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Lord to Gloria  作者: 頭 垂
第二章 機械バカと愚者と
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職人という種族

準備を終えた五人はすぐにローグ・ルークの案内で《機甲の花園》の本拠地に移動することとなった。

《セレーノ》や《機甲の花園》がある西大陸は大体真ん中あたりが膨らみ、北と南が少しだけ窄まった壺のような形をしている。その西大陸は東西南北の四方位に加え、北東、北西、南東、南西を含めた八方位。プラスして中央を含めた合計九ブロックに分けて地区を判断している。

と言っても、地区ごとに何か違いがあるという訳でもなく、ただ大体の位置の把握のためにしか使われない区分であるのだが。

その区分で行くと、《セレーノ》は中央ブロックの北西よりの町に本拠を置いていて、《機甲の花園》は西ブロックの中央寄りの町に本拠を置いている。

距離としてはそれなりに離れていたが、馬車で大体一週間と言った距離だ。

道中は魔獣に襲われるようなこともなく、のんびりと旅することが出来た。

それぞれは簡単な着替えなどしか持っていない。移動の最中に必要な食料などは全て《機甲の花園》持ちだと言って、ローグ・ルークが準備していた。

その中でも、グローリアは自らの着替えすら持っていない。グローリアが持っているのは長さ二メートル半ほどの棒だけだった。

当然のことながら、ギルドホームから外に出ると言うことで、ユニコは帽子をかぶっている。


「ここが、私たち《機甲の花園》の本拠を置いている街、ウィースです」


ウィースはグローリアたちが本拠を置いているカイルムよりも発展している。

街の周囲に建てられている外壁はカイルムとは比べるべくもなく、見上げなければいけないほどだ。その強度も言わずもがなだろう。

カイルムの外壁は魔獣が襲ってきたときの時間稼ぎと言う面が強い。

だが、ウィースの外壁は魔獣どもと言えども破壊するのは困難であろう。

破壊する以外には登ると言う手も考えられるが、見上げるほどの高さが邪魔をする。登っている間に上から大きな石を落とされたりお湯を掛けられたりして、壁から滑落するのが関の山だろう。

飛行するタイプの魔獣が来ても十分に対処できるような高さだ。

カイルムを町だとするならば、このウィースは街と表現するのが適切な気がする。


「でっけぇな……」

「そうか? 南の皇都のほうが立派な気がするがな、月夜?」

「そうですね、一地方都市と比べるべきではないかとも思いますが……皇都のほうが立派だと思いますよ」


ウィースの大きさに感動しているのはウルヴァーンだけで、他の四人は特に街の様子に何か抱いた様子もない。

グローリアと月夜はさっき本人たちが話した通りにもっと大きい街を見たことがあるし、ユニコは自分の腹を押さえているので、他の事には興味がなさそうである。ロリアーネに至っては、存在感が薄すぎて周囲を歩く人間にぶつかられないようにするので精一杯である。

同意を得られなかったことにウルヴァーンは少し不満そうだが、特に何を言うこともない。


「それでは、我々のホームに案内します」


そう言って先を歩くローグ・ルークに先導される形でグローリアたち五人は街を歩く。

街は流石にカイルムとは比べるべくもないほどに発展している。グローリアたちが歩いている道の両脇には大小さまざまな露店がある。

道を歩いている人たちの表情にも活気にあふれている。

そんな平和ボケした表情をしている住人に紛れて、グローリアと似たような匂いを放つ人間たちの姿もいくつか確認できた。

周囲を油断なく見まわしており、人を避けながらも体幹は全くずれていない。

脛に傷を持つような、荒事を生業としているような血の匂い。

巧妙に隠そうとはしているようだが、グローリアの目を誤魔化せるほどに腕の立つ人間はいないようだった。


「ロリアーネ」

「はい。何でしょうか、主」

「気配消しとけ」

「何故……と問う意味もないでしょうね。了解いたしました」


命令に静かに従うロリアーネは即座に気配を薄める。

グローリアですら、注意しないと気づくことができないほどに気配を希釈した。

たぶんだが、周囲を歩いている一般人にはロリアーネのことを気づける人間はいないだろう。

それどころか、そこに誰かがいたということにも気づいていない可能性が高い。

一般人に必死に紛れようとしている人間にも気づかれることはないだろう。気づけるような実力を持っている人間はグローリアに見抜かれることはないだろうから。


「旦那様……」


隣を歩いている月夜は気づいたようだった。

不思議そうな視線を向ける月夜には軽く手を上げる以外のジェスチャーはしない。

それだけで月夜は理解したと言うように軽く頭を下げ、他のことを調べ始めた。

そのまま、少し大通りを進んで行くと、途中で不自然に人の数が目減りした。

遠くからは鎚を振るうカンカンという音が小さくだが聞こえてくる。その音は歩いていくにつれ徐々に大きくなっていく。


「つきました。ここが我々、《機甲の花園》の本拠です」


ローグ・ルークが大仰な仕草で自分の本拠地を誇るように見せてくる。

それは一つの建物と言うよりは、地区ごと一つのギルドの様だった。

中央の建物が三階建てで、その周辺に小さな工房のような小さな建物がいくつも建っている。煙突が立っている建物もあり、その煙突からは絶えることなく煙が噴き出していて、空に向かって上がっている。そのいくつもの建物すべてを含めて、大きな柵がこのあたり一帯を囲んでいた。

