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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第二章 機械バカと愚者と
29/49

手をつなごう

「……ねぇ、グローリア」

「何だ。鳶」


あのグローリアの発言からちょうど一時間後に《機甲の花園》のギルドホールを出発した六人は徒歩で目的地である徒歩で半日のところにある鉱山に向かった。

予定通りに事が運ぶのだとしたら、鉄狼の群れがいる辺りに到着するのが夜半になる。ならば、どこかで野営する必要が出てくるだろう。

そのための道具も当然のことだが、持ってきている。

だが、六人分ともなれば荷物が大きくなってしまうのも当然。

その大きくなってしまった荷物は、二頭の馬に曳かせている幌付きの馬車の中に入れている。

もっと馬車を調達してきて急いで行ってもいいのだが、残念ながら今回のメンバーのうち半数以上が馬に乗れない。

なので、ゆっくりと徒歩で行くこととしたのだ。

二度ほどの休憩をはさみ、太陽が南天を過ぎて、少し降り始めている。

今が一日で一番暑い時期だろう。この辺りは荒野なので、日陰もない。そのせいで歩いているだけでも体力を大量に奪われる。

疲れた人間から少しずつ馬車の中で休むようにしてはいるが、この暑さは如何ともしがたい。まだ夏本番ではないのが唯一の救いであった。


「一つ聞いてもいいね?」

「答えられる範囲であるのならな」


戦闘を歩くのは、グローリアだ。

その顔には、多少の汗が滲んではいるが、調子は悪くはなさそうだ。手には棍を持っていて、いつでも戦闘態勢に移れるようにしている。

かと言って、気を張りすぎているという訳でもなく、適度に気もぬけている。

この辺りは、日常的に戦場に立っているグローリアだからだろう。


「で、どんな内容だ?」

「うん。今回の君たち《セレーノ》のメンバーについてね」

「それが? 何か問題でもあったのか?」

「私はそんなに問題だとは思っていないけれどね? 聞いておきたいんだよ」

「奥歯に物が挟まったみてぇな面倒な話し方は嫌いだ」

「そう? ならはっきり言おうね。何で、尖角種がこんなところにいるの?」


そんな鳶の発言で一気に空気が張り詰める。

グローリア以外の三人は隠していたことがばれたという後ろ暗い感情と共に、そのことを気づいた鳶に対して警戒の視線を向ける。

ユニコは一瞬だけ警戒心を向けたが、手に持っていた食べ物を落としそうになって、慌ててそちらに注意を割いた。

話をしているグローリアは特に気にした様子もないようだ。

緊張感など欠片もなく、歩みを緩めることもない。


「いつからだ?」

「ん?」

「いつから気づいていた? ユニコはある程度隠せていると思っていたのだがな。それをお前が気づけるとは、少し意外だ」

「……隠さないんだね。こんなヤッバイことを、さ」


全く隠そうともせずに、ユニコが尖角種であるということをはっきりと言ってしまうグローリア。

その態度には少し鳶の方も驚いたようだった。


「確信を持って言っている人間に隠す意味などないだろう。そんな無駄なことをする気はない」

「無駄って……私が鎌をかけてるかもしれないとは考えなかったね?」

「鎌かけで尖角種なんて出ては来んよ。それに、ユニコは呪いを放っているわけでもない。呪いを放っていない尖角種など、他の種族と判別つかんからな。その状況でそんな鎌かけはせんだろう」

「……頭の回転が速いんだね。随分と」

「お前こそな。人様を動揺させようとしている魂胆が丸見えだったぞ?」

「バレてたね?」

「隠そうともしていなかった女が何を言うか。……ま、後ろにいる馬鹿どもには効果覿面だったようだがな。これも隠す気がなくなった原因だ。後ろが馬鹿正直すぎる」

「そうだねぇ。あれは美徳ではあるけど、生きづらいだろうね」


鳶はグローリアの動揺を誘って尖角種の話をグローリアに振った。尖角種の存在を臭わせるというような小細工を一切せずに、ストレートに言うことで。

その結果、グローリアを動揺させられたかと言うと、そんなことは全くなかった。

表情どころか、感情の波すらもグローリアからは漏れ出ていなかった。

それこそ、世間話をするような雰囲気のままだった。

背後にいる四人は顕著すぎたわけだが。


「それで? お前は何か尖角種に含むところでもあるのか?」

「いや、全くだね。ぶっちゃけどうでもいいよ」

「理由を聞いても?」

「その尖角種のユニコちゃんだっけ? は、もう正気であるようだしさ。他の尖角種みたいに暴れることもなさそうだからね」


それに、


「私に実害を及ぼさないと言うのであれば、どうでもいいよね。尖角種だろうが、異人種だろうが、魔獣だろうが。私の興味の範疇外だよ。そんなことを気にしていられるほど私は暇じゃないのさ~」


