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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第二章 機械バカと愚者と
32/49

襲撃、見解の相違

何時の間にやら、グローリアたち一行は十余名の同じ服を着ている集団に囲まれていた。

その集団が着ているのは、白を基調としたゆったりめの服だった。その服には金糸を使って精巧な衣装が彫られている。その中でも一番目立つ意匠と言うのは、体の前面に描かれた十字架だ。更に、自分の素錠を隠すためか、前面がこれまた十字に削られているバケツのようなヘルメットをかぶっている。腰にはレイピアとメイスがつられている。


「何時の間に……!」


ウルヴァーンはテンプレとして驚いている。

当然のように、ウルヴァーン以外は誰も驚いていない。

グローリアと月夜に至っては周囲に敵影があるのを確認していた。

鳶は暢気に周囲にある鉄狼の残骸を選別している。

ユニコに至っては、自分の腹を押さえながら悲しそうな表情をしている。その表情から察するに腹でも減ったのだろう。本当に緊張感がない。


「つけてきている奴の存在は認識していたが……北とはな。道理でいけすかねぇ不愉快な匂いがすると思ったぜ」


グローリアは、スンと鼻を鳴らしながら嫌そうに吐き捨てる。

昔っから、北のことをグローリアは嫌っている。

何が何処がと聞かれれば、そのすべてが気に入らないと答える程度にはグローリアは北のことを嫌っている。嫌悪している。

そんな相手が目の前に出てきたせいで、グローリアの機嫌は急降下していた。


「悪かったなぁ。北でよ」


集団の中から、一際大きな大男が出てくる。

他が白地に金で刺繍をしているのに対し、この男だけは黒字に赤で衣装を縫い付けている。犬歯をむき出しにしている粗野な容貌。肉食獣のような危険さ。

そんな男で一番目立っているのは、その手に持っている得物だろう。

男が肩に担いでいる得物は、その大きな体格に見合っている規格外のサイズのバトル・アックスだ。

バトル・アックスはとある地域で使われた戦闘用の斧の総称である。切断用の武器だが、鎧を着た相手を殺傷するために、次第にメイスに近い鈍器のような性質も帯びていった。形状は、半月状の刃のものや、左右対称に斧頭がついたもの、鉤爪のある物など多種多様である。

そんないろいろな形状のあるバトル・アックスではあるが、大男が持っているのは三メートルを軽く超える柄の先端付近に左右対称に弓なりに湾曲した対称の刃を持っている、ラプリュスと呼称されるタイプだった。

その特徴的な武器から、その大男が誰なのかグローリアにはわかった。

その男の名前を、グローリアはとびっきりの不愉快さと共に吐き捨てる。


「グレゴール……!」

「そうだぜ。俺が北の《十二使徒》の一人、グレゴール・マクラミン様だぜ?」


北大陸の最強戦力である《十二使徒》。

その《十二使徒》の中でもとびっきりに頭がおかしいのが、このグレゴール・マクラミンと呼ばれる男だった。

自らの行動の全てを自らが絶対神と仰ぐ主神が望んでいると本気で思っており、どんな残虐な行為も躊躇いなく行う。さらには、自分の私欲のために他大陸の人間を殺しては、神罰だとのたまわっているサイコパス野郎だった。

