第5話
な、何が、いったい何がどうなっているんだ? 今、私の名前、呼ばれた? え? 隊長? 私が? 何かの冗談でしょ……。納得できない。そう思って声を上げようとした。
「な、な……なっ……」
「納得できません! ちゃんと説明してください!」
先に言われてしまった。彼女は今年入った1年生の……確か、塩谷那菜さん、だったっけ。
「何故3年生や4年生ではなく、2年生の藤美野先輩なんですか? もっと経験豊富な人を選ぶべきです!」
もっともだ。なんで私なんだ。
「選考理由については、私から説明させていただきます」
四年生の小坂亜季部長。一体何を考えて私にしたのか。
「1つ目は、指揮能力が総合的高かったからですね。状況、情報、最前線で戦っている味方の意見などから適格に判断できていた」
そうだったの? 必死にやってて自分ではさっぱり意識してなかったけど、そう見えてたなら嬉しい。
「でもそれは大河内先輩達もやってましたよ! じゃあなんで……」
「2つ目が、〝負けなかった〟からです」
どういうことだろう?
「藤美野さんは5試合中3試合、引き分けています。それも格上の先輩相手に。これがどういう事かわかりますか」
部長が問いかける。
「例えば、あと10分で味方が到着するという状況で、なるべく数を減らさずに耐えるのと、無理に仕掛けて数を減らす、どちらが良いでしょうか」
続けて言う。
「まあ、状況にもよりますが、こちらの戦力が減るリスクを冒してまで、無理に相手を削るよりも、なるべく戦える力を温存してもらう方が、より勝利に近づけると思いませんか? 戦いは数が多い方が有利ですから」
そこまで言うと、一息ついた。すると、塩谷さんが意見する。
「か、仮に実戦でその判断ができたとしても、本人の実力が伴わないと意味がないでしょう! 今回のルールで候補者の個人技能は判定対象外でしたから」
この発言で、場の空気がピリつく。塩谷さんはそれに気がついていないようで、さらに続ける。
「藤美野先輩は鬼神なんて呼ばれてるみたいですけど、実際のところはどうなんです? 地元で有名なだけなんじゃないんですかぁ?」
空気がさらに重くなる。どうしよう。私のせいで雰囲気が最悪に……。すると、
「君がそう思うのも無理ない。栃木からやってきたのだから、東北のことをよく知らないのは当然のことだ」
大河内先輩……!
「ちょうどいい機会だ。ここらで藤美野の実力を披露するというのは。丁度、高等部と中等部も練習に来ることだし、観客になってもらおう」
先輩……?
「皆も久しぶりに彼女が暴れるところが見たいだろう? かく言う私も見たくてね。期待しているよ」
先輩……⁉
「大河内先輩、やるにしても対戦形式はどうするんです。分隊戦では差がありすぎますよ」
滝沢先輩が声を上げた。それはもっともだ。格差があっては勝負にならない。だからやっぱりやらない方向で……。
「それはそうだな。じゃあ、塩谷君に3年生をつけて小隊戦にするのはどうだろう。藤美野の方は平津と黒星のいつもの小隊でやればトントンだろう」
「塩谷の方には2分隊つけるんですか?」
滝沢先輩が質問する。すると大河内先輩は、
「いや、小隊丸ごとつける。それで丁度だ」
「非対称戦になりますが、それでも?」
「彼女たちの実力から判断して、問題ないはずだ。そうだろう? 藤美野」
「は、はい……。実戦でも何度か経験しているので、大丈夫です」
突然だったから少し詰まってしまった。でも実際に経験はあるし、噓ではないから問題ないはず。
「よし。では、つける分隊だが……広瀬のところは行けるか?」
「はい。問題ありません」
「よし。あとは……」
「私が言い出したので、うちも出ますよ。彼女らとはしばらく手合わせしてないんで、丁度いいかと」
とんとん拍子に決まっていく。ここまで来たらやるしかない。大部分が先輩相手だけど、いつも通りやれば大丈夫なはず。残り1枠は志願制になり、大河内先輩が報酬を出すと言ったら、丁度分隊長一人が食いついてきたからそれで決まった。
「これで出そろったな。小隊長は、2年チームは藤美野でいいとして、混成チームは……塩谷君、やってみるか?」
「いいんですか?」
「ああ。何事も経験だ。いい機会だから体験してみるといい」
そう言って塩谷さんに微笑む大河内先輩。でもその笑みはなんだか含みのあるものに見えた。