体をグンッと伸ばしながらそんなことを言う。

何か含むところがあるような雰囲気でもなく、本当に心から思っているようだった。


「実に西らしい価値観だな」

「お嫌いかい?」

「いや、気に入ったよ。テメェもお前と同じ意見だ。ただ、テメェの場合は、テメェを楽しませてくれると言うのなら、結果として害されても気にしないがな」

「それはそれで西らしいね」


西大陸にいる人間の根幹にある考えは皆変わらない。

西大陸にいる人間は皆等しく自由を愛し、自由に生きることを標榜する。

その価値観を解りやすくあらわしたのがこの二人なのかもしれない。

片や、自分に害が及ばない限りは、自分の自由を害さない限りは戦争にだって欠片も関心を持たないであろう鳶。

片や、自分にメリットがあると言うのなら、周囲の人間にかかるあれやこれや等は気にせずに好き勝手にふるまうグローリア。

ベクトルは正反対かもしれないが絶対値は同じ。


「……テメェはお前のことがずいぶんと気に入ったぞ」

「奇遇だね。私の方もグローリアのことは気に入っているよ。グローリアの価値観は私からはかけ離れてはいるが、西の住人としては同意できるからね」

「テメェもだ。内向的な自由の求め方はテメェにはない価値観だしな。西としてはどちらが正しいとかもないと思うがな」


ベクトルが真逆で絶対値が同じと言う人間たちが引き合うと、その二者の関係は二パターンしかありえない。

徹底的に気が合わないか。徹底的に気が合うか。

その二つである。

幸いなことに、グローリアと鳶は後者であったらしく、あってまだ半日もたっていないと言うのに十年来の親友のような空気になっていた。

緊張感の抜き時を見誤ったウルヴァーンたちはポカンとするだけである。

そんな中で、ユニコだけは地面に落とさずに済んだ食料をもきゅもきゅとほおばっている。


「……うん。気に行ったついでに、もうまだるっこしいことは止そうね。グローリアのことは十分に分かったからね」

「そうしてくれると助かる。気ぃ張るのは苦手なんだ」

「そう? そうは見えないけどね。……ま、いいか。御託を並べるのは好みじゃない。端的に、グローリアのギルドである《セレーノ》と私のギルドである《機甲の花園》の同盟を結びたい」


こういうストレートなところを好む辺りも、二人は似ているのだなとウルヴァーンは全身の張りつめてしまった精神を解きほぐしながら思っていた。

この二人は似ているのだ。

考え方は真逆のはずなのに、とてもきれいにはまるイメージ。

南の二つ巴ってやつをイメージしてみると分かりやすいかもしれない。

あんな感じに、色彩は反転しちゃいるが綺麗に組み合う感じだ。


「おいおい。そんな重要なことテメェの一存で決められると思ってんのか?」

「思っているね」

「その心は?」

「調べたからね。君たち《セレーノ》のことは。ま、多少しか調べられなかったのだけれどね。君のところの参謀は腕がいいね」


鳶の下に集まった《セレーノ》の情報は驚くほどに少ない。

グローリアが周囲にどう呼ばれているのか。どう蔑まれているのか。ウルヴァーンの能力。後は、副団長であるリテラエがいつも疲れているということぐらい。

それ以外の情報も色々と回ってきたのだが、どれもこれも信憑性が薄すぎる。

その中に真実は何割混ざっているのかもわからない情報を信用する気にはなれなかった。

だが、その情報たちを精査した結果、一つの情報だけは見えてきた。

《セレーノ》は基本的にグローリアという男が中心になって動いている。はっきりと言ってしまうと、《セレーノ》の指針を決めているのがグローリアなのだ。

中心人物であるグローリアにその気はないような情報が見受けられたが、グローリア以外の団員たちはグローリアの意思に沿って生きている。

だから、グローリアさえ同盟を組むことに賛成させることが出来れば、必然的に《セレーノ》との同盟も成ると鳶は考えていた。

……正確に言えば、ローグ・ルークの入れ知恵なのだが。


「それで、どう?」

「まぁ……大体あっている。《セレーノ》を創ろうと言い出したのはテメェであるし、テメェが勝手に気に入った人間をギルドに勧誘している。ギルドの奴らの顔色なんて窺う気はないし、テメェはしたいこと以外は基本的にしない」


ならば、


「この場でテメェが同盟について決めちまってもいいだろ。来る前に、リラの馬鹿からも好きにしていいって言われてたからな」

「なら……返答は如何に?」

「同盟組んでも良いぜ? 《機甲の花園》と同盟を組むことによって利は少なからず発生するだろうしな。……と言うか、テメェは鳶のことが気に入った。これ以上の理由なんざテメェには要らない」