これが、地区ごと一つのギルドのようだと言った理由である。


「と、言いましても、本拠と言えるのは中央の本館だけで、それ以外はうちの職人個人の工房と言うことになるのですが」

「へぇ……珍しいな」

「えぇ。うちのギルドはどちらかというといろいろな職人の寄り合い所帯と言う色が強いんです。それぞれ別の物を造る技術を持った人間が集まって、教え合うことによって技術を高めたり、一緒になって大きなものを造ったりしていますね」

「面白そうだな」

「はい。私のような造り屋としては楽しくてしょうがありませんよ。……すいません。まだ工場長が来ていないようです。呼んでまいりますので、本館のほうで待っていただけますか?」

「わかった」


ローグ・ルークはパタパタと小走りで去っていく。

グローリアたちはローグ・ルークに言われたとおりに、中央にある唯一音が聞こえない大きな建物に向かう。

この建物は《セレーノ》の本拠のように木材だけで建てられているのではなく、所々に鉄なども使ったハイブリッド的なつくられ方をしているようだ。

きっと、このギルドには腕のいい建築士がいるのだろうな。

そんなことを考えながら中にはいる。

入口入ってすぐは何処のギルドも大して変わらないようで、大量の円形のテーブルと椅子が雑多に並んでいる。《セレーノ》が食堂だとするのならば、こちらは酒場だろうか? その考えが当たりだと言うように、この部屋には濃いアルコールの匂いが染みついていた。


「……臭いですね」

「確かに臭うな」

「お腹へったぁ……」


月夜は上品に口と鼻を覆い隠すように手を当てて、匂いを吸わないようにしている。

ウルヴァーンはそれよりもずっとシンプルで、鼻をつまんでいた。

そんな中で、ユニコだけは腹の虫を鳴らしながら全く関係のないことを言っている。……いや、アルコールの匂いに腹の虫が反応したのかもしれないが。

《セレーノ》のメンバーで酒を飲めるような年齢に達しているのはグローリア、リテラエ、プリスの三人だけである。

西大陸には年齢によって飲酒を制限するような法はないが、あまり若いうちから酒の味を覚えてもあまりいいこともないので、子供たちには飲ませないようにしている。

それに、グローリアたち三人も理由は別々だが酒が好きではないので、《セレーノ》に置いてあるアルコールの類は調理酒だけである。

慣れていない人間にはアルコールの匂いなど不快でたまらないだろう。

実際に、嫌いなだけで苦手ではないグローリアもいい気分ではなかった。

五人は酒臭い部屋にいるよりはと、本館からでて、外で待つことにした。

《機甲の花園》の敷地内は、作業服を着たいろいろな人種が右に左にと忙しなく動き回っていた。

身長が低くがっちりとした体格のもの。耳が長く、あまり肉付きのよくないもの。日光を浴びて辛そうにしながら、日陰に急いで移動するもの。皮膚のところどころに鱗を浮かせているもの。頭の上に大きな耳があり、尻尾を生やしたもの。

