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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第二章 機械バカと愚者と
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ついに依頼へ

「……本当に、申し訳ございませんでした」

「気にするな。……お前が何故に鼻血を出したのかテメェには全くわからんがな」


月夜がグローリアに心からの謝罪を幾度もしている。

グローリアたちが今いるのは、《機甲の花園》の本館二階にある客用の食堂だ。

一階にある酒場然として食堂と違って、こちらは綺麗に片付けられている。端のほうまでしっかりと掃除されていて、この場所を掃除している人間の意識の高さがうかがえる。

この場にいるのは合計で七名。

《セレーノ》から来ているグローリアたち五人と、《機甲の花園》の工場長副工場長だ。

グローリアだけは朝に工場長に会っているので驚きはしなかったが、他の《セレーノ》の面々は今を以て何でこの場にガキがいるのだと言う訝しげな視線を工場長に向けている。

ローグ・ルークも工場長に何か言っているようだが、当の工場長は気にした様子もなく、のんきに食事に勤しんでいる。

知らない人間が平然と食事をしているということでウルヴァーンは少し食事がしづらいようだ。

寧ろ、ウルヴァーンは他の三人が普通に食事ができていることに驚いている。

ユニコは目の前の食事にしか興味が行っていないし、グローリアはもう工場長である鳶とは軽くではあるが面識があるし、月夜に至っては周囲を警戒してはいるが基本的にグローリアのこと以外視界に入っていない。

そんな三人の不遜さにウルヴァーンは若干引いている。


「それで? 鳶、さっさと自己紹介してくれ。テメェは気にしていねぇが、他のやつ……いや、ウルヴァーンが気にして飯喰えねぇらしいからな」

「普通に食える団長たちがおかしいんだよ……」

「お前が気にしすぎ何だよ。別に飯の場に知らん奴がいたからって気にすることもねぇだろ」

「団長たちは気にしなさすぎだ……」


ウルヴァーンにもここは敵地であるという認識がある。

そこに知らない人間が平然と飯を食っているということが、どれだけ人間の精神をすり減らすと言うのか。


「その辺の町で酒場にでも入りゃあ、隣で知らん奴が飯食ってても、酒飲んでても気にならんぞ? 寧ろ、そう言う酒入った馬鹿の話に聞き耳を立てると結構いい情報源だしな。酒がまわった馬鹿は驚くほどに饒舌だ」

「俺はまだ酒飲んだこともなければ、酒場に行ったこともねぇよ……」

「ん? そうだったか? なら、今度行ってこいよ。結構いい経験になるぞ」

「金がない」

「そうなのか?」

「俺たちはそんなに収入がないからな。基本的に、うちのギルドホームからは出ることがないし、出たとしても引率がついている。そんな状況で、どうやって酒場に行けと?」

「毎月、少しは金を渡しているんじゃなかったか? リテラエが」

「ガキの小遣いじゃねぇンだから……」

「そうか。なら、今度連れて行ってやろう。酒は飲ませてやれんがな」

「そりゃ、助かる」

「……もういいですかね?」


話が切れるのを見計らっていたらしいローグ・ルークが口を開く。

話がきちんと終わるのを待つとは……こいつも随分と真面目な性分らしい。

グローリアたちは軽く頷く。これ以上この場で話すようなことはない。


「それでは、工場長。自己紹介をお願いします」

「面倒臭いね」

「そう言わないでくださいよ……あなたでしょ? 《セレーノ》に依頼を発注したいって言ったの。最後まで責任を持ってくださいよ。子供じゃないんだから」

「何を言うね。この姿を見ろ。完全に子供じゃないか」


工場長は立ち上がって両手を広げることで全身をローグ・ルークに見せる。

確かに、身長や体格としては子供と言っても十二分に通る。顔立ちにもまだ幼さが多く含まれている。

だが、工場長の実年齢を知っているローグ・ルークは眉をしかめるだけだ。


「二十七になって何言っているんですか。ちゃんとしてください」

「むぅ……それを言われては仕方がないね」


工場長は少し頬をふくらませた後、口元をナプキンで拭うと、真面目な表情になる。

さっきまでの不真面目な態度とは打って変わって、真面目な雰囲気である。

普段は不真面目な人間と言うのは、真面目にした時と普段とのギャップで少しだけ肝を抜かれる。行ってしまうと、グローリアもこちら側に分類される。


「失礼な態度を取ってしまってすまなかったね。私が《機甲の花園》工場長を務めている鳶だ。姓はなく、もはや家と呼べるものもここ以外に存在しない。今回は、こちらの依頼を受けてくれて感謝する。《セレーノ》団長、グローリア・アザール殿」