「試合形式はペイント弾による模擬戦、近接武器はなし。高、中等部の皆が来るまで時間がある。それまで作戦会議でもするといい」
その言葉で各々準備し出したのだが、大河内先輩は私を真っ直ぐ見ていた。その目は、「遠慮はいらん。好きにやれ」と言っているようだった。
塩谷視点
「それでは、作戦会議を始めます。先輩方、よろしくお願いします」
まさか1年生の私に指揮を任せてもらえるなんて思ってもみませんでした。きっとこれは私に期待してくれてるに違いありません。藤美野先輩は、まともに戦ってるところをあまり見たことはないですが、普段の様子からは鬼だ、鬼神だ、なんていう感じは全然しません。小さいコミュニティで、ちょっと優れてるからちやほやされてるだけだと思います。いわゆる井の中の蛙なんでしょう。ここは私という外部からの刺激で、キチンと理解させたほうがいいに決まってます。ということで……。
「早速ですが、藤美野先輩の相手は私に任せてください。確実に落としてみせます」
自信たっぷりにそう告げたのですが、
「却下だ」
「無謀すぎる」
「やめておけ」
一斉に反対されました。何故です? 実力もよく知らない相手と戦うのはリスクがあると? 先輩達がそう言うのでしたら……。
「でしたら、分隊で相手をします。そんなにあの先輩を高く買っているならこのくらい問題ないですよね?」
「……はぁ、好きにすればいい」
「そこまで言うなら仕方ない、か。どうなっても知らないぞ」
「悪いことは言わない。先輩の言うことは素直に聞いておいた方がいいよ」
3年生の先輩方にここまで言われるなんて、いったい何者なんですか。あの藤美野とかいう先輩は。
「あまりお勧めはしませんよ。彼女のことを知らずに戦うのは。ですが、大河内さんからは、ネタバレしたら面白くないと言われているので、残念ながら教えることはできません」
広瀬先輩がそんなことを言ってきました。じゃあどうしろっていうんです?
「なので、大人しく私たちと足並みを揃えて戦うことをお勧めします」
なんですか、それじゃあまるであの先輩に恐れをなしたみたいじゃないですか……!
「お気遣いありがとうございます。ですが、やはり私たちだけで相手をします」
「そうですか、残念です。忠告はしました。健闘を祈ります」
ここまで言われると逆に興味が出てきました。いったいどんな戦い方をするんでしょう?
「両チーム、そろそろ時間だ。搭乗して、開始地点に移動するように」
スピーカーからアナウンスが。いよいよ出撃です。精々楽しませてくださいよ、先輩。
互いのチームが出揃い、試合が始まります。
《それでは、時間になりましたので作戦開始です》
オペレーターの先輩が告げると、一斉に動き出し、行動を開始。フィールドは荒野。見晴らしがよく、遮蔽物も所々にある岩だけであまりありません。分隊毎に陣形を組み、警戒しながら前進します。《狙撃に十分注意してください。相手チームの黒星さんは神出鬼没の狙撃手。どこから撃たれるかわかりません》
オペレーターから注意がありました。では指示を飛ばしましょう。
「分隊で陣形を組んだまま横に広がってください。間隔は500m。ローラーをかけて索敵します」
先に見つけるべく行動しましたが……。遠くで何かが光ったと思ったら、ドンッ! と隊列の後ろに着弾。
《距離6500、岩の陰から撃ってる!》
「全機散開! 狙いを絞らせないように!」
こんなに早く見つかるなんて。思ったよりも優秀なようですね。
「他の機体は見つかりませんか?」
《見つからない。黒星のズィルバーシュベルトが岩から岩へ移動して撃ってきてる以外見えない》
先輩からそう返ってきました。必死に索敵している間にも狙撃が飛んできます。どうやら私たちの分隊に狙いを定めたようで、こちらを狙ってきます。当たってはいませんが狙いが正確で、機体を掠めていきます。こちらを狙っているなら好都合。このまま引き離して先輩方を自由にしましょう。
「私たちはこのまま離れます。その間に索敵してください」
《ダメだ、それでは零花の思う壺だ。全員で行動した方がいい》
滝沢先輩がそんなことを言ってきます。
「それではいつまでも撃たれるだけです! 私たちが前に出ます」