人種の坩堝と言ってもいいような雑多具合だ。

《セレーノ》も大概だとは思うが、ここも大概だ。

北や東と比べれば西大陸は種族的差別が薄いとはいえ、ここまで平和的にいろいろな種族が混ざりあって生活することは少ないだろう。


「……そういうことか」


見ていると、ふと一つの考えがグローリアの頭の中に浮かんだ。

こいつらは額面的な種族ではなく、『職人』という一つの種族なのだと。同じ種族だからこそ争わずにいられるのだと。

そう考えると、この光景が自然と腑に落ちた。

そのまま人の流れを見ながら過ごしていると、行った時と同じように小走りでローグ・ルークが戻ってきた。その顔には心から申し訳ないというような表情が浮かんでいる。


「……すいません。工場長は今、手が離せないと言っておりまして……こちらに来ることができません。申し訳ありません」


ローグ・ルークはそう言い、深々と頭を下げる。

そんな姿を見て、月夜は不快だと言う表情をグローリアから見えないような位置取りでとる。

自らの主人であるグローリアを呼び寄せておいて、その呼び寄せた本人がこの場に現れないと言うのはどういうことなのか。

そのことが月夜の胸中に不快感を芽生えさせた。

だが、その主人であるグローリアが何も言っていないのに、月夜が不快感を見せることはできない。それが故に、グローリアから見えない位置で表情を歪めたのだ。

そこにフラリと現れた長耳のつなぎを着た女性がローグ・ルークに話しかける。


「あれ? 副工場長じゃん。こんなところで何してんの?」

「え? あぁ。依頼をしてきたんだよ。ほら、工場長が部品足りないって言ってたじゃないか」

「うん? ……あー、そう言えばそうだったね。ご苦労様。そちらさんが、依頼を受けてくれたところ?」

「そうそう」

「ふぅん……ま、いいや。副工場長もちゃんと造ってね? 副工場長のパーツも結構重要な部分だったと思うから」

「わかってるよ。この人たち案内したら、朝までやるつもりだよ。そっちも作業残ってんじゃないの?」

「あ、やっば! そうだった! んじゃね、副工場長!」

「はいはい」


長耳の女は手をブンブンと振りながら走り去っていった。

それに対して緩く手を振って返している、ローグ・ルークにグローリアは静かに問いかける。


「お前……副工場長だったんだな」

「え? ……えぇ。名前だけですけれどね。実際はただの雑用ですよ」


照れたように少しだけ頬を赤くしながら指で頬を掻く。

その言葉は嘘だとグローリアにはすぐに理解できた。

町を出立する前にリテラエから《機甲の花園》に関する情報は割ともらっている。

面倒なので半分聞き流していたが。

その中の覚えている内容の中に、《機甲の花園》の階級についてのことがあった。

《機甲の花園》の中には階級と言うものがある。

上から、工場長、副工場長。一級工使。二級工使。三級工使。見習いの六段階であるらしい。リテラエの集めた情報とグローリアの記憶が正しければ。

この階級は工場長と副工場長以外は実績で決められる。

どの程度のものを造ったか。その作ったものがどれだけ有用化などは評価の対象外らしい。

シンプルに、どれだけすごく、複雑なものを造ったのかと言うことらしい。

そこから外れている工場長と副工場長はどうやって決めるのか?

副工場長は一級工使の中から多数決で決められる。一級工使の中でも特に実力が秀でており、人望の厚いもの。その二つを兼ね備えたものが選出される。

ならば、工場長は?

工場長の決め方は、副工場長などよりもずっとシンプルだ。

端的に、下克上。

工場長に対して、誰かが挑戦し、一定の期間が設けられ、その機関の間に工場長よりもすごいものを造れれば工場長となれる。

だから、単純に考えて工場長と副工場長は《機甲の花園》の中でもトップクラスの実力者がなると言うことだ。

工場長と違って、実力と人望を兼ね備えているローグ・ルークが無能であるはずがない。

要するに、今のローグ・ルークの発言はただ謙虚を演じただけだ。


「それで、どういたしましょうか? 工場長がいなければ、詳細を詰めることはできません」

「何故に?」

「今回の依頼は工場長しか欲しい部品のことを知りませんし、どの鉄狼が群のボスなのかも知れていないのです。ですから、工場長がいないことにはどうにも……」

「そか。なら、明日でもいいだろ。移動を続けていたせいで疲労も溜まっている。休めると言うのなら万々歳だ」

「そ、そうでしたね。そのことにも気づかず、申し訳ありません」

また、ぺこりと頭を下げる。


それを見たグローリアは少しだけ眉根を寄せるが、何も言わない。


「なら、本館の中にいくつか客間もありますので、そこで休んでください」

「えぇー……」

「え、何でそんなに嫌そうな顔をしているのですか?」


ウルヴァーンが明らかに嫌そうな顔をするが、その理由にローグ・ルークは気づいていないようだ。

その表情の理由はグローリアには察することが出来た。

あれだけホールが酒臭いのだ。その客間とやらも酒臭いのだろうと考えたのだろう。

それに、酒盛りの音が聞こえたりしたら休むものも休まらん。

そのことをストレートに伝えると、ローグ・ルークは苦笑を浮かべる。


「あはは……職人と言う人種は作業が終わると酒を飲むんですよ。この敷地外に出るのは色々な意味で危険ですからね。外に出られないから、ここで飲む酒の量も増えてしまうのでしょうかね?」

「それはいいのだがな。その客間とやらは大丈夫なのか?」

「はい。ホールは二階分吹き抜けになっていますが、一応防音に作ってあります。……それでも、五月蠅かった場合は、私に行っていただければ静かにさせますので、それでご容赦ください」

「酒の匂いは?」

「それも大丈夫でしょう。客間のほうは匂いが届くような距離でもありませんし、定期的に掃除もしております。……私が」


ボソッと自分がと言った所でローグ・ルークの表情に影が生まれる。

……雑用係だと言うのは自重ではなく真実だったのかもしれない。


「それでは、お部屋に案内させていただきます。どうせ客間は余っていますし、人が使わないと部屋も痛みますのでお一人に付き一部屋ご用意させていただきます」


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