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第6話

時間は少し巻き戻り、試合前



 さて、少し面倒なことになったけど、どうしようか。

「さあ藤美野隊長、第4分隊は全面的にそちらの指示に従おう。何でも言ってくれ」

「こちらも同じだ。指示をくれ、隊長」

 こいつらぁ……わざとらしく……。

「あんまり隊長隊長言わないでよ。変な感じがする」

「でも事実でしょ? 今から慣れとかないと大変じゃない?」

 和佳子がそんなことを言ってくる。んまあそうだけどさ。

「はぁ……呼び方は好きにしていいから、さっさとブリーフィング始めるよ」

 まずは目の前のことに集中しよう。

「時間がないから結論から言うと、正面からぶつかればまず勝ち目はない。これはみんなわかってると思う」

 あっちの方が多いのだから当然だ。でもやりようはある。

「それでもやれない事はない。あっちの一番の不安要素は塩谷だ。先輩たちはどうにか抑えて足並みを揃えたいはず。でもそれは厳しいと思う」

「そう言い切る根拠は?」

 美夜が突っ込んでくる。それはそう。だから私の考えを述べた。

「塩谷は私のことが気に入らないみたいで、あんな感じで気も強い。先輩相手に物怖じしない。だから、先輩の言うことなんて聞かないと思う」

 隊長役をやっているなら尚更だろう。

「そして、おそらく自分の手で私を負かそうとしてくるとはず」

「つまり、ひとりだけ突出してくるかもしれないってこと? レイを倒すために」

「いいや、おそらく分隊で来るはず。広瀬先輩あたりからひとりでは無理だって言われて」

私にはわかる。ああいう手合いはこだわりが強い。自分で手が下せるなら数にはこだわらない。でも口うるさい先輩の手は借りたくない。だからよく知っていて気の合う分隊で来る。

「そこに隙がある。1年生の分隊と3年生の小隊をうまく分断できれば勝てる」

「具体的な作戦は? あんまり無茶なのはやめてくれよ、疲れるのはこっちなんだから」

 野守がジト目で見てくる。そんなに心配しなくても大丈夫。たぶん楽なのはそっち側だから。

「まず美夜がスポッターと前に出る。射程に入ったら適当に撃って。当たらなくてもいい、どうせ威嚇だから」

 まずは狙撃手の存在を知らせる。そうすれば自ずと動きは限られる。

「そうすれば、ばらけるはず。しばらく適当に撃ってから、塩谷の分隊に狙いを絞って。3年生から引き離すように。そこまでしてくれれば、あとは好きにしていいから」

「了解。でもその後はどうする。支援は要らないのか?」

「うん。大丈夫。3年生の相手に集中してもらっていいよ」

 分断さえしてしまえば勝負は五分になる。

「そこで私が姿を現す。向こうからしたら、倒したくて仕方ない相手がノコノコ1人で来るんだからこれ幸いと突っ込んでくるはず。その間にみんなは三年生の相手をして」

12対16だと相手が4人多い。でも誰か1人が多い4人を受け持てば、11対12になって差が減る。私は4人相手にすることになるけど問題ない。私にはそれができる。

「私がいない間は平津に指揮を任せる。頼んだよ」

「任された。戻って来るまでに獲物がなくなっても文句言うなよ?」

「そっちの方が楽でいいんだけどね」

「両チーム、そろそろ時間だ。搭乗して、開始地点に移動するように」

 集合がかかった。作戦通りにいけばなんとかなるはず、大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら歩きはじめた。



 あちらも開始位置についたようで、試合が始まった。

《相手は1年生の指揮とはいえ、広瀬先輩と滝沢先輩がいます。気をつけてくださいね》

 オペレーターの進藤さんが注意を促してくる。

「うん、そこはわかってる。何かしてくるとしたらその2人だからね。全員警戒するように」

 了解と各々返してくる。それじゃあまずは……。

「美夜、手筈通り前に」

《よし。来栖、行くぞ》

《了解》

 あとは見つけてくれるまで待つしかない。

「他のみんなは岩陰に身を隠して待機。3年生の接近まで見つからないように」



 しばらくして。

《目標発見。向かって左側にいる。そっちに誘導する》

「了解、今から出る。平津、あとは頼んだ」

《1年生だけど4人。十分警戒を》

「もちろん。気は抜かない。進藤さんはみんなのサポートをお願い。すぐに片付けて戻るから」

 進藤さんからの念押しを受けながら誘導先へ向かった。



 美夜の誘導した4人が来ると思われる場所に向かうと、ちょうどやってきていた。さて、どうしようか。まずはガードしつつ様子を見よう。

「藤美野零花、交戦開始《エンゲージ》!」

 味方に無線を飛ばし、戦闘開始。さあ、何をしてくる? どう楽しませてくれる? 

「向こうも様子を見ているのか。機銃で牽制か」

 知らない相手にはまあそうするだろう。いきなり突っ込むほど考えなしではなかったか。この次はどうする?

