後日談02 ―夏祭り― 5 キームンと……
最後はキームン。
ニールと分かれて部屋に戻る途中で「ルゥ様、良かった」と声が聞こえたので振り向けば、ちょっと焦ったようなキィの姿。
私が部屋に居なかったので探しに来てくれたようです。
すぐに戻る予定だったので書置きも残さなかったのはいけませんでしたね。
「ごめんなさい、キィ」
「屋敷の中は安全だと思いますが、私たちの心の安らぎのためにこれからはご注意ください」
「はい。気をつけます」
大げさではないかと思いつつも、悪いことをしてしまったので素直に謝罪すれば苦笑いながらも安心してくれたようで私もホッとしました。
キィと共に部屋へ戻ればすでに就寝の準備がされていました。
通常はセラとエネが今の時間帯に用意してくれるのですが、今日は『夏祭り』で今の時間も片づけなどをしているので出掛ける前に支度をしておいてくれたのでしょう。
夜なので手伝いはそこまで必要ではなく、寝巻きに着替えるのも1人でもできるのでいつもこのような感じでも良いと言っているのですが、許可してもらえません。
セラ曰く、「癒しの時間なので」と言うことらしいですが……一度、なにが癒しなのか聞いたところエネも加わって延々と語られていつの間にか寝ていて記憶がないのですよね。
閑話休題
『夏祭り』が楽しかったのでなかなか眠れなさそうなため、キィにハーブティーを入れてもらって一緒に座ってもらいます。
「キィ、お疲れ様でした。大変だったでしょう」
「ありがとうございます。そうですね、さすがに今日は堪えました」
ふぅと息を吐いてからハーブティーをゆっくりと飲むキィ。
端正な顔もお疲れモードなので疲れを癒す効果のあるハーブティーで少しは良くなると良いのですが……。
実は今日の『夏祭り』でキィは重要な役目がありました。
詳しくは説明してはもらえませんでしたが、魔力のコントロールが上手いキィはお父様とアル姉様と交代で会場全体の警備のため、連絡を円滑にするための中間地点のような役割をしていたのです。
「ルゥ様は楽しめましたか?」
「はい、とても。でも、キィとまわれなかったのは残念でした」
「ルゥ様……。来年も開催できると旦那様がおっしゃっていましたよ」
まだ秘密ですのでナイショですよと人差し指を口に当てて悪戯っぽく笑うキィ。
「じゃあ、私も共犯者ですか?」と真面目な表情をつくって言えば、「それはいけませんね」と大げさに驚く。
今日はほとんど話していなかったのでやり取りがなんだか楽しいです。
話していると心なしか顔色も良くなってきたように見えます。
「今日のルゥ様のしたことを教えていただけますか?」
「いいですけど……キィはお疲れでしょう」
「ルゥ様のお傍が落ち着くので」
「本当ですか?」
「はい」
キィは真実も嘘も取り混ぜて本音を隠すことがあるので、なかなか判断しづらいことが多いので迷います。
じーっと見つめてもキィの表情が変わらない。
「……分かりました。でもどちらかが眠くなったら終了ですよ?」
「仰せのままに」
ふんわりと笑うキィに今日は根負けした気分です。彼に勝てる日は来るのでしょうか。
でもキィのお願いなので簡単に今日の出来事を語りました。
セイ様と食べ歩きをして、ディン様とは光の演出のことと踊りを踊ったこと。それからニールとは紙飛行機とお店の手伝いをさせてもらった事を伝えました。
話している間のキィはまぶしいものを見るように目を細めて柔らかく微笑んで聞いてくれました。
なんだかそれが嬉しくてついつい内緒にしておこうと思った劇の話までしてしまいました。
恥ずかしい思いをしたことを話したと気付いた時には顔に熱が集まって、恥ずかしいついでに頬を押さえつつ絵本を知らないかと聞くと、キィは「初めて聞く絵本ですね」と笑顔なのに目が笑っていなかったです。
一瞬で顔の熱は引いてなんだか冷気を感じました。
「精霊が人と関わるのは少ないのかしら」
「そんなことはありませんよ。精霊は本質的に気まぐれですが、気に入ったことやものの傍にいますよ。ただ、人に見えていないだけで」
“加護”がいい例でしょうと笑うキィ。
たしかに加護は精霊が与えてくれるもの。せめて加護持ちの人にだけでも見えたら良いのに。
そんな事を言ったらキィは苦笑いで「色々と条件や制約があるのですよ」と教えてくれました。
「そんな条件や制約があるのに人の姿をとるのは何でなのですか?」
「ふふ、なぜでしょう?」
「キィは物好きですね。」
「自覚はありますよ。でもこればっかりは自分でも分からない……惹かれてしまうと、どうにもならない」
「キィ?」
「……俺はそれが嫌で飛び出したのに、今はそれに感謝しているなんて」
「何て言ったの?」
「……すみません、出逢った時のことを思い出してすこし感傷的になったようです」
それ以上は語るつもりはないといった表情になってしまったので、この話はおしまいみたいです。
いつか話してくれるでしょうか。でもきっとそのためには私が……。
なんだかしんみりとした空気になってしまい、私もキィも無言でいると急にコトンとテーブルの上に小瓶が現れました。
不思議な小瓶には緑と青の液体が二層になって入っています。私が手を伸ばすと横からキィがサッと取り上げて天井のほうを睨みます。
どうしたのかと見ているとキィは天井に向かって「余計なお世話だ!」「は?」「いい加減に」など言い合い(?)しています。もしかしたら彼女たちがいるのかもしれません。
今日は会えるかもと私が〔瞳〕を発動させようとするとキィから「ちょっと待ってください」と制止の声。
「お疲れの状態での発動は負担がかかります。私がお手伝いしますのでお待ちください」
「でも、キィのほうが疲れているでしょう?」
「これがあるので大丈夫です」
彼女たちの言いなりになるのは非常に不服なのですが……と付け加えながら私に見せたのは先程の小瓶。
精霊のための秘薬だそうで、どうやら楽しい事が好きな、私に加護をくれた光の精霊のウィッティと闇の精霊のアーテが、私と『夏祭り』の雰囲気を味わいたいとキィに回復薬をくれたそうです。
非常に貴重なものだそうですが……こんなことに使っていいのかな?