そう突っぱねて隊列から突出しました。無線で先輩方が騒いでいますが無視です。そこから徐々に右へ逸れていき、隊列から外れます。狙い通り、私たちを狙って撃ってきます。これで先輩方はある程度楽ができるはずです。
隊列から離れてから少しすると狙撃は止みました。それと同時に、前から1機、相手がやってきました。あれは……藤美野先輩の機体です。向こうからやって来るなんて好都合です。しかも1人、このチャンスを逃すわけにはいきません! こちらはH&A社製の新型機、キングフィッシャー。あちらはいくつも前の代のエルフ。負ける道理がありません。
「新型機が旧型に負けるはずありません! 行きますよ!」
その掛け声と共に戦闘開始しました。
まずは機銃で弾幕を張りながら横に展開。徐々に包囲していきます。先輩はシールドを構えながら回避するだけで何もしてきません。このまま包囲を完成させてしまいましょう。
「山中さん、そのまま後ろに回り込んで死角に入ってください。これで勝ったも同然です」
思ったよりあっさりいきました。もっと手こずるかと思ったのですが、拍子抜けですね。所詮この程度ということなのでしょう。藤美野先輩は四方を囲まれ、成す術もありません。後は頃合いを見て仕掛けるだけ。
「山中さん、あなたのタイミングで仕掛けてください。こちらが合わせます」
了解したと返事をもらったその直後、3年生の先輩から無線が入りました。
《あいつの、後ろを取っただと? やめろ、後ろはダメだ、却って危険だ》
一体何を言っているんですか? 後ろが危険? そんなはずあるわけないじゃないですか。
《今から行きます。距離を詰めます》
《よせ! あいつは……!》
先輩が言い終わる前に、ドンと、大きな音がしたと思ったら山中さんの機体が後ろに吹き飛んでいました。地面に叩きつけられると同時に、HUDに山中さんが撃破された証のバツ印がつきました。
「……は?」
一体何が起こったんですか? 藤美野先輩は確かにこちらを向いていました。なのにどうして……。そんなことを考えていると、今度は左にいた中川さんが距離を詰められていました。
《あああああっ! わあああああああ!》
咄嗟に機銃で応戦しましたが、あっという間に後ろに回り込まれて、滑腔砲で頭部を撃たれて撃破されてしまいました。今度はこちらにやって来ます。シールドを構え、その脇から機銃を撃ちつつ接近してきました。私と、生き残っている中田さんの2人で応戦します。機銃と背部ミサイルで弾幕を張り、寄せ付けないようにしていますが、悉く躱されてしまいます。まだ生産されているとはいえ、本当に旧モデルなんですか? 回り込んで背側面を取るような軌道のミサイルもカーブの内側に入る動きで回避されてしまいました。
《一体何なの、この先輩……! こんなの聞いてないっ……》
中田さんは弱音を吐いています。
「諦めずに攻撃してください! いつか、いつかは当たります!」
そう鼓舞しつつ攻撃を続けますが、当たる気配はありません。そうこうしている内に、私と中田さんの間に入り込まれてしまいました。普通なら、挟み撃ちのチャンスですが、何をしてくるかわからず、思うように手出しができません。すると、藤美野先輩は移動しながら滑腔砲が仕込んであるシールドを前に突き出しました。そのまま撃つかと想像していましたが、緩いスピードで動きながらスピンを始めました。スピンしながら攻撃を避けていて、魅せプレイか何かと思ったその時。突き出した滑腔砲と、肩のハンガーに懸架しているキャノンが中田さんと私に同時に向いたその時。一斉に火を噴きました。中田さんには前の滑腔砲が、私には《《後ろを向いていた》》キャノンが。撃たれた時に理解しました。山中さんがやられたのはこれだと。ペイント弾とはいえ、かなりの衝撃だったので、後ろに吹き飛ばされました。そして、自分が撃破された旨がHUDに表示されました。そこで初めて、藤美野先輩に完膚なきまで叩きのめされたことを自覚しました。
「何なんですか、あの人……」
思わずそんな言葉がこぼれました。
おまけ
TASKは、基本的に二足歩行ですが、戦闘では足を動かして移動はしません。若干浮いて滑るように移動します。ホバークラフトのような感じと思ってください。ブースタを吹かしてジャンプもできますが、空を飛ぶことはできません。飛行できるほど軽い機体もありますが、その分防御力も貧弱なので扱うにはかなり熟練する必要があります。




