がしゃ髑髏5
「ふぅ…」
やれやれ、だいぶスッキリした。
小さく溜息をついて、辭は部屋の窓辺に視線を移した。
「うっ、辭の鬼、悪魔!」
そこにはすっかり不機嫌になり、いじけているお稲荷さんの姿。
コーン、と鳴きながら尻尾をハタハタ。
そうしている姿を見ると、やはりお稲荷さんは狐なんだと再認識できる。
狐らしくいじけてコーンと鳴いている姿は、何とも可愛らしい。
ジト目なんて、もう形容し難い程可愛らしいったら…
気絶しない所を見ると指切りに対して、少しは耐性がついたのかもしれない。
これまで幾度となく指切りをしてきたからだろうけど。
白の後ろ姿を見ながら、しばらくそっとしておいた方が良さそうだと思った。
あの様子じゃ、当分いじけるだろう。
私はゆっくりと立ち上がって、着物の裾についた畳のクズを叩いて落とす。
そして布団を押入れから取り出して敷いた。
時刻は午後十一時半。
後三十分で日付が変わる。
今の所、裏山からの妖の気配に動きはない。
けれど油断すれば、それが命取り。
まだいじけモードであるお稲荷さんに一声掛けて、いそいそと布団の中に入り込む。
今回の気配はかなりものだ。
これ程までの気配は、狗神の時以来。
布団に横になって、その気配を読み取る。
ふと瞼の裏に狗神の時の映像がフラッシュバックした。
お稲荷さんが怪我をして、何もかもスローモーションに見えた所。
瞼を開け、少し荒くなった息を小さく吐き出した。
額に手を当てると、じんわりと仄かな熱を帯び汗がつく。
どうやら汗までかいていたらしい。
心臓はせわしなく脈打ち、鼓動が体中に響いているのでは…とさえ考えてしまう。
たったこれだけなのに、私はこんなにも心を乱される。
失うのが怖い。その恐怖から抜け出せずにいるのは認める。
これからも、お稲荷さんがあんな怪我を負わないとは限らない。
いつまでも無事で側に居てくれる保証なんてないのだ。
チラリと目だけをお稲荷さんの方へ向けた。
白の小さな背中が視界に入る。
その背中は私の方を向くことはない。
まだいじけているのが目に見えて、思わず口元で笑った。
不思議とお稲荷さんを見てると、乱された心が落ち着いていく。
「おやすみなさい、お稲荷さん。」
一言そう言うと、私は眠りへと落ちていった。




