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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第三章 連なり合う
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呼ばれてないのに集まる

「ま、リテラエのことはどうでもいいさ。スペンサーのはさっき聞いたから、チスパ。お前の情報とやらを聞かせてくれ」

「うん。ウチのほうに回ってきた情報は、北と東の三国が同盟を組んだってこと。あとは、東の残った一国である《双翼》に、《閂》が攻め込んだらしいね」

「へぇ……ウチよりもいい情報もってんな」

「そりゃそうだよ。ウチは足の速さだけが取り柄のギルドだからね。ちなみに、肉眼で確認済みだよ。昨日の段階ではまだ水際で押さえられてるみたいだったけど、そう長くは持たないと思うよ。一週間耐えられればいい方かもね」

「《閂》と《双翼》にはそこまで戦力差はあったか? あそこの四国の実力は割と横這いだった気がするが」


東の四国はそれぞれ長所と短所がある。

例えば、個の性能としては四国の中で一番であろう龍人種の国家である《閂》。個の性能が高い代わりに、集団戦術が取れないし、国民もそこまで多くはない。

吸血種の国である《常夜》。吸血種の種族適性も手伝って、スタミナが果てしなくあるが、基本夜行性なので昼間は脆くなってしまう。

このように、長所と短所がはっきりとしている分、東の戦況は動きづらいのだ。そのおかげで四つの国がほぼ同じ規模で一つの大陸に存在するなんて言う面白おかしい事象になっているのだろう。

と言っても、それだけでは現状の様にはならない。

もう一つの理由としては、各国のトップの実力が拮抗していると言うことだろう。

各国のトップは《四王》と呼ばれ、西の《四黒》や北の《十二使徒》と同じく大陸の最高戦力である。

要するに、東の場合はトップ=国の切り札のような要素が強い。

そのおかげで、どうにも決定打に欠けるような小競り合いばかりをしていた記憶がある。

そんなグローリアの考えを読んだのか、チスパは言葉を続ける。


「ウチもそう思ったから、威力偵察したんだ」

「結果は?」

「北の《十二使徒》が二人も出張ってた。あれじゃあ、押されるのも無理はないと思うよ」

「……それじゃ、少なくとも北と《閂》が組んでるってんは確定ってことで良いんかいな?」

「だろうな。そのあたりは大体集めた情報からも察せていたが、実際に見てきた奴から聞くのと書類では実感が違いすぎる」


本当に面倒くさいことになったとグローリアはため息をつく。

端から同盟の情報を疑っていたわけでもないのだが、面倒臭くて仕方がない。

それに、同盟を組んでいるという情報は広く知られていると言うのに、それ以外の情報があまり集まっていないと言うのも問題だ。

これはさっさと実地偵察に行くのが最適解な気がする。


「てか、お前ら随分と自然な感じに馴染んでんな」

「何がや?」

「何が?」

「テメェはどちらとも面識あるわけだが、お前らはまだ今あったばかりなのではないか? にしては自己紹介もなく過ぎ去ってるなと思ってな」

「「……あ」」

「今思い出したって面だな」


同時にスペンサーとチスパはさっきまで全く気にしていなかった、隣にいる人間のことを警戒しだした。

両方元からあまり警戒心は強くないのだろう。

それに、スペンサーが来た時にはチスパが間抜け面で掃除していたと言うのも要因としてはあるのだろう。

どれにしても、名も氏素性も知らない相手に対しては警戒心が抜けすぎていた。

二人は相手を警戒するあまり、殺気にも似た何かを体から放出し始める。

相手のことをそう言う意識の間に紛れ込む系の異能者とでも思っているのだろうか?

勘違いと言うのは恐ろしいものだ。

だから、間抜けどもにグローリアが現実を教えてやることにした。


「間抜けども、お前らが気づけなかったのは単純な理由だ。相手の異能でも、魔法でも、それ以外の何かでもない。お前らの注意力が散漫すぎるだけだ」

「「…………」」


それでも、二人は警戒を解こうとしない。

グローリアの言を信用に足るものだとは思っていないのだろう。

もう面倒くさくなったグローリアは両者の個人情報を暴露することにした。

まず、チスパのほうを見ながら、スペンサーのほうに手先を向ける。


「こちら、スペンサー・ブランチャート。《悪鬼と妖精》のトップで、最近はハーレム王とか呼ばれている馬鹿。カリスマ性が異常なほどあるが、それを自覚していない人たらし」

