後日談02 ―夏祭り― 4 ニルギリと……
3番目はニルギリくん。
少し踊り疲れたディン様と私が入り口近くのベンチで休んでいるとニールとアル姉様がやってきて、思ったよりも人手が足りたそうで私はこのままニールと休憩時間をすごしてから本部へ戻って欲しいという連絡をくれました。
ディン様はアル姉様ともう一度演出するために、あの光の魔術具の点検に出掛けるそうです。
私もお手伝いしたかったのですが、付加のレベルが低いので断念しました。
ディン様との約束のマフマフ2カップは後で買っておいてくださるそうで、帰宅時に持って帰って欲しいとのこと。
ありがとうございます♪
ディン様とアル姉様と見送って今度はニールと一緒に会場をまわります。
歩き始めた瞬間に手をどちらともなく繋ぐのはいつもどおりなのに、セイ様やディン様と繋いでいたせいかちょっといつもと違う感じがします。
ニールも先の休憩時間に何ヵ所かまわっていたようで、「こっちの屋台のほうが美味しいよ」ということや、一緒にまわったお父様が輪投げでムキになっていたことなど教えてくれました。
「そういえば、ニールはさっきの光は見られたの?」
「はい! アル様と一緒に起動作業から見せてもらったんです」
歩きながら先程のアル姉様の演出の話をすれば満面の笑みで答えてくれました。
特等席で見たようです。
「良かったわね」
「凄かったです。……でも姉様と見たかったなって思いました」
「そうね。私もニールと、みんなと一緒に見たかったわ」
「やっぱり姉様は……」
「ニール?」
「いえ、なんでもありません。あ、あの屋台は面白いんですよ、姉様!」
悲しいような安堵したような表情になったような気がしましたが、ぱっと笑顔に戻って指さしたのは紙飛行機の屋台?
ニールに手を引かれて近くに行くと、紙飛行機を折って立ててある番号に当てて倒れれば景品がもらえるというものだそうです。
紙飛行機を折るときに多少のアレンジはして良いそうで、大人も子供も真剣な表情で折っています。
「ニールはやったの?」
「いえ、これも父様が……」
遠いところを見るようなニールに、あぁそうなのね。と納得しました。
お父様ってたまに子供っぽいところが少々ありますね……。
「ちなみに、どのくらい折ったの?」
「たしか……10個は作っていたと思います」
「そ、そう。それで……」
「参加賞に自分で折った紙飛行機を持って帰ることが出来るそうです」
「まさか……」
「帰宅したら10個の紙飛行機があると思います」
お父様……。
笑顔のお母様が想像できるので、ちょっと反省してもらわないとですね。
「折角ですから私たちもやってみましょうか? 倒せるか勝負です!」
「はい、姉様! 僕も負けませんよ」
参加するために紙飛行機用の紙を買おうと屋台の人のもとへ向かうとその人はニールを見て「今度は父さんとじゃなく、彼女連れできたのか」と笑いました。
確かにニールのほうがしっかりしていて姉弟に見えないとは言われますが……か、彼女ですか?
それはニールに悪いのでは?
「あの、私は……」
「はい!」
「に、ニール?」
「僕の大切な義姉なんです」
「ちょ、ちょっと!?」
「そうか、そうか! じゃあ、格好良いところをみせなきゃな!」
「はい、がんばります!」
「あの、ニール? 聞いてる?」
「一枚、二枚か?」
「二枚下さい、勝負するんです。ね、ルフナちゃん」
「え? えぇ……ってそうじゃなくて! でも勝負はするけど。あれ?」
「彼女のほうは混乱してるみたいだが。ま、がんばれよ、お二人さん」
「ありがとう! あっちで折るんだよ」
ニールは満面の笑顔で絶賛混乱で固まった私の手を取って机のほうに向かいます。
結局オジサマへ誤解を解くことも叶わず、激励されるということに。
紙飛行機を折るための机には椅子もあり、ニールによってぽすんと座らされた私はそこでやっと我に返ることが出来てニールへと詰め寄ろうとすると目の前に紙が差しだされました。
「はい、姉様の分です」
「あ、ありがとう……ってニール?」
「なんですか?」
「名前はともかくとしても、私をた、大切な……なんて」
「嘘は言っていませんよ。僕の大切な姉様だもの。……もしかして嫌でしたか?」
「そんな事はないわ! 私もニールの事は大切よ」
「それならば問題は何もありませんよね?」
「ん? そうなの……かな?」
「はい! あ、姉様早く折らないと他の方が折れませんよ」
「そ、そうね。ごめんなさい」
これで良かったのかしら……上手くまとめられてしまったような気がするのは気のせい?
と、とりあえず他の方がたの邪魔になってはいけませんね。
気を取り直して、お互いに見せないように折りはじめます。
私はちょっと羽を折ってみましたが、どうなりますか。
ニールも折り終わったようなので、いざ勝負!