「囲んでくるか。セオリー通りだな。少ない相手を包囲する。教科書通りの戦い方、悪くない」

 悪くない、が……。

「いつまでそのテンプレートが持つかな」

 何か仕掛けてくると思い、私は右肩のハンガーに懸架している230mmのカメラを起動した。ディスプレイの右端に後方の映像が映し出される。様子を見ていると動きが変わった。

「そろそろ詰めてくるかな」

 後ろにいる機体がそわそわしだした。隙でもうかがっているのか。いつでも撃てるように照準を合わせておく。気づかれないように、さりげなく。



「……来た」

 接近してきた。ギリギリまで引き付けて……。

「ここ」

 ペイントグレネードを発射。赤色まみれになりながら飛んでいった。1機目。後で洗うの大変そう。他の3人は何が起こったかわからないようで固まっている。

「試合中なのに、ボーっとしてると狩られるよ」

 今度はこちらから近づく。比較的距離が近い右にいるほうからやる。焦って機銃を乱射してくるがシールドで防ぎつつこちらも射撃。接近したらシールドで機銃を弾きつつ下がり、射撃しながら後ろに回り込む。撃たれている状態だとひるんで動けない。そこをシールドの滑腔砲で頭部を撃つ。2機目。

「さあどうする。ここからどう動く」

 ここまでやられてようやく自分たちの状況を把握したらしく、連携してくる。機銃だけでなくミサイルも撃ってくる。喧しくアラートが鳴るが、必要以上に恐れることもなく回避する。高校の時、ミサイルは派手な花火、アラートは鳥の囀《さえず》り程度に感じないと上には行けないって言われて扱かれた甲斐があったというもの。問題ない攻撃は無理せず受け、危険なものはシールドで防ぐか回避する。このまま続けてもいいけど、3年生たちをみんなに任せっぱなしなのも気が引ける。さっさと決めてしまおう。

「ギャラリーもいることだし、ちょっとサービスしとこうか」

 2人の間に入ったところで230mmと滑腔砲も構え、回転しながら移動する。2人同時に撃てるタイミングを探る。当然回避も忘れない。何回転かして掴めた。

「……今」

 前後同時に発砲。直撃。撃破《キル》したのを確認して止まる。

「こっちは片付いた。そっちに合流する」

 急いで向かおう。



同時刻、観客席



 2機同時撃破を見た中等部、高等部、1年生の幾人かは呆気に取られていた。

「何ですか今の……」

 誰かがこぼした疑問に、大河内が答える。

「あれは藤美野の十八番、マニュアルエイムだ。ノーロック射撃とも言う」

 皆が大河内に注目する。

「名前の通り、ロックオンせずに自分で狙いをつけて射撃する技術のことだ。砲撃型機体乗りや狙撃手が身につけていることが多い。利点はロックオンせずに撃つため、相手のアラートが鳴らないことだな」

 周りを見渡しながら続ける。

「技術はいるが、狙撃や砲撃に使うならそれほど難易度は高くない。どちらも静止状態で行うからな。相手は動いているが問題ではない。狙撃は気づかれてなければ落ち着いて狙えるし、砲撃はそもそも面を攻撃するものだ」

 うなずく一同。それを見てさらに続ける。

「だが、藤美野はそれを、互いに激しく動く近距離戦でやる。これがどれほど難易度が高く、異常か、わかるだろう? 彼女はFCSを切った、もしくは入ってない状態で撃つ。知らない相手からしたら初見殺しになる。知っていても、いつ弾が飛んで来るかわからないから迂闊に後ろは取れない。仮に対面していても、すれ違いざまに滑腔砲を当ててくるから全く油断できない。私から見ても恐ろしいパイロットだよ。近距離でアラートなしの危険な攻撃が突然やってくるんだから」

 そこまで言って一息つく。反応は様々だ。凄まじいテクニックに目を輝かせる者、驚きに目を見開き、口が開いている者、相手にした際を思い顔を青くしている者。それらを見てから、一言。

「うちの自慢のエースのひとりだよ」



同時刻、3年生の小隊



 1年生の4人が早々に退場したのには驚かなかった。だが思うところはあるようで、

「自信満々だったようだけど、やっぱりか」

「何分持った? 3分? 5分?」

「隊列を離れた時間込みで3分42秒。戦闘時間はもっと短い」

「無理やりにでも止めるべきだったんじゃ?」

 口々に言うが、広瀬の一言で治まる。

「想定通りです。このまま続けましょう。指揮は私が引き継ぎます。彼女が合流するまでにできるだけ数を減らしましょう。来ると厄介です」

 だが、誰かが、皆が思っていることを溢した。

「これじゃ……これじゃただの2年と3年の模擬戦じゃないか」



 結局、普通の模擬戦となり、僅差で零花たちが勝った。







用語解説


FCS


 Fire Control Systemの頭文字を取ったもの。日本語だと射撃統制システム、射撃指揮システム、火器管制システムなどと呼ばれる。現実の戦闘車両、戦闘艦、戦闘機などに搭載されている。標的の探知、弾道の計算、照準の制御などを行ってくれるシステム。現代戦ではほぼ必須と言っていいもの。零花はこれを使わずに機動戦で射撃を当てるトンデモ技能を身につけている。もちろん常に切っている訳ではなく、必要に応じて切っている。



おまけ


ウェポンハンガー


 手持ち武装を懸架可能な装備。人間で肩甲骨に相当する部分に付いている。背部武装との選択式。ウェポンハンガーは自分で角度を調節可能で、零花は地面と平行に近い角度に設定している。通常は背中と平行に近い。その方が機体のバランスが良いが、武器の交換に時間がかかる。地面と平行に近いと交換時間が短くなるが、機体バランスが悪くなる。交換が早くなると言ったが、0.何秒かの差なので、劇的に変わるわけではない。零花は後ろへの射撃がしやすいからこのセッティングにしている。


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