グローリアが一番嫌いな人種だった。

グローリアは、この間の魔獣との戦闘で月夜が襲われそうになった時と同等……いや、それ以上の殺気を周囲へと無作為に撒き散らす。

敵味方問わずに、その殺気に気圧されてしまうが、その殺気を直接向けられているグレゴールはどこ吹く風と平然としている。


「《十二使徒》が何でこんなところにいやがる。さっさと土に返れ」

「はん。神も信じられない薄っぺらいクズはその発言も薄っぺらいな。これだから、西大陸なんて旧態依然の地に住んでいる蛮族とは相対したくねぇんだよ」

「……盲目の豚みてぇに、何も思考せずに馬鹿みてぇに偶像を仰いでいるクソの分際で調子に乗ってんじゃねぇよ……!」

「あ?」

「あぁ?」


グローリアとグレゴールは互いに自らの得物を構えながら、相手に殺気を放つ。

二人の殺気がまじりあって、周囲に拡散する。

重力が何倍にもなり、空気に粘性が出てきたのではないかと感じられる程の圧倒的なプレッシャーが辺り一帯に立ち込めていた。

もう臨戦体制に移行した二者は相手から視線を一瞬たりとも外そうとはしない。

両者の戦闘に臨むさっきは圧倒的だが、同程度。

だが、両者の姿勢は真逆だった。

グローリアは相手の一撃目を逸らして、そこから連撃に続けようとする。謂わば、受けの姿勢。

それに対してグレゴールは、距離を詰めて初撃で相手を叩き潰すと言う攻めの姿勢。

一触即発の空気が漂う。

その空気に押されるようにして、睨みあう二者以外の人間も戦闘態勢になり始める。

全員の臨戦態勢が完全に整う。

ちょうどその瞬間に、グレゴールは地面を思いっきり蹴って砂埃を撒き散らしながらグローリアに突撃を敢行する。


「神罰だ、蛮族が!」

「させるかよ!」


振り下ろされるバトル・アックスとグローリアの間にウルヴァーンが体を割り込ませる。

グローリアならばあの一撃を耐えることはできない。だが、自分であれば耐えられる。

それだけの自信がウルヴァーンにはあった。

それが一瞬で打ち砕かれた。

クロスさせた腕にグレゴールの剛腕から繰り出された轟激が真正面から直撃する。

その重みと勢いがそのままウルヴァーンの腕に伝わる。

鱗が生えているおかげで、ウルヴァーンの腕が断ち切られることはなかった。その代わり、バトル・アックスを正面から受けたウルヴァーンの前腕の骨は一撃で粉々に砕け散った。


「……っ!」


それでも、意地で耐える。

結果として、グレゴールの一撃を受けてもウルヴァーンは倒れずに踏ん張ることが出来た。

しかし、たった一撃で両前腕は粉砕骨折。どう足掻いたって、二撃目を防げるような状態ではなくなってしまった。

これを無様だと嗤うものは、ウルヴァーンとグレゴールの戦力差が見えていない愚か者だ。

解りやすく、今の状況を解説しよう。

小さなトカゲが自分の上に来た像の脚を受け止めた。

それほどの異業をウルヴァーンは成したのだ。

その姿が、グレゴールには不愉快に映ったらしい。


「あぁ? 雑魚が。邪魔してんじゃねぇよ!」


再度振り上げられたバトル・アックスがウルヴァーンに対して振られる。

さっきの一撃を受けたせいでもう両腕は使い物にならない。痛みのせいで上に上げることすらままならない。いや、上げることが出来たとしても骨が折れているので何の意味もないだろうが。