「おい!」


次はスペンサーの方を向き直りながら、チスパを指す。

何かスペンサーが目の前でわめきたてているが、知ったことではない。


「こちら、チスパ・アルコン。《天空》のトップで、空を飛ぶことしか頭にない脳みそまで空っぽの飛行フェチ。空に関すること以外を考える脳がない」

「その紹介は色々と誤解を招くよ!?」

「以上、説明終わり。これ以上無意味にわめきたてるってんなら、お前らの異能をここで声高に叫んでもいいんだぞ?」

「「止めや(て)!」」

「なら、無意味なことはやめるんだな。不愉快だ」


グローリアは面倒臭そうに、これ見よがしにため息をついてから飲み物を口に含む。

これ以上喧嘩すると言うのなら、言ったことを実行するだけだ。

異能者にとって、自分の異能の情報と言うのは何をおいても比しておくべき物だ。

異能を持っていると言うことを知られるのは良い。もっと言うと、知られるのならば異能を持っているという情報だけを相手に掴ませるのが一番いいともいえる。もちろん、知られないのが一番と言えばそうなのだが。

持っていると言うことだけしか知らないのなら、相手はどんな異能なのかと警戒する。

異能と言うのは千差万別。似通ったものこそあれ、完全に同じものは一つの時代に二つは存在しない。時代をさかのぼれば同じと思われる能力を発見することはできなくもないのだが。

だから、相手は強力なものかもしれないと警戒する。

そうすればこっちの物だ。相手の行動が制限されている間に勝負を決めてしまえる。

そんな切り札をグローリアは平然と言ってしまうと言っているのだ。

慌てるのも当然と言えば当然か。

平然とイカれたことをしようとしているグローリアにスペンサーは強がってみる。


「い、良いんか? お前が言ったら、ワイもお前の異能を言うぞ?」

「別に困りはしない」


グローリアはスペンサーの揺さぶりに全く動じない。

スペンサーが外から見た限り、何か動揺した様子は全く見受けられなかった。それどころか、グローリアの心の水面に欠片ほどの波紋も立てられなかったことを理解する。


「真に秘するべきところは秘している。それ以外の情報などいくらくれてやっても問題とはなりえない。それに、チスパはもうテメェの異能を知っている。スペンサー、お前の発言は交渉足りえない。テメェを苛立たせるだけだ」

「す、スマン。調子に乗ったわ」

「……気にしていない」


絶対嘘だ。

思ってもスペンサーが口に出すことはない。

回避することが出来たと言うのに、わざわざ戻ってまで虎の尾を踏みつけることもない。

諦めと共にスペンサーは大きく息を吐き出す。

その後、チスパに向けて右手を差し出した。


「……変な形にはなっちまったが、改めぇ。ワイはスペンサー・ブランチャートや。《悪鬼と妖精》の頭をやってるで。これからは良い関係を気づけていけたらなと心から思うわ」


チスパは一瞬面食らった後に、朗らかな笑みを浮かべてその手を取る。


「チスパ・アルコン。《天空》の空守だよ。ウチもあなたとはいい関係を気づけていけたらと思っているよ」

「挨拶も終わったし、対策でも考えよか」

「そうだね。そうしようか」


チスパとスペンサーは、握手を解いた後は相手に対する警戒を薄めている。

この辺りは流石に団長と言ったところか。

完全に警戒は解かないまでも、グローリアにキレられない程度のレベルを維持している。

こういう腹芸はギルドのトップともなれば絶対に必要なことなのだろう。……グローリアはあまり好まないから行わないが。

話し合いの姿勢を取る二人にグローリアが待ったをかける。


「ちょっと待て。この調子で行ったら、後三つも来そうだ」

「三つ?」

「あぁ。ウチと同盟を組んでいるギルドは四つ……この間増えたんだったな。今は五つか。お前らが来たんなら、他の奴らも来るだろう」

「……そう考える理由は何やねん」

「……勘ってやつだ」

「随分と信用に欠ける根拠やねぇ」

「そうか? 意外と勘ってやつも馬鹿には出来んと思うがな」

「そうは言うけどな? 勘に頼りすぎるのもどうかと……」


スペンサーが言葉を最後まで発することはできなかった。

それは何故か?