「……ご丁寧にどーも。そっちが真面目にやるってんなら、多少は付き合ってやる。……《セレーノ》団長、グローリア・アザールだ。報酬と内容が釣り合っているので今回は依頼を受けた。これからもよい関係を続けていけたら幸いだ」


両者が手を差し出しあい、軽く握手を交わす。

そんな二人の態度にウルヴァーンは度肝を抜かれる。

急に真面目な態度になった工場長もそうだが、それと呼応するように真面目な態度を取ったグローリアに二つの意味で驚く。

一つ目は、こうやって真面目にしていると、グローリアも意外とまともに見えると言うこと。

もう一つは、真面目な態度を取れるのかと言うこと。

この考えは失礼なものであるが、グローリアに限って言えば、失礼でもない。本人だって失礼だとは思わないだろう。

グローリアが真面目にしないのは、楽だからだ。

だが、対等な相手が真面目にしているというのならそれに付き合うのも吝かではないと考えている。それだけに過ぎない。


「…………疲れたね」

「同意だ。堅っ苦しいのは疲れる」


真面目な態度もほんの少しの間だけ。

二人ともゆるく握っていた手をほどくと、座りこむ。

グローリアは背もたれに体を預けて天井を仰いでいるし、工場長に至っては脱力仕切ってテーブルにグデンと体を預けている。

そんな二人の態度に、ローグ・ルークと月夜がそれぞれ窘めようとする。

その二人を、相手方のトップが両方止める。


「気にしないでね~。もう私も疲れちゃって。真面目な態度なんて久しぶりだからね」

「あぁ。そこまで肩肘を張る必要もないだろうしな。軽くいこうじゃないか」


それぞれの副官とも呼べる立場の二人は、相手がそう言っているなら……と言った様子で下がる。

ここから先はそれぞれのトップ同士の話し合いだ。

どれだけだらけたような態度でいようとも、それは変わらない。

そこに副官クラスが口を挟む余地はないのだ。


「それでは、話と行こうか工場長」

「鳶でいーね。そっちの方が楽だし。代わりに、私の方もグローリアで良い?」

「別にかまわん。敬称なんてつけられたら怖気が走る」

「あはは。それは私もねー。……さて、今回の依頼の内容だけども、ローグ・ルークがそっちに行った時に軽くは話してると思うけど、鉱物種である鉄狼の駆除とその体を構成している一部の部品の回収。重要なのは後者で、前者はぶっちゃけどうでもいいけどね」