なるべく遠くにある番号(少ない数字)に当てた方が勝ちということです。
屋台のオジサマにお願いして同時に投げさせてもらえることになりました。
ニールと「「せーの」」と声を合わせて投げます。
ニールも私も少し羽を折った状態のものでスッと飛んでいったのですが、どうやら私のものは左右のバランスが悪かったらしくかろうじて10番を倒したのですが、ニールのものは真っ直ぐに飛んでいき、なんと1番と書かれた物より奥まで行って壁に当たってしまいました。
「「「……」」」
こんな事があるのかと驚いて見ていた人は全員言葉がでないようで静まり返ります。
「ニール! 凄い!!」
「ね、姉様? 落ち着いて!」
きっと私より遠くに飛ぶと思っていましたが、予想以上で私のほうが嬉しくて思わずニールに抱き付いてぴょんぴょんと跳ねてしまいました。
ニールの声で慌てて離れましたが、これではどちらが上なのか分かりませんね……姉の威厳はもう残っていないのかもしれません。あれ?
「この場合はどうなるのかな?」
遠くまで飛んだけど、倒れてないよと言うニールの言葉に答えは浮かばず、オジサマのほうへ視線を向ければ、にこやかな顔で「好きなのもってけ」と一言。
おー、男前です。
「ありがとうございます。好きなのを選んで良いそうですよ、ニール」
「う~ん、どうしよう。姉様は欲しいものないの?」
「私は当たった10番のがあるから大丈夫よ」
10番の景品を見るとノートのようです。そういえば、ニールは新しいものが欲しいと言っていたので後でプレゼントしましょう。
ニールは並んでいる景品をぐるっと見回して少し考えた後「これにする!」と言って選んだのですが、見せてはくれず「今は秘密です」と内緒にされてしまいました。
残念ですが、今はダメでも後で見せてもらえそうなので楽しみにしておきます。
「そうだ。ニールが勝ったのだから何かお願いとかあるかしら?」
「姉様にお願い?」
勝ったら何をするとは決めてはいませんでしたが、負けた私は何かニールにしてあげたいと思って提案。
でも、ニールが「う~ん」と悩み始めてしまったので慌てて「後でもいいわよ」と言えば「考えておきます」と嬉しそうに答えました。
嫌がられなくて良かった。
まだ時間があるので、ニールに手を引かれて彼のオススメをまわります。
ニールの案内はセイ様やディン様と行ったところとは違っていて楽しめました。
お菓子の屋台を眺めつつ、これは作れるかな?とついついお菓子談義になったりもしました。
色々なところを見て、子供が遊べる時間が残り30分ほどになりました。
そろそろ帰った方が良いかと思っているとニールが最後にしたいことがあると言ったのでついていくとそこは“カキ氷”の文字。
我が家の使用人達の屋台でした。
まあまあ人数が並んでいるようで良かったです。
でもなぜここなのかと思ってニールを見れば、「先程のお願いで……僕も売る人ってできますか?」と期待と不安が入り混じった顔で聞きます。
「ニール?」
「姉様にお願いはあるかって聞かれて……姉様と夏祭りで特別なことがしたいなって考えたら、一緒にお店に立ちたいって思ったんです」
真剣な表情で言うニールにドキリとします。
私を飛び越えて大人びていくニールに一抹の寂しさを感じますが、一応姉なので久々のお願いは叶えてあげたい。それに私も会場をまわっていて、売り子さんをしてみたいと思っていましたし。
「そうね……私が今すぐに許可できることではないから相談してからだけど。私もニールと出来たら嬉しいから説得してみるわね!」
「はい!」
店舗の裏手にまわってみれば、今回責任者になっている侍女長のベノアがいたのでニールと私のお願いを伝えたところ、やはり侯爵子息と令嬢なので渋られてしまいましたが交渉の結果、帰る時間まで商品を渡す係りであれば良いと許可が出ました。
ニールと一緒に予備のエプロンとバンダナをして私は侍女のセラに、ニールは侍従のカイルベッタに注意事項を聞いて商品を渡す場所に一緒に立ちました。
最初は渡すだけだったのですが、カイルベッタの「お嬢とニルギリ様はスプーンを差してください」と言われその指示どおりにしたらなぜか並ぶ人が増えると言う不思議な現象が起きました。
それを見たカイルベッタがドヤ顔をした瞬間にセラが回し蹴りをしたのはビックリでしたね。
20分という短い時間でしたが、充実した時間を過ごすことができたようでニールが「楽しかったー」と言ってくれたのでお願いを叶えられたようで安心しました。
でもよくよく考えれば私は何もしていないような気がします……あれ?
帰宅前に本部によるように言われていたのでニールとともに向かうと、お父様とキィが出迎えてくれて簡単に今日の報告をするとお父様の転移で帰宅しました。
自室に戻る前にニールに紙飛行機の景品だったノートを渡そうと彼の自室へ向かうと、ニールも私の部屋へ向かう途中だったようでばったり廊下で会いました。
「ニール?」
「姉様?」
「「どうしたの(ですか)?」」
「「……」」
夜の廊下で思わず声を上げて笑ってしまい、慌てて口を手で押さえてまたクスクスとお腹が痛くなるまで笑いが止まりませんでした。
ようやく笑いが収まると私はニールへ「必要でしょう?」とノートを渡すと彼は「ありがとうございます、姉様!」とぱぁっと笑顔になって喜んでくれました。
「僕からはこれを姉様に。この花が好きなのですよね」
と手渡してくれたのはニールが選んだ紙飛行機の景品――サクラの花が描いてある扇子。
桜に想い入れがあることを覚えていてくれたことが嬉しくて思わず涙が出そうになるけれど、グッと堪えて笑顔で「ありがとう、ニール」と言えばニールも「こちらこそ」と笑顔で返してくれました。
お読みいただきありがとうございます!
帰宅してますが、最後はキームン。