壁をぶち破って大胆な闖入者がやってきたからだ。

入口の扉を挟んで両側にぽっかりと大きな穴が開いてしまっている。

グローリアは風通しがよくなりそうだなぁ、と他人事のように考えているが、ギルドの財政を担っているリテラエとウルヴァーンは呆然としている。

特にリテラエは、もうショックなことが連続しすぎたせいか、真っ白な灰となって崩れ落ちてしまっている。

後で回収しなくては。

大胆な闖入者はごろごろと転がることによって衝撃を緩和すると、グローリアたち三人が着いているテーブルの横で止まった。


「久しぶりだな、宴。調子はどうだ?」

「……最低だな。……正義感振りかざす馬鹿ってのは今も昔も迷惑極まりない」


そう言って口の中にたまった血を床に吐き捨てるのは、褐色の肌を持った女だ。彼女の名はまつり うたげ。男のような口調だが、立派に女である。そのことは、たわわに実っている胸部が証明している。漆黒の髪は肩甲骨の辺りまで伸ばされている。左手に持っているのは酒と大きく描かれている酒瓶。あれだけ転がったのだ。床にも随分とぶつかっているだろうに、傷一つついていない。頑丈と言う一言では片付けられない。南大陸で行われる祭りのときに着られる法被の両肩の袖をねじりながらまくっている。


「……なっ」

「…………」


スペンサーたちが宴の異様を見て息をのむ。

スペンサーたちの視線が行っているのは、宴の額から伸びる一本の緋色の角だろう。

この世界において、一般的に知られている角の生えた種族と言うのは尖角種だけである。

尖角種と言うのは、恐れの対象であり、敵と言うことの証左でもある。

スペンサーたちが黙ってしまうのもしょうがないことではあるのだろう。


「何があったんだ? 随分と面白そうだが」

「……実際にやられると愉快でもなんでもないがな」


宴は不愉快そうに自分が入ってきた穴から外を眺める。

穴からは純白のタワーシールドを持った男が入ってくる。

男は宴の姿を視界に収めると、盾で自分の前面を隠したまま、突っ込んでくる。

宴も、男を見て不愉快そうに一度だけ舌打ちをすると、臨戦態勢に入って迎え撃とうとする。

だが、両者が交錯することはなかった。

何故なら、グローリアがタワーシールドを持った男の首元に短剣の刃を当てていたからだ。


「いつも思うがお前は元気だな、ジス。元気は良いが、人様のギルドの壁を豪快に破壊しないでくれるか?」

「……グローリアさん。私はあの危険因子を排除しなくてはいけないのですよ。だから、退いてくれませんか?」

「断る。中で暴れられたら、修繕費だけでうちの金庫が吹っ飛ぶ」

「修繕費はうちで出します」

「太っ腹だな。だが、そう言う問題でもないんだ」

「なら、どういう問題なのですか? どういう理由なら尖角種を放置してよくなるのですか?」


男――ジスは首元に刃を当てられていると言うのに、グローリアに一切の注意を向けずに宴のほうだけを睨みつけている。

清廉潔白を絵に描いたようなジスらしい発言と行動だった。

純白のタワーシールドを構えているこの男はジス・スクード。色素の薄い白い髪に、奥の血管の色がもろに出てしまっている赤い目。そして、尖った耳が特徴的だ。自分で作ったルールを愚直なまでに守る。芯の一本通った男である。多少融通の利かないところが玉に瑕だが、それを補って余りあるほどに良い人間だと言える。