「そうか。ま、そうだろうな。この西大陸で、必要以上に魔獣と関わる意味なんざねぇだろう」

「そうそう。私が欲しい部品って言うのが、その鉄狼の群のボスの心臓だね。それが決定的に足りていない」

「最上位難易度じゃないか」

「しょうがないね。あのピストン構造はまだ再現不可能なんだ。それに、ボスクラスの心臓じゃないと、想定される負荷に耐えない」


心臓と言うのは、普通の生物であれば大体が強靭な筋肉の塊となっている。

それも当然と言えば当然。全身に血液を巡らせなければいけない心臓の筋肉が弱くては、血液をうまく循環させることができないだろう。

それは鉱物種である鉄狼も同じだ。鉄狼の場合は、全身にいきわたらせているのは血液ではなく潤滑油であるという違いこそあるが、鉄狼の心臓もただの機械ではない。

鉄狼の心臓は、一種の永久機関となっている。

正確に言うと、一部の鉄狼の心臓は永久機関となっている、が正しいのだが。

鉱物種の中でも鉄龍の次に優秀な鉄でつくられている鉄狼。その心臓は完全に体から分離されても少しの間は動き続ける。

その心臓が群の長の物ともなれば、その心臓を破壊しない限りは動き続ける。

だから、鉄狼の長クラスは様々な機械の動力となっている。


「……長クラスとなると、他の体の硬度も尋常ではなさそうだな」

「問題ないでしょ? 《セレーノ》にはもっと硬いのがいるらしいからね」


工場長はチラリとウルヴァーンのほうに視線を向ける。

ウルヴァーンの才能の調べは済んでいるらしい。


「……ま、いいが。一度受けると言ったんだ。吐いた唾は飲めんよ」

「そう言うと思っていたね。それじゃ、出発にどれぐらいかかる? 群がこの周辺に出没し始めたのは、一月ぐらい前のこと。あいつらの習性から行くと、もう移動を始めてもおかしくない」

「そうさな」


鉄狼の厄介なところは、すぐに住処を移すと言うところ。

正確に言うのならば、鉄狼は定住地を持たない。鉄狼たちは良質な鉱物が採れるところに現れ、一月と少しぐらいで他の場所に移動する。

本当に一月前にこのあたりに来たというのなら、もう移動することだろう。


「月夜?」

「はい。どのあたりにあるのかさえ教えていただければ」

「だってよ」


グローリアが言うと、工場長は少し首をひねる。


「大体……半日行ったぐらいにある山だよ。一応、野営用の準備はもうこっちで済ませてある」

「ならば、一時間ほどいただければ」

「一時間で出来るんだな」

「はい」

「なら、出発は一時間後だ。地図とその長の詳細な説明をくれ」

「それなんだけどね。準備して無い」

「あ? なら、テメェたちはどうやって長を見分ければいいんだ。その見分けるのも依頼の内ってか?」

「いや、そこまで意地悪をするつもりはないね。単純に、私がついていけば、そんなの準備する必要ないでしょ? 私はもうボスの情報は手に入れてるし」

「……テメェたちにお前を護る余裕なんてないかもしれんぞ?」

「大丈夫だね。これでも《機甲の花園》の工場長だ。自分の身ぐらいは自分で守れるさ」

「なら、結構。月夜、一時間後までに準備を整えておけよ」

「かしこまりました」

「あ、あと替えの眼帯もな。さすがにこれで外にゃ出たくない」


グローリアが言っているのは、右目の包帯の事だった。

朝の段階で月夜に頼めば早かったのだろうが、鼻血をダラダラと垂らす月夜に頼むことはできなかった。

朝のことを思いだしたのか、少し耳を垂れさせながら、月夜は頷いた。

月夜はすぐに立ち上がると、準備に向かう。食事はいつの間にやら終わっていたようで、月夜の座っていた席の前の皿は綺麗になっている。


「ウルヴァーン。お前もさっさと食って準備しておけよ」

「へーへー。了解」

「ユニコ……は食いすぎだ。自重しろ」

「モキュッ!? もきゅもきゅもきゅもきゅ!」

「わからん。ローグ・ルーク、スマンな。もうこいつには出さんで良いぞ」

「よ、よろしいので?」


ユニコはグローリアには何を言っても何をしても無駄だと言うことを悟ったのか、小動物のような視線をローグ・ルークに向けている。

視線を向けられているローグ・ルークはどちらを立てればいいものかという、戸惑いの表情を浮かべているが、グローリアの表情を見て察したようで、頷いて見せる。

自分の行為は無駄だったと悟ったユニコは肩を落としている。

そんなこと、グローリアの知ったことではなかった。


「……ここから出たら、つけてくる奴がいることが予想される。極限まで希釈しておけ」

「了解いたしました、主」


グローリアが本当に小さくつぶやくと、真横から反応が帰る。

この場の誰にも気づかれることなくその場に潜んでいたロリアーネだ。

ロリアーネは返事をすると、より一層気配を希釈した。

これで……一先ずは終わりか。

グローリアは、自分の前においてあるコーヒーを口に含む。


「……苦ぇな」


そして、コーヒーの苦さに顔をしかめるのであった。


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