「ルゥ様。貴女と過ごす時間を私たちにいただけますか?」
「私で良ければ。でも、これから出かけるのは難しいですよ」
いくらキィがお父様たちに信用されているとはいえ、この時間に外に出るのは無理でしょう。
「ご心配には及びません。私たちはこの部屋から出ませんから」
「それはどういう……」
「外と空間を繋げるそうです。……他の精霊も来ているようなので」
キィは上を見て顔を引きつらせながら、ちょっとうんざりしている口調で話すと覚悟を決めたように私を見て「いいですか?」と許可を求めます。
私が頷けば、キィはふんわり微笑んでから小瓶の中身を飲み干して手を差しだします。彼の手に重ねるといつものように指を組み合わせるつなぎ方で共鳴をはじめます。
「発動を」と言うキィの声で集中をはじめると私の身体に力が流れ込んでくるような気がして目を開ければ銀の瞳で微笑む月白の髪のキィの姿。
視線を彼から右にずらせばピッタリとした動きやすそうな白いドレスを着た金髪碧眼のニヤリと笑うお姉さんと着物のような袖が付いた紫紺のふんわりしたドレスの黒髪翠眼の表情があまりない少女。他にも人影(精霊)がいましたが私の目に飛び込んだのはこの二人の姿。
「ウィッティ? アーテなの?」
『そうだよ、お姫ちゃん』
『姫、会えたね』
「会えた! 嬉しい!……キィ?」
二人のほうへ駆け出そうとする私を、まるで行かせないように抱きしめたキィに困惑します。
キィを見上げれば苦しそうな顔。
「触れられないんです。すみません、先に言っておけばよかった」
「そうだったの……ありがとう、キィ」
すみませんともう一度言ってキィは私から離れて私の隣に立ち、なぜか精霊たちへと鋭い視線を向ける。
それを見たウィッティはククッと笑い、アーテも心なしか口元が緩んでいる感じがします。
『さて、時間もあまりないようだから本題に移ろうか』
「本題、ですか?」
『うん。姫、花火』
「花火?」
『見たいって言っていただろう?』
「でも、それは無理で……」
無理だと思ったからあの話し合いでは話題出さず、キィにちょっと話しただけだった。
「すみません、俺が勝手に見せたくて準備してたのを彼女たちに見つかってこうなりました」
「キィが準備?」
「いつかの誕生日にルゥは花火って言ったんですよ」
「……覚えてないです」
『ま、その辺はいいじゃないか。これは私らからのプレゼントだ』
『お祭り、がんばったから』
『そうそう、精霊は楽しい事が好きなのさ。だから祭りの時は私らも楽しくてね』
『覚えてくれると嬉しい』
「増やせるかは分からないけれど、お祭りの時はもっと楽しく出来るように頑張りますね」
『あぁ、そうしてくれると嬉しいね』
『よろしく』
「さっさとはじめましょうか」
『坊や……相変わらずお姫ちゃんのことになると心が狭いねぇ』
『独り占め反対』
「うるさいです!」
彼らのやり取りが楽しくて思わず笑ってしまうと、キィは照れたように頭をガシガシとかいてため息を一つ落とすと真剣な表情に変わって「いきます」と言うとウィッティもアーテも真面目な顔になって手を上げました。
奥の方にいた精霊たちも思い思いの方向へ手を伸ばすと私の部屋の壁一面に外の――丘の上から夏祭りの会場を見ている風景が浮かび上がりました。
本当に外にいるみたい。
そのうち――時間にして2、3分だったと思いますが――あの色とりどりの粒子たちが集まってきたと思ったら花の形になったり、集まって弾けるように動いたりとアル姉様のものよりも花火に近い動きに嬉しくて涙が出ていました。
「ル、ルゥ!?」
慌てて側に来て涙を拭ってくれるキィに「ありがとう」と微笑んで、精霊たちをみれば段々と薄くなっていく。
もうお別れの時間のようです。
「ありがとう! ウィッティ、アーテ。それから他の精霊さん達も!」
『喜んでもらえて嬉しいよ、お姫ちゃん』
『またね、姫』
「はい、また。元気で」
『元気で、か。最後にこっちがやられたね』
『同感』
「色んな精霊に好かれるなんて、困りましたね」
『ま、頑張れ。坊や』
「言われずとも」
精霊たちがいなくなって元の状態に戻った部屋でもまだ目を瞑れば先程の光景が浮かびます。
「ありがとう、キィ。とっても嬉しかった」
「こちらこそ、……精霊を受け入れてくれてありがとう」
「キィ? もう一度言ってもらえる?」
「いえ、来年も楽しみですねと」
「そうですね、楽しみです!」
色々あった『夏祭り』も終わり……私は進めたのかどうなのか難しいところですが、もう少しだけこのままで。
読んでいただきありがとうございます!
今回はこれまで。
不定期ですが、またお会いできるように頑張ります。