彼にとって今優先するべきは呪いと破壊を周囲にまき散らし続ける尖角種の討伐であって、それ以外のことは些末事なのだろう。

シンプルな価値観である。

害をなすものは何であれ滅ぼす。

その害がいては居ても立っても居られない。

……自分から自分を縛り付けるこの男はきっと長生きできないのだろう。

それでもこの男はこの性格を改めない。そこで生き方を曲げられるほど器用な男でもない。


「理由を教えてやろうか?」

「納得のいくものを。納得いかないのならあなたを殺してでも、この尖角種を殺します」

「おぉ怖い。理由は簡単だよ。宴はお前の大っ嫌いな尖角種じゃないからな」

「……ふざけた冗談は嫌いですね」

「冗談をふざけねぇでどうしろってんだよ。馬鹿か?」

「……あなたから殺します」

「早計だ。からかって悪かったとは思うが。……まぁ、宴が尖角種じゃねぇってのは事実だ」

「なら、何だと言うのですか? この女の種族は。僕は角の生えている種族で人型を取れるのは尖角種以外しらないのですけれど?」

「……オレは鬼人種だ」


グローリアがジスの疑問に答えようとしたところで、先に宴が口を開いた。

宴が自分で言ったように、宴は尖角種とは似て非なる種族である鬼人種だ。

似て非なると言うか、もっと正確に言うとするのならば、鬼人種と言うのは尖角種の下位互換的種族なのだ。

理性を手に入れる代わりに、呪いと呼ばれるほどの力を。制御権を手に入れるために、圧倒的な身体性能を捨てたのが鬼人種と言われる種族だ。

鬼人種はその尖角種と似てしまっている見た目からか、南以外には極端にいない。南以外では尖角種と同じような扱いを受けて排斥されることも少なくないからだ。

そんな鬼人種である宴は続けて噛んで含めるようにジスに言う。


「……オレは鬼人種だ。……呪いも放っていないし、身体能力だって人の姿を取っている時の龍人種に匹敵する程度しか持たん。……角だって、大して大きくもない」

「だってよ。ジス、こんなに話せる尖角種はいると思うか? てか、いたとしても理性を取り戻した尖角種は他の種族とは変わらんと思うがね。……と言うか、理性を取り戻した尖角種は不憫だぜ? 今まで殺したことを背負いながら生きなきゃいかんのだからな」


グローリアは最後でさり気なく尖角種を擁護するような発言をした。

理由は簡単。このギルドには実際に理性を取り戻した尖角種であるユニコがいるからだ。

話を聞いたジスは数秒の後、張り詰めていた神経を不意に弛緩させる。

それと同時に手元にあった純白のタワーシールドも虚空に紛れ込むように消える。


「もう大丈夫そうだ」

「はい。面倒を掛けました」

「いや、慣れちまった」


謝罪の言葉を継げるジスの首元から短剣の刃を取り除きつつ、グローリアは笑う。

実際にこの愚直な男に迷惑を掛けられたことは一度や二度ではない。

出会いからして酷いものだったのだ。

今更この程度では迷惑だとも思わないし、特に気にするようなこともない。

へらへらと笑うグローリアにジスは一度軽く頭を下げた。

ジスは真剣な表情で宴に向き直る。


「……何だよ」


さっきのことが響いているのか、宴は不愉快そうな表情をジスに向ける。

その宴の表情を気にした様子もなく、ジスは頭を下げた。


「先ほどはとんだご迷惑をおかけしました。見た目からくる偏見だけであなたに対して刃を振るってしまったのは私の不徳のいたるところ。この謝罪を受け入れてもらいたく思います」