「それは良かったね。私もグローリアのことは気に入っているからね。ここで同盟の話を断られても個人的な付き合いをしようと思っていたんだ」


二人とも、薄い微笑みを交わし合う。

最初から相手に対する警戒心のようなものは大して抱いていなかったわけだが、本格的に同盟を組むと言う流れになったことで、なけなしの警戒心も何処かへと消えた。

その話を静かに聞いていたウルヴァーンたちの肩の力も抜けたようだった。

グローリアたちはどちらからともなく手を差し出しあい、固い握手を交わす。


「テメェたち《セレーノ》は、《機甲の花園》からの同盟の申し入れを受けよう。これから宜しく。《機甲の花園》工場長、鳶」

「その言葉をうれしく思うね。《セレーノ》団長、グローリア・アザール。これからも末永く付き合っていければと思うよ」

「公式な書面は帰ってからでいいだろ?」

「流石に、ね。こんな場所で書くわけにもいかないでしょ」

「そりゃそうだ。……さて、これで面倒事は一先ず片付いたか」

「そうだね。後は、当初の目的であった依頼に集中できるね」

「そうだな。だが……ここからまた何時間も歩くのか。面倒だな」

「旦那様」


面倒臭そうに肩を落とすグローリアに月夜が声をかける。

その声は若干の真剣みを帯びたもので、今から月夜が話す内容が面倒事を運んでくるのだろうなと言うことをグローリアに予感させる。


「前方に砂塵が巻き上がっています。確認しましたが、鉄狼の群です」


月夜は左目を手で押さえて前のほうを見ながらそんなことを言ってくる。

砂塵自体は、裸眼でグローリアも確認できている。

その砂塵は結構距離が離れた場所にあるように思える。そんな離れた場所からでも確認できるということはそれなりに大きく砂塵が舞っているのだろう。


「さて、どうしたものかね……」


今から戦闘に入ろうと思えば、すぐにでも入れる。

一応の武器である棍は携えているし、いつ戦闘になるかもわからない状況だ。適度な緊張感はずっと持っていた。

だが、可能ではあるが、率先してやりたいとは思えない。

はっきり言ってしまうと、やらなくていいのならやりたくないと言うのがグローリアの本音だ。

グローリアは元からそれほど戦闘が好きではない。

他の依頼よりは楽だから戦闘系を好んでいると言うだけで、まず依頼をこなすのが億劫だ。

それに、予定では鉄狼の群がいる場所までは半日。

なので、鉄狼の群には今日中にあたる予定はなく、明日辺りから戦闘に入るのだろうなとグローリアは予想していたのだ。

それもあってか、やる気は最低だと言わざるを得なかった。

だが、次の月夜の言葉で、やる気を出さざるを得なくなった。不本意ではあるのだが。


「旦那様。少々、厄介なことがあります」

「……聞きたくねぇな」

「それなら、言わないほうがよろしいですか?」

「いや、言ってみただけだ。さっさと言ってくれ」

「はい。鉄狼の群に追われている女性の姿が確認されます。数は一。まだまだ鉄狼の群との距離は離れていますが、追いつかれるのも時間の問題かと」

「その女はどちら方向に逃げているんだ?」

「幸いと言っていいのかはわかりかねますが、こちら側に逃げてきております」

「…………ハァ」


何でこんなところに女が一人出るのか、何故にその女は鉄狼の群を引き連れてこちら側に逃げてくるのだろうかなどの文句は数多ある。

だが、そのすべての言葉を飲み込んでグローリアは気を引き締める。

こちらに逃げてくると言うのなら、応戦せざるを得ない。

それに、逃げている女を放置すると言うのも、寝覚めのいいことではない。


「ウルヴァーン。半分は任せるぞ」

「……了解。善処はする」


グローリアが声をかけると、ウルヴァーンは面倒臭そうにしつつも、両手両足に水色の鱗を生やす。

すぐに戦闘準備を取り終えた二人。

接敵するまでは余裕がありそうだが、非戦闘員である月夜や鳶を巻き込むわけにもいかない。

なら、こちらから打って出るのが良策だろう。


「グローリア。質問良い?」

「……短いのなら」

「そっちの月夜ちゃんって探査系の異能者なの?」

「そうだ」

「なら、今から私が言う特徴に当てはまるのがいないか確認してくれない? それが私の今回の依頼の目的である、鉄狼だから」


鳶は月夜にいろいろと細かい特徴を言っている。

その特徴を聞いた月夜は少しの間、視線を宙に彷徨わせて、大した時間も掛けずに結果を出す。


「……はい。いるようです」

「そう、それは良かった。なら、グローリア。その鉄狼だけはお願いね。他の鉄狼はどうしてくれても構わないけど、その鉄狼の心臓だけは壊さないでね」

「了解だ。……行くぞ、ウルヴァーン」

「はい、主」


ウルヴァーンとグローリアは、その鉄狼の集団目指して駆けだした。


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