ガードができたからこそウルヴァーンは耐えられたに過ぎない。

ガードすらもできなければ、ウルヴァーンなど痛みを感じる間もなくミンチになる。

脚で何とか対応しようとするウルヴァーンの襟がつかまれ、背後に思いきり引っ張られる。

そのおかげで、ウルヴァーンはミンチを免れる。

当てるべき対象を見失ったバトル・アックスは大地に突き刺さる。そのたった一撃だけで、その周囲の大地は陥没してしまった。


「主!」

「お前じゃ役不足だ。あっちの馬鹿でも護ってろ」


ウルヴァーンを窮地から救ったグローリアは、背後に荷物のようにウルヴァーンを投げ捨てると、グレゴールとの戦闘に入る。

眼前に迫りつつあったバトル・アックスを、半身を下げることでかわし、容赦せず棍をグレゴールに突きこむ

狙いは腹などと言う甘い場所ではなく、人体の急所である眼球。

目を狙われた場合、普通の人間は反射行動で目を閉じて、自分の視界を自ら無くしてしまう。

だが、その反射行動と言うのはある程度の訓練でねじ伏せることができる。

当然のことながら、グレゴールはしっかりと訓練をしている。

恐れることもなく、しっかりと棍を視界に収めながら、首を軽く振ることで高速で迫る棍を回避する。

突きは線ではなく点で攻撃する技なので、避けようと思えば避けるのは容易いのだ。

伸ばしきってしまった腕は即座に戻すのが難しくなる。それは、如何に棍法を極めたグローリアと言えども同じだ。

腕を伸ばしきることによってさらされるのは無防備な脇腹。

そこを狙って、グレゴールが腕力任せにバトル・アックスを振るう。

常人では即死。達人では多少のダメージ。

だが、その武術を極限まで極めた人外だったら? 完璧に受けきれるだろう。

残念ながらグローリアにそこまでの実力はない。

何か一つを極めるのではなく、あらゆる武器を一定の水準まで使えるようにしたグローリア。すべての武器の扱いを人外クラスまで極めるのには、二十三年と言うのは短すぎる。それに、極めるための才能も足りない。

それでも、人外に片足しか突っ込めない代わりに、武器にこだわりのないグローリアには避けられる。

伸ばしきっていた両腕と棍を即座に戻しきるのは不可能。

ならば、握っている棍を手放す。

何も持っていなければ、両腕を半分程度なら引き戻せる。

その両手には新しく生成された武器が握られている。

その二本の武器の切先を地面に向け、先端付近にバトル・アックスを当てるように調整する。そして、バトル・アックスを飛び越えるように、若干の勢いを加えながらジャンプする。

武器の先端付近にバトル・アックスが直撃する。だが、その武器の後ろにグローリアの体はない。

残ったのはバトル・アックスが当たったことによって武器に残った膨大な勢いだけ。

その勢いは宙で体を回転させることで殺しきる。

多少目が回ったせいで体勢が崩れてしまい、両脚だけのスマートな着地とはいかず、片手を地面に着いてしまう。

そこに追撃の振り下ろしが来る。

追撃は崩れた体勢ながらに、背後に転がることで辛うじて回避に成功。

地面に着いてしまった手に持っていた武器は破壊されてしまったが、問題はない。

地面にバトル・アックスが当たり、轟音と土煙が広がる。

その土煙に紛れながら低い姿勢で立ち上がり、グレゴールから距離を取る。

距離を取り、息を整えながら左手に残っている武器を眺め、刀身に罅が入っているので破棄。

両手に全く同じ武器を生成し直した。

一瞬の攻防の中でグローリアの身を助けたこの武器はバデレールと言う武器だ。

バデレールはとある地域で主に海兵が使用した刀である。緩やかな湾曲の片刃で、幅が広く切っ先が鋭い。狭い船上でも使いやすいように小振りだが、重量があるので断ち切るのに適していた。鍔の端が左右で互い違いの方向を向いており、「S」字を横にしたような形状なのが特徴。名称はその地域の言葉で「反り刃」を意味しているという。

重量があるとは言っても一本一キロ半ほど。両手に持って振り回すのに問題があるほどに重いという訳でもない。

グローリアは喉に絡みついている痰を吐き捨てる。


「ちっ。やっぱり《十二使徒》クラスとなると豚とは言えども、化け物か」

「はん。完全に回避不可能な攻撃をあっさりと躱しておいて何を言いやがる、蛮族」

「褒めてやってるってんのに、それを素直に受け取ることもできねぇのか。これだから、信仰心(笑)の強い豚は嫌いだ」

「自由(笑)だけを求め続けた蛮族は流石に言うことが違うな」

「……何かに先を示してもらえなければ進むこともできない豚め」

「……自由を求めすぎて行き先を見失った蛮族が」

「……………………」

「……………………」


両者は同時に目を閉じる。

次に目を開けた瞬間には両者の目の中にはドロドロとした殺気が渦巻いていた。

その殺気を外にまき散らしながら全くの同タイミングで両者は相手に向かって、駆け出す。


「くたばれ、豚が!」

「死ね、蛮族!」


相手に対する愛に満ちた心からの罵倒を互いに叫びながら。


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