構成されている運搬系のギルドだよ」

「……運搬系か。……と言うことは、飛行系の異能者が所属しているのか?」

「うん。全員が空に関する異能を持っているよ」

「空に関する? 飛行系と限定はしないのですか?」

「そうだね。飛行系という訳ではないような異能者もいるからね」


空を愛し、空と共に生きることをモットーとする《天空》はそんなモットーを掲げておきながら、翼人種が一人もいないと言う少し変わったギルドだ。その代わりに団員全員が空や飛行に関する異能を持っている。空に関する異能を持っていることが加入条件なので、メンバーは多くない。

空に関することで言えば、随一のギルドであるし、運搬に関しても他の上位の運搬系ギルドと比べても遜色がないレベルなのだが、人が少ないせいで小規模ギルドと言う地位に甘んじている。

周囲は低い地位で満足している《天空》の本当のところを知っているものは残念がっているが、当の本人たちは空以外に興味がないので気にしてもいない。

良くも悪くも、空を駆ける渡り鳥のように自由なのが《天空》の特徴と言えるだろう。


「何か質問ある人いる~?」


聞いてほしそうに周囲を見渡すチスパだが、誰も質問をしようとはしない。

この場にいる人間に、遠慮なんて言う面白おかしいものを持っている人間もいないので、純粋に興味がないのだろう。

そのことに少しだけチスパはしょんぼりしているようだが、グローリアは気にも留めない。

それどころか視界にすら入れていない。


「次」

「……寂しい」

「黙れチスパ。お前の手番はもう終わった」

「…………グスン」

「次は……スペンサー」

「ワイか? えぇで。ギルドについて説明すりゃえぇんやろ?」

「そうだな」

「わかったで。……ウチのギルドは《悪鬼と妖精》言うんや。ジャンルとしては多目的ギルドやな。様々なことをできる代わりに、誇れるようなジャンルがないのが難点やね」


《悪鬼と妖精》はギルドと言うよりかは、大きなひとつの家族と言う認識をしたほうが良いようなギルドだ。ギルドメンバーたちの仲は良く、トップであるスペンサーは全体のまとめ役やギルドの団長と言うよりかは長兄や父親と言った保護者的な立場である。

仲は良いと言うが、水面下では仲良くスペンサーの奪い合いをしていると言うことをグローリアは知っている。

知らぬは本人ばかり也とはよく言ったものである。


「異能者はどの程度いるのですか?」

「そんなにおらへんな。ワイも含めて二桁行かんぐらいや」


家族と言ったのは、戦闘員が少ないと言うことにも起因している。

《悪鬼と妖精》のメンバーで外に出て稼げるような能力を持っているのは、グローリアの知る限りでは五人ほど。その五人で大勢の家族を養っているような形なのだ。

《セレーノ》では、その稼げる人間がグローリアしかいないようなものだから、《セレーノ》よりかは、多少財政はましである。

他に質問はないのかとスペンサーは見ているが、質問も特にはないようだ。


「次。宴」

「……《百鬼夜行》。それが俺たちのギルドの名だ。ジャンルとしては傭兵ギルド。構成員は全員が妖怪……貴様らで言うところの、魔獣と異人種のみで構成されている」


《百鬼夜行》はそのメンバー全員が異人種と魔獣の近親種で構成されている珍しいギルドである。正確に言うのならば異人種や魔獣ではなく、南の言葉でいうところの妖怪だけで構成されているギルドだ。妖怪たちには人ならざる姿をしたものが大半なので、他のギルドからは化け物呼ばわりされて魔獣と大して変わらない扱いをされている。

祭は鬼人種という尖角種から派生した種族なので、まだ人よりの姿をしているが、人とはかけ離れた姿を取る団員だって少なくはない。

それに、そんな姿の者が多いので、傭兵とは名ばかりの捨て駒や汚れ仕事が依頼として多くはいるようなギルドだ。


「……俺から他に言うこともない。……質問を聞くつもりもない」


そう言った宴は腕を組んで目を閉じる。

勝手に話をすすめろと言う意思表示のようである。

連合に入ることを了承したとはいっても、積極的にかかわる気はないようだ。


「最後は、鳶だな」

「うん? 何の話してたの?」

「各々が自分のギルドの説明してたんだよ。あと残ってんのはお前だけだ」

「そうなの? 普段だったら、煩わしいから断るところなんだけど……今日は機嫌が良いから付き合ってあげるよ」


ニコニコと機嫌の良さそうな鳶は自分の前に広げていた設計図を畳んでツナギの肩ひもの下に入れて固定する。


「私のギルド、《機甲の花園》は製作系のギルドだね。鉄とかの鉱物を加工して様々な物を造るのがメインとしての仕事」


鉱物加工に関して《機甲の花園》に並ぶギルドは西にはない。

その理由は、《機甲の花園》は様々なジャンルの製作系の異能を持つ人間が集まって、相互に協力したり技術を教え合ったりして、より良い製品を作ろうとするからである。

プロフェッショナルがそれぞれのジャンルについては最高の仕事をし、それを集計して一つの作品をつくる。

そうしたときの作品は、大陸と言わず世界最高峰の出来である。


「一通りの各ギルドについての説明は終わったな。それぞれ他のギルドの特徴は頭に入れたな? 入れてないと言っても構わず進むが」


そんなグローリアらしい発言にスペンサーとジスは苦笑してしまう。

だが、異論はないようで誰もそれ以上のアクションを取ろうとはしない。

それを一応と言った様子で確認したグローリアは、また言葉を紡ぎだす。


「それでは、テメェたちの合計六ギルドで連合を組んだわけだ。何する?」

「何する、とは?」

「単純だ。最初に何をするかと言う話だ。連合を組んだから終わりと言う話でもあるまい」

「確かに」


連合を組んだからと言って、何も行動を起こさないと言うのでは連合を組んだ意味が存在しない。

昨日の一件のせいで飛びかけてはいるが、基はと言えばこのギルドは北と東が同盟を組んだと聞いて、このままでは西は潰されるだけだと判断したからのものだ。

そう遠くないうちに東と北は西に攻め込んでくることだろう。

その時に何も準備ができていませんでしたでは済まないのだ。そうなった場合、少なくない人間の命が失われる。

この場にいる六人は自分のギルドのメンバーが助かるのならいいとは思っているが、その少なくない人間に自分のギルドの人間が含まれないとも限らない。

だから、今動くしかないのだ。

北と東が、東の中の唯一の対抗勢力である《双翼》を叩いているうちに。


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