「…………は?」


そんなジスの態度と言葉に宴は鼻白む。

今まで紛らわしいと言われたことこそあれ、謝罪などされたのはこれが初めてのことだ。

今までされたこともない突飛な態度に一瞬だけ宴の頭の中が真っ白になる。

だが、すぐに色を取り戻した思考はジスを危険視し始める。


「…………フン」


苛立ったように鼻を鳴らすと、宴はてきとうに空いている椅子にどっかりと腰を下ろし、左手に持っている酒瓶のふたを開けて、その中の酒を少しだけ口に含む。

そんな宴の失礼な態度にジスは苛立ったりはしない。

何故なら、そうされるに足るような行いをしてしまったという自覚がジスにはあったからだ。


「……嫌われてしまったようですね。どうしたらいいのやら」

「どうしようもねぇんじゃねぇの? 少なくとも、一度敵対したお前にはあいつの心に響かせることのできる言の葉は紡げねぇよ」

「ですよね。時間をかけてでも信頼を構築するしかありませんか」

「応援はしている。手を出すつもりはないけどな」


グローリアは周りを見る。

《不倒の城壁》のジス。

《悪鬼と妖精》のスペンサー。

《天空》のチスパ。

《百鬼夜行》の宴。

呼びもしないのによくもまぁ集まったものだとグローリアは感心する。

呼ぼうとは思っていたわけだが、こんな短時間に示し合わせたわけでもないのに同盟ギルドの長が集まるとはグローリアも想像できていなかった。

楽と言えば楽なのだが、その対価が壁だと言うのなら……まぁ、採算は取れているのではないだろうか? そうグローリアは思った。

揃っていないのは、あと一つ。《機甲の花園》だけ。

この流れで行くと、トップである鳶が来るのだろうが、来るのかと疑問を覚えてしまう。

鳶の事だから、面倒臭いと言ってこない可能性だって決して低くはないのだ。


「……どうしたものかねぇ」

「何がですか?」


口元を隠しながら考えていると、ジスが聞いてくる。


「いや、この調子でウチと同盟組んでいるギルドが全部そろえば完璧だったんだが……あと一つ来ていないようでな。これでは話を進めるわけにもいかん」

「何故? 君はそう言うのは気にしないタイプでしょう」

「純粋に説明が二度手間になるのが面倒臭い。それ以外に関しては特に何も気にしちゃいない」

「やっぱり、君らしいですね」

「そうか。普通だと思うのだがな」

「あはは。……そうです。その同盟ギルド云々とは直接的に何の関係もないかもしれませんが、そこの入り口の外に少女が座り込んでいましたよ」

「少女?」


グローリアの脳裏に、ほんの少し前に公式に同盟を結んだギルドのトップであるロリババアの顔が思い浮かぶ。

アレは、ロリババア枠だろう。とてもではないが、中身は少女ではない。

そんなことを考えていると、ジスが記憶を探るために顎に手をやって考える。

考えるよりも見てきたほうが早い気がする。


「……確か、熱心に設計図のようなものを紙に書いていましたね」


ビンゴ。

少なくともグローリアは人様のギルドホームの前で延々と設計図を書き続ける人間の心当たりはたった一人しかいなかった。

……と言うか、今も書き続けているのなら、さっきのジスと宴の戦闘でも動じずに設計図を書き続けていたと言うことになるのだろう。

どんな集中力だ。

グローリアが入口に向かい、入口から外に向かって顔をのぞかせる。

左右を見ると、入口の右側で熱心に設計図を眺めている女を見つけた。


「……よぅ、鳶。こんなところで奇遇だな」

「そうね、グローリア。奇遇ね」

「……テメェで言っといてなんだが、人のギルドホームの前で奇遇もくそもないと思うぞ? 完全に確信犯じゃねぇか」

「確信犯だからね」


話をしつつも、鳶は設計図から顔をあげもしない。

悩みつつ、設計図に何事かを書き込んでは消して書き込んでは消してを繰り返している。


「ま、いいや。さっさと中に入れ。他はそろっているのでな」

「面倒臭いね。私はもう少しここでこれを書きたいのだけれど」

「さっさとしてくれ」

「そう言うなら運んでね? そっちの方が楽だから」

「……りょーかい」


グローリアは鳶の首根っこを掴むと、ズルズルと引きずってギルドホールの中に運んでいく。

引きずられながらでも設計図を書く手を緩めないと言うのだからとんだ設計馬鹿である。

さっき使っていたテーブルに戻ってくると、ジスを含めた四人がそれぞれてきとうな椅子に腰かけている。

手元にいる鳶も合わせて五人。これで同盟ギルドの長が全員そろったことになる。

そんな長たちを見ながら、グローリアはこれ見よがしにため息をつく。


「ハァ。お前らは何でギルドの長だけで単独行動とかするかね。普通は護衛やなんやらと一緒に動くもんでもねぇの?」

「ウチは超高空を来たから、問題は何もなかったよ~」


そう言って笑うのはチスパ。


「ワイを害せるような奴がおるはずないわ」

犬歯をむき出しにした笑い顔を見せるのはスペンサー。

「急ぎでもありましたからね。こう言ってはあの子らは怒るかもしれませんが、足手まといに時間を潰されている余裕はなかったのです」


苦笑の形を取るジス。


「……オレを害せるような奴がそこかしこにいてたまるか」


不遜なことを言う宴。


「無理矢理に行かされただけだね」


設計図から顔をあげない鳶。

返事だけでも、それぞれの自分勝手具合がよくわかった。

こいつらのギルドメンバーはいつもそれなりに苦労しているのだろうなぁ、と他人事のようにグローリアは考えていた。

いつもは自分も迷惑をかけているという自覚症状はないままに。


「それに、お前だってそうやろ? グローリア。自分勝手ってんならお前がこの中でも一番やろうが」

「……確かに。そうかもな」

「せやろ? ワイたちは……少なくともワイはお前ほど自由じゃいられんわ」

「そうか。ぶっちゃけどうでもいい」


グローリアの歯に衣着せない態度にスペンサーが苦笑する。


「それでは、ちょうどタイミングが良いことにウチと同盟を結んでいるギルドの長が全員そろったところなので、会議でもしよう。とりあえず、場所を変えようぜ。こんなところでする話でもない」


グローリアは一方的にそれだけ言うと、勝手に立ち上がって移動を始めた。

向かう場所は、《セレーノ》のギルドホールの中でも一番広い会議室にも使えるような場所。

他の各ギルドの長たちは、勝手に動き出したグローリアの態度に一様に苦笑した後、グローリアの後を追って歩き始める。

グローリアが自分勝手で……いや、自分勝手に自由だと言うのはこの場に集まった全員が知っていることだったからだ。


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